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017


自分も知らない自分の力のおかげで、魔獣使役の異能力は設定以上の能力を発揮するようになったようだ。


まあウォルターに関してはこの状況を受け入れる事にして、今後の事を考えなければ。


「魔獣使役について、契約後の魔力混ぜ合わせの際の量を調整したりとかはできませんか?そうすればこのような変化は起きないと思うのですが。」


ルーテミス様に尋ねると困った顔で首を横に振った。


「魔獣使役は双方の魔力を混ぜ合わせ、意思疎通ができるレベルまで魔獣の知能を上げるのが一番重要な所です。


魔力を混ぜ合わせる量を減らすと会話が成り立つレベルまで知能を上げる事ができません。それが出来なければ、そもそも従属が成り立たなくなってしまいます。なので調整は不可能です。」


神様でもできない事があるのね。ってか、俺自身がイレギュラーな存在だから悪いのか。


「申し訳ありません。私がイレギュラーな存在であるために、ルーテミス様にご迷惑をおかけする事になってしまいました。」


頭を下げる。せっかく俺のために新しい異能力を作ってくれたのに、俺がイレギュラーな存在なせいで斜め上を行っちゃったんだから、やはり頭を下げるべきだ。


「富丘さん、頭を上げてください!そもそもは私達のミスから始まったことなのです!貴方に詫びていただく事などこれっぽっちもありません!」


アワアワと慌てふためいて両手をパタパタと振るルーテミス様。むう、可愛いぞ(笑)。


「そう言っていただけると私も助かります。


ですが、ウォルターが上級魔獣に変異してしまったのは紛れも無い事実ですし、現在魔獣を使役できる人間が私以外に居ないというのもまた事実です。


このままではせっかく従魔になってくれたウォルターを連れて歩く事すらできません。これだけはどうにかして頂ければと思うのですが、如何でしょうか?」


困った俺は正直な気持ちを伝える事にした。


せっかくウォルターが俺を認めて従魔になってくれたのに、無かった事になんてしたくないし出来ない。


独りぼっちの俺に出来たかけがえの無い仲間なんだ。絶対に離れたりしない。そんな俺の顔を見てルーテミス様が微笑んだ。


「分かりました。それではデミウルゴス様に相談いたしましょう。」


そう言うと共にまた眩い光に包まれた。わずかな浮遊感の後、気がつくとデミウルゴス様が対面に座っていた。


ルーテミス様は俺の隣に座っている。


ウォルターは俺の左横におすわりの姿勢のままでじっとしている。


デミウルゴス様は微笑むとゆっくりと口を開いた。


「今、2人の思考を読み、事態を把握した。富丘よ、余計な気苦労をさせてしまったようじゃな。じゃが心配は無用じゃ。現在存在する技能『テイム』の裏スキルを解放しよう。」


そう仰った。はい?裏スキル?って何ですか?


「実はテイムのスキルには裏スキルの解放条件があってな。使役する動物を使い捨ての道具としてではなく、ちゃんとパートナーと認めて対等に付き合い、愛情を注ぐ事が出来る者には、魔獣を使役できる技能、裏スキルのモンスターテイムが解放されるのじゃ。


まだ実際に従魔契約まで至った者はいないが、魔獣と心を通わせる事が出来る者はすでに存在する。


今現在、全テイマーの1割ほどが裏スキルを解放する条件を満たしておる。


他にも生まれついて動物や魔獣と心を通わせることができる者も少ないが存在する。


その者達に裏スキルを解放し、魔獣使役、モンスターテイムのスキルを身に付けさせよう。そうすれば問題は無いじゃろう。


それに伴って、富丘の魔獣使役の異能力をスキルに移そう。」


そ、そんな事ができるなんて。さすが至高神デミウルゴス様。凄すぎます。


「デミウルゴス様、ありがとうございます。おかげさまでようやく出来たかけがえの無い仲間と共に歩んでいく事ができます。厚く御礼申し上げます。」


深々と頭を下げる俺の横で、ルーテミス様が口を開く。


「デミウルゴス様、この度は私の力が至らなかったばかりにご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。心よりお詫び申し上げますと共に、お力添頂いた事に心より感謝申し上げます。」


ルーテミス様も深々と頭を下げた。


「二人とも、面を上げよ。正直に真っ直ぐに進もうとする者に力を貸すのが我ら神の使命よ。逆に言えば、そなた達が純粋な気持ちで取った行動だからこそ我も力を貸す事ができるのじゃ。これからもその気持ち、忘れるで無いぞ。


