003
デミウルゴス様から告げられたのは、俺が死んだ原因が目の前の二柱の女神のせいだという事。でも、それだけだと訳が分からない。
「アマテラス様とルーテミス様が女子会を開いてお酒を飲んだのと、私が死んだ事の因果関係が分かりません。そこを詳しく教えていただけませんでしょうか?」
俺は再びデミウルゴス様に質問した。するとデミウルゴス様は頷き、おもむろに話し始めた。
「此奴らが会って飲み会をするには、2つの世界を近付けねばならん。
じゃが、本来なら行き交う事のできない時空の違う世界を近付けるには、時空を捻じ曲げ、一時的に同じ時空に存在させねばならん。
そうする事によって、2つの世界を行き来できるようになるのじゃ。」
デミウルゴス様が重々しく話す。ただの女子会も、神様の世界では大事なんだな。
「異なる世界同士は決して一つに交わる事はできぬ。
もし異なる世界同士が一つに交わろうとすれば、下手をすれば互いに消滅してしまう。なので、同じ時空に存在させたとしても、一定の距離を保たねばならん。
例えるならシャボン玉じゃ。シャボン玉は別々に飛んでいる時は良いが、互いに触れ合い一つになろうとすればパチンと弾けて割れてしまう。なので一定の距離を保つ必要があるのじゃ。
あまり近付き過ぎると、互いの世界が薄らと見えてしまう事がある。それがお主らの世界で言う蜃気楼じゃ。」
衝撃的な事実が発覚した。空気による光の屈折で起きるのが蜃気楼だと言われていたのに、まさかの異世界とのニアミスで引き起こされる現象だったとは。
「そして此度の事じゃ。此奴らはいつもの通り、二柱で酒を酌み交わしておった。
しかしそこで問題が起きた。二柱とも飲み過ぎて酔っぱらってしまったのじゃ。
二柱が酒を酌み交わしていた空間からそれぞれの世界に戻ろうとした時に、酔った勢いで2つの世界を近付け過ぎて接触させてしまったのじゃ。」
はあ?いやいやそれは駄目でしょう。何やらかしてんのこの駄女神さんたちは。
「で、では、地球もリアースも消滅してしまったのですか?」
慌ててデミウルゴス様に質問した。
「いや、それは大丈夫じゃ。
先ほど世界をシャボン玉に例えたが、それと同じような感じでな。表面張力によって一時的に2つの世界がくっついた状態になったのじゃ。この状態なら、慎重に引き放せば元に戻る。
ただ、本来交わる事のない世界が一時的に一つにくっついた事で、シャボン玉で言えば表面の雫がどちらかの世界に残る事がある。それによって残されたのが、お主の世界で言うオーパーツやUMAじゃ。」
これまた衝撃的な事実だ。ネッシーやビッグフットなどのUMAや水晶のドクロや聖徳太子の地球儀のようなオーパーツが、異世界同士の接触によって生み出されたものだったなんて。
「オーパーツやUMAが幾つも存在することによって分かる通り、異世界との接触は稀にあることなのじゃ。
酒を酌み交わすかどうかはともかく、神同士で交流しあい、互いの世界を参考にしあう際に操作を誤ることもあるでのう。
なので此度も落ち着いてそっと2つの世界を引き放せば良かったのじゃが、此奴らは少々飲み過ぎておったために力加減を誤ってのう。危うく2つの世界が消滅しそうになったのじゃ。それが空が割れた現象じゃ。
意図しない原因での世界の危機が起こった時には、儂の元に緊急通報が入るようになっておってのう。慌てて儂の力で生じた割れ目を修復して2つの世界を引き離したのじゃが、お主は闇に飲み込まれたせいで魂が時空の狭間に吸い込まれてしまったのじゃよ。
結果としてお主は死んでしもうた。急な心臓発作で倒れてしまった形になっておる。
夜勤から帰ってきたお主の妻が倒れたお主を見つけてのう。半狂乱になって泣き叫び、見ておれんかったわ。本当にすまんことをした。あらためて謝罪しよう。」
「「申し訳ありませんでした」」
駄女神二柱が手をついて地面につくくらいに深々と頭を下げる。いや、謝られても困るんだが。
「あの、よくある奇跡の生還みたいに生き還らせてもらえませんか?2つの世界が無事だったんだし、神様の力ならそれくらい出来ますよね?」
俺が言うと、デミウルゴス様が哀しい顔をして首を横に振った。
「残念ながらそれは出来んのじゃ。いくら神である我らでも、一度肉体と魂の接続が切れてしまったら、二度と元には戻せんのじゃ。すまんのう。」
いやいや、それは困る。愛する妻と三人の息子たちが、これからどうやって生活していけばいいと思ってるんだ?
神様の手違いで殺されただけでなく、家族の幸せまで奪うなんて、それはないだろう。
ここは神様達としっかり交渉せねば。俺と、愛する家族の幸せのために。




