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AIM-3

下校するみんなの合間をすり抜けて、走り続けた。アタシは何とか交わしたけど、引っ張られたダイキくんは何人かとぶつかっちゃったかもしれないね、ゴメン。

そしてやってきたのは、学校から少し離れた場所にある公園だった。そこのベンチに

アタシもハァハァと激しく息をしていた。全身が汗塗れだ。これが「疲れる」っていうことなんだなー。

そしてそれはダイキくんも同じだったみたいだ。アタシの右腕の先にダイキくんは全身が柔らかくなったかのようにへなへなと崩れ落ちる。

「ありゃりゃ……ごめんね」今度はちゃんと言葉にして謝る。

アタシはダイキくんを近くのベンチに座らせると、近くにあった自動販売機で冷たいスポーツドリンクを二本買った。

取り出し口に手を入れると、突き刺さるような冷たさが指や手のひらに伝わる。

一瞬ビクリとなったが、本当に一瞬だった。この冷たさは、アタシが嫌いな冷たさとは違う。

運動のせいであったまりすぎたアタシの身体には、ちょうどいいくらいの冷たさだった。

その冷たい二本のうちの一本をダイキくんに差し出した。けど反応がない。腕や首がだらんと下がったままだ。

「おーい」アタシは冷たいボトルをダイキくんの顔にそっと当ててみた。その身体がビクンとなって反応を示す。すると彼の目がようやくこちらを向いた。

どうしてこんなところにいるのか、そんなことを訴えるかのような視線。しかし視線はすぐにアタシの左手に移った。そこにぶら下がっていたボトルを奪い取ると、その中身をグビグビと飲んでいった。

その機械的な反応にちょっとだけ呆気にとられたけど、アタシも残りの一本を口に入れることにした。

冷たい液体が体中に染み渡る。これは良い、許せちゃう冷たさだね。

「……あのっ!」

ダイキくんがようやく言葉を口にしてくれたとき、彼はボトルの四分の三近くを飲み干していた。

「あなた、一体何なんですか。どうして僕をこんな場所に連れてきたんですか!」

「うーんと、何でだっけなぁ」アタシはボトルから口を放して、言いわけを考える。

「ふざけないで下さい!何も用が無いんだったら僕帰りますよ、やらなきゃいけないことがあるので……」

「それって、あの三人と一緒に遊ぶこと?」

椅子から立ち上がりかけていたダイキくんの動きが、ピタリと止まった。

「あの三人組、あったかそうだけどあったかくなかった。それどころか凄く冷たくてイヤな感じがした」

「何をいって……」反論しようとするダイキくんを押し止めるように、アタシは彼の横に腰を下ろした。

「あなたは全然、楽しそうには見えなかったよ?」

「大きなお世話ですよ……」

「ほんとうに?」アタシは、彼の目をまっすぐにじっと見た。彼は顔を真っ赤にして目を伏せてしまう。

「でも、アナタはあいつらと違ってあったかそうだった」言葉とともに彼の身体を引き寄せる。「そして、ほんとうにあったかかった」

「だから一緒に来てもらったんだ。あったかいアナタに、あんな三人は似合わないからさ」そして再び、彼の身体をぎゅっと抱きしめた。身体の中に取り込んだ冷たさが、彼の身体から感じるあったかさの感触を増大させてくれる。

