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俺は異世界EDCギアのフォルダーに意識を向けた。


様々な名称がズラリと並んでいる。その中からまずは4つを取り出すことにした。

「戦術短刀 火涼天翠」

「ブラックククリ」

「鬼神-Daemone (Large)-」

「SPYDERCO POLICE」


の4つだ。


火涼天翠は全長360mm、刃渡220mmと短刀の名の通りのサイズだ。カスタムナイフといって、一本一本手作業で仕上げられたナイフだ。


当然値は張るが、大量生産品とは違う美しいフォルムと斬れ味、耐久性が魅力だ。必死でやり繰りして購入した物で、愛着も一塩だ。


ブラックククリは全長400mm、刃渡250mm程で、「く」の字に大きく内側に湾曲した形をした山刀だ。もともとはネパールの山岳民族が使ってきた民族刀だ。


ちなみにこちらはフォルムだけを似せた大量生産品の安物だ。だが、独特なフォルムが好きで購入した物でやはりそれなりの愛着がある。


野外活動の際は必ず種類の刃物が必要になる。


獲物の解体や調理、鍋を下げる三脚や串を作るといった細かな作業に使う斬れ味が良くて小回りがきく刃物と、薪を割ったり穴を掘ったりという荒事に使える頑丈な刃物だ。


野営する際に下草を払うだけでは残った茎がチクチクするので、土の中に刃を押し込んで刈る必要がある。トイレの穴を掘る際も、自然に固くなった地面はスコップが効かない場合がある。


そういう時に活躍するのが、頑丈でサイズが大きくパワーがある刃物だ。どっちがどっちの役割かは言わずもがなだ。


鬼神-Daemone (Large)-はフォールディングナイフ(折り畳みナイフ)だ。


こちらもカスタムナイフで、大量生産品では不可能な造詣をした美しいナイフだ。


刃を起こせば全長230mm、刃渡100mm、折り畳めば140mmというコンパクトさだ。


ボールペンのようなクリップが付いているので、ポケットに収納するのは勿論、袖口やブーツの中に隠すことも可能だ。しかも片手で刃を起こせる特別な構造をしている優れ物だ。


獲物の解体、調理、植物の採取、細々とした工作など、こいつが一番活躍してくれるだろう。


SPYDERCO POLICEはSPYDERCO社と言う会社がデザインし、日本のセキカットラリーで製作されたナイフだ。刃の峰に大きな丸い穴が開けられており、そこに指を掛けることによって片手で素早く刃を起こせる。特許も取られた構造だ。


様々なモデルがあるが、POLICEモデルはハンドルがステンレスで、本体の厚みが薄く作られている。


大きさは鬼神-Daemone (Large)-とほぼ同じだが、大きな違いは刃が鋸刃のようにギザギザになっているところだ。


これはセレーテッドエッヂと言い、元々は海水などで固く締まったロープを確実に切断できるように作られた物で、その機能性を見出したSPYDERCO社が独自に研究を重ねてスパイダーエッヂとして商品化し、エベレスト登山隊などに提供して有名になった。


滑落などの緊急時に素早く片手で刃を起こし、ザイルをカットする。


あっという間にその性能が広まり、ナイフ好きなら誰もが名前を知っているほどになった。こいつもクリップが付いているので携帯に困ることはない。


この世界、旅人や狩人なら短剣とナイフくらいは当然持っているだろう。だからこそ、俺もこの世界の住人に合わせる必要がある。


幸い、このリアースに存在しない素材、例えばナイロンやプラスチックなどは、上手いこと革や木、動物の角や骨などに見えるよう偽装されているようだ。


フォールディングナイフだけはこの世界では怪しいが、収納から取り出した時に形が変わらなかった事で問題はないと判断した。もしまずかったら御神託でも降りるだろう。


火涼天翠は左腰に、ブラックククリは右腰に下げて右の太腿にベルトで固定、鬼神-Daemone (Large)-は革ベストの内ポケットに、SPYDERCO POLICEはブーツの中に、それぞれ携えていく。


俺は盾を持っていないので、左腰の火涼天翠を逆手で抜いて盾代わりにし、右腰のブラックククリで戦うつもりだ。


時と場合と相手によっては、右手のブラックククリの湾曲を活かして敵の武器を絡め取ったり払いのけたりして、左手の火涼天翠で首や手首、内腿などの太い血管がある急所を切り裂くような戦い方も取れるだろう。この辺は相手次第だな。


さて、いよいよ問題の異世界ショッピングだ。日用品から現代火器まで、様々な物を購入できるはずだ。


まずは起動してみるか。


「異世界ショッピング」と念じると毎度お馴染みのパネルが空中に現れる。


ただ、いつもと違うのは、異世界ショッピングを起動すると時間の経過が止まる様だ。


先ほどまで吹いていた風が突然止んで、舞っていた木の葉が空中に静止している。


そんな中、空中のパネルの中にまるでテレビ電話でもしているように、一人の老齢に差し掛かりつつあるプラチナブロンドのがっしりとした体格の男性が映し出されていた。


はい?オペレーター付きテレビ電話でのショッピングですか?


