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013


生き物の気配で目が覚めた。


薄眼を開けて横を見るとリスが一匹、木の根にしがみつきながらこちらの顔を覗き込んでいた。


もしかしたらここに木の実を埋めにきたのかな?邪魔をしてしまい悪かったかな?と考えていると、こちらへの興味を失ったのかチョロチョロと走り去り、朝靄の中に消えた。


目を開けて一つ伸びをし、立ち上がって体を動かしながらほぐしていく。


今日も気分爽快だ。


毛布をしまい、まずは便所に向かう。


昨夜ワインを飲んでそのまま収納したカップと水筒を収納から取り出して、カップに水を注ぎ軽く濯ぐ。


水を捨て新たに注ぎ、口を濯ぎ便所に吐き出す。


2度繰り返し、残った水を飲み干すとカップと水筒を収納し、トイレットペーパーを出して大小の用を足す。


使用済みペーパーを燃やして土をかけ、寝床に戻る。


エスビットポケットストーブを取り出し、昨日拾った小枝の残りで火を熾す。


小さなカップに水を注いで火にかける。


パンの食料袋を取り出し、半分だけ食べやすくカットし、残りは袋に戻す。


小さいカップなのですぐに湯が沸く。


カップを火から降ろし、スティックコーヒーを二本入れ、スプーンでかき混ぜる。


刻々と変わっていく空のグラデーションを眺めながらパンを齧り、コーヒーを啜る。


食事を終え、ポケットストーブに小枝を足して火を大きくし、カップに水を注いでスプーンを入れ、よくかき混ぜてから火にかける。


沸騰したらさらにかき混ぜて中を濯ぎ、便所にお湯を捨てに行く。


カップとスプーンをトイレットペーパーで拭き取り、収納へしまう。


小用を足し、便所を埋め戻す。


寝床に戻ってポケットストーブの残り火に使用済みペーパーを入れて燃やす。


火が燃え尽きた所でポケットストーブをしまうと、木の根に手を当てて


「世話になった。ありがとう。」


と礼を言う。優しい風が頬を撫でるようにふわりと吹き抜けた。


川下へ向けて歩き出す。おそらく今日あたり滝に辿り着くだろう。


水の音を聞きながら歩き続ける。もちろん森の恵みの採取も忘れない。


3回目の休憩を終えて歩いていると、激しい水の音が聞こえ出した。滝が近いな。


そのまま一時間ほど歩き、滝が見える所まできた。


うまく稜線を辿りながら歩いていたおかげで、滝を見下ろす位置にいた。


立派な滝だ。滝壺も直径50m程ある。周囲は岩に囲まれていて、残念ながら降りていくのは難しそうだ。


ああ、降りられたら釣りをしたいのに。絶対大物がいるに違いない。


口惜しい思いをしながら、再び歩き出す。


滝からは急激に下りになっていて、どんどん距離を進める。


これは逆に滝に向かうのはかなりキツい道になるってことだ。


道理であの湖まで人が入っていないわけだな。そんなことを考えながら足を進める。


途中獣道が複数見られ、場所によっては草原が開けていて、なだらかな斜面が川まで続いていた。


これ幸いと河原に下り、水を神眼で鑑定すると「飲用可、煮沸の必要無し」と出たので安心して空になった水筒に水を汲んだ。


すでに3つ目の水筒に手をつけていたので、今日あたりから水を節約するかと考えていたので助かった。


飲んでいる途中の水筒はもちろん、手をつけていない水筒も中の水を捨て、新しい水に入れ替えておく。


収納に入れているので悪くはならないが、気分的なものだ。何より、ここで水を汲んで収納に入れておけば、川から汲みたての冷たい水が飲める。


さらにワインの入った水筒を取り出し、岩の間に挟み込んで川の水に浸けて冷やす。これで冷えたワインを飲める。


ワインを冷やしながら休憩を取ることにする。


ちょっと深めの淵を見つけ、装備を外して岩の上に置き、服を脱いで全裸になって川に飛び込み水浴びをする。冷たい水が心地良い。


思う存分全身を洗い流して川から上がり、収納の異世界EDCギアフォルダーから圧縮タオル、日用品フォルダーから着替えを一式出す。


文庫本ほどのサイズに圧縮されたバスタオルは、水に濡らすと元に戻る。


一度戻して固く絞ったタオルで体を拭き新しい服に着替えて、装備を整えてから身体を拭いたタオルと脱いだ衣服をザブザブと洗い流して汚れと臭いを落とす。


洗い終えたら固く絞り、流木の枝を利用して干す。


今日はここで野宿することにして、ノンビリと川の流れを眺める。


時折りキラリ、キラリと水の中で魚影が輝く。


我慢できずに収納の異世界EDCギアフォルダーから自作のサヴァイバルキットを取り出し、釣り糸と釣り針を用意する。


3m程の長さの太めの枝が付いた流木があったので、LEATHERMAN SUPER TOOLを取り出し、内蔵の鋸で切り取る。


LEATHERMANは折り畳みのプライヤー(ラジオペンチ)のハンドルにナイフの刃や鋸、ドライバー、缶切りなどのツールを収納している。


ナイフがメインではなく、あくまでもツールの1種類としてナイフが収納されているので、マルチツールと呼ばれている。


品質が高く25年保証が付いている事で有名だ。


俺のSUPER TOOLはもう少しで保証期間が切れるくらいの長い付き合いだ。様々な場面で活躍してもらった。


