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(俺が)巫女服好きだと!?  作者: 大久保ハウキ▲
4/7

仮4

 熊主任も降車し、指揮車内には俺と副主任が二人になった。

「……意味がわからねぇんだが、説明もなしなのか?」

「主任たちは仕事に戻してもオッケーだという判断だよ……」

「そこじゃねぇよ……池田銃とかいうFPAの装備品の話から、どうしてこういう状態になったのかが訊きたいんだが? 主任を含めて人払いまでしたんだから、副主任が俺に告白する為なんだろ? 俺が見抜けないなにを隠しているんだ?」

 愛の告白だったら、副主任をぶっ飛ばす。

今はそれどころじゃない事態で、富士村社長と鈴板元社長は出動中だ。

「これは……剣のお爺さんも含めて、殆どの人が知らないことだ……いや、今はもう剣のお爺さんには知られているか……」

「俺が空軍最後の任務で同僚をFPAに撃墜されたことを気にして口籠るなら、それは副主任の俺への評価が低いぜ?」

「え?」

「確かに俺はFPAを憎んでいるように見えるんだろうが、俺が憎んでいるのは、俺の上司や同僚たちを数十秒で撃墜して、俺と勝負もしなかったFPA隊の話だ。社長と元社長が対FPA……つまり、FPAに対抗出来るのはFPAだけなんだから、そのパイロットであっても、俺は驚愕という程の驚きはない。爺ちゃんに頼まれて俺たちの部隊を襲ったのが社長と元社長でも、全世界の人類を平和にさせる為なら、やっていても驚きはない……ただ、病室で思い付いた時は、ちょっと悲しくなっただけだ……折角同じ職場の上司と部下の関係になったのに、俺の敵だった場合を想定したからな……」

「剣……僕はどう話せば良いのか迷っているんだ……」

 成程、副主任も俺を部下として一応は認めてくれているんだな。

「わかった。想像はしたが、それは俺の想像であって答えじゃない。副主任は俺の質問にイエスノーで答えれば良い」

 俺はそう言って腰から拳銃を引き抜き、皆がいなくなった指揮車後部に捨てた。

「剣?」

「こういうのもどうかと思うが、俺はどんなことを聞かされても、副主任の敵にはならん。それでも俺は人間だから、感情を抑えきれない場合もある。拳銃を捨てたのはその保険みたいなもんだよ……さて、質問だ」

「う……うん……」

「俺の所属していた空軍部隊を襲ったのは、富士村社長と鈴板元社長か?」

「……ノー。あれは誰も予想していなかったんだよ……FPA装備者が関東に潜伏しているのは、剣のお爺さんも知らなかったんだ」

「そうか……オッケー。俺の頭にその情報はインプットした、意見交換はあとだ」

「うん……」

「遺跡に近いようなFPAを装備して、札幌攻略は可能か?」

「……イエス」

「そうか……北方特別清掃社内にFPA装備が出来る人間は、社長と元社長以外にいるのか?」

「い……イエス」

 成程な。

 俺は自然に握り締めていた拳を少し緩めた。

「社長と元社長は普段体内にFPAを装備していないな?」

「イエス……剣……あのね……」

「いい、喋るな。俺は割とバカだからな……頭でまとめている最中だ。質問にだけ答えてくれ」

「……わかった……」

「はぁ……」

 最後の質問の答えによって、真実が明らかになり、俺のこのもやもやは解消出来るだろう。

 だが、ため息が出てしまった。

 ここまで答えてくれた時点で副主任の正体は明らかだ。

 俺が観察眼で見通せないのは、狂人病ワクチン能力者じゃないんだ。

「……俺がこの会社に呼ばれた理由は、ワクチン能力者の首改めの為じゃないよな?」

 ひとつ質問を挟む。

 なんとなく真実を知るのが嫌で、引き延ばした質問になってしまった。

「イエス……」

「つまり、小樽での狂人病テロの際、副主任は河乃と不二雄とオオシタ救助の為にFPAを装備したのか?」

「ノー……僕のはその……装備するとかじゃなく……」

「……副主任のフルネームを教えてくれないか?」

「剣? それはイエスノーじゃ答えられないよ……」

 俺は悪いとは思ったが、指揮車の窓を開け、タバコに火をつけた。

 ゆっくりと煙を吐き出す。

「FPA‐最終型OOIZU式‐世界に一機しか存在しないと言われるFPA……大伊豆夫妻は自分の生まれたばかりの娘にその術式を施し、富士村さんと鈴板さんに託した……違うか?」

