4 内緒だよっていうのはみんなに広めてねってこと
一緒にお昼を食べてる兵士さんたち、三人とも階級章を見ると小隊長さんだった。
侍女さんたちもそれぞれのグループリーダー的な人。
王宮の中って完全階級社会だから身分がすぐわかるように階級章を付けている。
例外は俺の様なお子様だけ。
正体不明の俺ではあるが、一番下っ端とはいえ侍女が一人ついているので貴族の一番下か平民の一番上くらいに認識されたらしい。
ところで王宮勤めができて部下をもつというのは平民の中ではかなりのエリートなんだが共通した悩み事を持っていた。
平民の兵士や侍女は親が家を見て結婚を押し付ける貴族と違って自由恋愛。
なのに王宮にいると 男女みだらに席を同じゅうせず なんて気質の貴族である上司目が有ったりするしで男は男ばかり、女は女ばかりと固まってしまって交流が意外とない。
せいぜい遠目に見てあの娘かわいいな とか、あの人素敵 とため息をつくくらい。
このメンバー同士もよくここで会っていて、兵士さんたちは侍女さんたちが気になってたみたいだけど侍女さんたちはさりげなく逃げるので今まで声を掛けられなかったらしい。
そのなんというか俺のお盆を持ってくれたひと、ディーンさんっていうんだけど、が怖そうに見えたから。
あとの二人、ポルターさんは知的な人だけど冷たそう。
ワルターさんは精悍な人だけどちょっと不良っぽい。
それでディーンさんたちが近くへ行こうとすると侍女さんたちは早々と席を立つとか……。
実際に、避けられていたらしい。
侍女さんたち本人が笑いながらそう言ってた。
無邪気なお子様がいると会話が弾むね。
俺GJ。
侍女さんたちや兵士の恋愛の始まりは、ほとんどが上司に紹介されてまぁまぁの人とお付き合い。
それがなまじ仕事ができる侍女さんだと仕事を辞められると困るという訳で上司が相手を紹介してくれないらしい。
むしろこいつやめてほしいって娘に適当な男を紹介するのが一般的らしい。
うん、そういう愚痴も今聞いちゃいました。
俺自分から話せるネタは全くないから聞き役だけだけどワイワイガヤガヤってホント楽しい。
話が盛り上がって結局お酒も入った。
俺は牛乳飲んでたし、サリーはひたすら食べてたけど。
「……それでマレリウス様の兄君が見つかったって本当なの?」
とんでもない会話が耳に入ってきた。
俺の兄が見つかった?
お互いに相手の気を引こうととっておきの話題を出してきたらしい。
「本当らしい、夏宮の近くのタリム村ってところがマーリン様が領土の飛び地として持っておられた村だったらしい。そこでマーリン様とお二人で暮らしていらっしゃるということだ」
「マレリウス様の兄君って?」
これは聞かねばならないと、かわいく説明をおねだりしてみた。
「王宮にいる者はみんな知ってるんだけど、マレリウス様は実は双子でね。先に兄君、クリス様って言うらしいけどお生まれになったんだ」
「へ~」
「ただクリス様には王家に生まれた証の聖霊の加護が無かったんだ。それで王妃殿下の父君のユスラエル公爵様が不貞の子だ、殺してしまえ~っ、自分も死ぬ~~~! ってね」
「え~っ」
「それを当時宮廷魔術師長だったマーリン様がかばって一緒にお逃げになったんだ」
「へ~っ」
「結局、日付が変わって二人目のマレリウス様がお生まれになって、殿下にはっきりとした加護が有ったから王妃様が不貞などしていなかったことが分かったんだけど、もうマーリン様は転移魔法でお逃げになった後」
「そうそう、そんな恥ずかしいことは誰にも言えないから公式にはマレリウス様だけが王子様って発表されたんだ」
「後でそれを知られた王妃様はお嘆きになって、兄君様が見つかるまでマレリウス様には会わないってお誓いになったのよ」
俺の中で不思議だったことの説明が全部ついた。
それで俺が遠ざけられてたのか。
しかし宮廷魔術師長?
「そのマーリン様ってユリシア先生の知り合い?」
「ユリシア先生って、坊主 あの人知ってるのか?」
「一回だけ魔法を習った」
「へーすごく運がいいな。めったに教えてくれないんだぞ」
「マーリン様は相手にしてなかったけどユリシア様が一方的にお熱あげてたのよね」
「そうそう、マーリン様を見る目がいっつもハートが浮かんでて……」
「へ~」
つまりそのマーリン様が居なくなった直接の原因は俺がもうちょっと早く生まれてくれば解消できたっと。
う~~~~~~ん。
それを俺に言われても、う~~~~~ん、無理!
ユリシア先生も理不尽だってわかってるから、あれか。
効果がないと分かってて俺への炎と雷の最大ぶっぱ。
後のは最大限に出来る嫌がらせでわざわざお湯を出して魔力を使い果たしたのは俺の治療に自分の魔力を使うのが嫌だったってことか。
筆頭宮廷魔術師なんて生きている兵器に当たる。
危険な兵器には安全装置、この世界では制約魔法で縛り上げる。
王家に反逆して逃げたマーリンは若さを失い老人になっていた。
逃げた魔術師を追いかけるのは、対抗できる魔術師、つまりユリシア先生。
俺がもう少し早く生まれていたら、クリス王子に普通に加護があったなら避けられた悲劇。
だから感情を抑えきれずに王子に対して攻撃魔法を使ってしまった。
しかしそのあと俺のために全力を振り絞って出したお湯。
全てを知っているユリシア先生が理不尽にも八つ当たりしてしまった俺への謝罪の品だった。
世の中俺が思っているより奥が深い。
俺が考え事をしてたりする間にも会話が進み、どの店の何がおいしいとか俺にはほとんどかかわりのない話だったが、なんとなくカップルが3組できてしまった。
きっかけさえあれば、なかなか優秀な方たちだった。
ディーンさんとミランダさん、ポルターさんとティナさん、ワルターさんとレイナさん。
この出会いはマイナスに向きすぎた俺への神様の補正だったかもしれない。
「マリス君のご両親は夏宮に行っておられるのね。おひとりでお留守番って賢いのですね」
かりにも王子に向かって 賢いのね は不敬に当たるんじゃないかと思うがわかってないサリーが会話に入ってるおかげで俺は何番目かのマリシウス様でマリス坊ちゃまがここでも確定してしまったみたいだ。
どうでもいいけどね。
「俺たちは正規の訓練以外に自主訓練をしているから、武術の鍛錬なら見てあげるよ」
非常にありがたい申し入れはありがたく受けさせてもらった。
ついでにサリーの侍女教育ってのもミランダさんたちがしてくれることになった。
サリーは王宮に上がったばかりでまだ侍女の教育ってものを受けてなかったらしい。
そんなんが俺んとこへ来るんだね。
まぁ結果は良しとする。