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厩舎に戻るとすぐにウォルターから念話が飛んできた。


「主、遅かったですね。それにすごい匂いです。大丈夫ですか?」


心配してもらって申し訳ないが、全状態異常完全無効のおかげで、気持ち良いほろ酔い状態から先に進まないのよね。行く先々で飲み比べして名前を売ってやろうかしら(笑)。


「大丈夫だよウォルター。それより、晩飯がまだだったね。何が良い?」


そう尋ねながら盥2個とナルゲンボトルを取り出す。


「一角ウサギの肉をお願いします。主はどうされるのですか?」


盥に一角ウサギの肉と水を入れてやり、ウォルターに向って言う。


「いっぱい買い置きしてあるから大丈夫だよ。」


そう言って堅パンを1つと蜂蜜の壺を1つ、肉屋で買ったゴーダっぽいチーズとカップ小を取り出す。


鬼神-Daemone (Large)-でパンを水平方向に4枚に切り分ける。チーズにナイフを刺し、パンの大きさに合わせて少し厚めに切り取る。


1組のパンには切り取ったチーズを挟み、もう1組には合わせ目に蜂蜜をかけて、それぞれサンドイッチにする。カップに水を注いで準備完了だ。


「遅くなったけど、食べようウォルター。いただきます。」


俺がパンに齧り付くと、ウォルターも負けじと肉にかぶりついた。


まずはチーズサンド。チーズの塩気と歯応えが素晴らしい。


一口食べてパンを持ち替え、蜂蜜サンドにも齧り付く。蜂蜜の甘さもパンに良く合う。


うん、買い置きでの食事でも充分に満足だ。時々持ち替えながら黙々と食べ進める。


こういう固いパンを食べる時は、咥えたパンをワザと引きちぎるようにしながらブチっと噛みちぎり、水を啜りながら食うのが好きだ。とあるアニメで父親にも打たれた事の無い主人公が、砂漠の中の食堂で食事をしていたシーンを真似するのだ。


ああ、同じアニメで戦死したキャラクターが、戦闘中に一度艦に戻り、再出撃前にハンバーガーを食べるシーンも好きだったなぁ、などと思い出す。


パンは1つ分だけだったので、今日は俺の方が早く食べ終わった。のんびりとウォルターの食事風景を眺める。


バキバキと骨を噛み砕きながら肉を食い千切るウォルター。ああ、やはり狼なんだな、と妙なところで感心する。


やがてウォルターは一角ウサギを綺麗に食べ終え、水を飲みながら顔を綺麗にした。


「主、ご馳走様でした。こちらの収納をお願いします。」


ウォルターが言ってきたので出した物を全て収納し、汚れだけを取り出して捨てる。


俺は靴を脱いでベッドに上がり、靴下を脱いでレッグホルスターを外し、枕元に置いて横になる。毛布で腹を隠しながら目を瞑る。


「明日は陽が昇ったら起きて、いつものように待たずにすぐに食堂へ行こう。もし俺が起きなかったら、悪いけど起こしてくれ。じゃあ、おやすみウォルター。」


「お任せください主。おやすみなさい。」


寝る前の挨拶を交わして、スゥッと眠りに落ちていった。







朝陽の眩しさに目を覚ました。どうやらウォルターに起こされずに済んだようだ。俺は下着類を取り出して着替え、歯磨きセットを取り出して靴を履き、井戸へ向かう。


冷たい井戸水で歯磨きと洗顔をし、使った物を収納する。汚れを取り出して捨てるのも忘れない。


レッグホルスターを装着し、何度か抜き差しして微調整する。


ベッドに腰掛けて、朝の日課のポーション作成をこなす。準備完了だ。


宿のトイレを借りて用を足し、フロントに今日この村を出ることを告げる。お世話になった礼を言い、頭を下げて外に出ると、ウォルターに声をかけて食堂に向かった。





食堂は混んでいたが、すでに食事を終えて食器を下げるために並んでいる者が多かった。皆んな早えな。素直に感心した。


いつもの席は空いていたのでウォルターを待機させ、カウンターへ向かう。


「お粥を一人前お願いします。」


そう中へ声をかけると、モフ好きお姉さんが笑顔で迎えてくれた。


「夕べは食べに来ないと思ったら、酒場で大暴れしたんだって?水夫が1人酔い潰されたって話題になってたよ。」


笑いながら木椀にお粥を注いで盆に乗せる。


「朝飯を食ったら、定期船でヴァレンティナへ向かう事になりました。そのため道中で飲む酒を買いに行ったのですが、何故か飲み比べになりまして。ですが、この通り元気です。」


