7 特訓は苦しいものだけではない
俺の使える魔法はお湯を出すだけ。
そう先生はおっしゃった。
もっと他のこともできるんじゃないだろうか。
俺には異世界の科学知識がある。
文系だから高校レベルになるとかなり不安だけど。
王宮の隅にある兵士の野外訓練場。
兵士さんたちの訓練を見学するつもりがちょっと早く来すぎた。
俺の加護は火と水。
同時に使ってしまうからお湯。
それは分かるんだけど魔力が打ち消しあて無駄が多いってのが分からない。
火は炭素が燃えて二酸化炭素?
水も水素が燃えてできるんだよね?
……。
考えてたつもりだけど思考が停止してただけ。
ハハハハハ。
乾いた笑い。
ん⁉
乾かす⁉
出来そうだ!
水の魔法で水分子を捕らえ火の魔法でエネルギーを与えて吹き飛ばす。
出来た!!
出来たけど今の魔法理論ってどこかおかしいよな。
なんでできたんだろう?
ま、いいか、魔法だから。
乾燥してパリパリになった葉っぱを見ながら考える。
あ、また頭がフリーズしてる。
子どもの頭って柔軟なはず、がんばれ俺。
手は無意識に近くに生えてる野の花を引き抜き、乾燥!
タンポポみたいな花は見事にドライフラワーに。
お湯を出すよりはるかに楽ちん。
この差は何だろう?
「マリス坊ちゃま、レイナさんが髪のを整えて下さるのでちょと遅くなりますって言ったじゃないですかぁ。」
「あ、ごめんね、サリー。」
サリーは珍しく長い髪を何束かに分けて結んで、じゃなくて編み上げてる。
ふと思いついた。
「サリー、ヘアピンの予備って今持ってる?」
「ありますけど、何に使うんですか?」
俺は黙って差し出されたピンをポケットから出したさっきの花に突き刺す。
それを下げてもらったサリーの頭に。
うん、かわいい。
「取らないでね」
「これ何ですか? ぱりぱりしてますけど何ですか?」
「乱暴にすると壊れるから、触らないでね」
「どうなってるんですか? どうなってるんですか?」
触るなと言われて一生懸命目だけで自分の頭を確認しようとしているサリーの上目遣いがかわいい。
そうこうするうちにディーンさんたちがやって来た。
「やぁサリーちゃん今日はかわいいね」
「ありがとうございます。レイナさんに編み込んでもらいました」
さすがワルターさん、反応が速い。
「ん? ちょっとその髪飾りを見せてください。これは乾燥させてあるのですね」
「髪飾りだったんですか?マリス坊ちゃまが今つけて下さったんですけど」
「これをマリス君が?」
ポルターさんは目の付け所が違いますが、にらみつけないでください。
「えっと、切った花を風通しのいい日陰に逆さにして吊るしておくだけ?」
「それでできるんですか」
「ハイ」……たぶん。
魔法で作ったと言わなかった理由、恥ずかしかったから。
すげぇ! レベルの魔法が使えて当たり前の王族でこのしょぼさ。
「簡単に作れるなら俺にも一つ作ってくれないか? その、あのだ、贈り物にしたいのでだな……」
ディーンさんが集中できる話題を出してくれてよかった。
俺の中の王子マレリウスがプライドをつつかれて泣きそうになったから
結局ミランダさんへの贈り物用に髪飾りを作ることになった。
たぶんあと最低もう2つ作らないとだけど。
それより本日のメインイベント。
ディーンさんたちの自主トレーニングの見学。
準備体操、俺も真似をする。
武術の型、それも真似をする。
もちろん剣も槍も持たせてもらえない。
俺が握っているのはタオルの端っこ。
これしかないならこれでもいい。
エイッ!
ヤァッ!
トォッ!
じっと見てるだけに飽きたのかサリーもタオルを振る。
エイッ! びゅっ!!
ヤァッ! びゅっ!!
トォッ! びゅっ!!
えっと。
今日はサリーに勝ちを譲ってやろう……。
コンチキショーッ! びゅっ!
ぉ! びゅっ!!
びゅっ!!
びゅっ!!
この辺で勘弁してやろう……パタリ、ハァハァ。
そんな姿を見ていたワルターがポルターに尋ねる。
「あのちっこいの、なんとなく型が様になってきたけど修羅だっけ?」
「いや、両親ともに夏宮だっていうから違います。今向こうへ行ってる事務方は全て人族だったはずですよ。子供を一人残してる親って武官にはいないし、ティナに聞いても女官でも聞かないから事務方の子でしょう。侍女を一人しか付けられないから中堅どころでしょうか」
「あぁ、少ない人数で大量の仕事押し付けられてるところか。あの書類地獄ならしゃ~ないよな。どう考えても子供は連れていけないだろ」
「私たちより体力が必要って聞きますから」
「ところでポルター、なんでティナさんを呼び捨てにしてんだ?」
「なんでって、ティナは私の妻だから敬称はつけません」
「妻だとぉ!」
「えぇ、神の前で2人して誓ったからには私は夫でティナは妻です」
「俺はそんなの聞いてないぞ!」
「話す魔が無かったですね。 先日この人に決まった、と思った瞬間に抱き上げて神殿に駆け込んでしまいましたから」
「お、お前がか……。」
「ええ自分でも驚きましたよ。申し込んだその場で承諾もらえたのがうれしくて。上司と女官長に許可をもらったのは式の後です。えらく叱責されたが、まぁ笑い話ですね」
「笑い話ですんだのか、それ」
「それで営舎のトイレ掃除をさせられてますが」
「氷の騎士ポルターってのはどこへ行ったんだ?」
「氷の騎士ってどなたですか? 私は熱血ですけど」