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「辺境の村という割には随分と規模が大きいですね。父は村とは100人程度の人が集まり暮らす場所だと言っていました。防壁もとても立派ですし。」


ルースさんに尋ねる。


「ここの薬草は珍しい上に質が良く、しかも採取量が多いので、村の開墾の際にジニアル領から公的な援助がなされているのです。防壁が大規模で村の面積が広いのもそのためです。


租税についても薬草による物納で、決められた量を収めれば残りは自由に販売して良い事になっています。


ただ、辺境ゆえの問題もあります。他の村や町、領都とは船を使ってしか行き来できない事、大規模な畑作ができない事、学校が無い事、娯楽が無い事、職業が限られる事、新しい出会いが無い事などです。


そのせいで町に降りてしまう若い者も増えており、人口の減少と高齢化が進んでいます。家の数は多いですが、空き家も多いんですよ。87戸の家がありますが、15戸が空き家です。」


6分の1が空き家ってのは確かに多いな。


「これだけ頑丈な防壁を設置してしまうと、逆に村の拡張は簡単にはできません。痛し痒し、と言ったところです。なので、移住希望者が来た場合のために、空き家は潰さずに残してあるんです。」


なるほどね。確かにこれだけの防壁を拡張するのは一大事だわな。


「移住希望者はどんな人が多いんですか?というか、そもそも、移住希望者を積極的に募集しているのですか?」


失礼ながら尋ねてみる。


「もちろん募集していますよ。領都などで冒険者になりたての若い者が、狩猟などの経験を積むために村に来たりします。低級ですが魔獣もいますしね。


ですが、あくまでも長期滞在という感じで、長くても3年くらいで出て行ってしまいます。


この村で経験を積んだ冒険者が引退して帰って来る場合も多いですね。


怪我の後遺症などで強い魔獣と戦うのはもう無理だけど、動物相手ならまだやれる、という感じで移住してきますね。その場合は終の住処として移住して来る方がほとんどです。


また、そういう人たちが若い冒険者の面倒を見たりしています。結構厳しく鍛えていますよ。なので、ポルカ村出身の冒険者は評判が良いんですよ。


逆に村の住人は、子供が産まれると領都へ下って、領都周辺の開拓の仕事に就く人が増えてきました。稼ぎも良いし、開拓した土地を買って畑を作ることもできますし。


ここ数年で若い方で移住してきたのは、鍛治師に弟子入りした者が3名と、薬師に弟子入りした者が2名、漁師に弟子入りした者が2名ですね。」


へえ、そんな奴がいるんだ。面白そうだ。


村の中央の通りと見られる太い道を進むと、大きな広場が見えてきた。


大きな木が広場を囲むように立っており、その前には木製のベンチが並べて置いてある。ちょうど木陰に入る位置だ。村の集会場にもなっているのだろう。


日中は皆何かしら仕事をしているのだろうから大人の姿が見えないのは分かるのだが、子供の姿もない。普通は子供の数人は遊んでいるものではないだろうか。


「素敵な広場ですね。気持ち良く過ごせそうです。ですが、子供の姿が見えませんね。どこか一箇所に集められているのですか?」


「もっと大きな村や町だと学校という物があって、そこに子供たちを集めて読み書きや計算を教えています。


この村には学校がないので、代わりに女神教の礼拝所で伝教者様が、子供達に読み書きと計算を教えてくださってます。


毎年新たに伝教者に叙階された伝教者様は、この村のような教会を建設できない辺境の村で、一年間お務めなさるのです。礼拝所は開拓時に監督などが使用していた上級宿舎が改装されて使われています。」


お、宗教が出てきたね。ルーテミス教ではなく女神教なんだ。


「女神様のお名前はなんと言うのですか?」


「女神様のお名前は伝わっておりません。唯一絶対の母なる神ですので。」


へえ、名前を公開してないんですねルーテミス様。


「父からはエルフやドワーフと言った人間に良く似た種族がいると教えられたのですが、その者たちも女神教を信仰しているのですか?」


「人間以外はそれぞれ別の神を信仰しています。ただ、いずれの神も女神であるそうです。」


あ、これ、名前を公開しない事によってどの種族も等しく信仰できるように、との配慮なのかな?これはこれで上手いやり方だよね。


「伝教者の方は男性ですか?」


「いえ、男性に限りません。今年は女性の伝教者様が赴任されています。子供達はもちろん、独身の男達にも大人気です。」


ルースさんが苦笑する。そりゃそうだよね。教会で教えを請うた洗練された女性が一年限定で赴任されれば、誰もが色めき立つだろう。


「聖職者の結婚は許されているのですか?」


「もちろんですよ。女神教は愛する者同士が結ばれる事を祝福しています。


聖職者と結婚した者は仕事を辞め、女神教の堂役として伴侶と共に教会で務めることになります。


そのため聖職者に見初められた村の者は必然的に領都へ下る事になります。若者の流出の一因でも有るんですよねぇ。


教会を立てれば司祭様や助祭様としてこの地に留まって頂くことが出来るのですが、住人数が足り無いんですよ。教会を維持するには最低でも500人は信者が必要なので。」


信者からのお布施で維持することを考えれば、それは仕方のない事だろう。逆にこのような辺境に礼拝所を設け、伝教者を派遣するなんて良く出来た宗教じゃないか。ルーテミス様、素晴らしいです。


「私の父は妻は1人だけだったようですが、それが当たり前なのでしょうか?」


「女神教は互いに等しく愛し合う事を前提に、複数の伴侶を持つ事を認めています。但し、等しく愛し合う、と言う前提があるので、余程力のある者でないと難しいですね。庶民は一夫一妻がほとんどです。


あと、家庭を複数持つ事は許されていません。あくまでも一つの家族として生活する事が前提です。」


ふーん、等しく幸せにする事さえできればハーレムも可能と。ただ、愛人を囲うとか、通い妻をする、と言うのは認められていないと。


そんな話をしながら広場に入ると右に曲がる。


「波止場のある北門が村の正門になります。そこに自警団の詰所があり、村への出入りを管理しています。正門前には行商人の船を停泊させる港と桟橋もあります。村の漁師の船は港は使わず砂浜に直接上げられます。」


そう言いながら歩みを進めると、大きな建物が2軒見えてくる。


「こちらの右側の大きな建物は、礼拝所と宿屋です。宿屋は開拓時の宿舎が改装されて使われています。


宿屋の隣が食堂、食堂は開拓時の物がそのまま使われています。その隣が酒場で、これは開拓時は酒保だった建物を改装してフロアを付け足した物なので、継ぎ接ぎな建物なんですよ。


さらに冒険者ギルドの出張所とギルドの解体所が並んでいます。通りを挟んで左側には商業ギルドの出張所、薬屋、雑貨屋、肉屋、魚屋、八百屋が並んでいます。」


「鍛冶屋は離れているのですか?」


「そうですね、鍛冶屋は大量に水を使うので、川に面する西の防壁の近くにあります。川から水路を引いて、水車で水を汲み上げています。汚れた水はその水路で川へと流されます。」


水車で水を汲み上げることができるなら、水車を使ってハンマーを動かして鉄を打つこともできるはずだ。ついでに回転石砥も開発すれば生産量の増加と品質の向上が見込まれるんじゃないか?知識チート発動だね(笑)。まあ、無理に文明を進める必要もないけどさ。


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