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8時までは充分に余裕を持ってギルドに着いた。もう一通りの依頼受付は済んでいるようで、人の姿は疎らだ。
ここのフロアはカウンター前は広く開けられていて、フロアにつながる形でイスとテーブルを並べたスペースが別に作られている。
奥にはカウンターがあり、肉を焼いただけの簡単な料理と飲み物を買う事ができるようだ。
もちろん酒もあるようで、野営帰りらしい冒険者が肉を齧りながら酒を飲んでいる。一仕事終えた後の酒は格別だよね(笑)。
俺は何をするでもなくぼうっと室内を眺めていた。
「タカさん、お早いですね。ご苦労様です。」
果実水でも頼もうかな、と思ったところで声をかけられた。ギルマスとロミーさんが並んで立っていた。
ギルマスは初めて見た時と同じ柔和な笑顔だが、ロミーさんは表情が固かった。他の所は実に柔らかそうなのに(笑)。
「昨日はお見苦しい姿を晒してしまい、申し訳ありませんでした。」
ロミーさんが頭を下げた。いやいや、可愛かったですよ?
「ロミーさん、どうぞお気になさらずに。私も事前にもう少し説明しておくべきでした。申し訳ありませんでした。」
2人に頭を下げた。ロミーさんはアワアワして両手をパタパタと振っている。本当、女の子って可愛い生き物だ(笑)。
「どうぞ頭を上げてください。私が取り乱したのは私自身の不徳の致すところ、タカさんのせいではありません。」
今も取り乱してますよロミーさん(笑)。しかもお胸がたゆんたゆんしてます(笑)。
うーん、ヴァレンティナに娼館ってあるかな?心はアラフィフでも身体は20代なので、青年の主張がスゴいのよね(笑)。
ウォルターが一緒だから自己処理出来ないしさ。何とか解決方法を考えなければ。
顔を上げると、ギルマスはロミーさんの隣で笑顔で俺を見つめてくる。こいつは一晩でしっかり立ち直ったみたいだな。
「タカさん、こちらディラン船長からの事後依頼の報酬です。
頭割りで等分という事で、タカさんにも受け取ってもらいたい、とレイクブリーズからの申し出でしたので、こちらにご用意いたしました。お納め下さい。」
渡された皮袋には棒銀貨が4枚入っていた。
金貨2枚イコール棒銀貨20枚、レイクブリーズ4名プラス俺で5名で等分か。
ウォルターも人数に入れて欲しかったが、従魔は武器などの装備品と同じ扱いなんだろうな。そこはしょうがないか。
受取書にサインし、皮袋ごと収納する。
「そろそろ護衛のパーティーが来ると思います。顔合わせが済んだら港に移動しますね。」
ギルマスが笑顔で告げる。どんなパーティーが来るのだろう。楽しみだ。
そう思っていると大柄な男たちがズンズンと近づいてくる。彼らが護衛のパーティーか。
「ギルドマスター。マスター級パーティー『フェローズ』ただいま到着しました。」
20代半ばくらいだろうか?男5人のパーティーだ。
「はい、ご苦労様。では顔合わせと行きましょうか。こちらが今回の護衛対象のタカさん。レギュラー級冒険者です。
タカさんには彼の持つ新技能と新職業の確認と研究のため、ヴァレンティナのギルド本部へ行っていただき、フェローズにはその護衛をしていただきます。
ですが、それに関して依頼内容に少々変更があります。
新技能の特殊な能力の確認のため、タカさんにはカールズから単独で移動していただきます。そのためフェローズの護衛はカールズまでとなります。
ただし、こちらの都合での急な依頼内容変更ですので、報酬は依頼時のままとなります。
また、フェローズがヴァレンティナまで行きたければ、チャーターしてある馬車を使用して構いません。もちろん当初の依頼の中に馬車での移動が含まれているので、馬車の利用代金は無料です。
当然ヴァレンティナに行かずにカールズから戻ってきても構いません。
