第8話 看病
私の視線の先では竜が、血だまりの中で力なく横たわっています。
アニマル・ラッキーの世界には竜が存在しています。
しかし、竜は個体数が少ないので絶滅危惧種に指定されているらしいです。
人がその姿を見かける事は滅多にないのだそう。
けれど、竜のうろこや角はとても珍しい素材であるため、希少な価値がつけられています。
そのため、密猟者がよく狙っていると聞きます。
竜の素材は、人の病気によく効くらしいという噂もあるので、そのせいもあるのでしょう。
里の人たちが痛ましげな表情で悲しんでいます。
「一体だれがこんなひどい事を」
「はやく手当をしてやらないと」
「この状態じゃ、動かせないな。仮設のテントを張ろう」
大人たちはまだ良いですが、子供達は狼狽しているようです。
「いたそう。なんとかしてあげないと」
「どうしよう。ねー、どうしよう」
「かわいそうだよ」
しくしく泣きだしてしまいました。
でも、あいちゃん、まいちゃん、みいちゃん似の子達が慰めてあげています。
なので私は安心して、といってはなんですが状況を分析できました。
目の前には、傷ついた竜が横たわっています。
血がたくさん流れた後らしく、体には乾いた血の跡がたくさんありました。
傷の数も多くて、数えきれません。
竜は、ひどく憔悴しているみたいで、動く事ができないみたいでした。
竜の体調の事はまだ勉強していないので、よく分からないけれど、顔色はとても悪かったです。
里の大人達は、「薬が足らない、もっと持ってこい!」「後は清潔なタオルだ」「それと水もいるぞ!」お医者さんを中心にして集まって、すぐに治療にとりかかりました。
当然私もじっとはしてられません。
「何か手伝う事はないですか!」
あれこれ、必要な物を聞いてとりにいく事にしました。
竜の治療は、とてつもない大仕事でそれから三日三晩かかりました。
「大丈夫よ。貴方は絶対によくなるから。安心して」
その中で何度か里の外まで足を運んで様子を見に行きましたが、油断のならない様子を見る度にはらはらしてしまいます。
それで、あまりにも頻繁に行き来するので、アリオやトールに心配されてしまいました。
「お嬢、毎日夜遅くまでついてて大丈夫?」
「お嬢様、顔色がよくないのではありませんか?」
怪我をした人を心配するあまり、自分の体調管理がおろそかになってしまっては本末転倒です。
でも、私は竜が心配だったので、それからもちょっと無理をしてしまいました。
「きっと治るから。もう少し頑張りましょう」
里の人達の治療のかいはあったようです。
三日後には峠を越えて、容態が安定したんですが、怪我が深刻だったらしく、竜の傷の治りは遅いままでした。
私は、竜の様子を見ている時に父様と少し話をしました。
獣使いの里で竜の手当てをするのは初めてだそうですが、世界の中ではこういった事は時々あるのだそうです。
珍しい生き物や獣が怪我をして町の近くや村の近くで倒れている事を。
人の生存圏に近づいてくる事はめったにない彼らがそうするのは、助けを求めているから。
それぞれが自分達で暮らしていたはずのーー人とよく似た知能、またはそれ以上に賢い生き物が、こうして人の手を借りなければならない窮地に陥ってしまう。
その原因には、同じ人が関わっているのだとしたら、許せません。
生き物たちとの触れ合いは心躍るものがありますが、こんな原因は歓迎できませんよ。