064
ギルドマスターから説明を求められたので、いつもの説明をする。
・北の森の奥深くで、父とウォルターの3人で暮らしていた。
・狩りには稲妻を放つ魔道具を使っていた。
・家は持たず、自然の地形を利用し、常に移動していた。
・時折父が塩や衣類を手に入れるために長期に留守にすることがあり、その時はウォルターと2人、父に指示された洞窟のような安全な場所で暮らしていた。
・どこに行って塩や衣類を手に入れていたのかは分からない。
・最後に塩や衣類を手に入れに行ってから半年ほどかけて、3人で南に向けて移動してきた。
・狩りの最中に父が足を滑らせ川に落ちた。慌ててウォルターと追ったが、そのまま滝に落ちて見えなくなった。
・滝は深く、高さもあるので降りることも叶わず、稜線に沿って川下へと下りながら父の痕跡を探してここまできた。
・大きな櫓が見えたので、人が住んでいるのだろうと思い、父の事を知らないかどうか尋ねようとポルカ村に立ち寄った。
・村長のフランクさんと面談し、紹介状をいただいて冒険者になった。
・冒険者登録した際に、自分でも知らなかった技能と職種が現れた。
3人とも黙って聞いている。俺の話を元にあらゆる可能性を考えているのだろう。
ギルドマスターはともかく、副ギルドマスターの2人はかなり頭が切れそうだ。変なツッコミ入れられなきゃ良いんだけど。
そんな心配をしていると、ギルドマスターが大きな音を立てて両膝を叩くと立ち上がった。
「もう昼だ。とりあえず飯にすっか。タカ、腹減ったろ?ウォルターもだ。
ヨセフ、納品で上がってきた新鮮な獲物を一頭回させろ。狼なら内臓も食わしてやらなきゃならんだろ。皮は剥いで、内臓は食べられる部分を全部持って来させろ。
カタリナ、俺たちの分の飯を頼む。俺とタカの分は肉料理だ。お前たちは好きにしろ。ほれ、行った行った。」
ギルマスが手をヒラヒラさせる。副ギルドマスターの2人は呆れた顔をしている。
「・・・・はぁ。全く貴方という人は・・・・。」
「・・・・何時もの事とは言え、疲れるわよね・・・・。」
副ギルドマスター2人は溜息をつきつつドアを出て行った。笑顔で見送るギルドマスター。
だがしかし、2人がいなくなった途端に目つきが鋭く変わった。
「なあタカ。お前、何か他人に言えない秘密を抱えてないか?」
いきなり切り出されてドキリとする。この人、一体何を掴んだんだ?
「・・・・言えない事と言われましても、財布の中身と女性の経験人数くらいしか心当たりがありませんが、具体的にどのような事を仰っているのでしょうか?」
すっ惚けてみせる。何を聞き出したいのか分からないので下手な事を言うわけにいかない。
「お前の新職業、新技能、数々の不思議な能力。もしかしたら産まれついての物なんじゃないのか?
修行とか経験とか、そう言う事で身につけられる物ではないんじゃないのか?
この国での暮らしを奪われたくなくて、仕方なく協力しにここに来たんじゃないのか?正直に言っていいんだぞ?
俺たちはその新しい職業と技能について、どうやれば他の冒険者が身につけられるのかを知りたいんだ。
逆に言えば、お前にしか使えない職業と技能なら手出しするつもりはないし、お前を責めるつもりもないんだ。
お前はまだ成人前だ。そんな奴にこんな所まで来させて言うのもなんだが、知らない事は知らない、出来ない事は出来ない、分からない事は分からない、ハッキリ言って良いからな。
変に話を合わせようとしたり、上手い事を言ったりしようとしなくて良いんだ。だから恐れなくて良いぞ。何もかも正直に言って構わんからな。」
・・・・ま、まあ、考えが斜め上に言ってるけど、俺の立場を慮ってくれてるのは分かった。ここは例のカバーストーリーを上手く使おう。
それにそろそろ、俺以外にもモンスターテイムの技能を持った、モンスターテイマーが現れてもおかしくないからね。
「そうですね。私は私自身の職業と技能をつい最近知ったばかりです。なので、正直詳しい事は何も分かりません。
ですが、私が知っている事、分かっている事は全てお話しします。私自身が自分の力をよく知りたいと思っていますので。」
まっすぐにギルドマスターの目を見つめながらそう言う。これだけ気を使ってくれている人にはやはり正面から向き合って対処したい。今まで以上に上手くやらなければ。
「おう、それで良い。何、心配するな。職業と技能について何も分からなかったとしても、罰則がある訳じゃない。
まして、今までの生活を奪われたり、家族や相棒を奪われたりなんて事もない。気を楽にしろ。」
ギルドマスターは笑顔でそう言った。親分肌な人なのね。きっとなんだかんだ言いながら皆に好かれてるんだろうな。そう思わせる良い笑顔だった。