「はじめまして。私はカイルと言います。イングランドKCAT(Kyle's Company Aerial Transport)社と言う会社を営む武器商人です。


もっとも、最近は私のような小型兵器をメインに扱う武器商人は取引も間々ならない状況でしてね。そろそろ引退してレストラン経営でもと考えていたのですが、そんな時に女神から神託が降りまして。足のつかない上手い儲け話があると聞いて乗らせてもらいました。まずはあなたの名前を伺ってもよろしいですか?」


エラい丁寧に出てきたな。こちらもそれ相応の対応をする必要があるな。


「はじめまして。御丁寧な挨拶、痛み入ります。女神様からの御神託とはいえ、私のような何処の何者かもわからぬ者との取引を認めてくださり、心から感謝いたします。私の事はタカとお呼びください。これからどうぞよろしくお願いします。」


相手に見えるように頭を下げておく。


「タカ、ですね。分かりました。我々はビジネスパートナーです。もっと砕けた調子で構いませんよ。どうぞ気楽にお願いします。」


ありゃ、フランクなおっさんだな。まあ、そう言われてタメ口をきくほど非常識ではない。ある程度やりとりしてから徐々に崩していこう。


「お気遣い感謝いたします。女神様からは私の状況をどの程度お聞きになっていますか?」


尋ねるとすぐに答えが返ってきた。


「どうしても回避できない運命によって、トールキンの指輪物語のような剣と魔法と魔物が存在する世界に転移してしまった事、そこで生き延びれるように様々な物資を取引して欲しい、と言うところでしょうか。


ああそうそう、中世ヨーロッパ並みの文明なので、銃火器だけでなく食料や医薬品も取引してあげて欲しい、と言われました。」


女神さまたち、ナイスフォローです。これなら話が早くて助かるわ。


「取引はドルやユーロではなく、こちらの通貨や宝飾品などを利用させていただく形になりますが大丈夫でしょうか?」


「それも女神様から説明されています。実際にそちらの通貨をサンプルとしていただき、数件の取引所に確認しました。


地金の価値で換金手数料を差し引いても銅貨が1ドル、銀貨が100ドル、金貨が10,000ドルで取引できます。


現在、金銀銅と言った貴金属類は電子部品に無くてはならない物ですからね。単純な貴金属としてだけで無く、工業用貴金属としても取引できるように調整済みですので、大きく値崩れを起こしたりする心配もありません。レートは固定で結構です。」


理想的な取引相手だな。実に紳士だ。ならば早速取引に移るとするか。


「まずは拳銃が欲しいです。M45やMEUと呼ばれている、合衆国海兵隊が使用していた.45口径の自動拳銃です。サプレッサーが装着出来る様にカスタムされた物で。専用サプレッサーもお願いします。


サプレッサーを装着したまま収められるレッグポーチとガンベルト、マガジンポーチとダンプポーチもお願いします。予備マガジンは10本、弾はFMJ(フルメタルジャケット)で500発。幾らになりますか?」


M45、MEU共にM1911A1、通称コルトガバメントのカスタムモデルだ。M1911A1からM9(ベレッタM92)に装備が更改された時に、程度の良い物を改造して使われていたのだ。


.45(11.5mm)の弾丸は、9mmと比べると弾速が遅いがパンチ力がある。野球でよく言われる、早くても軽い球と遅くても重い球と言えば分かりやすいだろうか。


「9mmではなく.45を選ぶとは、あなたは合衆国の国民なのでしょうか?」


カイルが尋ねてくる。確かに、今時.45を使いたいと言ったらそうなるだろう。合衆国国民の.45信仰はすごい物があるからね。だから合衆国海兵隊も手放さず使い続けていたのだ。だがそうではないんだな。


「私は日本人ですよ。こちらの世界は板金鎧が普通に使われている様です。軽量高速弾だと角度が悪いと弾かれてしまう恐れがあります。多分ホローポイント弾なら全く通らない。


.45のFMJならたとえ弾かれても、当たった部分の板金鎧を大きく凹ませて着用した人間の身体を圧迫し、行動不能に出来るのではないかと判断しました。他意はありません。


ついでに、サプレッサーの効果が高いのも選択理由ですね。狩りをする時に私の位置を悟られにくい。それに、銃の無い世界でバカスカ銃声を響かせるのも何ですし。」


カイルさんの眼が一瞬キラリと光った様に見えた。


「なるほど。あなたの狩りの獲物がどんな物になるのか、楽しみですね。拳銃は一丁で宜しいのですか?」


「はい。二丁拳銃は見た目は派手で格好良いかもしれませんが、マグチェンジの手間を考えると一丁の方が遥かに速く正確に撃てますから。」


カイルさんが怪訝な顔をする。


「あなたは日本人ですよね?随分とお詳しいですが?」


ふふん、日本のガンオタ舐めんな。とは言っても、20年以上離れてて頭の中のデータベースは古いままなんだけどね(笑)。


「確かに私は日本人で、海外への渡航経験はありません。もちろん実銃の射撃経験もありません。ですが、トイガンでのシューティングマッチを長くやっていたんですよ。それもリコイル(反動)を再現した物で。なので、経験はありませんが知識だけはありまして。」


そう答えるとカイルさんは納得したのか、満足げに頷いた。


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