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011


湖のほとりをのんびり歩いていると川が見え始めた。


川から15mほど離れて水の音を聞きながら川下へ向かって岩場を歩く。


水の音が一定の大きさで聞こえるように意識しながら歩いていると、休憩を一度はさみ、合わせて二時間ほど歩いた所で渓谷の上に出たようだ。


一休みしながら周囲を見渡す。


現在位置での渓谷の深さは3m程だが、川下へ向かいどんどん深くなっていく。


これが川から距離を置いて歩いた理由だ。水辺を歩いていたら、いつの間にか渓谷になり足場が無くなって前に進むことができなくなり、渓谷を登ることもできずに大幅に引き返す羽目になっただろう。


ここからは渓谷の稜線を意識しながら歩くことにする。


あまり崖の方に近づくと足元が崩れ滑落する恐れがあるので、一定の距離を保つのを忘れない。


一時間くらいごとに休憩を取るように心がけながら稜線を下っていく。


「神眼さん、俺の視界の範囲で薬草や食用になる物があったら教えて欲しい。」


そう思い浮かべると、視界いっぱいにパネルが拡大され、まるでARの様にシルエットを囲う光と光の上に名前が浮かび上がるように表示される。


ドクダミ、甘草、芍薬、ゲンノウショウコ、紫蘇、クコ、オオバコ、スイカズラ、ハッカ・・・・。高麗人参や生姜、自然薯などもある。


手に取ると採取して良い部位が表示されるのでそれに合わせて採取する。


山葡萄、コクワ、野イチゴ、スモモ、アケビなどもあった。キノコも沢山ある。シメジ、舞茸、椎茸、松茸、ボリボリ(ナラタケ)、タモギなどなど。収納に「採取物」のフォルダーを作ってどんどん収納していく。


途中の休憩中に干し肉を取り出し、適当な大きさに削り取った物を齧りながら昼飯代わりにする。塩味と肉の旨みで空腹感を誤魔化す。


6回目の休憩時には陽が大分傾いていたので、早めに野営の準備をする。


大きな木の根元と倒木に挟まれたような形でスッポリと隠れられるくらいの洞穴状の場所を見つけ、落ちている小枝を拾い集め、落ち葉をかき集めて平らなスペースを確保する。ここなら雨が降っても安心だ。


洞穴の奥に異世界EDCギアから取り出した折り畳みスコップを使って浅い穴を掘る。


掘った土は穴の横に盛り、スコップで軽く叩いて固めておく。


この折り畳みスコップは自A隊の携帯猿臂(けいたいえんぴ)と呼ばれる物で、鍬のようにして使うこともできる。


放出品を扱う店で見つけて購入し、車に積んで置いて様々な場面で助けて貰った物だ。


掘った穴に拾い集めた枝を入れ、エスビットの固形燃料を焚き付け代わりにして火を熾し、焚き火をして中の湿気と虫を追い払う。


虫払いをしている間に周囲を回り、さらに薪を集める。


そうしているうちに陽が沈み、満天の星空が広がり始めた。


今夜は半月のようで、歩くのに充分な明るさをもたらしてくれた。


調子に乗って二抱えほども薪を集めてしまったので、異世界EDCギアからパラコードを取り出し、二つの束にしてパラコードの両端で結えると、体の前後に振り分けて肩に掛け今夜の寝床へと運ぶ。


パラコードとはパラシュートコードの略で、僅か4mmの太さで250キロもの荷重に耐えられる頑丈なロープだ。30m程の長さの物を束ねてポーチに入れてあったのだ。


タープを張る時に使ったり、濡れた衣類を干すのに使ったりと、なかなかに便利な物だ。


焚き火の横に薪を積み上げ、何本か焚き火に焼べると、スコップを持って再度外に出る。


大木の陰に穴を掘り便所にする。ここなら風が吹いても寝床に匂いが流れてくることはないだろう。


大小の用を足し、収納から取り出したトイレットペーパーで尻を吹くと、ライターで火を点ける。


紙の繊維は自然の中では分解され難く、醜く残ってしまう事があるからだ。


燃え尽きたのを確認して浅く土を被せる。明日の朝にも使うから完全には埋め戻さない。


寝床に戻り、太めの薪を数本並べてテーブル代わりにすると、収納からパンと干し肉の食料袋、水とワインの水筒、大小のカップとカトラリー、カップスープ(コーンポタージュ)を取り出して簡易テーブルに並べていく。


大きいカップに水筒から水を注ぎ、焚き火の横に盛った土の上に置く。


薪の中から適当なサイズの枝を3本ほど手に取り、鬼神-Daemone (Large)-で串状に削る。


干し肉の塊をスライスベーコンのように削り、作った串で縫うように刺して、盛り土に串の柄側を刺して立て、火で炙る。


パンを一つ丸々スライスする。


カップから湯気が立ち始めたのでカップスープ(コーンポタージュ)を2袋入れ、スプーンでかき混ぜる。


干し肉がジュウジュウと音を立て始めたので火から下ろし、パンに挟む。大きなサンドイッチが3つ出来た。


小さなカップに水筒からワインを注ぎ、一人乾杯をする。


カップのワインを半分ほど飲み、サンドイッチを食べ始める。


一口齧り取ってはスープを啜り、黙々と食べて行く。疲れた身体に力が満ちていく。


30分ほどかけてゆっくりと食べ終え、ワインをお代わりする。


スープを飲み干したカップの汚れを落とすために水筒から水を注ぎ、スプーンを入れてよくかき混ぜてから再度火にかける。


スープを飲む時は取手側に口をつけていたので、汚れが焦げ付く心配はない。


お湯が沸くのを待つ間に毛布を取り出し、一枚を地面に敷く。


靴と靴下を脱ぎ、足を解放する。ガンベルトも外し毛布に置く。


レミントンM870MCSブリーチャーは襷にかけていたスリングを外し、膝の上に置く。


火の様子を見ながら太めの薪を足す。


大木を背もたれにしてよしかかりながら焚き火を眺める。パチパチと音を立てながら燃える火は見飽きる事がない。


ボンヤリと眺めながらワインを飲む。


お湯が沸いたので火から下ろし、中を濯ぐようにスプーンを回して中のお湯を焚き火の穴の縁に捨てる。


トイレットペーパーを取り出して2つのカップとスプーンを拭き取り、使用済みペーパーを焚き火に放り込む。


水の水筒と小さいカップだけを残し、収納へしまう。


焚き火に太めの薪を数本足し、ブリーチャーを胸に抱くと、もう一枚の毛布を取り出して包まり、大木によしかかりながら眠りにつく。


「ここは安全だよ。ゆっくりとお休み。」


と誰かの声が聞こえた気がした。優しい声だった。


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