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12.闇の中に封印されし、ただひとつの真実

 

 食事の会計を終えた後、まずは今日の宿を取ることになった。


 スフに向かう前、ヴェインはクルクで一泊していたというので、ここでも道案内役を買って出てくれた。

 食堂から出て、大通りの角を右に曲がって、さらに左に曲がったあたりで――


「……で、だ」


 ――ぴた、と俺は立ち止まる。


 前を歩いていたヴェインも。

 それにもうひとり――後方の人物も、遅れて立ち止まっていた。


 俺は振り向き、じとっとソイツの顔を見遣る。


「何でニコもついてきてんの?」


 ふぅ~……、とこれ見よがしに肩を竦めてみせるニコ。


「察しが悪いねマオ。これだから童貞は」

「童貞関係ねぇだろ」

「童貞力が高いから察しが悪いんでしょ。これだから童貞は」


 童貞力ってなに? 何で俺が責められる流れなの?


「言ったでしょ、私。複数の魔法属性が使える――なんて根も葉もない噂を流されて悪いヤツに狙われて困ってるの。大変なの。そんな女の子は助けるべきじゃない?」

「……って言ってもな。お前大方、自分でその噂流したんじゃねぇの?」

「うっ!」

「山賊に追われる謎めいた少女、みたいな感じでドラマティックに自分の付加価値上げようとして、思いがけず狙われすぎて苦労してる……みたいな」

「ううっ!」


 ニコが顔にものすごい量の汗を掻いている。

 当てずっぽうで言ってみたのに、どうやら図星っぽかった。この中二病患者……。


「自業自得ですね」


 さらりとヴェインが要約した。容赦ないなコイツ。


「う……うわーんっ!」


 とうとう天を仰いで泣き始めるニコ。

 やめろ、通行人の目が痛いぞ。「なに女の子泣かせてんだよ」みたいな目で見られてる。

 しかし俺が止める間もなくニコはぎゃんぎゃん喚いている。


「何なのひどいひどいひどーい! 本当に知らないんだもん! 私、光魔法の使い手である十五歳のニコは闇魔法の使い手であるヤミの存在なんてこれっぽっちも知らないんだもん! だって意識が別たれて人格も別なんだから! ヤミはニコのか弱き精神を守るために生み出されし秘密の存在でヤミのことを知るのは"機関"所属の研究者たちだけなんだからぁー!」

「パニクって全部言っちゃってるけど大丈夫か?」

「ぐす、ぐす……こんなに格好良い設定なのに分からず屋ぁ……。どこのパーティ行っても「何でアンデッド相手に闇魔法しか使わねぇんだよ! 逆効果だろ!」とか、「フツーに光魔法と闇魔法併用してれば倒せただろ今!」とか好き勝手に怒鳴られるし……」


 めちゃくちゃ正しい指摘じゃない? それ。

 しかしニコは、ぼろぼろっと大量の涙を零しながら、さらに大きな声を上げて泣き叫ぶ。


「ここらじゃ狼少女とかあだ名つけられて、ホントに困ってるの。誰ももう私とパーティ組んでくれないのっ。可哀想だと思って拾ってよ仲間に入れてよ、ほらこの通り!」


 挙げ句の果てに地面に膝をつき、土下座までしやがった。

 最近よく見るなぁ土下座(コレ)


「や、やめろやめろ。俺たちが世間様から非難の目を浴びるだろ」

「それが狙いなんだから当然ですぅー! 雰囲気に流されて致し方なく私をパーティに加えろぉ!」

「お、お前……マジで厚かましさにおいて最強レベルだな!」


 だが実際ニコの計画通りというべきか、通り過ぎる人の目は厳しい。

 絵面だけだと、俺とヴェインが二人組でいたいけな女の子をいじめてる……みたいに見えてんのかな。実際は俺たちが脅迫されてるようなモンなのに……。


 というわけで困った末、俺はもうひとりの当事者にも意見を求めてみた。


「ヴェインはどう思う?」

「? どう思うも何も、既にマオ様のお気持ちは決まっているのでしょう。それなら私が何を言う必要もないかと」


 だがヴェインの返事は実に淡々としていた。さいですか。


「ただ――」

「え? 何?」

「……いえ何でも。リスクマネジメントが気になっただけです」


 りすくまねじめんとぉ?


