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宿のトイレを借りてからウォルターと一緒に厩舎へ戻る。十三夜程に満ちた月は明るく、ランプの必要がないくらいだ。


俺は靴を脱いで物置用のベッドの上で胡座をかき、レミントンM870MCSブリーチャーを取り出し右膝の横に置くと、月明かりを頼りにH.C.A.R.の準備を始める。


銃とマガジンを取り出し並べる。H.C.A.R.も30連マガジンなのよね。はあ、大変だ。


俗にアモ缶と呼ばれる金属ケースに入った弾を3つ取り出し、肉体強化をかけながらひたすらポチポチと弾を込めていく。


あ、そういやクリスヴェクターとH.C.A.R.のマガジンポーチを買ってないや。バンダリアの方が楽で良いな。明日にでもカイルさんに頼もう。


2時間近くかけて弾込めを終え、銃にマガジンを装着して安全装置を掛け、予備マガジンと共に収納する。


明日はブリーチャー以外の試射も兼ねて獲物を狙うとするか。そんなことを考えながら付けっぱなしだったレッグホルスターを外し、収納にしまう。


ブリーチャーは一発撃ってそのまま空薬莢も排出していない。逆に暴発を心配しなくて済むか。


ブリーチャーと靴を持ち隣のベッドに移動すると、ブリーチャーをそのまま枕元に置く。靴下を脱ぎ足を解放する。毛布で腹だけ隠して横になる。


「ウォルター、明日は森に入る。しっかり休んでおいてくれ。」


ウォルターに声をかける。


「畏まりました主。主もゆっくりお休みください。」


気遣いのできる従魔(笑)。本当に良いパートナーだ。


「ああ、おやすみ。」


そう声をかけて目を瞑ると、あっという間に眠りに落ちた。





翌朝、日の出と共に目を覚ます。5時半くらいか。今日も良い天気になりそうだ。


どうせ誰も来ないだろうと全裸になって排水口のスノコの上に立ち、井戸の水を汲んで頭からかぶって体を洗う。冷たい水が気持ち良い。


汗を洗い流すのは匂いで獲物に気付かれるのを防ぐためでもある。まあ、ウォルターに勢子をやってもらえば問題はないんだろうけど、とりあえず様子を見ることにする。


石鹸やシャンプーが欲しいな、と考えながらバスタオルを取り出して身体を拭き、新しい服に着替える。


時間は6時を過ぎたくらいか。もう少し時間をずらした方が良いな。


ついでなので洗濯をしてしまう。汚れを落とした盥に水を張り、脱いだ服を入れゴシゴシと手洗いする。洗剤が欲しい。


一度水を替えて洗い直し、よく絞って一旦収納し、ベッドにパラコードを結んで物干し場を作り、洗った服を取り出して掛けておく。


盥を収納し汚れだけを取り出して捨てる。


そろそろ良い頃合いだろう。


ブリーチャーを収納し、取り出したレッグホルスターセットを身に着け、ウォルターを連れて食堂へ向かう。


いつもの場所でウォルターを待たせて食事を貰いにカウンターへ行く。


「いらっしゃい。朝はどっちにする?」


今日も元気なモフ好きお姉さんに訊かれた。


「朝はパンとスープで、昼の分をお粥でお願いします。」


そう言いながら収納からカップ大を出す。


「はいよ。待っててね。」


お姉さんはカップを受け取ると麦粥をたっぷりと注ぎ、パンとスープを乗せた盆に一緒に乗せて渡してくれた。


「ありがとうございます。」


後ろに3人ほど並んでいたので、挨拶だけして席に向かう。


「ウォルター、朝は内臓と脚どっちが良い?」


ウォルターに確認する。


「そうですね、内臓をお願いします。」


盆をテーブルに置き粥の入ったカップを収納して、盥2つ、カップ小、ナルゲンボトルを取り出す。


内臓と水をそれぞれ盥に入れ、自分のカップにも水を注いで準備完了。


「さあ食べようウォルター。いただきます。」


声をかけて食べ始める。朝はパンが2個だ。スープに浸しながら食べ進める。


オカズがないのでそれほど時間がかからずに食べ終わる。出した物を収納し、食べ終えた食器を下げに行く。


「今日も美味しかったです。ご馳走様でした。」


厨房に向かって声をかけ、頭を下げる。


どういたしまして、頑張っておいで、気をつけなよ、と三者三様の声をかけてもらい、トイレに寄って用を足し、スッキリして食堂を出る。


