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31.ダンジョン攻略開始だ

 

 こうしてヴェイン、ニコに続いて。


 シスカが なかまに くわわった!


 ……までは良かったものの、そこで俺たちを意外な落とし穴が待ち構えていた。


 というのも、エランにおいて俺たちはかなりの有名人になってしまっていたのだ。

 居酒屋で飯食おう、とか言って道ばたを歩けば、すぐさま取り囲まれる。

 それなら森でクエストこなそう、と走り出しても、すぐさま取り囲まれる。


 とてもじゃないが、まともにクエストをこなせる状況ではなくなっていたのだ。

 ――まぁ、あくまで地上において、という話にはなるが。


「あ、あの、クエスト……受けてきましたぁ」

「……いま帰った」

「おー、おつかれ」


 扉が開いた音に、俺は振り向く。

 帰ってきたのはシスカ――それにニコ、ならぬヤミの二人である。


 作戦は至ってシンプル。

 闇魔法が使えるヤミが、自身とシスカに【隠蔽(ハイディング)】を掛け、ギルドまで直行。

 そこでめぼしいクエストを受注してきてもらったわけだ。


 昨日に関しては、俺が自分とヴェインに【隠蔽(ハイディング)】を掛けて買い物を済ませてきた。

 最近はこうして、闇魔法が使える俺かヤミと誰かの組み合わせで外に出掛け、買い物などの用事を済ます……というのが俺たちパーティの日課になりつつあるのだ。


 ヤミが懐からメモ書きを取り出し、その内容を読み上げる。


「……今回受けたのは、ウルフ三五匹、スライム四十匹、ゴブリン二五体の討伐クエスト」


 ヴェインも異論はないらしく、全員の顔を見回して言う。


「エラン近郊にあるエランダンジョンは、D~Fランクの魔物が住み処にしていて、大して難易度の高くないダンジョンです。初めての探索ですし、それくらいでちょうどいいでしょう」


 そう。

 人目が気になってクエストに赴けないならば、ほとんど人が居ない場所でクエストすればいいのだ。


 というわけで、必然的に行き着いたのは「そうだ、ダンジョンに行こう」という結論だった。

 ……それはいいんだけど。


「……エランダンジョンって、分かりやすいけどそのまんまだな」


 近くにある街の名前て。

 俺が腕組みして言うと、ヴェインが肩を竦める。


「分からなくもありませんがね。セヴィレト王国内のダンジョン数は非常に少ないですから、名称を気遣う意味も少なかったのでしょう」


 なるほどな。

 ガル魔国は迷宮大国と称えられるだけあり、あっち見ればダンジョン、こっち見ればダンジョン――ってな具合でダンジョンだらけの国なので、それぞれの名称もこだわらないと地図の作りようがなかったのだが。

 セヴィレト王国の場合はそんな必要はなかったってことだ。


「俺とヴェインでポーションとかのアイテムも、装備も買い揃えたしな。これで準備はオーケーか」

「あ、あう。ポーション……」


 ちょっとトラウマ的なモノが刺激されるのか、シスカが頭を抱えていた。

 しかしそんなことはまるでお構いなしに確認を求めてくるヴェインに、俺は魔法鞄(マジックバッグ)からアイテムを一つずつ取り出していく。


「回復薬が二十。超回復薬が五、ですね」


 寝台の上に並べ終えたアイテムを数え、満足げに頷くヴェイン。


「……はい、問題ありませんね。ではマオ様、もう一度こちらをお収めください」

「りょーかい」


 魔法鞄(マジックバッグ)に再びアイテムを仕舞う俺。

 その様子を見ながら、ふぅとシスカが溜息を吐いた。


「すみません。荷物持ちなら【雑用係】のあたしが担当するべきなのに」

「え? 別にいいって。そんなん気にすんなよ。マジックバッグはほぼ重さゼロだし」


 それにこれは持ち主に魔力が無ければ入れたり出したりは出来ない魔道具なので、魔力ゼロのシスカに代わってもらうわけにはいかない。

 ……うっかり落としそうだし、というのはさすがに言わないでおいた。



 +     +     +



 ――エランダンジョン。


 ダイナンが密売する魔物を一時的に匿っていた森の入口左横に、そのダンジョンへ続く小さな洞穴があった。

 俺もガル魔国領にあるダンジョンには何回か潜ったことはあるが、セヴィレト王国産のダンジョンは初めてだ。


 ダンジョン、即ち地下迷宮。

 人の手は一切入っていない、天然物の異質な空間。

 その存在は未知とされており、今も全世界の研究者や冒険者によって調査され続けているが……太古の昔から実在しているということ以上は、大した情報は明らかになっていない。


