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港に着くと、双胴型の船が待っていた。客室はそこそこの広さがあるだろう。20人くらいは乗れそうだ。カワイルカ6頭で引くようだ。


船頭は1人、水夫は3人。水夫の1人は馬車でいう御者の役割で、残りの水夫はカワイルカの世話役と船体の維持管理が役割のようだ。


アニカさんが船頭に書類を渡して確認させている。これも依頼の形なので、カールズに到着したらサインをする必要があるのだろう。


アニカさんが手招きするので近づいていく。船頭に依頼主として紹介されるのだろう。


「こちらが今回運んでいただくタカさんです。あの大きな狼がウォルターさん。タカさんの仲間です。


他の方たちはギルドが着けた護衛の冒険者です。おかしなことはないと思いますが、万が一の際はタカさんとウォルターさんの安全を最優先にお願いします。


カールズに到着したら、タカさんから依頼完了のサインを頂いてください。よろしくお願いします。」


俺も一緒に挨拶する。


「はじめまして。レギュラー級冒険者のタカです。こちらは私の家族で仲間のウォルターです。この度はお世話になります。どうぞよろしくお願いします。」


頭を下げる。


「船頭のガルムだ。安心して任せてくれ。あんたらが大丈夫ならすぐ出せるが?」


さすが海の男(川だけど。)、話が早い。


「はい、私たちは大丈夫ですのでお願いします。」


そう告げると船長は桟橋を歩いていく。


「皆さん、すぐに出発するそうです。船に乗ってください。」


アニカさんがフェローズに声をかける。


「アニカさん、お世話になりました。ありがとうございました。」


礼を言って船頭の元へ向かう。船頭は船室のドアを開けて待っている。おや、紳士なのね。


俺とウォルターが乗り込み、すぐにフェローズの全員が乗り込む。


船頭は窓から顔を出し、御者役の水夫に声をかける。


「よし、出していいぞ。」


「アイサー。」


御者役が返事をし、手綱を操ると船はスイーっと走り出した。


カワイルカに引かれているのでスピードは速い。時速40kmくらい出ているのではないだろうか。揺れもそれなりにあるが、思ったほどではない。


「トイレは船室の後ろの角にある。今日は男だけしか乗ってないからどちらでも自由に使ってくれ。分かってると思うが食事と水は自前だ。


今日はミルドと言う村で一泊する。到着は3時くらいだ。船酔いが酷いようなら船内で物は食わずに水だけにしておいてくれ。吐く時はトイレで頼む。


何か異常があれば知らせる。ゆっくりくつろいでくれ。」


それだけ言うと船首を向いた椅子へ座り、前方を眺める。


船室はだだっ広いフロアになっていて、イスなどは用意されていない。揺れる船ならイスなどに座っていると逆に危険だもんね。


右手を開けておきたいので左舷側の壁により、よしかかりながら腰を下ろす。ウォルターは俺の隣で伏せる。


俺たちが左舷側に座ったので、フェローズの面々は右舷に座った。中には毛布を敷いて寝転んでいる人もいる。スペースがあるから構わんか。


リーダーのアルヴィンさんは何か話したそうにしていたが、ギルド本部に向かうことについて詮索されると面倒なので、ウォルターに凭れて早々と寝たフリをする。


「ウォルター、このまま寝たフリをするからウォルターもおとなしくしててね。」


そう念話を飛ばす。


「主、いっそ本当に寝てしまいましょう。朝しっかりと食べてきたので、昼抜きで大丈夫ですから。」


うん、それもそうだね。


「分かった。このまま寝ちゃおう。おやすみウォルター。」


「おやすみなさい主。」


念話をかわして眠りについた。







「あと30分ほどで村に着く。下船に備えて荷物などの準備をしてくれ。」


船頭の呼びかけで目を覚ました。すっかり寝込んでしまった。喉が渇いていたので水筒とカップ小、盥を出す。自分のカップに水を注ぎ、残りを全て盥に注ぐ。


「ウォルター、足りなかったら後であげるから、今はこれで我慢して。」


ウォルターに念話を飛ばす。


「大丈夫ですよ主。これだけあれば充分です。」


そう言ってガフガフと水を飲み始める。俺もカップの水を口に含み、軽く口をゆすぐようにしながら飲んでいく。


「食料と水だけでも大変だな。」


アルヴィンさんが話しかけてくる。


「はい。収納持ちで良かったです。」


簡潔に返事をする。


「その狼を連れて旅することができるくらいだ、さぞ容量が大きいんだろうな。


いや、すまん。詮索しているわけではないんだ。単純に羨ましくてな。採取でも狩猟でも、それだけ稼げるわけだからな。」


そりゃそうよね。収納は一般的な能力とは言えど、誰もが持っているわけではない。


しかも容量は千差万別、個人個人の能力によって差がある。


未成年のレギュラー級冒険者が大容量の収納を持っていれば、羨ましくもなるだろうし、あわよくばパーティーメンバーとして勧誘を、ともなるか。


「そうですね。飲食物だけなら私とウォルターの40日分くらいは収納できます。それが精一杯ですね。


ただ、飲食物だけでなく他の道具なども収納しているので、実際には10日分が限度でしょうかね?」


大体200L位をイメージして告げておく。自分たちの荷物で精一杯で、他人の面倒までは見られないよ、と牽制しておくのだ。


「そうか、それでリュックすら持っていないのか。なるほど。君たちは君たちでスタイルが完成されているんだな。」


その通りです。だから余計なコナかけてきたりしないでね(笑)。


「そうですね。ずっとウォルターと一緒にやってきましたから。それはこれからも変わりませんし、変えるつもりもありません。」


ダメ押しで牽制しておく。これだけ言っておけば勧誘してきたりはしないだろう。


「そうだな。君たちはそれで良いんだろう。頑張れよ。」


アルヴィンさんは頷きながらそう言った。


「ありがとうございます。頑張ります。」


そう言って軽く頭を下げると、船が今までとは違う挙動をした。


外を見ると、水夫の二人が船の前後に分かれてそれぞれロープを引いている。どうやら投げ縄で桟橋と船をつなぎ、引っ張って接岸させるようだ。


さほどかからずに無事に接岸し、太い舫い綱で繋留する。


「到着だ。下船してくれ。明日は8時に出る。遅れないようにな。」


御者役が外から出入り口を開けてくれたので、礼を言って外へ出る。


ポルカ村の港に似た雰囲気だ。桟橋を渡り地上へと向かう。


少し歩くと頑丈そうな柵の中に門があり、門の傍らに木造の小さな小屋が建っていた。言うなれば関所だね。


俺は冒険者タグを引きずり出して首から外し、詰所の衛兵に渡す。


「はじめまして。ポルカ村のレギュラー級冒険者、タカと申します。カールズへ向かう途中です。今日はここで一泊させていただきたいです。入村を許可願えますか?」


そう言うと、タグを確認した見張りに水晶玉を示される。いつも通り水晶玉に触れる。もちろん何の問題もない。


「そっちの狼型の魔獣は君の連れかい?」


見張りに尋ねられる。


「そうです。私の家族で仲間のウォルターと言います。きちんと躾けてあるので、ご迷惑をおかけすることは無いです。こいつも一緒に入村を許可願います。」


そう言うとウォルターは、俺の隣でお座りして尻尾を振る。僕お利口さんだよ、とでも言っているようだ。


「デカいけどちゃんと躾けてあるんだな。良いだろう。入村を許可する。ようこそミルド村へ。歓迎するよ。」



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