「い、意味が、わ、分かりません……」アタシの身体に埋もれながら、ダイキくんは懸命に言葉を紡ぎ出す。アタシはいったん

「だからさ、アタシのこと、あっためてよ」

「あ、あっためる……って」

「もう、じれったいなぁ!男の子なんだから、それくらい分かっててよぉ!」

ほぼ空になったボトルを傍らに置き、フリーな状態になっていたダイキくんの右手を、アタシのおっぱいに押しつけた

「!??!」喜びとか驚きとか悲しみとか怒りとか、そういうのが全部いっぺんに入った表情が、ダイキくんの顔に浮かぶ。

「ほら、もっと……」

ダイキくんの抵抗がだんだん弱まっていくのが分かった。彼の右手は既に、アタシの

さらに彼は餌に群がる動物のように顔を押しつけはじめる。ぐっしょりと汗に塗れたアタシの身体がぐちゃぐちゃにかき回される。

そうそう、男の子はそうでなくちゃ。これであっためてもらえる……

と思ったその矢先、

ピシリという音が聞こえた。

それと同時に襲いかかる、ゾクっとした感覚。全身にナイフを突き立てられたかのようだ。

その原因はすぐに分かった。それは今アタシの身体の中に頭を埋めている。さっきまでもぞもぞと動いていたそれは、

ウソ、またこのパターン?アタシはため息とともに彼の身体から離れた。

アタシという支えのなくなったダイキくんの身体は、しばらくそのままの姿勢を保って石像みたいに止まっていた。

でもやがて、機械のように動き出す。

その全身が、銀色のグニャグニャしたものに包み込まれていく。

それはダイキくんの顔だけを残して、全身の形を別の物に作り替えてしまった。腕や足に銀色の鋭い刃を纏った、見るだけで鳥肌が立ちそうな姿に。

「こわす、壊してやる!」その口から出た言葉も、さっきまでのダイキくんとはまるで違う、迫力を伴う言葉になっていた。

やれやれだし。アタシはまた、こんな形であったまらなきゃいけないのか。

ベンチの後方に広がっている林の中に後ずさりながら、

アタシは自分の中に意識を集中させた。力が、あったかい力がわき上がってくるのが分かる。

そろそろ起きる時間だよ、アヤトくん。アタシは自分の中でその存在を消していた、この身体の持ち主に呼びかけた。


A

僕が、またよみがえった。

そして僕は、あたたかい太陽のような光に流されて、外に出ていく。それが感触として分かった。

ミサが呼んでいる、ミサが僕の力を必要としている。

僕の身体を勝手に使っていたことが一瞬意識をよぎったが、今はそんなことを追求する余裕はないだろう。

今の僕には、その力を求める声に応えるしかできない。


AM

アタシ(僕)を包む衣服が、戦闘用の物に変化する。

光と同じ色をした、風に瞬くロングドレスだ。

その脇を、びゅんと鋭い空気が掠めた。いや、身体を動かしてなければ、

アタシ(僕)の変化が終わる前に、敵が飛びかかってきたのだ。その腕に生えた両刃の巨大な刀をかざして。

アタシ(僕)はすぐ反撃に出るべく、両腕に力を集めた。左手の先に弓が、右手の先に矢が、集まった光によって形成される。

それと同時に、相手との距離を大きく離そうと後ろに飛んだ。

その瞬間、相手の身体が眼前に迫ってきていた。速い!振り下ろされた刃が、跳んだときの風圧で飛び上がったドレスを切り裂く。

そこに出来た隙間を狙って、次の一撃がくる。アタシ(僕)は慌てて右手を突き出して出来かけの光の矢をぶつけた。

エネルギーとエネルギーのぶつかった衝撃で、お互いの身体が相反する方向に吹き飛ぶ。木々の枝をへし折りながら、林の中を跳んでいく二つの身体。

距離が出来た、チャンス!アタシ(僕は)再び左腕に残った弓に、新しく作った矢を構えようとした。

でも、相手の復帰能力は相当速かった。こちらが弓を構えたその間に、相手は木の間の地面に両足を落ち着けた。そして次の瞬間には、

最後の手段、アタシ(僕)は左腕の弓の方を、横から来る相手の右腕の刃にぶつけた。

パキンという音と共に、光の弓がへし折れる。そして続けてくる左腕を、残った欠片でやり過ごした。

何とか相手の刃の一撃は交わすことが出来た。しかしそこに込められた力は、そのままアタシ(僕)の身体に迫り、それを大きく吹き飛ばす。

アタシはいくつもの木にぶつかりながら、やがて地面に叩きつけられた。

マズい、このままじゃやられる。

ーアタシじゃこの相手には、勝負にならないー

ー僕はすぐにデバイスを取り出すことを思いついた。接近戦なら、イチカの方が有利だ。ここはすぐにでもイチカに交代すべきだー

ーでも、今ものすごくあったかいのに、それを手放したくはないー

ーこんな時に、何を言ってるんだー

ビュウン!