 また、どこのダンジョンでも大量の魔物が棲息しているのが常で、その危険性の代わり、珍しい鉱石や薬草なんかが採れる場合がある。つまり、とんでもない財宝が発見できたりする。

 だが思っていたとおり、最近ここに誰かが入った形跡はない。二日前の雨のせいか、入口付近はぬかるんだ泥で溢れていたが、そこには誰の足跡もついてなかったのだ。


 まずは俺が一番乗りすることになった。

 革製のブーツは泥の沼に沈むこともなく、無事洞穴の手前まで到着する。

 覗き込むと、人一人が身を屈めてどうにか通れる程度の窪みがあり、延々と続いている。見渡す限り、穴の中は真っ暗闇だった。


「うお、だいぶ暗いな」

「マオ様、足元にはお気をつけて」

「わかってるって。……ライト!」


 とりあえず両手の指先に【照光(ライト)】を灯しておいて、洞穴に手を突き入れる。

 固い土の感触を確認からして、生身で進んでいくのは問題なさそうだ。

 俺は四つん這いの姿勢で、ゆっくりと洞穴の中を進んでいく。


「…………ヴェイン。スカートの中、覗いてない?」

「頼まれても絶対に覗きませんよ」

「それはそれでムカッ」

「あ、あのぅ皆さんっ! その、お、お尻が引っ掛かっちゃって進めないんですが……っ」


 どうやら声が響いてくる位置からして、俺の後はヤミ・ヴェイン・シスカの順番で続いているようだ。

 そのまましばらく進んでいくと、やがて横穴の終わりに辿り着いた。


「よっ、と」


 洞穴内で身体の向きを逆にすると、足から飛び降りる。

 二メートルほど下の地面に着地すると同時、俺は油断なく周囲を見回した。


 入口のサイズからは想像していなかったほど、広々とした空間のダンジョンだ。

 土色が剥き出しの壁がひたすら続き、道はいくつもの小道にわかれていて先は見渡せない。

 光魔法か、あるいはもっと別の何かに因るものなのか、一定間隔で配置されたランプには弱々しい光が灯っているが、全体的には視界はかなり制限されそうだ。移動には必ず光魔法が必要だろう。


 つまり、ギルドで受注できるクエストの種類からして明らかだったが、ダンジョンとしてはかなりオーソドックス。

 火炙りとか、氷結牢獄とか、あるいはデバフの嵐だとか、そういうタイプの絶対冒険者殺すマンなダンジョンよりはマシって印象。前にひとりで試しに乗り込んでみたとき、一回死にかけたりしたもんなぁ……。


 と、俺が魔王時代の思い出を感慨深く振り返っていると、


「あれ? 急に土が無くな――って、ああああ!?」

「オギェッ」


 すぐ上から俺めがけてヤミが降ってきた。

 そして俺の頸椎はポッキリ折れてしまったとさ。


 ……というのはさすがに冗談だが、それくらい――いッてェ!


「お、おま、アホッ! アホのヤミッ! そんな警戒心無しでズンズン突き進むヤツがあるか!」


 首の後ろを抑えながら涙目で俺が訴えると、「何よ!」とヤミが怒鳴り返してくる。


「そんなところで立ち尽くしてるヤツが悪いんでしょ!? ……じゃなかった。悪いのでは?」


 おい。いま完全にヤミじゃなくてニコだったろ。素だったろ。


「――そうですね。ですのでそこから退いていただけると助かります」


 と頭上から声が降ってきたので、俺とヤミは慌てて前に移動。

 するとヴェインがすたっと華麗に着地してくる。

 続いて「きゃあああ!」とか叫んで落ちてきたシスカのことは、その位置に立ったままヴェインがすかさずお姫様抱っこでキャッチしていた。


 すごい。何がすごいかというと、シスカが落ちてくるの前提で待ち構えていたのがすごい。

 そっと地面に下ろされたシスカが、ほとんど泣き出しそうな顔で「ありがとうございますうぅ」と頭を下げる。


「? ……どうしましたか、マオ様。そんな羨ましそうな顔をして」


 謎の誤解をしたヴェインが爽やかに微笑んでいた。いや、そうでなく。


「よ、よし。それじゃ気を取り直して――」


 俺は前方に広がるダンジョンを指差すと、気合いを入れて言い放った。


「エランダンジョン、攻略開始だ!」



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