変更点については以上ですが、何か質問はありますか?」
ギルマスが告げるとちょっとザワついたが、すぐに収まった。
「依頼内容が変更になったのは、我々の力量不足などが原因ということではないのですね?」
リーダーさんなのだろう。ギルマスに疑問を投げかける。
「もちろんです。グランドマスターまであと少しのパーティーに、力量が不足しているはずがありません。今回は急遽特殊な試験が加わったため、別行動になるだけです。」
ギルマスが笑顔で告げる。なるほど、せっかく受けた依頼を取り上げられたのか、と勘ぐったわけか。申し訳ない、おれのワガママのせいであって、貴方達のせいではありません(笑)。
「それなら問題ない。では挨拶させてもらおう。俺はこのパーティー『フェローズ』のリーダーをしているアルヴィンだ。カールズまでしっかり護衛するので安心してくれ。」
そう言って右手を差し出してきたので握手する。
「レギュラー級冒険者のタカです。こちらは私の仲間のウォルターです。2人でヴァレンティナのギルド本部へ向かいます。どうぞよろしくお願いします。」
しっかりと挨拶しておく。
「こんなデカい狼、いや、魔獣か。角が3本もある狼型魔獣なんて初めて見たよ。それがギルド本部へ向かう理由か。短い道中だが仲良くやろう。うちの仲間を紹介するよ。」
そう言って1人ずつ紹介してもらい、全員と握手した。
戦士のビョルンさん、盾役のクリストフさん、回復士のディックさん、魔法使いのエドガーさん、だそうだ。
斥候兼遊撃のアルヴィンさんが索敵、牽制を行い、引っ張ってきた敵を盾役のクリストフさんが受け止め、戦士のビョルンさんと遊撃のアルヴィンさんで対処、残る2人は後方からの魔法攻撃と支援、という完成されたスタイルだ。さすがマスター級。
まあ、うちの場合は俺が遠距離から叩きまくって近付かれる前に潰す、もし手数が足りなければウォルターの魔法をプラス、斃し切れず近付かれたらウォルターの直接攻撃で対処、万一の怪我は俺の回復魔法とポーションで治療、と、こちらもバランスが取れてるけどね(笑)。
「さて、少し早いですが、どんどん進めましょう。時間は有効に使わねば。」
日本人のサラリーマンみたいなこと言うな(笑)。まあ、予定を悉く変更させて前倒しさせてる俺が言うべきことじゃないか(笑)。
アルヴィンさんは馬車の使用に関する書類を何枚か受け取っている。2枚あるのは使う時用と使わない時用なのだろう。さらにもう5枚は宿に出す支払い依頼書か。
俺も5枚貰って説明を受けた。これに利用代金を書いて貰ってサインをしてもらう事によって、後日宿に代金が支払われるのだ。
通信手段が無いから宿の申し込みは現地でしなきゃならないらしい。最悪部屋が埋まってて泊まれない事もあるそうだ。
その場合は、未使用の書類をギルドに提出すれば1人につき1泊銀貨2枚が冒険者に支払われるそうだ。
これは、依頼中に身体を休める事ができなかったので、依頼が終わったあとにゆっくり身体を休めてくれ、という事らしい。
わざと野宿したり安宿に泊まって差額をくすねる奴が出そうだよね。まあそれはそれで構わんのか。
冒険者はあくまで全て自己責任。きちんと身体を休めずに小銭を稼ごうとして依頼失敗、または依頼主に悪い印象を与える、何て事になればおまんまの食い上げになってしまう。その辺は充分に理解しているだろう。
そもそも護衛依頼はエース級以上、銀貨2枚の端金に心を動かされる奴もいないか。
「さあそれでは、職員が同行しますので港へ向かってください。道中何事もあらん事を祈ります。それでは。」
ギルマスとロミーさんが頭を下げてカウンターの向こうに戻って行くと、代わりに来たのはアニカさんだ。
「では皆さん、港へ参りましょう。」
クルリと身体を回すと大きなお胸がたゆんと揺れた。