「さあウォルター、南門へ向かってくれ。」


ウォルターの背に跨りながら声をかける。


「畏まりました主。では参ります。」


ウォルターがすっくと立ち上がり歩き始める。





南門へ着き、記録担当らしい見張りに冒険者タグを見せると


「悪いが外して貸してくれ。」


と言われたので素直に渡す。


見張りは受け取ったタグを台にはめ込み、墨で紙に写しを取っている。なるほど、これなら記録も簡単だ。


「全員のタグを記録するのですか?」


と尋ねてみた。人数が多ければそれなりに時間がかかるだろう。


「いや、パーティーの場合は代表者の分だけだ。あんたはソロ扱いだな。」


ウォルターは人間じゃないから当然だろう。


「今日の目的は?」


見張りが訪ねてくる。


「採取と狩猟の両方です。南の森の狩り場を回ってみたいと思います。今日は何人くらい入っていますか?」


見張りに尋ねる。


「今日は採取目的のグループが7、狩猟目的のグループが9だな。人数的には80人ってとこだ。」


書き付けた藁半紙を確認しながら教えてくれる。


「ありがとうございます。それでは行ってきます。」


「おう、最近デカいクマが出てる。気をつけてな。」


気遣う言葉に感謝しながら門を出た。



門を出て真っ直ぐ森へ向かう。さすがに門を出てすぐの草原には獲物の気配はない。


草原と森の際の所で野草を採取している少年グループが3組ほど見えた。


そのうちの一番近い1組がウォルターを見て驚いた顔をしていたが、手を振ると嬉しそうに振り返してきた。


冒険者たちによって踏み固められた道を進んでいく。気配を探ると向かって右側、川に面した方に多くの冒険者達が入っているようだ。


「ウォルター、右側の方に沢山人がいるようだけど間違いないかな?」


「はい主、間違いありません。左の方は10人ほどしか入っていませんね。左に入ったグループは、狩りではなく蜂の巣や薬草を探しているのではないでしょうか?」


狩りをする者は水場の近くへ、採取が目的の者は森の深い所へ、と言う傾向か。


「もう少し進んで人の気配が薄れたら左に入ろう。スピードを上げてくれ。」


「お任せください。では参ります」


そう言うが早いか一気に加速する。


ウォルターに任せてしばらく進むと人の気配は全く無くなり、踏み固められた道も獣道に変わっている。


一度止まってもらい、コンパスを取り出して北の方角を確認する。


村の方向がほぼ真北で間違いないことを確認してから、道を外れ森の深部へと入っていく。


もし迷ったとしても北を目指せば村のある方角だ。遭難することは無いだろう。そんなことを考えながらウォルターの背に揺られる。


ウォルターは相変わらずのスピードで巧みに木々をすり抜けながら走る。


しばらく進むと森の濃さが変わる。木々の太さと下草の種類が大きく変わったのだ。


「ウォルター、適当に狩りをしてきてくれるかな。獲物は一箇所に集めておいて。後で俺が回収するから。俺は野草を採取するよ。」


「分かりました主。では行ってきます。」


ウォルターは何処へともなく走り出した。俺はアイを呼び出す。


「アイ、食用、薬用になる植物を視界にピックアップしてくれ。」


「畏まりましたマスター。AR表示します。」


拡大されたコンソールパネルが展開し、採取可能な植物のフォルムを囲う光とその名前が表示される。


ムカゴ、自然薯、キハダ、オオバコ、エゾウコギ、ドクダミ、ダイオウ、シャクヤク、etc、etc。表示されたものを片っ端から採取し収納していく。


ミントやカモミール、ルッコラやバジルなどのハーブもあった。どんどん採取し収納していく。


すると突然、フィピピッ、と言う電子音が鳴る。視界の端に森林ウサギが表示されている。


俺はそっとM45をレッグホルスターから抜き、音を立てないようにゆっくりとスライドを引いて戻す。


足音を立てないように移動し、射線を確保する。


木を利用して身を隠しながら左手を開いて木に添え、親指と人差し指の股にフレームを乗せてバリケードポジション(隠蔽射撃姿勢)を取る。


ARで表示されたバイタルエリア(急所)に狙いを定める。


ガシュッ!


