072
「タカさん、朝から不愉快な思いをさせて申し訳ありませんでした。」
ギルドのフロアに着くなりカタリナさんに再度詫びをされる。でもこれはあくまであの御者の問題で、冒険者ギルドは関係無いからね。そこまで詫びられると逆に俺の立つ瀬が無い。
「カタリナさん、先ほどの問題はあくまで御者の問題で、冒険者ギルドには何の責任もありません。どうぞお気になさらずに。本当にこれ以上の詫びは不要ですから。
それよりも、今日は何をしたらよいのでしょう?そちらをお願いします。」
そう言うとカタリナさんも頷いた。
「分かりました。それではギルドマスターの部屋へお願いします。」
そう言って先に立って歩き出した。俺とウォルターは後に着いて階段を登る。
カタリナさんも良いケツしてるなぁ。目の前で左右に揺れる豊かな尻に目は何釘付けだ。
至福の時はあっという間に終わり、ギルドマスターの部屋の前に着く。カタリナさんがドアをノックする。
「カタリナです。タカさんをお連れしました。」
中に向かって声をかける。
「おう、入れ入れ。」
中からギルドマスターの声がした。これってまたお説教されるパターンなのでは?懲りねえなこの人は(笑)。
「失礼します。」
カタリナさんはそう声をかけてドアを開き、俺とウォルターを先に通してドアを閉めた。こめかみの辺りがピクピクしている。あーあ、怒ってる怒ってる(笑)。
「おはようございます、ギルドマスター。ご機嫌はいかがですか?」
一礼しながら朝の挨拶をする。ギルドマスターがニヤリと笑う。
「そんなにしゃっちょこばるなって。お貴族様相手にしてるわけじゃねえんだ。俺だって元々は平民の冒険者、もっと楽にしろよ。」
ギルドマスターがそう言うとカタリナさんが額に青筋を立てながら口を開いた。
「ギルドマスター?確かに貴方は元々は平民の冒険者かもしれませんが、今は数千人の冒険者を預かるグランビア王国冒険者ギルド本部の最高責任者であり、国王から名誉男爵の称号も受けた歴とした貴族ですよ?何故その立場に見合った振る舞いをできないのですか?上がそうだと下に示しがつかないと何度ーーー」
ブチ切れたカタリナさんのお説教がまさに始まろうとしたその時、絶妙のタイミングでドアがノックされる。
「ヨセフです。入ってよろしいでしょうか?」
ヨセフさんの声が響く。この人、ドアの前で聞き耳立ててたわけじゃ無いよね?タイミング良すぎない?
「おう、入れ。タカもカタリナも既に待ってるぞ。」
ギルドマスターは明らかにホッとした顔をしている。カタリナさん、舌打ちはいけませんよ舌打ちは(笑)。
「失礼します。タカさん、おはようございます。今日もご苦労様です。」
そう言って軽く頭を下げられる。カタリナさんが不機嫌そうにヨセフさんの事を睨みつける。
「おはようございますヨセフさん。今日もよろしくお願いします。」
一礼する。ヨセフさんはほう、と感心したように息を吐く。
「タカさんは本当に礼儀正しいですね。どこぞのお貴族様と言っても誰も疑わないでしょう。よほどお父様の教育がよろしかったのでしょうね。
それに比べてうちのギルドマスターは、名誉男爵の称号を叙勲した歴とした貴族だと言うのに、いつまでたっても冒険者の頃の立ち居振る舞いが抜けなくて困ってるんですよ。いっそタカさんに行儀指導して欲しいくらいです。」
そう言うと深くため息を吐く。冗談とも言えない口調なのが困る。
「お前らが俺の補佐をしてくれてるんだから、そんなの必要ないって。いつだって助けてくれるじゃねえか。お前らを信頼してるからこそ、こうやって好きに振る舞えてるんだ。感謝してるぜ。これからもよろしくな。」
ギルドマスターが笑顔で言う。カタリナさんとヨセフさんは顔を見合わせてため息を吐く。ギルドマスターも人誑しだな(笑)。
「ギルドマスター、私たちが補佐しきれない場所もあるんですからね?そのくらいは弁えてくださいよ?」
カタリナさんが諦めた口調で言う。
「その通りです。国王との謁見などはフォローしきれませんからね?お願いしますよ?」
ヨセフさんも今日はこれ以上言う気にならないようだ。まあ、俺の用事さえスムーズに進めてもらえればそれで結構です(笑)。
「もちろん分かってるさ。心配すんなって。任しとけ。」
ギルドマスターはそう言うととっても良い顔で笑った。これに絆されるんだろうなぁ(笑)。
