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9 当たらなければニアミスでしかない。

 国王の帰還は祭りのようだった。

俺は遠目に馬車の窓から手を振る二人をちらっと見ただけ。


 ところで王子の俺の居住区は王宮の一番奥まったところにある。

特に寝室は南側が国王、東側が王妃の寝室と壁一つ隔てただけで接している。

ただし防犯上の都合とかでそれぞれの入り口は迷路のような通路が全く別の方角に伸びておりそれぞれを尋ねるのにはかなりの距離を歩かねばならない。

俺は母上が到着したその日に会いに行った。


「ここは許可されたものしか通すわけにはいかぬ」


 それしか言わないこいつが通してくれない。

王宮のほかの部分は兵士が警備しているが王家の私的な区画はこの頭の固い火の下級聖霊たちが見張っている。

誰もいないとき、許可されたものだけがいるときはアラビアンナイトに出てくるようなランプの小さな炎でしかなく、許可されたものにとっては灯りとしか認識されない。

許可が無い俺が通ろうとするとやはり炎を背負ったランプのせいみたいなのがでろでろ~んと出てくる。

非情にうざい。


 両親が帰って来たのだから呼び出しがあると思って部屋で待ってた。

待ってた。

サリーは侍女の顔合わせと研修だとかで二三日お留守。

待ってた。

運動した。

待ってた。

本も読んだ

待ってた。


暇だ。


 すいません、待つのは一日しかできませんでした。

4才児がじっと閉じこもって待ってられるかいバーロー。


 久しぶりに、一日置いただけともいう、食堂へ行く。

久しぶりのオコサマランチダ。

あれ? ここに置いてないし、誰もいない。


「誰かいませんか~?」

「あ、マリスちゃんごめんごめん」

「今日はお休みですか? 誰もいませんけど」

「お昼時だから誰もいないのよ。侍女はお昼の給仕で忙しいし、兵士たちは現場でお弁当。だから私たちはゆっくりお昼。こっちへ入っといでよ。特製のオコサマランチダ用意するからさ」

「ありがとうございます」


 日替わりのオコサマランチダは今日もとってもおいしいかった。


 ごちそうさまでした~と帰っていくマリスを見送ったおばちゃん。 


「ねぇねぇ、さっきマリスちゃんの袖がずり落ちたんだけど、左腕に紋章が二つついてなかった?」

「見間違いよ、マリスちゃんは乾燥くらいしかできないっていうから火の一番弱い加護しかないはずよ」

「そうだねぇ。二つ持ちって王子様がこんなところにご飯食べに来るはずないわねぇ」


 もしおばちゃんたちがマリスの袖をめくりあげて確認していたら……。




 一方、サリーたち新人侍女は、全員が集められた偉い人が侍女の心構えなどの講演の後、所属部署ごとに分けられた。


「サリーちゃん、ここは王妃様担当の部署よ?」


 ミランダは王妃担当の侍女でチームリーダーをしている。


「ミランダ、その子私のところに配属されてるわ」


 サリーは王妃担当に配属されたが、たまたまミランダのチームと合わないタイムスケジュールで動いてるチームだったらしい。

そういったことも有るのでこのような顔合わせがあるのだけど。

もしかして、もしかしたら……。


「ねぇサリーが専属で付いてるマリス君って正式にはマレリウスよね?」

「はいそうです」


 声が聞こえる範囲の侍女たちはいっせいにサリーを見る。

王太子専属の世話係は名誉あるエリート。

その為に侍女ではなく貴族位を持つ女官がつくはずで侍女がなるはずはない。

ミランダたち侍女は王妃だけでなくそれを取り巻く女官たちを含めた人々の世話と雑用を分担してこなしているのだ。


「最初はお世話するマレリウス様がいっぱいいらっしゃったのです。それで区別するためにお漏らしのなどと付けようとしたのですが嫌がられ……あ。何も申せません、何も申せません」


 ミランダはそれで訳が分かったと思った。

夏宮への移動が始まるとき、王宮に勤める忙しい親の代わりに子供たちの面倒を侍女たちが見ていた。

マリスの両親はまだ忙しいらしい。


 サリーは戦闘能力の高い修羅族。

だから書類上は王子の雑用係ではなくて護衛として正式に専属になっていた。

もしもミランダが「正式にはマレリウス・ヴァン・ノルトよね?」と質問してたら……。



 王族の生活は女官や侍女たちが世話するが、予算や備品の管理、行事の運営などは内局と呼ばれる役所で行う。

国王レオン・ヴァーン・ノルトはその内局から取り寄せたマレリウス王子の資料を不機嫌そうに眺めていた。

目の前には女官長。

要件は王子を放置しないで意識を向けてほしい。

王子について話があると言われてみて初めて自分が王子のことを何も知らないのに気付き、あわてて王子関係の資料を取り寄せた。

こんなものには内容がほとんど無かった。


マリスに与えられたもの。

  専属護衛 サリー・カーン 

  教師   ユリシア・デ・フランシスカ

  遊具一式 マット、ボール等


 これだけの内容でしかないがマレリウスは安全に気を配られ、優秀な教師に師事し、健康に育っている、と王は推定した。

これで充分じゃないか。

自分たちが今まで放置したために生まれた負い目、こちらから会いに行きにくいという引け目、自分をもごまかすために怒り、怒鳴りつけた。


「マレリウスはなぜ顔を見せに来ない! 自分が王宮に戻ってきたことぐらいわかっているはずだ! なぜ来ない! あいつのことは今まで通りにしてたらよい。いちいちつまらぬことを耳に入れるな」


 理不尽だといっても絶対権力を持つ国王、女官長は命じられるままに口を閉ざすしかなかった。

女官長は王の暴言が負い目の反動とは思わず、うわさが流れているようにマレリウスを王が嫌っているためだと誤解した。

またマリスの弟か妹を身ごもった王妃はこの時期つわりがひどく、このようなストレスのかかる話を女官長はすることができなかった。


 このためにマリスの孤独? な生活は長い冬を越しても続いた。




 




次明日 騎士

第1章本編に入ります。

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