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しっかしデケぇなこいつ。何食ったらこんなに成長するんだ?


頭からケツまでの体長は4mくらい、立ち上がれば当然5mを楽に越えるだろう。もしかしたら6mに届くかもしれない。体重も1tくらいあるんじゃないか?


普通に考えたらこんなのと戦って勝てるはずないよね。とりあえず収納してしまえ。


レミントンM870MCSロングに撃った分の弾を込め直す。戦闘の合間を見て常にフルロードを維持する。


気配察知で周囲を探るが、さすがにこんなデカい獲物の気配は無い。


「ウォルター、まだ何かいそう?分かる?」


ウォルターに確認する。


「いいえ、先ほどの咆哮でこの周辺の生き物は逃げ出してしまったようです。暫くは安全ですよ。」


ウォルターが答える。


「んじゃ、飯の続きにしようか。俺、結局まだ一口も食ってなかったわ。」


そう話しかけながら手頃な岩に腰掛け、レミントンM870MCSを横に立て掛ける。


ウォルターが食いかけの一角猪と盥、ナルゲンボトル、お粥の入ったカップ大と空のカップ小、スプーンを取り出し、それぞれに水を用意して食事を再開する。


俺は大物との戦闘で緊張したせいか喉がカラカラだったので、まずは水を一息に飲み干す。冷たい水が身体に染み渡っていく。お代わりしてもう一杯飲む。


一息ついた所でお粥を食べ始める。ふうふうと冷ましながら一口ずつ口に運んでいると、突然震えがきた。今頃恐怖感がやって来たのだ。


これがリアースという世界。いつでも簡単に命を落としかねない、これが今の現実だ。


強くならなきゃな。深呼吸を繰り返す。


思い切ってカップに口をつけ、熱いお粥をゴクゴクと喉を鳴らしながら腹に流し込む。直ぐに水を口に含み、口の中が火傷するのを回避する。


腹の中からこみ上げる熱さに、生きているんだな、と実感する。


震えが治まった。口に溜めた水を飲み干す。


だいぶ小さくなった干し肉を取り出し、鬼神-Daemone (Large)-で削って齧りながらお粥を啜る。大丈夫、もう大丈夫だ。


食事を終えて出した物を収納し、思いついた事を試す。


「地面の土を1m四方で収納」


とイメージすると、目の前に綺麗に四角く切り取られたような穴が開いた。おお、出来た。思った通りだ。


次にお馴染みの汚れだけ取り出しをして、今開けた穴に捨てる。そして一番試したかった事をやってみる。


「収納内の全ての獲物について、食用にする際に味を損ねる余分な血液を取り出し。」


そう、血抜きだ。


俺が撃った獲物はすぐに収納して時間を止めている。だから血抜きは後からでも良い。


でもウォルターが狩って集めた獲物は、トドメを刺してから時間が経っている物もある。そうなると血抜きが上手くいかず、味が落ちてしまう。


なので、味を損ねる余分な血液だけを取り出す事によって血抜きをしたのと同じ状態にできないか、と考えたのだ。


本来の血抜きは一匹ごとにやるものだが、女神ルーテミス様から頂いた異能力なら纏めて出来るんじゃね?と考えたのだ。


結果、想像していた通り上手くいった。バシャン、という音と共に穴の中に真っ赤な液体が溜まり、見る見るうちに土に吸い込まれていった。


後は収納した土を戻して蓋をしてしまえば、肉食動物を呼び寄せる事も無いだろう。そう考えながら地面を元に戻す。


「ウォルター、森の様子はどうだった?」


ウォルターに尋ねる。


「はい主、獲物が非常に濃いです。私と主が毎日狩りに励んでも、獲物が減って取れなくなるような事は無いでしょう。野草類はどうでしたか?」


ウォルターからも質問される。


「うん、こちら側はあまり人が入っていないせいか、北の森と同じでとても豊富に生えているよ。


村人総出で特定の種類だけを採取したとしても、採り尽くす事は無いだろうね。本当に良い森だ。恵みに満ち溢れているよ。」


食休みも兼ねてのんびりと会話を交わす。


充分に休息を取ったので、再び狩りと採取に取り掛かる。時間は3時間ほどに設定し、早めに帰還する事にした。


邪魔になるレミントンM870MCSを収納し、ARを駆使して採取に励む。


ギョウジャニンニクもあった。ジンギスカンと一緒に焼いて食ったら最高なのにな。カイルさんに頼んで取り寄せるか(笑)。


あ、待てよ。iPadが繋がるんだから、普通にネットショッピング出来るんじゃないか?代金は収納してあるお金から引き落とされる形で。


これ、ルーテミス様に確認してみよう。もしダメならお願いして出来るようにしてもらおう。そうすりゃ各種調味料も買い放題。自分の舌に合った美味い飯を食える。


ただしあくまで俺個人の使用にとどめ、販売はしない。それならリアースの世界を変に歪める事も無いだろう。早速祈祷でお伺いを立ててみるか。


俺はその場で跪いて両手を組み、頭を垂れて祈りを捧げる。


「ルーテミス様。今日もお守り頂きありがとうございます。お願いしたい事がございます。どうか御姿を現してください。」


ふわりと身体が温かいものに包まれる。目を開けるとルーテミス様が笑顔でソファーに座っていた。


「タカさん、どうぞお掛けください。今日はどうなさったんですか?」


ルーテミス様に尋ねられる。


「はい。私の異能力、異世界ショッピングについてお願いがあり、御目通りを願いました。」


ソファーに掛けながら正直に答える。


「異世界ショッピングについてですか?どんなお願いでしょう?」


