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外に出ると雨は上がっていた。


色々と準備を思いついたので、まずは雑貨屋に寄る。水筒を買うためだ。


シングルモルトウィスキー、バーボン、ジン、ウォッカ、ラム、日本酒。こんなもんか?後は思いついたら買えばいい。


そもそも部屋飲みならわざわざ移し替える必要もないけれど、体裁は整えておいた方がいい。それに、地元還元で少し金を落としておこう。


ウォルターを店の前で待たせて中に入ると、いつもの女性は笑顔で迎えてくれた。


「おやおや、昨日いっぱい買ってくれたのに、まだ欲しい物があるのかい?こっちは歓迎だけど、ちゃんと考えて計画的に買い物しなきゃダメだよ。」


女性はそんな事を言いながら笑う。


「実は冒険者ギルドの要請で、明日の朝出る定期船でヴァレンティナに向けて出発する事になりました。船の中で飲む水を用意しなければならないので、水筒が欲しいんです。一番大きな水筒を欲しいのですが、幾つありますか?」


単刀直入に伝える。自分で探すより用意してもらった方が早い。


「おやまあ、せっかくこの村に来たっていうのに、すぐに行っちまうのかい。慌ただしいねぇ。でも、冒険者ギルドの要請じゃ仕方ないか。


普通の革製の水筒は、2Lの大きいのが4つあるね。そういやあんた、収納持ちだろ?船や馬車で使う水樽もあるけどどうする?」


さすがにそこまでデカい容れ物を酒のために用意しようとは思えないな。


「さすがにそこまで大きな物は収納出来ませんので、水筒だけ下さい。4つ全部お願いします。お幾らですか?」


これで収納の容量がそれほど大きくない、と見せかけられるか。


「そりゃそうだよね。お兄さんみたいな若い子がそんな大きい物を持てる収納持ちなら、貴族様のお抱えになってもおかしくないものね。」


そう言いながら棚から水筒を持って来てくれる。


「使い始めはどうしても皮の匂いが気になるから、お湯に塩を溶かして四半分くらい入れてよく揉むと良い。それでだいぶ落ち着くはずさ。


水を飲む時は面倒でも必ずカップを使うんだよ。水筒に直接口をつけたら、すぐに水が傷んじまうからね。


そうそう、漏斗も必要だね。」


おう、漏斗は忘れてたよ。うん、やっぱり良い人だなぁ。


「水筒は一つ50銅貨だから4つで2銀貨だね。漏斗はオマケしてあげるよ。気をつけて行ってくるんだよ。いつでもまたこの村においで。」


そう言って優しく微笑んでくれた。うう、嬉しい。ジンときて思わず目が潤む。


「ありがとうございます。またこの村に来れるように、頑張ります。それと、ドライフルーツとチーズはどちらで買えますか?」


そう言って銀貨2枚を手渡して水筒と漏斗を収納する。


「チーズは肉屋で、ドライフルーツやナッツは八百屋だね。どっちも味は最高だよ。」


女性がウインクしながら言った。


「ありがとうございます。すぐに行ってみます。」


店を出る前にもう一度振り返り、女性に向けて頭を下げた。


「ありがとうございました。行ってきます。」


そう言うと女性は笑顔で手を振った。


俺はウォルターの背中に飛び乗った。


「ウォルター、肉屋に向かって。」


ウォルターに声をかける。


「畏まりました主。では参ります。」


ウォルターが歩き出した。





肉屋につき、ウォルターから滑り降りて旦那さんに声をかける。


「すいません、チーズをいただきたいです。日保ちのするタイプで、そのままでも炙っても食べられるような物はありますか?」


「ああ、あるぞ。直径20cm、厚さ10cmの物で銀貨5枚だ。1つで良いのか?」


「3つください。冒険者ギルドの要請で、明日の朝ヴァレンティナに向けて出発することになってしまいまして。もっとゆっくり色々な物を買わせていただくつもりだったのですが、叶わなくなりましたので慌てて買いに来ました。」


旦那さんにそう言う。


「そうか。待ってろ。」


旦那さんはそう言うと奥の棚を開け、ゴーダチーズみたいな塊を取り出した。とある山の少女のアニメに出てきたチーズの塊そのままだ。


旦那さんは特に色艶の良い物を3つ選ぶと皮袋に入れる。そして、一番下の段に並べてあった直径10cm、厚さ3cmくらいの少し柔らかそうな、カマンベールによく似たチーズを手に取る。


「こいつはそれほど日保ちしないが、そのまま噛り付いて食う事ができるし、中の柔らかいところはパンに塗りつけて食っても良い。炙ると溶けて流れ出すから気をつけろ。餞別だ。」