「ところで、ヘイゼルのギルドでロミーを泣かしたんだって?あのクールビューティーを泣かすなんて一体何をやったんだ?教えろよ。」
ギルドマスターはそう言うと悪い顔でニヤニヤする。いやいや、俺、イヂメてないですから。
「実はお話中にいきなり二人掛かりで威圧をかけられたんです。その時に私も威圧を掛け返したのと、後は私の魔道具を見せたのが原因です。
ロミーさんを個人的にどうこうした訳ではありません。誤解のないようにお願いします。」
そいう言うとギルドマスターは興味津々の顔で言う。
「そいつは凄えな。あのロミーを泣かすほど恐ろしい魔道具か。なあ、飯食ったら俺にも見せてくれや。良いだろ?」
屈託のない笑顔でそう言われると断る気にならないな。この人も人誑しか。
「分かりました。後で訓練場に廃棄処分して良い板金鎧を2つ用意してください。ついでにウォルターの魔法もお見せします。
ただしお見せするのは信用の置ける人だけでお願いします。野次馬は立ち入り禁止にしてください。それがお見せする条件です。」
俺がそう言うとギルドマスターは大きく頷いた。
「もちろんだ。ギルド員を守るのもギルドの仕事だからな。安心してくれ。」
ウキウキしながらそう言う。確かにお昼時だけどサングラスしたオジサンはこの世界にはいないよ(笑)。
やがて副ギルドマスターたちが帰ってきた。ラーメン屋が出前で使うオカモチみたいな物を持っている。料理を運んできたのだろう。
カタリナさんとヨセフさんがそれぞれ1つずつ持っている。ヨセフさんはさらに大きな袋を2つ持っていた。ウォルターの分の肉と内臓だろう。
俺は収納から盥を3つとも出して、1つに水を注ぎ、残りの2つに内臓と肉を入れてもらう。
その間にカタリナさんが運んできた料理をテーブルに並べてくれた。ウォルターに食べて良いよと声をかけて先に食べさせる。
ギルドマスターが言った通り、俺とギルドマスターの分は肉料理だった。何かの鳥の大きなモモ肉がこんがりと焼いてある。それが2本も乗っていた。
付け合わせはマッシュポテトと炒めたニンジン、茹でたブロッコリーだ。パンが4枚と根菜のスープもついている。
カタリナさんは麦粥だった。そう言えば麦粥は女性に人気って言ってたもんな。ただ、お椀がポルカ村で食べてたやつの2倍近い大きさだ。結構な量だぞあれ。
ヨセフさんは魚だった。三枚におろした魚を綺麗に焼いてある。が、これも結構な大きさなのに2枚乗っている。
冒険者飯ってやつなのかな?全体的に量が多い。頑張って食べなければ。
「さあ食おうぜ。腹が減ってるとどうしても気持ちが刺々しくなる。落ち着いて話すためには飯は欠かせねえよ。」
ギルドマスターはそう言うと、良い笑顔でモモ肉を手にとってがぶりと齧りついた。
俺たち3人もそれぞれ食前の祈りやら挨拶やらをして食事を始めた。
モモ肉は外はこんがり中はジューシーでとても美味しい。直火や鉄板ではなくオーブンで焼いたのかな。分厚い肉にしっかりと火が通っていた。
塩味はちょうど良い塩梅なのだが、やはり香辛料が使われていない。うう、胡椒かけたい。
オーブンがあるのなら、ローズマリーやセージ、タイムなどのハーブを塗して焼く香草焼きを教えてやろうか。
それとローストビーフを焼く時のように、ブロッコリーやセロリ、ニンジンなどの皮や切れ端を下に敷いて焼く方法だ。
この方法が出回れば、高い香辛料を使わずに美味しさを増すことが出来るはずだ。
そんな事を考えながら食事を進める。ギルドマスターは骨まで食べそうな勢いで食べているが、副ギルドマスターの2人は優雅に上品に食べ進めている。もっとも量はスゴイんだけどね(笑)。
俺はおかずとスープは平らげたが、パンは1枚でギブアップした。残ったパンは収納へ入れる。
「お前、若いのに淡白だねぇ。もっとガツガツ行けよガツガツと。」
ギルドマスターが骨をしゃぶりながら豪快に笑う。まるで山賊の大将みたいだ(笑)。
「ギルドマスター?お行儀が悪いと何度言えばーーー」
カタリナさんが言いかけたところでヨセフさんがやんわりと止めに入る。
「まあまあ、お客様の前ですから。」
しかしカタリナさんがなおも食い下がる。
「お客様の前だからこそしっかりとしてもらわないと困るでしょう?貴方がいつもそうやって庇うからーーー」
あら、矛先が変わった。ヨセフさん可哀想に。ギルドマスターは澄まし顔だ(笑)。
「皆んな食い終わったなら食後のお茶でも頼むか。食休みしたら、タカが魔道具を披露してくれるとさ。な、タカ?」
ギルドマスターがそう言ってウインクした。まったく、悪い人だ。