コテン、と首をかしげるルーテミス様。女神様もこんな可愛い仕草をするのね。


「はい。現在、女神様のおかげでイングランドKCAT社のカイルさんと言う方と、地球の物を取り引き出来るようになっています。


ですが、カイルさんの会社はヨーロッパにあり、私の住んでいた日本とは全く環境が違います。そのため、私が望む品物で手に入らない物があるのです。


その問題を解決するために、日本のネットショッピングを利用出来るようにして頂きたいのです。


私の持ち物にiPadがあります。あれを利用して、日本に住んでいた時と同じように品物の購入を出来るようにして頂きたいのです。


カイルさんと同じように収納を介してお金と品物のやりとりができるようにして頂きたいのですが、ダメでしょうか?」


ルーテミス様は微笑みながら言う。


「タカさんなら、この世界の文明を破壊するような商品を流通させたりはしないでしょうね。良いでしょう。その願い、聞き届けましょう。」


やった!これで食生活が充実する!


「それとルーテミス様に質問があります。この世界にはアルコールがあるので醗酵の技術はあるようですが、味噌や醤油などの醗酵調味料は無いのでしょうか?もしくはその代替になる食品や植物は存在しないのでしょうか?」


異世界転生物では、木の実や植物をすり潰したり絞ったりすると、味噌や醤油と同じ味の物ができる、ってパターンが多いのだが。


「そうですね。チーズやヨーグルトはあります。それと魚醤も一部で利用されています。ですが、味噌や醤油に類する食品は存在しませんね。風味の似た植物なども存在しません。」


残念、ハズレか。


「では、私が日本からネットショッピングで麹を取り寄せ、それを種麹として普及させたりするとマズイでしょうか?」


そう、ネットショッピングで購入できる味噌や醤油の手作りキットや、麦麹などの麹そのものを購入し、それを種にして普及させる、という方法もあるのだ。


「うーん、確かに異世界の微生物が入ってくることにはなりますが、それによって生態系に異常をきたすような事も無いでしょうし、問題は無いでしょう。


そもそも、種麹が手に入ったとして、それをきちんと管理培養できるだけの技術があるわけでは無いので、定着しない可能性もあります。なので、挑戦するのは構いませんよ。


それに、もし味噌や醤油を作れるようになれば、それだけリアースの人間の生活が豊かになるわけですし。銃を大量に購入して配布するのとは訳が違いますからね。


あくまでも生活を豊かにする方向のものであれば、問題ありません。」


うん、量産体制を取れるかどうかは別にして、自前で作ったり使ったりするのは問題無いと。それなら野営の時なんかは好き放題楽しめる、ってわけだ。上手い事やろう。


「ありがとうございます。微々たる力ではありますが、このリアースに住む人たちが幸せになれるよう、できる範囲で尽くしたいと思います。」


許可を頂けた事に対して礼を言う。素直に感謝するのが一番だ。


「ええ。タカさんなら、きっとこのリアースに幸せを広げる事が出来ると思います。その願いを込めて、『幸せの伝道者』の称号を与えました。


大げさな事でなくて構いません。小さな幸せで構わないので、周囲の人たちに笑顔をもたらしてください。よろしくお願いしますね。」


ニッコリと微笑まれる。なんて美しい笑顔だろう。惚れてまうやろー!


「畏まりました。私の出来る限り頑張ります。


今のところ、私のお願いは以上なのですが、今後も何かあった時はこのように御目通りを願う事があると思いますので、どうかよろしくお願いします。


逆に、ルーテミス様から私に対して、このような事をしなさいだとか、このような事はいけませんとか、そう言った事はありませんでしょうか?私自身気づいていないうちに何かやらかしたりしていないでしょうか?」


そう尋ねると、立てた人差し指を顎に当てて考え込む。いちいち仕草が可愛いですルーテミス様。


「そうですね、気をつけていただきたいのは女性の扱いですね。


タカさんは言葉選びがお上手なので、振る舞いがとてもスマートに見えます。そのせいでタカさんが意識しない所で女性の心を奪ってしまう心配があります。


例えばニーナ、礼拝所の伝教者の女性ですが、彼女はもうタカさんの事で頭がいっぱいですよ。」


悪戯っぽく微笑みながらウインクされる。ああ、あれは確かにやり過ぎたかもしれんなぁ。マズったか。


「えーっと、ニーナさん?については確かにちょっとやり過ぎたかもしれません。何かフォローが必要でしょうか?」


お伺いを立てる。


「いいえ。恋愛感情をどう克服するかはその人次第です。


貴方への想いを遂げるために冒険者になり、宣教師として共に世界を巡るのも、想いを振り切ってこのまま教会に勤めるのも、彼女次第です。


ただ、もし彼女の好意を受け止める事が出来ないのなら、キッパリと断ち切ってあげてくださいね。それも男の人の優しさですよ。」


ニコニコとしながらそう告げるルーテミス様。他人の恋路は楽しいですかそうですか。女神様とはいえやはり女の子なのですね。


「分かりました。心しておきます。

それではそろそろお暇させていただきたいと思います。ルーテミス様、ありがとうございました。」


深く頭を垂れると温かい光に包まれる。


「タカさん、心優しき転生者よ。貴方と貴方の周囲の人たちが、いつも笑顔でいられますように。」


ルーテミス様の優しい声に送られて、俺は現世へと戻った。


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