「なんかの魔法名か、それ?」


 だがそれ以上、ヴェインは何も言おうとはしない。

 一応、反対ではない、というか……俺の意見であれば反対するつもりはない、ということか?


 まぁ――それなら思った通りでいいか、と俺は結論を出すことにした。


「わかったよ。……入りたいなら、俺たちのパーティに来てもいい」

「! ほ、ほんとにっ?」


 顔をがばりと上げたかと思えば、すっかり喜色満面になっているニコ。やっぱり嘘泣きだったか。

 呆れつつ手を貸してやると、素直に飛びついてくる。こういう素直なところはちょっと可愛いのに……。


「うん。俺、八属性魔法使えるから、お前の魔法がなければピンチみたいなことも無いと思うし」

「そ、そう。そういう理由……で、でも二属性使えるってだけで二百人に一人レベルだし? ご近所に自慢できるレベルで優秀だし? えっへん」


 ニコは薄い胸を張る。

 いや、「二属性使える」って自分でハッキリ言っちゃってんだけど……ツッコむのも野暮か?

 そこにヴェインがサラリと爆弾を投下した。


「私は三属性使えますけどね」

「えっ……」

「そうだったの?」


 それは俺も初耳だった。

 ヴェインは無表情のまま、必要事項だからというようにてきぱき話した。


「属性としては水と風、それに光です」

「へー、やるな」

「三属性の使い手ともなれば、五千人に一人レベルの珍しさと言われていますね。別にどうでもいいですが」


 ちなみにヴェーリが得意としてたのは水魔法と闇魔法。

 それにその二つを組み合わせた派生系統である、彼女オリジナルの毒魔法だったが……ヴェインの得意分野はまた随分と違うようだ。


「へ、へぇー……」


 と懐かしく思い出していたら。

 ふと、妙に生気のない声が聞こえてきたので、視線を動かす。


 ニコの瞳が急速に光を失っていた。

 ちょっと突いたらあっさり死にそう。さっきまでの元気はどうした?


「……じゃあ、私が今のところこのパーティで一番の……凡人……?」

「そうなりますが、二属性でも充分ご立派だと思いますよ」


 ヴェインが慰めを口にすると、ニコは唇を噛み締め、ぷるぷると小刻みに震え始めた。


「そ、そう、ですかね……」

「そうですよ、たった二属性でも胸を張って生きてください。そしてその事実を誇りに安らかに死んでいってください」

「……わかった。ヴェインさん――いいえヴェイン、アナタとてつもなく性格が悪いわね!」

「いえいえ、あなたほどでは」


 びし! と魔法杖の先端で指されるが、軽く躱すヴェイン。

 ……うん。これは……俺も気づいた。

 さっきから励ましじゃなくて嫌味だな! ただの!