サプレッサーによって射撃音が抑えられ、スライドが動く機械音の方が大きく響いた。


弾丸は狙い通りバイタルエリアを貫き、森林ウサギはコロリと転がった。


獲物まで歩いて近づいて回収し、また周辺の野草を採取する。


10分ほど採取を続けているとまた電子音が鳴り森林ウサギが現れる。今度は2匹だ。


バリケードポジションを取り、自分から遠い方の獲物に狙いを定める。


遠い獲物から狙うのはサバゲーでもセオリーだ。上手くいけば仲間が撃たれた事に気づかないし、もし気づけば撃たれた仲間の方を振り向いて動きが止まる。動標的が止まった的に変わるわけだ。


ガシュッ!ガシュッ!


トイガンのシューティングマッチで鍛えたバリケードテクニックで素早く2匹に撃ち込む。2匹ともコロリと転がる。近づいて収納し、採取を続ける。


次に現れたのは森林キツネだった。大きな尻尾が揺れている。ウサギの血の匂いに引かれたのだろう。


バリケードポジションを取り狙いをつけ引き金を引く。


ガシュッ!


パタリ。ワンショットワンキルだな。獲物を回収し採取を続ける。


こんな感じで昼までに森林ウサギが15羽、森林キツネが4匹獲れた。野草もタップリだ。一休みして水を飲んでいるとウォルターが現れた。


「主、そろそろお昼ですよね。一旦獲物の回収をお願いします。」


「分かったよ。乗せて行って。」


ウォルターの背に跨り移動する。




40m四方くらいの少し開けた場所に獲物が山と積んであった。開いた口が塞がらない。


「すごいねウォルター。良くこれだけ獲れた。ご苦労様。ありがとう。」


ウォルターを思い切りモフる。ウォフウォフと甘えた声を出す。


「さあ、飯にしよう。ウォルターは好きな獲物を食べて良いよ。」


そう言うとウォルターは直ぐに2mくらいの体長の一角猪を引きずり出す。お気に入りで除けてあったのだろう。


ガフガフとかぶりつくウォルターを見守りながら残りの獲物を回収する。


フォルダーを確認すると、森林毒蛇、森林ウサギ、森林狼、森林鹿、森林キツネ、一角狼、一角鹿、一角ウサギ、一角キツネ、と多種多様だ。


そんなフォルダーを眺めていると、ピシッ、と空気が固まった。気配察知にヤバそうな反応がある。


ウォルターも食事を止めて立ち上がっている。低く唸り声を上げている。今までの獲物とは明らかに違う感覚だ。


俺はウォルターが食いかけの獲物を収納し、レミントンM870MCSロングを収納から取り出す。サプレッサー付きだから長いなぁ。


ウォルターと共に、気配とは逆の方向に素早く移動して木の陰に隠れる。


「ウォルター、この気配は何か分かるか?」


「おそらく森林グリズリーです。この強い気配は多分魔獣になる一歩手前の個体でしょう。主、危険です。」


ウォルターが臨戦態勢に入る。


「ウォルター、こいつは俺に任せてくれ。従魔がいなかったら戦えない主人なんざ話になんねえからな。アイ、AR展開。」


「了解ですマスター。」


すぐさまコンソールパネルが展開される。


フィピピッ、と言う電子音とともに表示が上がる。そいつは森の中からのっそりと姿を現した。血の匂いに引かれたのだろう。ユックリと近づいてくる。


デカい。立ち上がれば5mを超えるだろう。一瞬恐怖に囚われる。


だがこっちだって3インチマグナムスラッグを7発も装填してるんだ。勝てる。そう自分に言い聞かせながら静かにフォアエンドをスライドさせ初弾を装填する。


片膝をつき、膝射姿勢(ニーリングポジション)を取る。木を利用して身体の露出を最小限にする。


