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国の最終兵器だった守護精霊が、全然守ってくれません!

カン、カン、カンーーーーーー



螺旋階段を一歩一歩登る。段数はゆうに1000は超えるだろうか。

長い長い塔の最上階。そこに彼女はいる。



「ルナ様、お申し付け頂いたものをお持ちしました。」


「っ!!!!!!!!」


長い杖を持って何やら詠唱中の少女が顔を上げる。


「ヨル!!!」


叫び声をあげたと思うや否やカラン・・と杖を投げ捨て俺に無邪気に飛びついてくる。

女性特有の渾身の喜びの表し方、未だに慣れないんだが。


「はは・・・。とりあえず、お茶にしましょうか。」


「・・・!うんっ!!」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「・・・で、これが竜の爪と、曼荼羅花の根っこと、あとはオパール、アクアマリン・・・」


「物資の中身はなんでもいいから、外のお話を早く聞かせてっ!!」


がたっと身を乗り出して僕を揺ぶってくる少女。

そこにこら!っと優しい声が響く。


「ルナさん、ヨル様もお仕事中なのですからワガママを言わないこと。ヨル様、お茶をどうぞ。」


このルナと呼ばれる少女はこの国の聖女である。生まれてこの方一度もこの大きな塔を出ずにこの国を魔族からの襲撃から守る結界を張り続けている。なんでも外気に触れてしまうと聖気が汚れてしまうから出られないそうだ。


なんとも可哀想な境遇の彼女であるが、無邪気さを忘れず、こうしてたまに物資の供給として物を持ってくる僕に外界のことをキラキラした目を輝かせながら聞いてくる。ちなみに僕は3年前に聖女様への物資配達係を業務の1つとして任せられ、ここに通うことになったが、本業は国営騎士団の騎士だ。


「ふふ・・でもヨル様がお国からの物資供給係になってから、ルナの顔が明るくなったんですのよ」


ボンッ!と音がしそうな勢いでルナ様の顔が赤くなる。


「す・・・ステラ!!!!!」

あわあわ慌てるルナ様を横目にふふふ・・と余裕な表情の中年女性。


ステラと呼ばれるこの方はルナ様のお世話係としてルナ様が生まれて以来この塔で2人きりでルナ様と一緒に暮らしている女性だ。昔は王宮付きの侍女だったらしいのだが、その才が認められてルナ様付きになったそうだ。


「も・・・、もう・・・!そんなことないのよ・・・!そんなこと・・・!」

「勿論、ヨルは今までの人より優しくて・・かっこいいし・・・お話もいっぱいしてくれて・・・好きなの・・・!でも・・だからって・・・!」


真っ赤にしながら弁明してくるルナ様を見ているとごめんごめんとステラ様がいなしてくる。


「うふふ・・・ごめんなさいね。私もヨル様のことが好きだから、またきて欲しいなって思ってね・・・」


とウィンクしてくる。


そんなに好き好き言われたら流石の僕でも顔が熱くなる。


「ぼ、、、私は当分異動はございませんので、しばらくは通わせていただけるかと・・・!」


2人で顔を真っ赤にして、僕らは何をやっているんだ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ステラ様が出してくださったお茶と、持参したお菓子を食べながら一通り最近の世界の近況についてお話ししたのに、