「…………イエ……ス…………」

「わかった……俺が副主任を観察出来ない理由がな……」

 俺の観察眼は基本的に『生き物』しか見られない。

 副主任の体の何%がFPAなのかは知らないが、少なくとも喜多川の義足以上の数値だろう。

「どうして……僕の型式を知っているの?」

 俺の横顔を見ながら訊いた副主任の目に涙が溜まっていた。

「俺の実家は軍人一家だ……その家に生まれた俺だが、一族に観察眼を持つ人間は一人もいない……そりゃそうだ。この目は人工的に作られた物だからな……こんなところで俺の正体を明かすことになるとは思わなかったが、俺の目はFPA専用のスコープなんだよ……まあ、目の他にいじられているのは頭くらいだがな……」

 俺は額にかかった髪の毛を上げ、そこにある第三の目を開いて見せた。

「俺はちょっとした反抗期で空軍に入隊した……爺ちゃんも両親も怒ったよ……だけどな、どこの誰だかもわからないFPA装備者の目としてだけ使われる運命ってのは、回避したかったんだ」

「剣……」

「俺がFPA装備者を見通せないのは、対FPA戦の際、見抜けない場所を撃ち抜けば、絶対に命中するからだ。見えている場所にFPAがいないならば、見えない場所を撃てば当たるという滅茶苦茶乱暴な理論だな。爺ちゃんが俺を北方特別清掃社に送り込んだ理由は、来るべき疲弊消耗戦で投入されることが予想出来るFPA戦のシミュレーションの為だろう……俺はわがままだから、相性の良い相手がパートナーでなければ、拒否することもあるんだ。それが爺ちゃんの言う世界の平和の為でもな……FPAの型式を知る理由は簡単だ。小さい頃覚えさせられたからだよ。この目を何に使うかも知らない頃の記憶だから、忘れることもない……それでも、空軍にいた頃は忘れていたかな……大伊豆と言われて違和感はあったが、それは北海道に来るまでの船旅中に読んだ本のせいだと思い込んでいたからな。たくさんヒントを貰っていたのに、相変わらずバカな頭だよ……」

「み……魅窈だよ」

「ん?」

「僕の名前……」

「へぇ……なかなか可愛らしい名前じゃないか?」

「……ありがとう……名前を褒められたのは初めてだよ」

 副主任は顔を赤く染め俯いていた。20歳の俺が13歳の副主任を可愛いと思うのはおかしいことだろうか?

「……さて、いくつかの謎は残ったものの、謎解きも終わったことだし、副主任の両親を死なせる訳にもいかないからな……札幌に戻るか?」

「うん……色々知っていたのに……黙っていてごめんなさい……」

 俺は副主任の頭をグリグリと撫でてやる。

「気にするな。狙撃の際には俺の目を使え……多分その辺のリンク能力は俺の頭にも内蔵されている筈だからな……まあ、どうせなら、俺がFPAで副主任が指揮の方がいつも通りで良い気がするんだがなぁ……」

「僕たち……生まれた瞬間から体を改造されちゃった者同士だね……」

「俺にとっては携帯電話を頭に埋め込まれたのと大差ないさ……」

 副主任はFPAの常時装備者。

 それだけわかれば、今は良い。

 他の謎はその都度訊くことにしよう。

 今は札幌で暴れる池田銃装備者の鎮圧が先だ。

 俺は指揮車の向きを変え、サイレンと赤色灯を回しながら高速道路を逆走し始めた。

「池田銃の最高到達狙撃距離はわかるか?」

「500メートルだよ……」

「そうか……副主任の装備品の中で最も狙撃能力のある銃はどれくらい離れて撃てる?」

「……2キロ……でも、そんな狙撃はしたことないよ?」

「俺の目は三つ開ければ7キロ先までの狙撃が可能だから、楽勝だな」

「7キロ!?」

「まあ、今のところ、世界で探してもそんなに距離の撃てる狙撃銃は存在しないんだがな……これからのことを考えて、爺ちゃんが余計な機能を付けたんだよ。更に俺の集中とFPA装備者の能力が加われば、俺のサポートで18キロまで狙撃可能だ。高速の入り口付近からなら、高い建物に邪魔されなければ撃てるだろう」

「……もしも、剣の所属していた戦闘機隊で、剣が編隊を離れていなかった場合があったとして、剣は戦闘機でFPAを撃墜出来ていたの?」

「さあな……それはわからん。俺の動体視力よりも戦闘機が遅いし、俺の体は普通の人間だからな、頭で思って指がトリガーを引くまでの時間差で逃げられるんじゃないかな? FPAが単体であるならまだしも、部隊だった場合はそれどころじゃないだろうな……機体にスペックの開きがあり過ぎる」

