第1話 転生前
「あいちゃん、まいちゃん、そしてみいちゃん! 聞いて聞いて! 新しい乙女ゲームが発売されたんだよ!」
中学に通っている私……みくりは、幼馴染の三人に声をかけた。
幼稚園からずっと一緒の三人は、いつも一緒に遊ぶ仲良し。
好みも似ているため、中学になってもずっと一緒に遊んでいる。
私が声をかけたら、三人が「なになに?」という顔になった。
「今回のはダンジョンものでね」
私は仕入れてきたゲームの話をする。
楽しい日々。
充実した青春だ。
こんな日々がずっと続くと思っていた。
とある日、彼女達と共に向かったサーカスで、脱走したライオンと対峙するまでは……。
友達とサーカスを楽しんだ後、ちょっとした冒険心で裏方をのぞこうとしたのがいけない。
なぜなら、制御不能に陥った猛獣がちょうど脱走する所だったから。
その猛獣は恐るべき速さで私にとびかかってきた。
地面に押し倒された私は、至近距離から猛獣と見つめ合うはめになった。
重さ、息遣い、気配。
テレビや漫画、ゲームじゃ分からない獣の怖さがそこにあった。
背筋が凍るような迫力を味わった私は呆然としながら、猛獣が口を開けるのをただ見つめるしかできなかった。
かろうじて音にならない声で。
ーー私、ゼンゼンオイシクないデスよ。
って、言ったのに。
とても文字では描写できない目に遭ってしまった。
調教師が猛獣の手綱を握ったのはそれから数秒後。
それでも、ひよわな人間にとってその数秒は命取りだ。
病院に運ばれた時には意識があったけど。
私は自分の命が終わる事を感じていた。
けど、頭の中の妙に冷静な部分が、場にそぐわない考え事をしていた。
これじゃあ、トラウマになっちゃうな。
もふもふ好きだったのに。
なんて感じの事を。
次に転生したとき、もふ嫌いになったらどうしてくれようか。