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コメディの掌編集

五重の塔の番人のキャッチコピーで、四階の人だけ違和感がある

作者: 佐々雪
掲載日:2017/08/11

 灼熱の太陽の下、熱いバトルが繰り広げられようとしている。



「ククク、よくぞここまで来たな、5人の光の勇者たちよ! 暑い中ご苦労さま!」


「魔王ジャアーク! やっとここまで追い詰めたぞ! 今日こそは貴様が王国から奪ったベルグオーブを返してもらうぞ!」


 リーダーのレッド。拳を握りしめながら、魔王をにらみつける。


「ククク、いいだろう。ただし! お前たちがこの五重の塔の番人たちをすべて倒し、最上階で待つ俺様を倒すことができたらの話だがな!」


「な、なにぃー! 五重の塔だってー!?」


 驚愕するイエロー。


「そうだ。この五重の塔には、各階に一人ずつ強力な番人をスタンバイさせている……!」


「くっ……! あのジャアークが認める実力の番人なんて……! こいつは手ごわそうね……!」


 紅一点のピンクは奥歯をかみしめる。


「ククク……逃げ出すなら今のうちだぞ」


「馬鹿にするな! 俺たちは光の勇者だぞ!」


 と、レッド。


「ククク……その心意気はたたえよう。しかし! ククク……番人たちのキャッチコピーを聞いても、同じことが言えるかな?」


「キャッチコピーだって!? 聞かせてもらおうじゃねえか、そのキャッチコピーとやらを!」


 と、イエロー。


「いいだろう。聞いて後悔するがいい! まずは一階の番人! 怪力殺戮の哲学者デス・フィロソファー、死刑囚ミロンガ!」


「しっ、死刑囚だってぇーー!? しかも殺戮モンスターとは……。こいつは恐ろしいキャッチコピー……! しかし!パワー勝負とあっては、このワシが負けるわけにはいかんのう!」


 猛るようにさけぶイエロー。


「二階の番人! 幻惑の爆速イマジナリー・スピードスター! 疾風のくのいち、カナメ!」


「くのいちってことは、女の子ね! ふふふ……私の相手は決まったようね! どれだけ疾く動いても、私のピンキーリングから逃れることができるかしら?」


 と、ピンクがうっすらと笑みを浮かべ、ウインクをする。


「三階の番人! 世界中のあらゆる武術をマスターした、生きる格闘伝説レジェンド・バトルマスター 格闘家ポポ!」


「フッ……格闘技といえば私の出番のようですね。私の天空空手がどこまで通用するか、試してみたいものです」


「そして四階の番人! 英検準二級えいけん・じゅんにきゅうサイトウ!」


「……え?」


 思わず俺(グリーン)は聞き返す。


 ……英検準二級えいけん・じゅんにきゅう


 なんか今までとキャッチコピーの方向性が明らかに違う。

 履歴書に書くかどうかもちょっと悩む資格だ。いや、俺は英語苦手だから、俺はとれないと思うけどさ。でも戦闘に関係ないし……。



 ……俺が何か聞き間違えたのか?


 暑さでもうろうとしてきて、聞き間違えたのか?


 俺が……悪いのか?



「そして最上階で待ち受けるのは、この俺様、最強にて最狂の魔王、ジャアーク様だ!」


「分かっていると思うが、貴様の相手は俺だ!」


 と、レッドが吠える。


「相手は五人、私達も五人…。一人が一人を倒していけば、ベルグオーブを取り返すことができるのね!」


 と、ピンク。


「フッ……。相手が誰であれ、私は負ける気がしませんね」


 と、ブルー。


「ブルー……貴様は敵のときは恐ろしいやつだったが……味方になると本当に頼もしいヤツだぜ……(ゴクリ)」


 と、レッド。




 ……いや。ちょっとまて。


 なぜだ。


 なぜ誰も口にしない……。


 四階の番人だけ、キャッチコピーの方向性が妙だったことに。



 いや、やっぱり暑さのせいじゃないよ!


 絶対アイツ、英検準二級って言ったよ!


 なぜ、誰も突っ込まない……!


 この中で違和感を感じているのは俺だけなのか?


 他のメンバーの表情をこっそりうかがってみる。


 しかし誰一人、違和感を感じているそぶりは見て取れない。



 ……だめだ。


 周りに頼っちゃだめだ……。


 ここは主体性を持って、自ら動くべきところ。


 流されやすいのは俺の悪い癖だ。



「あのー……すみません。もっかい聞きたんですけど」


 勇気を出して聞いてみる。

 こういう一歩一歩が、人生を変えていくものだと信じて。


「何だ、逃げたしたくなったか……ククク」


「四階の方、もっかいキャッチコピー説明してもらえます?」


「四階の番人! 英検準二級えいけん・じゅんにきゅうサイトウ!」


「ええ、ですよね。英検準二級。えっと……それって戦闘となんの関係が……」


「ちょっと待って! 見て! 塔の扉が開いていくわ!!」


 大切な俺の言葉をさえぎって、ピンクが指をさす。


「敵さんたちも、待ちくたびれているようじゃのう。一階の番人は怪力殺戮の哲学者デス・フィロソファーじゃったかの? どうれ、ワシが軽くひねってくれるわ!」


 と、イエロー。


「二階のくのいちは私にまかせて!」


 と、ピンク。


「三階の格闘マスターとやら。私がお手並み拝見させて頂きましょう」


 と、ブルー。



 ……って、この流れは俺が四階担当なのか?


 全員(魔王含む)の視線が、俺に集まる。



「あ、じゃあ四階の方は俺担当で……」



 ……流された。場の空気に。


 持てなかった……主体性……。


 今日もダメだった……。


 昨日までの繰り返しを……また今日も……。



「ジャアーク。貴様の相手は俺だ!」 


 と、レッド。



 ……ああ、もういいや。


 なんかもう逆に、四階の人に会うのが楽しみになってきた。


 Hello!とか気さくに挨拶とかして、なんでそんなキャッチコピーになったのか、ちょっと込み入った話をしてみたいわ。


 英検いつ取ったかとか聞いてみたいわ。



 俺は流れに身をまかせることにした。


 自身が流された方向こそ、そもそも進みたかった方向だった。状況をポジティブに捉えることにした。



「じゃあ、いつもの名乗りをあげて、乗り込もうぜ!」


 と、レッド。


「おう!!!」



「灼熱のファイア!レッド池袋!」


 ビシーッ!


「深淵のオーシャン!ブルー駒込!」


 ビシーッ!


「煌めくソウル!イエロー五反田!」


 ビシーッ!


「恋するバトルドール!ピンク原宿!」


 ビシーッ!


「……癒やしのマイナスイオン。グリーン巣鴨」


 ビシーッ!



 いつもの決めポーズをとる我々に、ジャアークがぽつりと呟く。


「……なんか、マイナスイオンだけ方向性違うくね?」



 お前が言うな。

最後までお読み頂きありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] なんか、自分とセンスが似てると思いました。
2018/01/05 01:51 退会済み
管理
[良い点] 企画ページからお邪魔しています。 微笑ましい内容、気軽に楽しませていただきました。 [気になる点] なんで戦隊モチーフなのにジャンプ漫画な展開なのかを先にツッコミ入れてました。 ツッコミ待…
[一言] 企画へのご参加ありがとうございます。 再読して、ふふっと笑う夜更けです。 魔王様の労わりの言葉は本当に好きです、癒されます(笑) そして、どのキャッチコピーのルビも格好いいのに、四階の人だ…
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