それと、他の異能力についても一通り精査したが、特に問題はなさそうじゃ。安心してそれぞれの場所へ戻るが良い。」


デミウルゴス様のお言葉に甘えて顔を上げると、和かに微笑んでいらしゃった。


ルーテミス様も顔を上げ、安心した表情だ。


「ではの。それぞれの進む道に幸あらん事を。」


デミウルゴス様がそう口にすると、眩い光に包まれた。


気がつくと、野営場所に戻っていた。


「無事に戻ってきたな。」


思わず口にする。


「そうですね、主。」


ウォルターが弾んだ声で嬉しそうに答えた。


「ウォルター、何でそんなに嬉しそうなんだ?」


マジマジとウォルターを見ながら聞いてみた。すると満面の笑顔で答える。


「主が私の事を『かけがえの無い仲間』と仰ったのが嬉しいのです。主のために精一杯努めますので、これからどうぞよろしくお願いします。」


やっぱりめんこいなこいつ。


「勿論だよ。こちらこそよろしくな。さて、朝飯の準備をするか。」


そう言うとウォルターがビシッと直立不動になる。


「それでは主、何か獲物を狩って来ましょうか?」


うん、忠犬だね。いや、狼だけど。しかも魔獣だけど。


「うーん、人間は狩り立ての肉よりも少し寝かせた肉の方が食べやすいんだ。だから狩ってすぐの獲物で朝飯を作るのは少し難しいかな。


それよりも、俺の手持ちの食料は堅パンと干し肉だけだから、お前に食べさせれる物がない。だから、お前はまず狩りをして食事を済ませてきてくれるとありがたい。食事を終えたら戻って来てくれ。


もし可能なら、食事を終えて帰って来る途中に見かけた獲物を狩ってきてくれたら嬉しいな。」


そう告げると大きく尻尾を一振りして返事をする。


「主の仰せのままに。では行ってまいります。」


そう言うと森の方へ向き、トーンと飛んだ。ジャンプなんて生易しいもんじゃない。とても軽ーい感じで一足跳びで10mくらい飛んだのだ。


トン、トン、とスピードを上げながらあっという間に森へと駆け込んでいった。


「・・・・すげー。」


それしか声に出なかった。


気を取り直して朝飯の準備だ。


まずは竃に残った火をかき混ぜて新鮮な空気を送り込み、眠っていた種火を熾す。


大カップに半分ほど水を汲んで火にかける。


湯が沸くまでの間にパンを取り出し、1/3程を鬼神-Daemone (Large)-で一口大にカットする。


湧いた湯にカップスープ(コーンポタージュ)を入れてスプーンでよくかき混ぜる。


粉末が完全に溶けたら小さく切ったパンをカップに次々入れていき、火にかけてかき回す。


パンにしっかり水分が染み込んでクタクタになったところで火から下ろし、パン粥もどきを掬って食べる。


悪くない。猫舌なのでふーふーと冷ましながら食べ進める。


カップが空になった頃には空はすっかり明るくなっていた。


川に向かい口を濯いでから洗い物を済ませて収納し、顔を洗ってそのまま川で大小の用を足す。


使ったペーパーは竃まで持ち帰って燃やす。


ペーパーが燃え尽きたのを確認してスコップを取り出し、竃のすぐ前に穴を掘り、竈の残り火と灰を穴に掻き入れて埋め、竈を崩す。


そこへウォルターが戻って来た。


な、何か、デカい獲物を咥えてるぞ?体長2mほどの鹿?のようだ。


立派な一本角が生えている。どう見てもただの鹿じゃなくて魔獣だよねこれ。


俺に捧げるようにそっと鹿を下ろしたウォルターは厳かに言った。


「主、一角鹿を狩ってきました。」


やっぱり魔獣だよね。しかし、この鋭い角は結構ヤバそうだけど、大丈夫だったんだろうか。


「良くやってくれたね。ご苦労様。怪我はしていないか?もしどこか怪我をしているならすぐに言えよ。ポーションはまだあるんだから。」


褒めながら頭を撫でてやると嬉しそうにしている。


「ご心配には及びません。主のおかげでこれくらいの獲物なら造作もなく狩れるようになりました。お望みであればもっと狩って来れますよ。」


いやいやいくら無限収納があってもそんなに要らんし。必要のない殺生もしたくないしな。


「これ一頭で充分だよ。ありがとう。」


感謝の意を告げると満足げに頷く。


「それでは顔を洗ってきます。血まみれの口では要らぬ誤解を招きかねませんので。」


そう言って川へ歩いていく。知能が上がるってのも本当なんだな。スゲえや。


ウォルターは前足を使って器用に顔を洗って戻って来た。


その間に収納に「獲物」と言うフォルダーを作り、一角鹿を収納する。


「主、これからどうされますか?」


ウォルターに尋ねられた。


「ああ、この近くにポルカと言う名の村があるはずなんだ。まずはそこに向かい、この世界の人間と接触したい。


田舎だから、ウォルターは狼の赤ちゃんだと思って拾って育ててたら懐いた、と言えば誤魔化せるだろう。」


そう、田舎ってそんなもんだ。


山の中で生まれたばかりの犬の赤ちゃんが捨てられていたので、拾ってきて育てたら犬ではなく狸だったけど、懐いたのでそのまま飼っているとか、熊を撃ったら幼い小熊がいたので連れ帰ったら、懐いたのでそのまま飼っているとか、結構あるのよ。


これだけ自然と近い暮らしをしているなら、その言い訳も受け入れられるだろう。


「村とは人間が集まっているところですね?確かに近くにあります。では参りましょう。私の背に乗ってください。」


ウォルターが伏せる。大丈夫かな?


「重かったら言ってくれよ。別に急いでいるわけでもないし。」


そう言いながらウォルターの背に跨る。すぐにウォルターはすっくと立ち上がる。もののけ姫の世界だな。


「主の重さなど羽のようなものです。私の毛をしっかりと掴まえていてください。では参ります。」


ウォルターはそう告げると軽やかに飛び跳ねた。まるでカタパルトから打ち出されるように。


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