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そろそろ8時になるので、モーニングティーを終えてロビーに降りる事にする。エレナが一度部屋に戻り、すぐに大きなリュックを背負って出てきた。お洋服と靴を買うから収容力が必要なのね。でも俺、収納持ちよ?


「エレナ、そんな大きなリュックを背負わなくても、私が収納してあげますよ?もっと小さなカバンでも良いのでは?」


そう声をかけるとエレナが赤くなる。えーえーえー、何?何かまずかった?


「あの、その、それは嬉しいんだけど、やっぱり自分で持たないといけない物もあるから、ね?」


そう言ってチラチラとこちらを見る。おおう、そうか、下着か。確かにそれは預かれないわ。


「そ、そうか、ごめんね、私の配慮が足りなかったね。ずっと父と暮らしてたから、そう言うの気が利かなくて。」


そう言いながら顔が熱くなっていく。前世でも妻の下着を購入するのに付き合わされて、何度も気まずい思いをしたものだ。


「あー、い、行こうか。」


エレナに声をかけると赤いままの顔で頷く。何となくお互い意識し合いながらギクシャクと足を進め、フロントに鍵を預けてロビーに降りる。


ロビーで待っているとエヴリンさんが笑顔で入ってきた。空気が変わるのが分かる。ちょっとホッとする。


「エレナさん、タカさん、おはようございます!今日はお2人に楽しんでもらえるように頑張りますね!」


張り切って笑顔で言うエヴリンさん。ギルド公認でお出かけだもんね。そりゃ張り切るか。


「エヴリンさん、よろしくお願いします!楽しみです!」


エレナも張り切っている。女の子同士でキャイキャイ言ってる姿は可愛いねぇ。眼福です。


「エヴリンさん、私もよろしくお願いします。さ、馬車に乗りましょう。」


そう声をかけて2人を促し馬車に乗り込む。さあ、覚悟を決めて気合い入れるか(笑)。





午前中に服屋さんを2軒、靴屋さんを2軒回った。お店を回っている間はウォルターたちは馬車の中でお留守番だ。


どの店でもそれぞれ1時間近くかけて品定めに付き合わされた。女子2人が代わる代わる繰り出してくる「どっちが良いと思います?」攻撃に耐え、ちゃんと真剣に選んであげた自分を褒めてあげたい。途中女子だけでのお買い物タイムもあり、なかなか大変だった。


俺はその隙に部屋着兼寝巻きとして、ざっくりと編まれた薄手のトレーナーみたいな服と綿パンみたいなズボンを7着ずつ買った。一週間が6日なので、これで予備が1日分あることになる。もちろん今回購入した分以外に今の手持ちもあるけどね。ちなみにズボンはウェイストを紐で調節して縛るようになっている。後は替えの下着上下と靴下を10着ずつ、分厚い生地で作られた作業着みたいな感じの上下を7着ずつ、外出用のちょっとオシャレなボタンシャツとズボンを3着ずつだ。外出用の服はエレナとエヴリンさんが見立ててくれたが、他の物は見つかる前にさっさと買って収納した。コーディネートを考えるのとか面倒なんだよ。


靴は半長靴、ミリタリーブーツやワーキングブーツのような脛の中程までの長さの革靴を3足、モカシンのような短靴を3足、ローマ時代の映画なんかによく出てくる革製の編み上げサンダルを3足買った。





とっくに昼は過ぎて1時を過ぎていたので、3人と獣魔で一緒に食事に向かう。エヴリンさんに案内されたのは先日食事をした麺屋さんだ。もう1時過ぎというのにまだ満席で、さらに邪魔にならないようにしながら何人もの客が並んでいる。


「ここ、今までは盛りが良いのが売りだったんですが、盛りを抑えた代わりに香辛料を使うようになったんです。そしたらグッと味が良くなって、おまけに女性客が食べきれる量になったので、女性にも大人気のお店なんですよ。そのせいでこの時間でもこんなに混んでるんですね。」


エヴリンさんがエレナに説明している。ああ、俺が提案した通り香辛料を使うことにしてくれたんだな。そして香辛料でコストが上がった分をカバーするために盛りを抑えたのが、逆に気軽に食べやすいと女性の来店客を増やすきっかけになったのか。思わぬ相乗効果だね。


「何でも森育ちで狼を連れた冒険者風の若いお客さんが、香辛料を使うと美味しいと思う、ってアドバイスしてくれたんですって。狼を連れた若い冒険者なんて、タカさんにソックリですね!」


