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024

お茶をいただきながらポルコ村に来た経緯を話す。


・北の森の奥深くで、父とウォルターの3人で暮らしていた。


・狩りには稲妻を放つ魔道具を使っていた。


・家は持たず、自然の地形を利用し、常に移動していた。


・時折父が塩や衣類を手に入れるために長期に留守にすることがあり、その時はウォルターと2人、父に指示された洞窟のような安全な場所で暮らしていた。


・どこに行って塩や衣類を手に入れていたのかは分からない。


・最後に塩や衣類を手に入れに行ってから半年ほどかけて、3人で南に向けて移動してきた。


・狩りの最中に父が足を滑らせ川に落ちた。慌ててウォルターと追ったが、そのまま滝に落ちて見えなくなった。


・滝は深く、高さもあるので降りることも叶わず、稜線に沿って川下へと下りながら父の痕跡を探してここまできた。


・大きな櫓が見えたので、人が住んでいるのだろうと思い、父の事を知らないかどうか尋ねようと立ち寄った。



こんな説明をしながら、リュックの中の堅パンの食料袋を収納へとしまう。さすがに話の整合性が取れないからね。


干し肉と岩塩も手をつけていない分は収納へ、着替えも一揃いだけ残して収納へ移動させ、森で採取した果物や木の実、ムカゴや自然薯など日保ちしそうな物をリュックへと移動させる。


ゾーイさんはしきりにハンカチで涙を拭いている。胸がズキズキと痛むが、ここはテーブルトークRPGで鍛えた演技力で乗り切らなければ。


「それでは貴方は、貴方自身の出自については全く分からないのですね?」


フランクさんに尋ねられる。もちろんこの世界での出自など分かるはずもない。そもそもこの世界には俺という人間は存在しなかったのだから。


「父がメイガス、母がミランダ、という名前だったこと以外は何も分かりません。ただ覚えているのは、常に北の山脈を背にして移動していた事、時折父は遠い目をしながら北の山脈を眺めていた事、くらいでしょうかね。」


実際に北の山脈を背に移動してきたのだから嘘は言っていない。消防署の方から来ました、ってアレと同じだ。


「ふむ、タカさんのご両親は山脈の麓、もしくは山脈の向こうにある村や町から、何らかの理由で森に下ったのかもしれませんな。


貴方のタカという名前はもちろん、メイガスとミランダという名前は、このジニアル領では聞いた事のない名前です。異国の名前と考えた方がしっくり来ます。


それに、貴方の身につけている旅装も、縫い方や裾模様などが少し異なるようだ。おそらく異国の物なんだと思います。」


実際に山脈の麓、もしくは山脈の向こうに人里はあるのかな?アイ、分かる?


「はいマスター。山脈の東山麓に大きな町があります。ここからですと500kmほどありますので、実際にあの森を超えてその町まで行くには、ほぼ1年近くかかる事でしょう。」


うん、万が一の時には両親はその町から落ち延びた、って感じに誤認させられるな。旅装が異国風なのも幸いだった。この辺は狙ってたのかな?ルーテミス様?


「このような状況ですので、正直、この国の名前すら分かりません。何より、自分の事だって分かるのは名前だけ、自らの身分を証明する事もできません。ただただ父の生存を祈って、稜線を辿りながらここまで辿り着いた次第です。」


ここで自分語りを一旦切る。そうする事によって自分の過去への詮索を打ち切り、これからの事を考える方向に意識を切り替えさせてもらう。


「タカさんはこれからどうなさるおつもりですか?」


フランクさんに尋ねられる。


「ここまで父の姿を追ってやって来ましたが、恐らく父はもう天に召されたのだと思います。


これからはウォルターと2人で生きて行く事になりますが、獲物を狩り、森の恵みを頂いて生きていく事はできると思いますが、塩や衣類を得る方法が分かりません。


父から人里で使うものだと教えられた銅貨と銀貨という物を少し持っていますが、それをどう使えばいいのか、どうすれば得られるのかも分かりません。


もしできたら、この村で人里の仕組みという物を教えてもらえれば有難いのですが。」


さあ、どう出るかな?


「それでは、この村で冒険者として暮らしてはいかがですか?幸い出張所ではありますが冒険者ギルドがあり、冒険者としての仮登録は出来ます。


ここで仮登録し、狩りと採取で路銀を貯めて、領都の冒険者ギルドへ向かって本登録すれば良いのです。貴方が望むなら、ずっとこの村で暮らしていただいて構いませんよ。」


おお、魅力的な申し出だ。


「ありがとうございます。ですが私は、行く行くはフランクさんに教えていただいた北の異国に行ってみたいと思っています。


もしかしたら、父と母の事が分かるかもしれません。


そのためにもこの村で冒険者として活動し、ろぎん?とやらを貯めたいと思います。お許しいただけますでしょうか?」


真っ直ぐにフランクさんの目を見つめてそう言う。


「もちろん構いませんよ。貴方が旅立つまでの間、この村に滞在する事を許可します。」


よっしゃ拠点ゲット!さらにだめ押しするか。


「これは父から人里で使う物だと教えられたのですが、どうやって使えば良いのでしょうか?」


そう言いながら金貨を除くお金を取り出す。



・銅貨 20枚

・棒銅貨 18枚

・銀貨 18枚

・棒銀貨 18枚



だ。最初に説明を受けた相場なら一般的な宿で4ヶ月は泊まれるはずだが、辺境価格はどんなもんだろう?


