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「ウォルター、一緒に風呂に入らないか?」


食休みをしてからウォルターに声をかける。


「風呂とは何ですか?」


そりゃ分からんか。俺はウォルターに説明する。


「温かい水で水浴びして、体の汚れを落とすんだよ。気持ち良いよ。一緒に入ろう。」


「主がそう仰るならご一緒します。」


ウォルターが同意してくれたので、風呂に向かい風呂桶に湯を満たし、着替えを用意しておく。


体を拭く布などは用意されているし、石鹸もあった。シャンプーやリンスは無いようだ。


湯が溜まるまで時間がかかりそうなので、テーブルに戻って酒を飲む。


3杯ほど飲んで覗きに行くとちょうど良い量だったので湯を止める。脱衣所で服を脱いで真っ裸になってウォルターを呼ぶ。


「ウォルターおいで。」


声をかけるとウォルターがのそのそとやってきた。初めて見る風呂に興味津々だ。


シャワーの温度を調節する。ちょっと熱めが好みなので自分好みの温度に合わせる。


「おいでウォルター。身体を洗ってあげるよ。」


近づいてきたウォルターを伏せさせ、全身にお湯をかける。ワシャワシャと掻き毟りながら全身を濡らしてやる。


全身の毛に充分にお湯が染み込んだら直接石鹸をこすりつけて泡立てていく。


全身に泡が行き渡ったらワシャワシャと全身を洗ってやる。


くまなく全身を洗い終えたらシャワーで綺麗に流していく。


最後の仕上げに顔を洗ってやって終了だ。


「どうだいウォルター?気持ち良いだろ?」


ウォルターは濡れて細くなった尻尾をブンブンと振る。


「主、風呂とは気持ちの良い物ですね。またご一緒させてください。」


風呂好き狼の出来上がり(笑)。


「もちろんだよウォルター。さあ、お湯に浸かってのんびりしなさい。俺も身体を洗っちゃうから。」


そう言うとウォルターは風呂桶に体を沈める。ウォルターが入れるサイズの風呂桶、さすがだな(笑)。


「ふぅぅぅ、何とも言えない気持ちの良さです。」


ウォルターが気持ちよさそうな顔で風呂桶の縁に顎を乗せている。うん、めんこいぞ(笑)。


俺は手早く全身を洗う。早くしないとウォルターがのぼせてしまう。頭と身体を洗って流すとウォルターに声をかける。


「ウォルター、目が回ったりしてない?大丈夫?」


「目は回っていませんが、なんだかフワフワしてきました。」


あかん、のぼせかけやん(笑)。


「ウォルター、すぐにお湯から出てブルブルして。」


そう声をかけて脱衣所に行き、風呂場の戸を閉めて盥を出し、ナルゲンボトルで冷たい水を満たす。


ブルブルブルバシャバシャバシャ!という効果音が響く(笑)。風呂場の戸を開けてやるとウォルターが出てきた。


「ウォルター、冷たい水を用意したからこれを飲んで。飲み終わったらリビングで横になってて良いよ。」


「ありがとうございます主。いただきます。」


ウォルターはガフガフとすごい勢いで水を飲んでいく。


あっという間に無くなりそうになったので、横から水を足してやってから風呂に戻り、湯船に浸かる。やっぱ大きいお風呂は気持ち良いね。


ゆっくりと風呂を楽しみ、最後に栓を抜いてお湯を捨て、脱衣所で身体を拭き、カップ小を出して出しっ放しだったナルゲンボトルから水を注ぎ、一気に飲み干す。


くぅ、堪らん。もう一杯飲み干して収納し、着替えを済ませて脱いだ服とM45を収納してリビングに戻ると、ウォルターは居眠りしていた。よほど気持ち良かったのだろう。


眠るウォルターを撫でてみる。汚れが落ちてフワフワのモフモフだ。吸い込まれるようにウォルターに抱きつき、そのまま目を閉じるとスゥッと眠りに落ちていった。







気がつくと朝だった。せっかく宿に泊まったのにベッドを使わずに寝てしまった。まあ、どんなベッドよりもフカフカな生きたベッドに寝たんだから良いか(笑)。


朝の日課でポーションを作成し、収納する。


時間は6時。ベルが鳴ったので待合室を通り抜けてドアを開ける。


「おはようございます。朝食をお持ちしました。」


ワゴンを押したボーイさんが2人待機していたので中に入ってもらう。1人は俺の食事を、もう1人はウォルターの食事を準備していく。


「お食事が終わりましたら、食器はそのままで構いません。お部屋を出られる時は鍵をフロントにお返しください。では失礼します。」


優雅に一礼して出て行った。


おれの朝食はリエットみたいなパテみたいな多分肉のペーストのような物、何種類ものジャム、蜂蜜、バター、昨夜と同じ生野菜のサラダ、沢山のフルーツ、ヨーグルト、そして山盛りのパンだ。


ウォルターの朝食は皮を剥ぎ、内臓を抜いた丸のお肉が3頭分。大きさからして多分ウサギだろう。そして山盛りの内臓だ。朝獲りの獲物が持ち込まれたのかな?実に美味そうな良い色だ(笑)。