そう言って袋に入れてくれた。俺は袋を受け取り棒銀貨1枚と銀貨5枚を差し出す。


「ありがとうございます。ジックリと味わいながら頂きます。どうぞ奥さんとお子さんを大切に。」


そう言うと旦那さんは微笑みを浮かべながら頷いた。


俺は外に出ると一度振り返り、深々と頭を下げた。手を振る旦那さんに見送られながら八百屋に向かった。






八百屋についた俺は奥さんに声をかける。


「ドライフルーツと木の実が欲しいのですが、それぞれ何種類くらいありますか?」


奥さんは小首を傾げながら考えている。


「そうさねぇ。フルーツはアンズ、ナツメ、クランベリー、ブドウ、リンゴの5種類。木の実はクルミ、アーモンド、ピーナッツ、カボチャの種、マカダミアナッツの5種類ね。どれが良い?」


おお、これは食うのが楽しみだ。


「全部1kgずつ下さい。冒険者ギルドの要請で、明日の朝ヴァレンティナへ向けて発つ事になってしまったんです。もっとゆっくり色々な物を買わせていただくつもりだったのですが、それが叶わなくなってしまったのでとりあえず日保ちのする物を下さい。」


奥さんに言うと眉をしかめる。


「あらあら。せっかく頑張り屋の若い子が来たってのに、もう引き抜きかい?困ったもんだ。でも、それだけあんたが買われてるって事なんだろ。頑張んな。


あんた!ドライフルーツと木の実を全種類1kgずつだって!お願いね!」


奥さんがそうご主人に声をかけるとご主人は、


「おう」


と短く答えて奥へ行き、ザルで壺の中身を掬って、秤に吊るした皮袋に詰めていく。


次々と袋詰めを作るご主人の手際に見惚れていると、買い物のお客さんが5人ほど来たので横へ避ける。


奥さんは注文に合わせて商品を揃え、お金を受け取って商品を渡している。俺が納品したディルやチャービルが目の前で売れていく。嬉しい。皆んなの役に立って入る。納品して良かった。


お客さんが捌けた後、奥さんは目の前に並べられているフルーツの中からリンゴ、ナシ、キウイをカゴに詰めはじめた。


ご主人が10個の皮袋を持って来た。


「木の実はどれも100g50銅貨、ドライフルーツは100g80銅貨だ。合わせて65銀貨だ。」


ご主人の言葉に合わせて棒銀貨6枚と銀貨5枚を取り出して渡し、受け取った袋を収納する。


奥さんがカゴを押し付けてくる。


「明日の朝出発って事は定期船だろ?水も食事も自前だし、船室が無いから喉が乾く。持ってきな。餞別だよ。」


中を見ると、先ほど詰めていたリンゴとナシ、キウイが入っていた。


「船縁に寄り過ぎると揺れた時に落ちるぞ。気をつけろ。町でも頑張んな。」


ご主人が声をかけてくれた。


「2人ともありがとうございます。これ、遠慮なく頂きます。行ってきます。」


そう言って深々と頭を下げた。


奥さんとご主人は並んで笑顔で手を振ってくれた。振り返ってもう一度深々と頭を下げ、店を後にした。






魚屋だけ寄らないのも悪い気がするな、と思い魚屋にも寄る。この辺は日本人の悪い癖だな(笑)。


「すいません、そのまま毟って食べられる干物なんてありますか?あれば欲しいのですが。」


女将さんに尋ねる。


「ああ!サクラマスの固干しがあるよ!剣の柄なんかで軽く叩いて、ほぐしてから毟って食べるんだ。一匹まんま干してあるから一匹10銀貨だよ。どうだい?」


見せてくれたサクラマスの固干しは、60cmくらいの大きさだった。水分が抜けている事を考えれば80cmくらいはあったのだろう。


干すのに使う塩の量や手間を考えれば妥当な値段だろう。


「分かりました。5匹ください。」


そう言って女将さんに棒銀貨を5枚渡す。


「昨日も干物を買ったってのに、よっぽど好きなんだね。まあ、うちにとっちゃ助かるけど。」


そう話す女将さんの後ろで、柱に掛かったハシゴにカゴを背負った上の娘が登っていく。下では下の娘がハシゴを支えている。可愛いもんだ。


「実は冒険者ギルドの要請で、明日の朝ヴァレンティナへ発つ事になりまして。せっかくなので買い溜めしておこうと伺ったんです。」


そう言うと女将さんは残念そうな顔をする。


「おやまあ。若いもんを町にとられるのは癪だねえ。ま、そんな事言ってもしょうがないか。」


吊るしてある固干しを次々と外してカゴに入れ、上の娘が降りてきた。差し出された固干しを受け取って収納する。女将さんが小魚の干物を小袋に入れて渡してきた。


「選別だ、持って行きな。船の上は退屈だ。こんな物でも齧っていれば気が紛れるだろ。頑張んなよ。」


俺は袋を受け取り礼を言う。


「ありがとうございます。遠慮なく頂きます。頑張ってきますね。」


そう言って深々と頭を下げ、店を出る。振り返って見ると3人で手を振ってくれたので、もう一度頭を下げて、ウォルターの背に乗った。





結局鍛冶屋には行けなかったなぁ。まあ、刃物についてはお釣りが来るくらい持ってるから、あえて寄らなくても良いか。領都や王都の店を見た方が品物は間違いないだろうからな。町での楽しみにとっておこう。


さあ、残すはあと二軒、頑張って回ろう。自分にハッパをかけた。


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