「僕の……FPAの性能についてはどれくらいの知識を持っているの?」

「俺はFPA装備者を見通せない。だからFPAを見たことはないんだ。だから型式しか知らないさ……そりゃあ、図面くらいは見たことがあるけどな……」

「それじゃあ、僕が今どういう状態でいるかは剣にはわからないんだね?」

「その清掃社の制服がFPA本体だと言われても、驚きはしないな。確かOOIZU式は和装だと聞いた覚えがあるけどな……」

「そっか……じゃあ、準備するから、運転よろしくね」

 そう言って副主任は助手席から誰もいなくなった指揮車後方に移った。

 バックミラーで確認すると、制服を脱いでいるのが見えてしまう。

 こちらに背を向けているが、相変わらずノーブラだ。

下着に手をかけた所で俺はミラーの位置をずらした。

 そういう覗き趣味はないんでな。

「一旦全裸にならんと装備出来んのか?」

「まあね……超伸縮性の服でも着ているなら話は別だけど……フル装備でふた回りくらい大きくなるから、普通の服は破れてしまうんだ。だから装備する時は服を全部脱ぐよ」

 百年くらい前にそんなアニメが日本で放映されていたと聞いたことがあるような。

 言われてみれば、その手の子供向けヒーローヒロインもので、服が破れたあとのことはあまり触れられていないか……まあ、子供向けだからな。そんなリアルさは要求されないものなんだろう。

 副主任は喜多川の席に畳んだ制服と下着一式を置き、俺の視線から胸の辺りが隠れるように助手席の背もたれでガードした。

「装備しないのか?」

「制限時間があるんだよ……今の技術では装備して八分が限界だね……剣が狙撃位置を決めて車を停め、降りる瞬間に装備するよ」

「そうか……それは初耳だ」

 俺は前を見たままで、バックミラーの位置を元に戻す。

 調節していると一瞬副主任の顔がミラーに映る。

 流石に素っ裸の副主任の顔は赤かった。

 当たり前か……成長は遅いにしても、13歳の女の子だからな。

 更に運転手は20歳の男だ、恥ずかしいよな。

「剣の目は開いたままで大丈夫なの?」

「そうだな……使ったあとは一週間ほど乾き目の状態で苦労するが、制限時間は特に決められていないな」

 そう言っている間に札幌市内に入る。

 俺が探しているのは高速道路の監視をする為の塔だ。確か5キロおきに設置されている筈で、そこの屋根からなら建物に邪魔されずに狙撃出来ると考えていた。

「テレビ塔遺跡方面に爆煙を確認。成程……社長と元社長は中距離から接近戦が専門という装備なんだな?」

「うん。どちらも遺跡級のFPA装備なんだよ。社長は名古屋のお城の上にあるお魚のウロコで、か……元社長は北海道先住民族の長が使っていた弓だよ」

 FPAは近代兵器だが、旧時代にも時代の頂点に立つような物は遺跡級として登録されている。わかり易く言えば、ロンギヌスの槍やベートーベンの指揮棒もその手の装備品に含まれ、 今回の池田銃、名古屋城の屋根にある魚のウロコ、アイヌ民族長の弓もその中に含まれるんだな。

最新式の勉強を少々しただけの俺の知識では、まだまだ知らない遺跡級が沢山あるんだろう。

 勿論、国際条約上FPAの地上戦投入は厳禁とされているから、これはこちらも条約違反だ。

 しかし、その二十五年前の条約を守っているが為に、各国は疲弊し、一般市民を巻き込むテロが頻発しているのも事実だ。

「それで……俺を私設軍隊に入れたという訳か……国際条約違反になるのは『国』だからな。俺が小学生の時に考えた軍神富士村の撤退理由ならば、北方特別清掃社は国の組織ではないものな……市民蜂起による革命が爺ちゃんの最終目的か?……」