「さあウォルター、いただこう。いただきます。」


ウォルターに声をかけて食べ始める。ウォルターはまず内臓を食べ始めた。うんうん、新鮮なうちに行っちゃえ行っちゃえ(笑)。


おれも生野菜のサラダから食べ始める。もちろん胡椒は欠かせない。酢と塩と胡椒を混ぜ合わせてかけ、バリバリと音を立てながら食べ進める。いやあ、美味いなぁ。


ヴァレンティナに行ったら生野菜を買いだめしようかな。ネットショップでドレッシングも買おう。


あ、玉ねぎポン酢も買わないと。あれ、野菜だけでなく肉でも魚でも合うんだよね。忘れないようにしなきゃ。


サラダを食べ終えてパンに手を伸ばす。肉のペーストをたっぷりと塗って、胡椒を振って齧り付く。肉の繊維が残っているのでリエットか。コンビーフを崩したみたいな感じで美味しいんだよね。個人的にはレバーのパテが食いたかった。


パンは残念ながら白パンではなくナンみたいな無発酵のパンだ。ポルカ村で食べたのと一緒だ。ヨーグルトがあるんだからパン種に加えて発酵させりゃ良いのに、とも思うが、地球の知識がある俺はともかく、普通はそんな事思いつかないか。


試しにヨーグルトを食べてみると猛烈に酸っぱかった。蜂蜜かジャムを加えて食べるのだろう。もしくはフルーツにかけるのかな?これ、サラダにかければよかった。


帰る前にフロントで教えてあげよう。たっぷりと蜂蜜を入れて食べる。


サラダやヨーグルトを食べているので、パンは2枚でギブアップだ。リエットは全部食べ尽くした。こんな手の込んだ料理、なかなか食べれれないからね。


タッパがあればジャムとバターを持ち帰りたいところだが、ここは異世界、そうは問屋が卸さない(笑)。


いや、ネットショップで買えば良いのか。すぐにネットショップを立ち上げて小さなタッパを沢山買い、ジャムとバターを入れて収納する。


パンとフルーツももちろん収納。もったいないオバケが出るからね(笑)。ついでにドレッシングと玉ねぎポン酢も購入。


一通り済んだところでウォルターを見ると、とっくに食事を終え、すでに顔も綺麗にしてのんびりと毛繕いしていた。時計を確認するとまだ7時前。まだまだ余裕があるな。


テーブルの空いたスペースにM45の空マガジンと弾を出し、ポチポチと詰める。


クリスヴェクターとH.C.A.R.の試射はどうしようかなぁ。ギルド本部の仕事次第だなぁ。早く撃ってみたいもんだ。


そんな事を考えながら満装填になったマガジンを収納し、脱衣所で脱いだ服と一緒に収納してあったレッグホルスターを取り出して装着する。


7時になったのでちょっと早いがチェックアウトしようかな。フロントで食事についていくつか提案したいし。


ウォルターに風呂場で用を足させる。小はシャワーで流し、大は収納してトイレに持って行って取り出して流す。


俺もトイレを済ませてウォルターに声をかけ、鍵を持ち部屋を出る。えーと、鍵はかけた方が良いんだよな?一応かけておく。


階段を降りフロントへ向かう。交代制なのだろう、昨日とは違うフロントマンだった。鍵を渡しながら礼を言う。


「部屋も食事もサービスも最高でした。ありがとうございました。一生懸命稼いで、いつかまた泊まりに来ます。」


そう言うと年配のフロントマンはニッコリと微笑んだ。


「お褒め頂き恐縮です。またのご利用を心よりお待ちしております。」


深々と頭を下げられた。思い切ってフロントマンに声をかける。


「あの、生野菜の食べ方なんですけど、ヨーグルトをかけて食べる方はいらっしゃいますか?」


「ヨーグルトをサラダに、ですか?いえ、そのような食べ方は存じません。初めて聞きました。」


フロントマンが驚いた顔をする。よし、ヨーグルトドレッシングを教えてあげよう。


「ボールの上に清潔で目の細かい布を張り、ヨーグルトを乗せて3時間ほど置いて水分を抜いてください。


水分の抜けたヨーグルトに酢を加えて滑らかになるように混ぜ合わせ、味を見ながら塩を加えてください。


これを生野菜にかけていただくんです。とても美味しいですよ。


干しぶどうを入れたり、食べる直前に粗く砕いた木の実を加えていただくと、食感に変化が出て食べるのが楽しくなります。ぜひ一度作って試食してください。お世話になったお礼です。」


フロントマンは目を丸くしていた。そりゃそうだ、ドレッシングの誕生だもんね。


酢はサラサラしすぎて生野菜に絡みにくい。水切りしたヨーグルトを使う事で粘度が出て生野菜に絡みやすくなり、より美味しく食べられるはずだ。


これくらいの知識チートを披露するくらいは問題無いだろう。


「申し訳ありません、メモを取りたいのですがよろしいですか?」


フロントマンが藁半紙とペンを取り出したので、もう一度説明する。


しっかりとメモを取ったフロントマンが柔和な顔で礼をいい頭を下げた。


「ありがとうございます。必ず料理長に伝えます。このサラダを食べに、ぜひもう一度お越しください。心よりお待ちしております。」



「はい、きっと食べに来ます。それでは、お世話になりました。失礼します。」


フロントマンに一礼して、ウォルターと共に宿を後にして冒険者ギルドへと向かった。











後に、このヨーグルトドレッシングは大当たりして、宿は大繁盛、貴族までもが通うほどの名物宿になった。


もちろんドレッシングを真似する店も多数出たが、『ヨーグルトを水切りする』と言う一番大事なポイントが分からないため、どれだけ真似しようとしてもこの宿の味を超える物は現れなかった。


料理長は王宮からお呼びがかかるほど有名になったが、決してこの宿を離れようとせず、ヨーグルトドレッシングのレシピも秘伝として、代々料理長を務める者だけに伝えられるようになった、と言うのは、また別の話。




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