そう言うとお姉さんは寂しそうな顔をした。


「そっか、せっかく仲良くなれたのにもう行っちゃうんだ。でもしょうがないか。頑張ってね。」


そう言って盆を手渡してくれた。


「ありがとうございます。頑張ってきます。」


後ろに何人か並んでいたので、短く挨拶して席に戻る。


「ウォルター、何にする?」


「一角シカの内臓をお願いします。」


盥を出して内臓と水を満たしてやる。俺もカップに水を満たす。


「さあ食べようウォルター。頂きます。」


声をかけて食べ始める。今日は人が多いので香辛料は無しだ。


黙々と食べ進め、それほど時間をかけずに食事を終える。ウォルターも早々と食べ終えて顔を綺麗にした。


出した物を全て収納し、食器を返しにカウンターへ向かう。


「今日も美味しかったです。ご馳走様でした。今日はこのまま定期船でヴァレンティナへ向かいます。今までお世話になり、ありがとうございました。」


挨拶して深々と頭を下げた。気をつけてね、頑張っておいで、またおいで、と三者三様に口にしながら手を振ってくれた。俺はもう一度頭を下げてカウンターを後にした。


「さあウォルター、北門に向かおう。」


ウォルターの背に乗って話しかける。


「畏まりました主、では参ります。」


ウォルターは軽やかに歩き出した。





北門の前にはイエルクさんが待っていた。あらあら、所長自らお出ましとは申し訳ない。ここは目下の此方から挨拶するとしよう。ウォルターから滑り降りて歩み寄り挨拶する。


「おはようございますイエルクさん。所長自らお越しいただきありがとうございます。」


そう言って頭を下げる。イエルクさんは笑顔だ。


「おはようございますタカさん。慌ただしくて申し訳ありません。先に大事な物をお渡ししておきます。


まず此方の大きな封筒がヴァレンティナのギルド本部に提出していただく書類です。中に手紙も入っています。


そして此方の小さい封筒3通ですが、1通はジニアル領の冒険者ギルドヘイゼル支部へ、1通は冒険者ギルドカールズ支部へ、最後の1通は王都ヴァレンティナの冒険者ギルド本部で提出してください。今回の事情が記してあります。


最後に此方がジニアル領までの乗船券です。ヘイゼルからカールズへ向かう船はチャーター船になると思いますので、乗船券は不要なはずです。詳しくはギルドでお尋ねください。」


渡された封筒に宛名が書かれているのをそれぞれ確認して収納する。乗船券はポケットに入れた。


「もうじき護衛のパーティーが来ると思います。全員この村の者で、幼馴染同士で結成したレイクブリーズと言うパーティーです。


全員エースに成り立てで、武器を新調するためにジニアル領に行きたかったので、ちょうど良かったと喜んでいました。


依頼書は彼らが持っていますので、無事にヘイゼル支部に到着したら依頼完了のサインをお願いします。」


ほほう。幼馴染同士でのパーティーか。良いね良いね、青春だね。オヂサン羨ましいよ(笑)。


冗談はさておき、全員エース級と言うことは、全員が成人を迎えていると言う事だ。此方での年齢は全員俺より年上って事になる。ちゃんと目上として礼儀を尽くさないとな。気をつけよう。


そんな事を考えていると、いかにもな若いグループが楽しそうにワイワイと喋りながら歩いてきた。男女2人ずつのパーティーだ。なんかキラキラしてる。リア充どもめ(笑)。


ここは自分から挨拶しておこう。ウォルターを伴って歩み寄る。ウォルターを見てちょっとビビっている(笑)。


「レイクブリーズの皆さんでしょうか?はじめまして。この度護衛していただくタカと申します。此方はわたしの家族で従魔のウォルターです。ジニアル領の冒険者ギルドまでお世話になります。どうぞよろしくお願いします。」


そう言って頭を下げる。


「ウォン」


ウォルターもお座りして一緒にご挨拶する。


「お、おお、説明は聞いてたけど、こんなにデカいのに本当に良く躾けてあるんだな。新しい職業ってのはすげえもんだ。これからこんな仲間がどんどん増えるかと思うと、楽しみでしょうがないぜ。


申し遅れたが俺はアントン。このレイクブリーズのリーダーで戦士だ。こいつは俺の妹で魔術師のメリナ、そして俺の幼馴染で回復師のクラーラと、クラーラの弟で斥候のマーティー。よろしく頼む。


正直に言うと、ジニアル領の冒険者ギルドまでの護衛なので何も問題は無いと思ってる。イエルクさんが俺たちのエース昇格のご祝儀に選んでくれたような感じだ。


でも仕事は仕事、ちゃんとあんたをギルドまで送り届けるから安心してくれ。あらためてよろしく。」


右手を差し出して来たので握手を交わす。タコが出来たゴツい手だ。きちんと依頼を積み重ねてエースになったのだろう。安心して任せよう。


「タカです。魔獣使役と言う新しい技能と職業を授かりました。本業は猟師です。よろしくお願いします。」


それから残りの3人とも握手を交わす。その間にアントンはイエルクさんの所へ行き、4人分の乗船券をもらっていた。


「さあ、少し早いけど乗り込もう。座る場所を確保しないとな。」


アントンが声をかけ、皆がそれに従って移動する。


「ウォルター、俺たちも行こう。」


わざと声に出してウォルターに話しかけ、一緒に後に着いて船に乗り込む


さあ、出発だ。陽はとっくに登ってるけど(笑)。


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