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016


引き続き冒険者の等級について詳しく訪ねようと思ったら、一角狼が目を覚ました。


「ウォフ、ウォフ」


と鳴きながら大きく尻尾を振り体を擦り寄せてくる。


「こらこら。傷の具合を見たいから落ち着け。ほら、大人しく傷を見せてごらん。」


そう話しかけると大人しくペタリと伏せる。


傷を見ると薄らと血が滲んでいた。塞がるまではまだ暫くかかりそうだ。


俺は怪我治療Cポーションを収納から取り出して狼に見せる。


「今からお前の傷にこのポーションをかける。もしかすると沁みるかもしれんが我慢しろよ。」


そう話しかけると、


「ウォン」


と短く返事をして耳を伏せ尻尾を足の間に隠すようにしまう。


このビビり方、子供の傷口を消毒する時と同じだね(笑)。


ポーション容器についている注ぎ口を使って、傷口に流し込むようにポーションをかける。


オキシドールをかけた時のようにブクブクと傷口が泡立つ。


数秒間ブクブクと泡立っていたが、不意に泡が消えると傷は綺麗に消え他の部分と同じ毛皮に変わった。傷跡が残ったり毛が生えずにハゲになったりはしていない。スゴい回復力だ。


どんどん傷口にかけていく。結構大きな傷が8箇所もあったので1本では足りないかと心配したが、上手いこと使い切った。


これ、人間なら骨が見えるくらいの大きな創傷でも1本で治療できるんじゃないか?我ながらスゲえな。


「良く頑張ったな。もう大丈夫だぞ。」


声をかけると傷があった場所を確認するように身体をくねらせて嗅いだり舐めたりしている。


一頻り傷のあった場所を確認すると嬉しそうにウォフウォフ鳴きながら擦り寄ってくる。


「治って良かったな。さあ、仲間の所に戻りな。」


そう声をかけるとペタリと伏せてクーンと甘えた声を出し、上目遣いで見つめてくる。まるで帰りたくないというような態度に見える。


「仲間と一緒にいるよりも俺と一緒にいたいっていうのか?」


話しかけるとおすわりの格好になって


「ウォン」


と返事をする。まるで俺の言葉を理解しているようだ。


「俺の言う事を聞いて良い子にできるか?」


と聞くと


「ウォン、ウォン」


と返事をする。


「良し、それならお前は今から俺の仲間だ。仲間の証しとしてお前に名前をつけてやる。」


そう言うと嬉しそうに尻尾を振りながら


「ウォン」


と一声鳴く。頭を撫でながら名前を告げる。


「お前の名前はウォルター。今日からお前は俺の仲間、ウォルターだ。」


そう告げると狼の体が眩い光に包まれる。思わず光を直視しないように目を細めながら手を翳して目を庇う。


数秒間続いた強い光が少しずつ収まっていく。完全に光が消えたのを見計らって手を下ろすと、角が3本に増え、体長が3mを超える大きな狼がおすわりをしていた。


「我が名はウォルター。今この時から命ある限り主に忠誠を誓います。」


お、おう?ウォルター?何故いきなり変身したの?神眼さんどうなってるの?


「異能力魔獣使役は、魔獣が使役を受け入れ従魔となった場合、使役者との意思疎通を密にするために知能が上がり、人間と同等の会話や思考が出来るようになると設定されていました。


しかし、何らかのイレギュラーに寄って、知能と共に魔獣自体が進化したようです。


現在の状態は上級魔獣と同等と思われます。なお、このような進化は記録にありませんし、角が3本ある狼型魔獣も記録にありません。新種の魔獣となります。


外観上の特徴から三ツ角狼と言う仮名を設定します。」


・・・・うん、もうどうしようもないから開き直ろう。


「ウォルター、今の状況を把握できるか?」


頭の中でウォルターに向かって話しかける。


「はい主。主から名前を頂き従魔として契約を受け入れた際に、主の魔力が私の中にスゴい勢いで流れ込んできました。そのおかげで賢さと強さを手に入れる事が出来ました。


現在の私の状態は、肉体的な能力は一角狼だった時の10倍ほど、さらに風と雷と土の魔法を扱えるようになりました。現在は初級魔法しか扱えませんが、習熟度が上がれば上位の魔法も扱えるようになると思います。」


いやいや待って待って。俺、魔法を使えないはずなのに、何で魔力があるの?転移する時にハッキリ言われたよ?魔素を取り込み魔力とする事ができないから魔法を使えないって。話が違うんだけど?


ルーテミス様!現在の状況を説明してください!


軽くパニックに陥っていると突然眩い光に包まれ、ふわりと身体が浮くような感じがした。


光が収まるとそこは白い部屋だった。あ、一番最初に神様たちと会った部屋だ。そしてルーテミス様が椅子にかけてこちらを見ていた。


「富丘さん、どうぞおかけください。」


そう言いながらルーテミス様の前にあるソファーを手で指し示す。


「失礼します。」


そう声をかけてソファーに腰を下ろす。ウォルターはソファーの横でおすわりの姿勢だ。


「まずは現状の説明です。ウォルターは富丘さんの魔力によって新たな力を得た、と言っていますが、実はそれは間違いです。


私が最初に説明した通り、富丘さんは魔力を取り込む事も操る事もできません。なのでウォルターが感じたのは魔力ではありません。」


ルーテミス様はそう言った。


「ではウォルターが魔力と感じた力は何だったのでしょうか?何故このようなイレギュラーな進化が起きたのでしょうか?」


ルーテミス様に尋ねる。


「従魔契約時には、密な意思疎通が可能なレベルまで魔獣の知性を引き上げ、使役者と従魔感だけで念話を行えるように、双方の魔力を混ぜ合わせて相互間だけの共用チャンネルのような魔力の繋がりを作るように設定しました。


これがそもそものミスです。富丘さんが魔力を持たない、扱えない事を失念していました。


結果、従魔契約の際に、富丘さん側は魔力ではなく精神力、分かりやすく例えると『気』を魔力の代替として使用する事になりました。


富丘さんの気が膨大かつ強力だったため、ウォルターの知的レベルを大幅に引き上げただけでなく、肉体も大幅に強化される事となりました。


その結果、まるで上位種に進化したようになったわけです。一角狼には上位種は存在しませんので、全く別の魔獣になってしまいました。」


なるほど、現状は理解できた。しかしまた別の疑問が湧き上がる。


「私の精神力、分かりやすく例えると『気』が膨大かつ強力だと仰いましたが、本人は全くそんな自覚はありませんし、精神力もそれほど強くはないと思うのですがどうなんでしょうか?」


再び尋ねるとルーテミス様は微笑みながら答えてくれた。


「自覚が無いのかもしれませんが、富丘さんの精神力は非常に強いです。その強い精神力で自我を保つ事ができたからこそ、貴方の魂は消滅せずに時空の狭間に残る事ができたのです。


これが普通の精神力の人なら、時空の狭間の暗黒に包まれた時点で魂が跡形もなく消滅してしまいます。」


どうやら俺は自分の知らない力を持っていたようだ。


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