「ウォルター、見つからないように右へ回り込んで待機しろ。もし俺がやられたら仇を取ってくれ。それまでは手を出すな。」


ウォルターに念話を飛ばす。


「主!主がやられるなんて、そんな事認めませんからね!」


そう言いながらちゃんと言われた通りに移動する。木陰に隠れながら視線は確保し、いつでもジャンプできる態勢を維持している。本当、めんこいなお前は。


バイタルエリアに狙いを定めようとしたらこっちの匂いか殺気を嗅ぎつけたのか、吠えながら立ち上がりやがった。距離30m。


ドムッ!ジャキィン!


咄嗟にバイタルエリアに一発撃ち込むが、咆哮を上げながら四つん這いに戻り俺に向けて走ってくる。クッ、速い!夢中でトリガーを引きフォアエンドを操作して次々とスラッグを撃ち込む。


首下!ドムッ!ジャキィン!


左肩!ドムッ!ジャキィン!


頭!ドムッ!ジャキィン!


真っ直ぐに突っ込んでくるその頭に狙いを定めながら身体強化を使い、大きくジャンプして横に飛ぶ。やべ、思ったより頭が小さい!


倒れこみながらとっさに狙いを変えて、前脚の付け根にスラッグをぶちこむ。


ドムッ!


ゴォン!と言う衝突音とともに恐ろしい程の咆哮を響かせ、森林グリズリーはようやく動きを止めた。


手前は三毛別のヒグマか!と悪態をつきながら立ち上がる。


熊は賢い。死んだふりをして反撃の機会を狙ったりする。なので素早く別の木の陰に隠れて、フォアエンドをスライドさせ直ぐに撃てるように体制を整える。


頭に狙いをつけながら収納から取り出したスラッグをフルロードし、身体強化をかけて大木を盾にしながら近づく。


飛び出して素早く頭に銃口を押し付けて一発ぶち込み、すぐさま後ろに飛び退いてフォアエンドをスライドさせ、次弾を送り込み再度頭に狙いをつける。


クマはピクリとも動かない。


ようやく安心してへたり込む。立ち上がって5m超の熊は無いわー。小便ちびるって。ちびってないけど。


「さすが主!このような大物をたった1人で倒してしまうとは!やはり主はすごいです!」


ウォルターが駆け寄ってきて興奮しながら叫ぶ。


「ありがとうウォルター。でも、本当に凄いのは俺じゃなく銃なんだ。こいつが無きゃ俺は一歩も前に進めねぇ。こいつが俺の力で、俺の勇気なんだよ。だから、凄いのは俺じゃ無い。それだけは覚えておいてくれ。」


ウォルターにそう言うと、ウォルターは不機嫌に答える。


「主、この世界で主以上に銃をうまく使える人間は存在しますか?」


そもそも銃が存在しない世界なのだから、そんなやつが居るはずも無い。


「いや、居ないな。」


そう答えると、続けてウォルターが話し出す。


「では、主以外に銃を手にする事ができる人間は存在しますか?」


居るはずが無い。異世界ショッピングと言う異能力は、デミウルゴス様とルーテミス様の特別なお許しの元に授かったチートだ。そうそう居てたまるもんか。


「おそらくこのリアースでは、銃を手にする事ができるのは俺だけだ。」


そう言うとウォルターは嬉しそうに尻尾を振る。


「ならば、主は唯一無二の存在であり、この世界で最強なのです。自分を卑下せずに、もっと自分の能力を誇ってください。」


そう言うと、俺に全身を擦り付けてきた。


ああ、こいつがメスで擬人化できたら今この場で抱いてやるのに、そんな不埒な事を考えながらウォルターの頭をワシワシと撫で回した。


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