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「拳銃を.45口径で、と注文されるなら、SMGやARも大口径の物を望まれるのでしょうね?最新式の物を、と言われるよりも遥かに難しい。
なかなか手強いお客様ですね。一度は引退を考えた私なのに、なんだか滾ってきてしまいますよ。」
先ほどまでの人の良さそうな笑顔が変わった。顔は笑っているが眼が笑っていない。
この人も武器商人と言うだけあって戦士なんだな。そう思わせる。
「そんなに難しい注文はしませんよ。と言うか出来ないです。私は所詮実銃に触ったこともない日本のガンオタなんですから。知識も古いですしね。
最近ネットで調べて、FN-SCARが合衆国海兵隊に納入されているのを知って驚いたくらいですから。」
そう言うと驚いた顔をする。いや、マジなんです。
長男が生まれてからサバゲーを引退し、ここ20年ほどはEDC(Every Day Carry:常時携帯)グッズとアウトドアグッズばかりで全くミリタリー方面には手を出していなかったからね。
「それではどのくらいまでの知識がおありなのですか?」
カイルさんに質問される。
「合衆国海兵隊ならばM16A4に光学照準器が標準装備されたくらいまででしょうか?拳銃ならM9まではそれなりに理解してます。」
現在はM9からグロックに更改されつつあるらしいが、17なのか19なのかもよく分かっていない。いや、調べれば分かるんだけどさ。
実は異世界EDCギアの中に「iPad Air」の文字があったのだ。LIFEPROOF Fre'と言う防水防塵耐衝撃ケースに入れ、5年ほど愛用している物だ。
心眼のおかげで分かったのだが、こちらからの発信は出来ないが検索などは通常通り出来るし、バッテリーも無くならない無限仕様だそうだ。困った時はこれで調べられる。
「ふーむ、そうなるとうんと古い武器まで遡る形になってしまいますかね?しかし、そうなると程度の良い物をご用意するのが難しくなってしまいますが・・・。」
カイルさんがちょっと困った顔をする。
そう、カイルさんは真っ当な武器商人なので、最新型からせいぜい1〜2世代前くらい前までの武器を主に取り扱っているはずだからだ。
俺は笑顔を浮かべながらカイルさんに言う。
「さすがにM1ガーランドやトミーガンを欲しいとは言いませんよ。まあ、今ならフィリピンあたりから返却されてきた物が大量に手に入るのでしょうが、別にこちらで軍隊を作りたいわけではありませんし。
SMGはクリスヴェクターを、ARはH.C.A.Rをお願いしたいです。どちらも専用サプレッサー付きで。予備マガジンはそれぞれ20本ずつ、どちら用もロングマガジンでお願いします。
SWATスリングも欲しいですね。弾は共に2,000発ずつ。.45はFMJで良いですが、H.C.A.Rの30-06の方はM2徹甲弾でお願いします。」
俺の言葉に驚いた顔をするカイルさん。最新式ではないが、近代火器の名前が出たので驚いたのだろう。
「クリスヴェクターは映画などでもちょくちょく見かけるのでまあ分からないでもないですが、H.C.A.Rの名前が出てくるとは思いませんでしたよ。BARの近代改修モデルですよね?