「剣?」

 心配そうな顔で副主任が俺の顔を覗き込んでいた。

 我に返り、俺は監視塔の横に指揮車を停める。

「大丈夫だ。今はそんなことを考えている場合でもない。わかっている……監視塔を偵察して来るから、副主任はここで待機してくれ……」

 そう言って指揮車を降りる瞬間、ドアミラーになにか当たった。

「!!」

 砲弾を防弾出来る程の厚みを持つドアが一瞬で吹き飛ぶ。

「剣!! 戻って!!」

 ドアノブに手をかけていた俺は吹き飛ばされたドアと一緒に車外に転落していた。

「痛っ! くそ……社長と元社長が池田銃装備者をこちらに追い詰めていたか……副主任、装備してくれ!」

「パートナーのパスワードが必要なんだ!! 剣の声が……うわ!?」

 社長と元社長に追い詰められた池田銃装備者が高速道路の向こうに見えていた。

 こちらに気付いたらしく、撃って来ている。

 副主任の乗る助手席のフロントガラスにガンガン当たっている。

 ガラスに角度をつけておいて正解だった。

 池田銃は旧式の銃だから、威力はそんなに高くない。

 まあ、ドアは吹っ飛ばしたから、人間に当たれば粉々かも知れないが……

「パスワード!? それを先に言ってくれっ!!」

 俺は路上にいるのが危険だと判断し、監視塔の陰に飛び込む。

 正確には池田銃装備者の姿を確認しただけで、全体は見えていない。ぼやけて見えるのは右腕だから、池田銃はそいつの右腕に装備されているんだろう。

「名前!! 名前だよ!!」

 名前?

「それがパスワードなんだよ!!」

 ああ、そうか……それで9班の班員でも副主任のフルネームを知らないのか……

「……最終セーフティ解除! OOIZU式FPA装備起動! リンクパートナーYASUDA式観察眼鷹目! パスワード! 魅窈っ!!」

 俺の叫びと同時に指揮車の中で金色の光が見える。

 池田銃装備者の銃弾がその光で弾かれている。

 光ったのは一瞬で、また銃弾の雨霰が俺の足元に降り注いで来た。

 やばい! 当たる!?