副ギルドマスター2人は肩を竦めて苦笑した。ご苦労様です(笑)。
「さて、タカ、悪いが今日はお前さんとウォルターの関係についてもっと詳しく聞かせてほしい。お前たちの生い立ちや今までの生活などについてだ。分かる範囲で構わない。よろしく頼むな。」
ギルドマスターが少し真面目な顔をしてそう言った。いつもそうやって真面目にしてりゃ良いのに(笑)。
「はい、分かりました。私たちの事について、全てお話しさせていただきます。」
そう言ってソファーに掛けさせてもらう。カタリナさんが書記として記録を取るようだ。ヨセフさんは事務室へと戻って行った。
ここに2人取られている以上、1人でギルドを回さなきゃいけないんだから大変よね。頑張ってください。
そして予め考えてあったカバーストーリーを話す。
・俺が生まれたばかりの頃、猟に出た父が森の中で生まれたばかりのウォルターを見つけ、このまま死なせるのはあまりにも不憫だったので連れて帰った。
・母は乳を絞りウォルターに与え、私と兄弟のように育ててくれた。
・ウォルターが自分の足で歩き回り、肉を食べられるようになった頃には小さいながらも3本の角が生えてきた。
・私が物心つく前に母は亡くなったが、その後も父と私とウォルターの3人で暮らしていた。
・私が言葉を覚えて喋れるようになるのと同じく、ウォルターも言葉を覚えて家族で普通に会話していた。
・そのため、何か特別な訓練や修行をした記憶が無い。主従関係もどのように結ばれたのか分からない。
・父はいつも俺とウォルターに、「タカと仲良く、ずっと一緒にいるんだぞ。いざという時はお互いに守り合い助け合って生きていくんだぞ。」と言っていた。
・狩りの時はウォルターが獲物を追い立て、父と俺が魔道具で仕留めるスタイルでやっていた。
・毛皮や角がたまると、父はそれを持って一月ほど何処かへ行き、塩や服などを持って帰ってきた。その間だけは父に指示された洞窟や大木の洞などを住処にし、周囲で狩りや採取をしていたが、それ以外の時は常に移動し、一箇所で止まって暮らすことはなかった。
・俺の成人が近くなってきたので人里を目指すことになり、半年ほど前から南に向かって下ってきていた。
・猟の最中に追い込んだ獲物とは別の獲物が乱入し、父が獲物の突進を躱し損ねて足を滑らせて滝に落ちた。落ちる寸前に俺に向けて魔道具を放ってきたので、その魔道具で獲物にトドメを刺した。
・その後は昨日説明した通り。
とまあこんな感じだ。2人は何度も頷きながら俺の話を聞いていた。どうやら信じてもらえたかな?テーブルトークRPGで鍛えた演技力のおかげだな(笑)。
一通り話終わり、記録も取れたところで休憩になり、カタリナさんがお茶を淹れてくれた。今日はレモングラスのハーブティーだ。部屋中が良い香りで満たされる。
「今日はレモングラスですね。とても良い香りで落ち着きます。」
そう言うとカタリナさんは嬉しそうに微笑んだ。
「その日の気分で変えてるのよ。このくらいの贅沢は許してもらわないとね。」
するとギルドマスターが口を開く。
「カタリナのお茶のおかげで煮詰まった頭もスッキリとリフレッシュ出来るんだ。なので必要経費として認めてる。
事務室の方にも3種類のお茶を置かせてるんだ。待遇良いだろ?
ギルドは人がいなけりゃ回らないし、いざという時に踏ん張ってもらうためにも、普段から英気を養ってもらってるんだ。
最初は他の本部から苦情もあったが、うちの成績を見て他も真似し始めた。組織改革ってやつよ。これでもちゃんと仕事してるんだぜ?」
そう言うとウインクしてくる。カタリナさんは肩を竦めながら苦笑いだ。自分のワガママを認めてもらっている負い目もあるのだろう。そう言う内部事情は内部の人間同士でお願いします(笑)。
マッタリとお茶を楽しんでいると突然ギルドマスターの机の上にある水晶玉が光りだした。
「すまんな、緊急連絡だ。」
そう言うとギルドマスターは水晶玉に触れ何か操作した。
「おう、俺だ。ローガンだ。何があった?・・・・ほう・・・・そうか。分かった。護衛を付けてこっちに寄越してくれ。ちょうどポルカからも1人来てるんだ。一緒に調べればより詳しく分かるかもしれん。・・・・ああ、そうだ。緊急で頼む。」
おや?何があったんだ?