7.62mmNATO弾を使う二世代前の銃ならともかく、さらに前の30-06を使う銃を選ばれるとは。あなた、ただのガンオタでは無さそうですね。」
いやいや、ただのガンオタですって(笑)。
ただね、異世界転生物のネット小説を読んでいて、いつも疑問に思っていたのよ。
「こいつら何で最初から大口径の銃を使わんの?」
とね。
大抵の主人公はまずは9mmパラベラム弾を使う拳銃かSMG、あるいは両方を手に入れる。そして鎧をつけたホブゴブリンや皮膚の硬いオーガなどと戦って
「弾が効かない!もっとパワーのある銃じゃないと!」
と騒ぐのだ。そして慌てて5.56mmNATO弾を使う西側諸国のARか、無骨で信頼性の高いロシアのAKシリーズを使いだすのだ。
異世界で魔獣やらモンスターやらが居ることが分かってるんだから、最初からある程度のパワーがある大口径銃にしとけって話だよ。
だからと言って最初っから.50AEを使うデザートイーグルとか、.50BMGを使うバレットM82とかはいらん。
銃が存在しない、もっと言えば魔法以外に爆発音を響かせる物が存在しない世界で、大口径の銃をバカスカ撃って銃声を轟かせてごらん?神の怒りか魔獣の咆哮か、って大騒ぎになる事間違いなしじゃん。
必然的に目立つし目をつけられてしまう。面倒はお断りだからね。
ちなみにクリスヴェクターは.45口径のSMGで、グロックシリーズのマガジンを使用する。
クリス・スーパーVシステムと言う反動抑制機構が組み込まれていて、実にSFチックなスタイルをしている。映画バイオハザードの中で、アンブレラの戦闘員が持っていたのが有名だ。
BARはM1918と言う機関銃で、ブローニングオートマチックライフルを短くしてBARと呼ばれた。第一次世界大戦中に開発され、第二次世界大戦や朝鮮戦争、ヴェトナム戦争でも活躍し、つい最近まで合衆国海兵隊の一部が使用していた銃で、軽機関銃や分隊支援火器のハシりと言われている。
100年も前の銃だがその信頼性は高く、完成された機関部はそのままに、現代の人間工学に基づいたテクノロジーで作られたストックやハンドガードに交換して生まれ変わったのがH.C.A.Rなのだ。
ちなみに30-06弾は、M4やAK-74の弾を止めるステージⅢと呼ばれるボディアーマー(防弾チョッキ)を貫通する。恐ろしい破壊力なのだ。
「あ、あと、ショットガンも欲しいです。レミントンM870MCS、18インチスムースボアバレルでピストルグリップタイプストック、エクステンションマガジン付きの物と、10インチショートバレル、ストック無しピストルグリップのブリーチャータイプを一丁ずつ。
弾は3インチマグナムのスラッグを200発、バックショットのOOOバック(トリプルオーバック)を200発、バードショットのFを200発。
ロングの方は最近発売になったショットガン用サプレッサーを付けられるように改造もお願いします。もちろんサプレッサーは最新の物を。
あ、SWATスリングもそれぞれにお願いします。」
レミントンM870は40代以上の日本人なら誰でも知っている、某テレビドラマで団長と呼ばれた人が使用していた物だ。
今やベーシックすぎて日本の実銃界では人気がないようだが、やはりベーシックであるからこその安心感が一番だ。オートショットガンでトラブっても、誰も助けてくれる人がいないからね。
MCSはモヂュラーコンバットショットガンの略で、バレル(銃身)やストック(銃床)などを簡単に付け替えて全長を短くしたり出来るカスタムモデルだ。
本来なら自分でバレルとストックを組み替えてブリーチャースタイルにすることも出来るのだが、異空間収納があれば重量や嵩を気にせずに持ち歩けるので、あえて別々に購入することにした。
注文した弾はどれも一般的な物よりも強力な物だ。
普通は2-3/4インチの長さのショットシェルなのだが、3インチマグナムはそれよりも長いので火薬量も多く、当然威力も強い。
スラッグはでっかい一発弾。車のエンジンブロックも壊せる破壊力だ。
OOOバックは元々は鹿撃ち用の大きめの散弾で、一般的に知られているOOバック(ダブルオーバック)よりも詰められている散弾の直径が大きい。
バードショットFも同じで、一般的なバードショットBBよりも散弾の直径が大きいのだ。
異世界の生き物はどれもパワフルそうだからね。
「うーん、ご注文いただいた中で今すぐにご用意できるのは、M45とレミントンM870MCSのブリーチャータイプですね。あとは2〜3日いただきたいのですが。」
カイルさんが答える。正直、すぐに手に入る銃があるとは思っていなかったので逆に驚いた。
「はい、よろしくお願いします。とりあえず金貨3枚お渡ししておきますね。足りなければ残りの商品受け渡し時に精算します。」
そう言って収納の貴重品フォルダーを意識し、金貨3枚を送金するイメージをすると、♫ピロン♫と言う電子音と共に金貨の表示が6枚から3枚に減った。どうやらちゃんと送金できたらしい。
カイルさんも一旦画面から目を逸らし、再びこちらに向き直ると、
「金貨3枚、確かに受け取りました。すぐに商品をお渡しします。30分ほどでお送りできると思いますので、一旦通話を切ってお待ちください。ではまた、御機嫌よう。」
カイルさんの笑顔に見送られながら通話が終了する。それと同時に風を感じる。止まっていた時間が動き出したようだ。とりあえず、飯でも食うかな。