 そう思った瞬間、俺の前に副主任が立ちはだかり、全ての銃弾を叩き落とす。

「……副……主任?」

 金色の光を体にまとい、巫女服になっただけにしか見えないが、髪の毛がロングになっている。更に、身長が俺より少し低いくらいに成長している。

 ついでに、背中に白い翼。

「これが……OOIZU式?」

「……そうだよ。でもね、剣。このイメージはちょっと貧困だよ?」

「あ?」

「パートナーの思い浮かべる思考がかなりトレースされるんだけれど、これも和装と言えば和装に入るか……でも、希望を言えば、次からは振袖とかイメージして欲しいな」

 その笑顔は、受付にいる時の鈴板元社長にそっくりなくらい魅力的で、俺は頭がクラクラした。

 その尻持ちをついた状態の俺を見下ろす映像が頭の中に流れる。鷹目のリンクは成功したようだ。

「剣が20歳だからね。僕の体も20歳に合わせないと、鷹目のリンクが出来ないんだよ……恥ずかしいからあんまり見つめないでくれるかい?」

 あまりの神々しさに思わず現状を忘れて見とれてしまっていたようだ。

「大伊豆!?」

 そこに富士村社長と鈴板元社長が現れる。

 二人は旧式のFPAだけあって、どうみても富士村さんは大きな造り物の金色のウロコを持ったオジサンで、香由貴さんは小型の弓だけを持った奇麗なお姉さんにしか見えない。

 副主任とリンクしたことによって、俺の目ははっきりと装備品を見ることが出来た。

「1班主任、4班主任。ここは僕と剣が引き受けます。被害個所の救出活動及び、復旧活動の指揮をお願いします」

「お、おう」

「魅窈ちゃん……」

 初めて香由貴さんが義理の娘の名前を呼んだ。

 副主任はそれに笑顔で応えて、1キロ程先にいる池田銃装備者に向き直る。

「野洲舵……」

「はい?」

社長が俺の右から顔を出す。

「お前の趣味云々に口出しする気はないが、巫女はよせ……」

「え? いや、その……俺は別に……」

「良いんじゃない? 似合っているし……なんならウチの会社の制服も皆巫女服にしようか?」

 俺の左側で元社長が乗り気だ。

 なんとなく和装と聞いていたので、神社とか思い浮かべたのは事実だが、俺はそんなコスプレ趣味を持ち合わせていない。

「若い娘も入社したしな……って! そうじゃなくてだな!?」

 社長のノリツッコミ……

 この人たちは確かに俺の上司たちなんだが、どこにでもいる普通の家族みたいな会話も出来るんだな。

 俺の実家でやったら大変だろうが、祖父なら乗ってくれるかも知れん。

 そんなことを思いながら立ち上がる。

「やれるか? 魅窈」

「うん。リンクは上手く出来た。僕の背中に隠れていてくれれば、防御は僕の翼が全部やれる。狙撃より近接戦闘になりそうだから、剣の目で追ってね」

「ああ、了解!」

 副主任の目を通して俺の頭に流れ込む映像は、俺の初めて見る物だった。

 あれが池田銃か……

 軍服とも作業服とも判断し兼ねるツナギ服の男の右腕に確かにその銃は融合している。

「……近接戦闘であの男の右腕を切り落とせば勝ちだ。裁く必要はないからな……」

「うん。僕も人殺しはあまり好きじゃないから、その程度で済ませたいね」

 副主任が背中の翼から羽を一枚抜くと、それが伸びて光を放つ刀に変形する。

 FPA装備者同士の戦闘の場合、1キロの距離は普通の人間の20メートルくらいで対峙しているのと同じだ。

 危険を察知したのか、池田銃装備の男は下がる。

 俺はドアの壊れた指揮車に乗り、緊急バーストモードという危険極まりないロケットエンジンに点火した。これなら戦闘機と同等のスピードが二十秒間出せる。

 副主任は翼を振って池田銃の男を追尾し始めた。

 アクセルを思い切り踏み込み、指揮車ハンドルを外し、戦闘機の操縦桿を指し込む。

 指揮車の時速メーターがあっという間に限界を振り切る。

「行けぇっ!!」

 副主任のあとを追い、指揮車がGを感じる程のスピードで追う。

 俺の二つの目は副主任を視認し、三つめの目は主任の目とリンクする。

 脳の処理速度は俺が思っていたより順調だ。

 追い付くのに五秒も掛からない。

 池田銃が副主任に向いたが、発砲しても俺の目を使えば殆どオートで叩き落とせる。

 副主任は俺の注文通り池田銃のみを狙っていた。

 右腕に融合しているので、切り落とす必要はあるが、裁く必要はない。

 瞬く間に副主任が男の右腕を肩の付け根から切り落とす。

「やべぇ!!」

 俺はその刀の軌道の美しさに一瞬見とれてしまった。

 ブレーキングが遅れる。

 操縦桿を切るが、池田銃のなくなった男の右足を撥ねてしまった。

 男はそのまま高速道路の側壁に飛ばされ、指揮車もブレーキが擦り切れて停まらない。

 思わず空軍時の癖で脱出ポッド用のレバーを引いたつもりだったが、この指揮車にそんな物はついてない。

「飛び降りて!!」

 副主任が指揮車と並走して飛んでいた。

 俺は思いきってその胸に飛び込む。

 抱き止められ、振り落とされないように俺は必死に副主任を抱き締めた。

 指揮車は高速道路の側壁に当たり大破炎上。

 俺は暫く呆然とその様子を眺めていた。

「剣……」

「お? おう……」

「20歳の僕の胸を枕にしているのは、そんなに心地良いものなのかい?」

「!! おおう!? スマン!!」

 俺は副主任の胸に後頭部を埋めていたようだ。

 確かに夢心地ではあったがな。

 起き上がると、副主任の体の中にFPAの本体であるらしい巫女服と翼が戻り始めていた。

「!!」

 俺は仰向けに転がっている副主任に手を差し伸べようとしているところだ。

「剣……僕の体は13歳に戻っているけれど、そっちにも興味あるのかい?」

「……俺はロリコンでもマザコンでもない筈だが……」

こんな近くで女性の裸を見るのは初めてかも知れない……

「恥ずかしいな……」

「恥ずかしいのは僕だよ……」

「副主任も女なんだから、大事なところを隠して悲鳴くらい上げても良いシーンだと思うが?」

「……それをやると剣が本当に変態みたいだから、僕は我慢していると察して欲しいな」

「ああ、それもそうだな……」

 そう言って副主任の服をと思った俺の頭に、爆発炎上した指揮車からなにかの燃えカスが落ちて来た。

 俺の頭に偶然落ちたそれは、可愛い猫の絵が描かれた下着の燃えカスだった。

「……スマン。副主任の服は指揮車の中だった……」

「上着くらい貸せよぉっ!!」

 副主任がやっと13歳の女の子らしく真っ赤な顔で俺に訴えた。

 上着を奪い取られた俺と、上着しか羽織っていない副主任が夕張から戻る途中の9班に回収されたのはその1時間後だった。ナオミとモリサに現場を任せ、熊主任と喜多川が俺たちを心配して戻って来てくれたからだ。


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