エヴリンさんが笑顔で何気なくそう言い、その後に自分が言った言葉を反芻しながら何やら不審気な顔になる。え、まさか、いやでも、などとブツブツ言っている。その間にも、俺たちの後ろにさらに何人かの人の列ができている。


食事を終えた客たちが次々と会計を終えて店を出て行き、店員が素早く片付けを済ませたテーブルへ別の店員がすぐに次の客を案内し始める。回転率は悪くなさそうだ。


「すいません、私たちはテイムしている動物が一緒にいるので、一番入り口に近い席が空くまで待たせてもらってよろしいですか?」


空いたテーブルの食器を片付けて戻ってきた店員に声をかける。


「じゃあ列から少し離れてもらって、って、ああっ!」


店員が大声で叫びながら俺を指差す。エレナとエヴリンさんが突然の大きな声にビクリと身体を震わせる。俺は店員に向かってニッコリと微笑みかけた。


「オヤジさーん!あの男の子!あの男の子が来ましたー!」


店員は大きな声でオヤジさんを呼ぶ。わざわざ呼ばなくて良いのに。エレナはキョトンとした顔で、エヴリンさんはビックリした顔で俺を見つめている。


「えーと、これって、もしかして?」


エヴリンさんの質問に答える前に厨房からオヤジさんが出てきた。俺を見つけると駆け寄ってきて肩をバンバン叩いてくる。痛いです。


「兄さん良く来てくれたな!兄さんが教えてくれた通り、少し香辛料を入れてみたらグッと味が良くなってな!おまけに値段を上げないために盛り付ける量を減らしたら、女性客が食べやすくなったって評判になってな!おかげさまで大繁盛よ!ありがとうな!今日は店の奢りにさせてもらうから好きな物を喰ってってくれ!もちろんお連れさんたちもな!」


オヤジさんは笑顔でそう言いながら俺の肩をバンバン叩き続ける。痛いってば。アザになりそうだわ。店の中の客も並んでいる客も、へえ、とか、あんな若いヤツが、とか言いながらこちらに注目している。勘弁してくれ。


「オヤジさん、ありがとうございます。遠慮なくご馳走になります。」


そう言うとオヤジさんは満足そうに頷いた。


「おう!腕によりをかけて作るからな!楽しみにしててくれ!」


オヤジさんは上機嫌で腕まくりをしながら厨房へ戻って行った。こんな事になるとは思ってもみなかったぜ。


「「タカさんって凄いんですね!」」


エレナとエヴリンさんが綺麗にハモった。2人とも目をキラキラさせている。うう、こういう状況には慣れてないんだよ・・・。


厨房の壁に掛けられている板に書かれたメニューを見ると、料理そのものは変わっていないようだ。ミルクパスタ、ビネガーパスタ、塩炒めパスタ、塩うどん、ビネガーうどん、塩焼きうどん、とある。値段は全て10銅貨で、大盛りは5銅貨追加だ。周りを見ると女性客は普通のメニューを、男性客は大盛りを頼んでいるようだ。普通盛りは以前の7割弱くらいの量で、大盛りは普通のメニューの2倍くらいの盛りになっている。お気に入りの料理があるなら、2品頼むより1品で大盛りの方が良いだろう。


エレナはミルクパスタ、エヴリンさんは塩炒めパスタ、俺は塩うどんを頼んだ。俺だけ大盛りだ。ミルクパスタはホワイトソースたっぷりのカルボナーラみたいな感じ、塩炒めパスタはボンゴレ・ビアンコのような貝類がいっぱい入ったパスタだ。俺の塩うどんは塩ラーメンみたいな感じだった。3人でシェアしながら食べる。うん、どれも香辛料が的確に使われててめちゃくちゃ美味いです。


獣魔たちにも俺の収納から取り出した食べ物と水を与えた。生野菜の買い置きをしておいて良かったよ。エレナは何度も礼を言い、出してもらった分は必ず買って返す、と約束してきた。このくらいは別に良いんだけどね。


食べ終えて片付けをしてカウンターに向かい挨拶する。


「ご馳走様でした。思った通りとても美味しかったです。また食べにきます。」


そう言うとオヤジさんだけでなく、おカミさんも店員も皆さん嬉しそうに頷いた。


「おう!またいつでも来な!待ってるぜ!」


オヤジさんの声に送られて店を後にした。







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