考えを巡らせている間に、相手の両腕を使った刃の二撃がアタシ(僕)を直撃した。

一撃目でドレス型のアーマーを切り裂き、二撃目はついにアタシ(僕)の身体にまで到達する。

ー銀色の光が、アタシを浸食するー

ーいやだ、いやだいやだいやだ!こんな冷たいの!もういやなの!ー

ー消えたくないだろう!なら交代だ!ー

吹っ飛びながらアタシ(僕)は、デバイスを取り出した。「Bird Cage」が開いていて、そこにはイチカによって繰り出されたアイコンがいくつも並んでいた。

アタシ(僕)はその内の一つに指をおいた。

ー後悔の思いを残しながらー


I

待ってました!

アンセムの存在を知らせる感覚に、私の全身、いや全存在が震えていた。

この感覚に揺さぶられながらも外に出られないというのは、はっきり言って拷問だった。

今まで何度、戦いのために出るチャンスをミサに奪われてきたことか。そしてそのたびに、我慢という名の苦痛を味わってきたことか。

上へ上へと続いていく光の道。それは赤、私の色だ。

その先に待つ、現実という名の戦いに向かって、私はその道を駆け上がっていく。

さぁ、最初から本気で行くよ、アヤト。


AI

再び、エネルギーとエネルギーの激しい衝突。

でも今度は、お互いが吹き飛んだりなどしない。お互いの力が相殺しあって、その身体を押しとどめる。

まだまだ、こんなものじゃない。

私(僕)は、右腕に形成されたエネルギーグローブに、全体重をかけ、眼前の相手を思いきり吹き飛ばした。

今度は向こうが木に叩きつけられる番だった。ぶつかった太い木が折れんとばかりに大きくしなる。

それでも相手は、まだまだ戦う意志を見せ続ける。両腕の刃を構え、こちらに対する敵意の視線を向け続ける。

私(僕)も、再び両拳の先にエネルギーを集めて、戦いの構えをとった。

そこからは攻撃の繰り出し合いだった。十度、二十度と私(僕)と、銀色の怪人の腕がぶつかり合う。ぶつかる度に伝わる力に流されるよう、しっかり地面を踏みしめる。そして拳を突き出し続ける。

そして力を使い続ければ、やがて消耗していく。それが現実に存在する人間の体というものだ。いくらプロメテウスやアンセムの力で強化しようとも、それは変わらない。

先に疲れを表し始めたのは、相手の方だった。こちらに向けられる攻撃の勢いとスピードが、明らかに弱まっているのが、攻撃を受けてみて分かる。

そろそろケリを付けるか。

だいぶ勢いを失って振り下ろされた相手の腕を、私(僕)は後方に飛んで避けた。

そして、一呼吸置く。全身に残る全ての力を、拳の先に集めた。

地面を蹴り、相手の身体に飛びかかる!エネルギーのグローブに覆われた両腕を、肘の先から後方へと下げながら。

そして二つの拳を突き出そうとしたその瞬間。

「!?」

目の前の銀色が、消え失せていた。

人間の体を核に、見るだけで冷や汗を催しそうなくらい刺々しい見た目の装甲が、溶けるように消滅したのだ。

そして残ったのは、人間の体。私も僕も、初めて見る顔。

表情から体つきまで、どことなく弱々しさの漂う、そして身体には学生服を纏った、ごく普通の男性学生。

私(僕)はそれを前にして、動きを止めるしかできなかった。拳から自然と力が抜け、そこに溜まっていたエネルギーが全身に戻っていく。

目の前の彼は、何が起きたのか分からない、そんな表情をしていた。

当然の反応だろう。突然現実に引き戻されたかと思ったら、見覚えのない場所にいて、しかも目の前にはゴテゴテしたものを全身に身につけた女の子が、今にも自分に殴りかかろうとしていたのだから。

やがて彼の顔には恐怖の表情が浮かび、そしてその感情が彼を駆り立てたのだろう。彼は林の出口へ向かって一目散に逃げていってしまった。

私はそれを目で追いかけることしかできなかった。

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