 百戦錬磨という感じのヴェインに対し、ニコは涙目になっていて今にも暴れ出しそうだ。

 俺は劣勢のニコに助け船を出しておくことにした。

 こんなイカれた中二病娘でも、これからパーティを組む相手なのだ。友好的な関係を築いておくに越したことはないだろう。


 ぐっと親指を立て、明るく励ます。


「操れる魔法属性は生まれつきほぼ決まってるんだし……そんな気にすることでもないと思うぜ!」

「うるさい八属性魔法使い! 魔術師より得意魔法が多いことを泣いて詫びろ!」


 前言撤回。もっとコテンパンにしていいぞ、ヴェイン。



 +     +     +



 ニコがヴェインに絡み、ヴェインがそれを作り笑いで倍返しし、俺が宥めるという地獄の道中が終わり。


 ようやく目的の宿屋に到着した。

 三階建てのかなり古びた建物だが、我が儘は言うまい。野営なんかに比べればベッドのある生活のほうがずっとマシなのだ。


「こんにちは」


 宿の受付に立っている厳めしい顔の男に、怯まず話しかけるヴェイン。


「おう、きれいな顔の兄ちゃん。もうスフには行ってきたのか?」

「ええ、おかげさまで昨日到着しました。今日は三人部屋を取りたいのですが」

「なに? 三人? おお……ちびっ子がふたり増えてんな?」


 ちびっ子て。まぁヴェインに比べたらちっちゃいけど。

 宿屋の主人らしいヒゲの男が、カウンターの中から覗き込むように見下ろしてくる。


 どうも、と俺は大人しく頭を下げる。

 隣のニコも同じように挨拶を……しているわけもなく、ヴェインに向かって歯茎を剥き出しに唸っていた。


「ちょっとぉ、いま三人部屋って言った? 私ってば年頃の女の子なんだけど? アナタたちに劣情を催されても困るわ、部屋は別々に取るのが礼儀っていうものじゃない?」


 誰がお前なんかに催すか、とは思うものの、ニコの言い分もまぁ分からないでもない。

 どう対応するのだろう、と見上げてみると、ヴェインはハァと露骨に溜息を吐いていた。


「現在、私たちにはパーティとしての共通の蓄えがありません。そうですね?」

「……え、ええ」


 既に怯えているニコ。

 だがそこでヴェインはさらに追い打ち。


「私はもともとマオ様の宿賃は負担するつもりでしたが、わざわざあなた用に別室を確保し、その代金まで払うつもりはありません。会計は別々、ということでよろしければ――」

「同室でオナシャス!」


 そしてニコも切り替えが早かった。勢いよく頭を全力で下げている。

 たぶんもともと順応力があるのだろう。あとお金が無いんだろうな。


 ――にしても。

 なんかパーティ入りが決まった途端、ヴェインのニコへの態度が急変したな……。

 そんなことを考えていたら、ニコがこそこそ耳打ちしてきた。


「(ちょっとマオ。もしかしてだけど……あなたとヴェインが主従関係って話、嘘なんじゃないの?)」


 な、何だと?

 今さらになってその話を持ち出してくるとは。

 何かミスしたか? と不安になりつつ、「嘘じゃねぇよ」と言い返す。

 するとニコはきらん、と目を輝かせた。


「(私の推測が正しければ……いえ! もし、万が一、この私の推理通り、見立てが当たっていて、これが闇の中に封印されし、ただひとつの真実だというならば)」


 前置きが長いな、無駄に。

 呆れる俺の耳元に、ニコが自信満々に囁いてくる。


「(あなたたちって、駆け落ちカップルなんじゃないの――?)」


 …………は!?


 ニコの下衆の勘繰りは、もちろん的外れだ。

 的外れなのだが、しかし――俺はその言葉に、ヴェインに告白された数時間前の出来事を思い出してしまった。


 結果、しばらく沈黙。

 そんな無言の数秒を、ニコは勝手に解釈したらしい。


「……やっぱりね。道理で紳士っぽかったヴェインが突然私のことを虫ケラ眺めるような目で見てくるわけだわ。私、ライバル視されちゃってるってことね……ふふ、我ながら罪な女……」


 ……ハッとする。

 今は固まってないで、野次馬根性を発揮しているこのアホを黙らせねば。

 というわけで俺は自分の顎下あたりにある小さな頭を「ていっ」とチョップした。


「痛ぁ! 何するのよ!」

「バカなことばっか言ってるからだ虫ケラ中二病娘」

「誰が虫ケラで中二病だってぇ――!?」


 興奮したニコに力任せに胸倉を掴まれた。

 俺もちょっとは慣れてきたが、頭にもの凄いスピードで血が昇るなコイツ!


「なぁんでアナタみたいなちんちくりんがイケメンと駆け落ちしてんのよ! 神様は不公平だわっ!」

「だから駆け落ちじゃねぇっつの! お前の目は節穴か!」

「うるせー! まずはその目をえぐり出して度々の暴言を謝らせてやる!」

「やれるもんならやってみろ! この二属性ポンコツ魔術師!」

「さ、さっきは「二属性でも中々だろ」とか褒めていたくせにこの男――!?」

「……仲良いですね、ふたりとも」


 背筋が凍りついた。

 俺とニコはお互いの服を掴んだまま、同時にぎこちない動きで振り返る。


 しー、と口元に人差し指を当てたヴェインが、にこりと微笑していた。


「ですが、もう少しお静かに。宿の方に迷惑ですよ?」

「「は、はい……」」


 結局三人で一部屋を取ることになった。ヴェインの顔がめっちゃ怖かったので。



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