「これはお金と言って、物を売ったり買ったりする時に使う物です。自分が欲しい物に釣り合うだけのお金を渡して欲しい物を受け取る、相手が欲しい物と釣り合うだけのお金を受け取って物を渡す、そう言う風に使う物です。


赤い円い物が10枚で赤い棒と同じ、赤い棒が10本で銀の円い物と同じ、銀の円い物が10枚で銀の棒と同じになります。


例えば貴方がこの村で食事をするとします。この赤い丸い物を7枚渡せば、パンを2個とスープを一杯、もしくは麦粥が一杯食べられます。


宿に泊まるなら、赤い長い物を4本渡せば、広い部屋での雑魚寝になりますが、一晩泊まる事ができます。」


ふむ、相場の3~4割増という感じか。


「泊まる時に赤い棒を4本という事は、赤い円い物を40枚でも良いのでしょうか?」


フランクさんはにっこり笑って答えてくれる。


「その通りです。もしくは、銀の円い物を1枚渡して、赤い棒を6本返して貰っても良い。あまり沢山持ち歩かなくて済むように工夫されているのですよ。」


「なるほど、分かりました。では次に、これを欲しい人に渡したら、どれを何枚貰えるでしょうか?」


そう尋ねながら収納からウサギを取り出してみせる。フランクさんは目を丸くして驚いた。


「タカさんは収納持ちだったのですか!それに、こんな大きな森林ウサギを狩るなんて!一体どうやって?いや、稲妻を放つ魔道具をお使いなんでしたか。その魔道具をお見せいただいてもよろしいですか?」


興奮気味のフランクさんにルースさんが告げる。


「タカさんの魔道具は私がお預かりしています。タカさん、いかがいたしますか?」


「それでは一旦私にお返しください。フランクさんにお見せします。」


ルースさんが袋ごと渡してくれたので、わざと慎重な手つきでレミントンM870MCSブリーチャーを袋から取り出し、袋をルースさんに返してブリーチャーをテーブルにそっとおく。


「まだ魔力が込められたままなので、お見せするだけで触っていただくことは出来ませんが、どうぞ。」


と声をかける。


「むぅ。こんな魔道具は見たことも聞いたこともありません。この筒先から稲妻を放つのですね?いやはや、スゴい物だという事しか分からない。ありがとうございます。貴重な体験でした。」


フランクさんに礼を言われたのでブリーチャーを収納にしまう。


「ああ、この森林ウサギの価値でしたな。これだけ立派な物なら銀貨7枚はすると思うが、どうだねルース?」


フランクさんがルースさんに問いかける。


「そうですね。普通の森林ウサギより一回り大きいですから、それ位はするでしょう。それにこの大きさなら小さい魔石があるかもしれません。魔石があればもう少し上乗せされるでしょう。」


え?こいつ、魔物になりかけだったの?そんな奴を偶然狩る事が出来たなんて、ルーテミス様のおかげかな。ルーテミス様、ありがとうございます。


「ならば冒険者ギルドで仮登録をして、それからお金に代えて貰えるようにお願いすれば良いのですね?」


2人に尋ねる。


「そうですね。冒険者ギルドは登録された冒険者からしか買い取りをしないので、まずは登録ですね。紹介状を書きますので、少しお待ちくださいね。」


ルースさんが奥の部屋に戻って行き、ゾーイさんがお茶のお代わりを用意してくれたので、お茶請けをいただく。厚めのクラッカーみたいな感じで、ジャムを塗って食べると塩気と甘みが混ざり合って意外と美味かった。


程なくフランクさんが1枚の藁半紙のような物を持ってきた。


「これにタカさんは私の客人であり、村に滞在する事を許可したので、冒険者登録を受け付けるように、と書いておきました。冒険者ギルドの受付にお渡しください。」


そう言って渡してくれた。俺はその手紙を丁寧に畳んで懐にしまい、立ち上がって礼をする。


「フランクさん、お世話になりました。早速ギルドに行ってみます。ゾーイさん、ごちそうさまでした。お茶もお菓子も美味しかったです。」


笑顔で告げると、2人とも笑顔で頷いてくれた。


「タカさん、困った時はいつでも相談にきてください。」


「またいつでもきてくださいね。飛び切りのお茶をご用意しますから。」


2人に見送られ玄関を後にした。ルースさんにも礼をする。


「ルースさん、お世話になりました。ありがとうございました。また何かあったらお世話になると思いますので、どうかよろしくお願いします。」


「なーに、気にしないでください。それでは私は仕事に戻りますのでこの辺で。また会いましょう。」


手綱を解きヒラリと馬に飛び乗ると、南門の方に駆けて行った。


さて、俺も移動しますか。

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