第4話 真面目な住人トール
保護されてから数年が経過しました。
私はすくすく育って、健康そのもの。
孤児でさまよっていた頃は、栄養とれなくてあちこち細かったですが、今はぷにぷにですよ。
ダイエットをちょっと考えるくらい。
恵まれた環境ですね。
今の育て親に感謝ものです。
そんな私は、家の外をてくてく。
獣の里のあちこちを歩いてる最中。
そんな私に里の住人達が挨拶をしてくれます。
こういう何気ないやりとりをしていると、なじんだなと感じます。
「おやおや、お嬢様ではありませんか。おはようございます」
「こんな朝早くから見回りですか、大変ですねぇ」
「アリシャちゃん、元気してるかい。たくさん食べて大きくなるんだよ」
将来里の長になる事を期待された、私の朝は早いです。
日が昇ったばかりの時間から里を歩いて、各場所に異常がないか確認し、外周にいる見張りの人達にも挨拶をします。
「皆さん、おはようございます」
「おはようお嬢様!」
「おはようございます! 良いお天気ですよ!」
里は広大な荒野の中にポツンとありますから、たまに野生の動物がやってくる事があるんですよ。
それらを追い払うのが彼らの役目。
あと、交易道路の近くにあるので、生活物資の調達には不便していませんね。
自然環境もほどほどのバランスなので、晴天と雨天が激しかったり、長引いたりすることもありません。
そのままてくてくしながら、私はみんなに順番に挨拶していき、眠気の残った頭をさましていきます。
「おはようございますお嬢様! 今日も動物達に異常はありません。いつも通り元気ですよ」
その後は、里の中にある共同飼育小屋へ赴いて、皆で管理している獣たちの様子を見にいきます。
獣使いの里と呼ばれる事だけあって、ここで管理している獣は実に豊富なバリエーションがあります。
現実世界で見たような、ワンちゃんネコちゃんから、この世界ならではの動物サラマンダーやコカトリスなどもいます。
もふもふのケモノだけじゃなく、頑丈で屈強な生物もたくさん。
「最近入った新参者の獣の体調も良好ですから。お嬢様が心配する事はないでしょう」
小屋を見回っていく中で私によく話しかけてくれるのは、この場所の管理者である少年トール。
しっかり者の彼は、真面目な勤務態度が評判で、自警団としての仕事をこなす傍ら、獣の健康管理をしっかりと行ってくれます。
小屋の管理者として彼の右に出る者は少なく、もっとたくさんお獣の世話をする事が彼の将来の夢らしいです。
獣使いの里では、お世話できる獣の数が、その人のステータスを決定づけているため、この里の中では私を除いて一番身分の高い人ともいえるでしょう。
現実世界の常識で言えば、身分の高い人と言えば、豪華な着物を着て不自由を感じずにのんびり生活しているイメージですけど、この世界の獣使いの里では、それは当てはまりません。
身分の高さ=できる人間というイメージがあるため、トールの様な人が持ち上げられるのです。
事実。
他の管理員がトールに、話しかけています。
「トール様、三番小屋の子が騒いでるので様子を見てもらえませんか?」
「分かりました。今いきます」
獣の管理で何か困った事があれば、真っ先に彼が頼られます。
「では、お嬢様、失礼させてもらいます。明日もお待ちしていますので、またいらしてくださいね」
張り切る彼に「ほどほどに頑張って」と伝えた私は、小屋を後にしました。
トールは人より真面目で頑張り屋なので、無茶しないか少し心配です。