異世界でも頼むぜ、相棒。


切り取った枝の先に釣り糸を結びつける。


靴を濡らさないように注意しながら石をひっくり返し、川虫を捕まえる。


収納からビニール袋を取り出して捕まえた川虫を入れ、淵へ戻る。


川面へせり出した大きな岩に登り、釣り糸にかみつぶしの重りを付け、針に川虫を刺してそっと水の中へ振り入れると、途端にガツンとアタリが来た。枝が大きくしなる。


糸を切られないように、かつ、岩の下に潜り込まれないように、竿代わりの枝を必死に上下左右に動かす。


しばらく暴れていたが、やがて力尽きたのかユックリと浮かんでくる。50cmはあるニジマスのような魚だ。


慎重に枝先を上げ、岸へと寄せていく。岩を降りて枝を脇に挟み、釣り糸を手でたぐり寄せて獲物を岸に引き上げると、すぐに鬼神-Daemone (Large)-で鰓の下を切り、鰓を引き出す。


少し暴れたがすぐに動かなくなる。そのまま腹を割いて内臓を掻き出し、腹の中を綺麗に洗い流す。鰓と内臓はそのまま川に流す。他の生物の栄養になるだろう。


竿に使った枝から外した釣り糸と釣り針を収納に戻し、枝も収納に入れてから、あらためて魚を見ると神眼で鑑定する。


「ニジマス。食用可。毒、寄生虫共に無し」


と出た。あ、コッチでもニジマスで良いのね。


「富丘さんの地球の知識に合わせて表示しています。リアースでの正しい呼び名は違いますが、他者と会話でやりとりする時は自動で相互翻訳されます。」


じゃあリアースでの固有名詞は覚えなくて大丈夫なわけね。こりゃ楽だわ。


そう考えながら川から離れ、干してある服が見える風下の場所で、ひときわ大きな岩の脇に石を拾い竃を組む。


せっかく洗った衣類に煙の臭いがつくのは嫌だからね。


LEATHERMAN SUPER TOOLを使って付近の流木から薪を集める。


薪も収納に入れちまえば持ち運びの必要がなくて楽チンな事に今さら気づく。


切り取ってはどんどん収納していく。調子に乗って結構な本数の枝を切り落として収納したので、竃へと戻る。


収納から太い枝を3本ほど取り出し地面に置くと、異世界EDCギアのフォルダーからS&W PAUL BUNYANを取り出す。


S&W (スミスアンドウェッソン) は銃器メーカーとして有名で、往年の洋画ファンなら必ず知っている、某はみ出し刑事が使った.44マグナムM29などを製造販売しているが、手錠や警棒、ナイフなども製造販売している。


そのうちの一つがこのPAUL BUNYANで、ハチェットと呼ばれる小型の手斧だ。刃の反対側はハンマーになっていて、テントを張る時にペグを打つのにも使える。


「老人と海」で有名なヘミングウェイの短編集の中で、釣りをしながらキャンプをする話があるのだが、その中で手斧で木の幹に釘を打ちつけ、そこにリュックを下げて食料を野生動物から保護したり、木の切り株から薪を切り出したり、切り出した木でペグを作り、テントを張る時にそのペグを打ったりと、とにかく活躍していたのだ。


そんなシチュエーションに憧れてネットで中古を購入したのだが、BBQの時にコンロに入るサイズに炭を割ったり、焚き火台で焚き火をするための薪を割ったりとかなり活躍してくれた。これからも助けてもらおう。


集めた薪を適当な大きさに切り分けていく。


二股になった枝を二本用意し、竃の横の地面に突き刺して立てる。


鬼神-Daemone (Large)-で枝を薄く削り毛羽立たせてフェザースティックを作る。


さらに流木から剥いだ樹皮を刃で刮げて薄皮を剥き集める。


竃の中に樹皮の薄皮を山にして入れ、細めの薪で薄皮を囲むように三角に組んでいく。


組んだ三角の中にフェザースティックを数本入れ、細く切り出した樹皮にライターで火を着け隙間から薪の中に差し込むと、薄く削った樹皮にすぐに燃え移りパッと火が上がった。


そのまま眺めていると無事にフェザースティックに火が移り、順調に燃え始めた。


周りに組んだ細めの薪も燃え始めたので少し太めの薪を足していく。


太めの薪も燃え始めたので、火を均してさらに太い薪を焼べる。


どんどん火が育ってきたので、収納から岩塩の袋とZERO TOLERANCE 0560 BWを取り出した。


ZERO TOLERANCE 0560 BWはフリッパーオープンという振り出し機構が付いたナイフで、片手で刃を振り出せる優れ物だ。


すでに絶版のナイフだがたまたまネットで知り合った人に譲ってもらえたのだ。


今は0560よりも少し小さい0562が販売されている。


ZERO TOLERANCE 0560 BWの厚手の刃の峰を利用して、袋の中で岩塩を削る。


ある程度溜まったらニジマスを取り出し丁寧に塩を擦り付ける。腹の中にもタップリと擦り付け、薪を削った串に刺して一旦収納する。


川に向かい手を洗うと、冷やしておいたワインの水筒と干してあった洗濯物を回収する。もうすっかり乾いていた。


竃の火を眺めながら、小さいカップでよく冷えたワインをちびちび飲む。カップに注いですぐに水筒を収納すれば温くなることはない。はあ、幸せだ。

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