ーーードラゴンの卵からの人工孵化が可能になった話から、給仕のマリーのお父さんが転けて骨を折った話までーーーーー



ルナ様はまだ目をキラキラさせている。


「いいなぁ、いいなぁ、私もいつか、聖女としての使命が終わったら世界中を旅してまわりたいなぁ・・・・」


夢を見るように、ルナ様が呟く。17年間の塔生活。その壮絶さに胸が痛くなる。僕は何も言えなかった。


「行くのよ。ルナ。一緒に目一杯自由に回りましょう。年中雪が降る国も、歓楽の街も、海中の街も、全部全部・・・!聖女の任が解けたらきっと・・・!」


力強くステラ様が応える。女性の強さだ。


「うん・・・・!」


ポロリと涙を流すルナ様の姿に胸が詰まる。


「その時は、ヨルもついてきてくれる・・・?」


呟くような懇願に、僕は勿論と答えるしかできなかった。







その瞬間、潤んだ彼女の瞳がカッと開き、怒号が飛ぶ。


「北の結界が破られた!!!!!」


ルナ様は勢いよく椅子から飛び降り、杖をつかみ、魔本陣を形成する。その瞬間部屋内の物が飛び交い、テーブルの上の微かな団欒は飛び散った。


「伏せてなさい!」


ステラ様の声にそのまま従う。何が起きているのかは全くわからないが邪魔をしないことが一番の選択肢だということは明白だった。



混沌の中僕とステラは伏せることしかできず、3分は経過しただろうか。

顔を少し上げてみると、丁度部屋に渦巻き廻っていた雑貨が停止し、ガシャンガシャンと音を立てながら落ちて壊れていった。



「・・・・ルナ様・・・?」



はぁはぁとルナ様の声だけが部屋に響く。



「ごめんなさい・・・。無理だった・・・・。」


「!?」


「破れた結界を閉じることができなかったの。そこから魔物がどんどん入ってきている・・・!王都が危ないよ・・・。」


「な・・・・・っ」


困惑し僕は言葉を紡ぐことができず、情けない声だけが漏れる。


「結界を破ってかつ閉じさせないなんてかなり強力な魔力に違いないわ・・・。被害を少なくするためにも急いで王都に知らせに行かなきゃ・・・!」


そこでハッとして自分の役割を認識する。


「お・・僕が急いで王都に戻り伝えてきます!」


ヨロヨロと立ち上がり、急いで荷物を纏める。


「わ・・・私も行きます!王都だけを囲む小さな結界なら作ることができるかも・・・」


同じくヨロヨロとしたルナが声を上げるや否やステラが今まで見たこともないような形相で悲鳴を上げた。


「ダメです!!!!!!!!!!!」


「「!?!?」」


「ステラ、人が危ないの・・!私にしか結界は張れないの、もしも可能性があるなら行かなきゃ・・・!」


「ダメです・・・!あなたはこの塔から絶対に出てはいけません!!!」


「ステラ・・・・!?」


尋常じゃない雰囲気のステラに戸惑い動けないルナ様だが事態は一刻を争う。


「ルナ様、ルナ様はここで結界の修復に取り組んでください。僕が王都の民は守りますので!」


しっかりと肩を掴み説得する。


「そんな・・・!妨害されている大きな結界の張り直しより王都だけを囲んだ方が早いわ!私も行く・・・!」


「ルナ様!ダメです!あなたは絶対にこの塔から出しません・・・!」


何か事情があるのだろうが、今はそれどころじゃない。

急いで王都に戻り陣形を整えるのが優先だ。2人を置いて王都に向かうべく塔の扉を開く。


するとそこには黒翼の悪魔の形相をした魔物が笑いながら待ち受けていた。


「・・・・なっ!?」


王都へならまだしも、こんなに早く魔物がここまで辿り着けるはずは・・・・



「きひひひヒヒヒヒヒッ!この程度の距離幹部の私にとっては秒だよん♪問題のお姫様は中かな?」


「ヨル・・・!?」


追ってきたルナ様と、ルナ様を止めようとするサテラが走ってくる。


「く・・くるなぁぁぁーーーーーーーーーー!!!!!!」


叫びも虚しく、悪魔は強大な魔弾を放つ。


「任務終了♪さようなら♪」


魔弾を剣で弾けるのか、やってみるしかない。せめて、ルナ様とサテラだけでも守りきれば・・・。

覚悟をして剣を構える。


「ルナ・・・・・ッ!!」


ドンッと言う音がしてルナ様が倒れかかってきたため、体勢が崩れる。


「・・・・サテ・・・ラ・・・・?」


「ごめんねルナ、私のエゴのためにこの塔に閉じ込めて。それでもあなたが死ぬ選択はできなかった・・・。生きて、世界を見て、そして、あの人を救って・・・・。願わくば一緒に世界を周りたかったわ・・。愛して・・・・・」


その瞬間、魔弾がサテラに直撃した。


「サテラーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!!!!!!!!」


「ちぃっババァだけかよ、まぁお前らに打つ手なんて・・・♪」


倒れていたルナ様が体を起こす。その上半身は、塔を出ていた。



カッーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!


ルナ様の左耳に付いていたピアスが眩い光を放ちーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー













そこには全身真っ黒な男が立っていた。










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