3 一人で食べるよりみんなで食べるほうがおいしい
先生に魔法を教わってから何日か過ぎた。
サリーに身体強化魔法を教えてもらおうと思ったが駄目だった。
俺に才能がないのではない。
「こうやって魔法で強化してジャンプすれば」
ワイヤーアクションより派手にジャンプするサリー。
しなくてもいいのに頂点で何回か宙返りしてからスタッと着地を決める。
どうやって今の説明で魔法が使えるようになるんだよ!
一応同じように構えてジャンプした。
ピョン。
10センチとちょっとです。
3才児です。
両手を挙げて着地のポーズも決める。
突き刺さりっぱなしのサリーの上から目線。
サリーのほうがずっと背が高いんだけど。
も、もしかしてこれからデングリコでもして見せねばならないのか?
「才能ないですね~」
うるさいわ。
思いっきりバカにされた気分。
よし、気分を変えて飯にしよう。
そんな日が続き、場面は替わって俺の部屋。
時間はお昼前で登場人物は同じ。
「忘れてただと!」
「申し訳ありません」
たぶん俺のこめかみに血管がくっきりと浮かんでいる、はず。
ピキピキなんて音が聞こえてきそうだ。
下げてこっちを向いたサリーの頭にかわいい角が二本……
ぶん殴ったら俺のこぶしが痛そうな……じゃなくて。
さぁどうしてくれよう。
こいつ俺の一週間分の食事を発注し忘れやがった。
裸にひんむいてさかさまに木からぶら下げとけばいいのか、夏だが冷たい井戸に沈めといたらいいのか。
「坊ちゃまっ!!」
おっといけない。
声には出してないはずだが殺気というのは漏れてしまうらしい、殺気を出さないのも修行修行。
サリーの頭を見ていたらふと閃いた。
こいつもどっかで食べてるはずだよな、それがある。
「坊ちゃまぁ~」
「情けない声出して泣くな」
今度は口に出していたらしいく、それをサリーは自分の食事を俺が取り上げて食べようなんて受け取ったらしい。
おバカは無視!
「行くぞ」
「どこへですか?」
「お前の飯があるところだ」
「坊ちゃまは意地悪です。坊ちゃまの……」
ぶつぶつつぶやくサリーを連れて歩く。
俺は3才だから足は短い、身長に対する割合のこと言ってんじゃないぞ。
どうしても歩幅が狭くトテトテと歩くことになる。
一応スタイルの良いサリーは俺に合わせると牛歩みたいになってしまう。
どんよりとした空気が後ろから垂れ下がってくるが俺は気にしない。
呪いのように聞こえてくるつぶやきも気にしない。
王宮にはの下働きの侍女や下級兵士、それに下級官僚が食事をとれる大食堂が3カ所ある。
戦時など兵士の緊急出動などに対応するためにそれぞれが一度に500人ほど受け入れられる大きさがある。
またローテーションを組んで働く侍女たちのために24時間いつでも食事がとれるようになっている、はず。
この人が少ない季節に開いているのは一カ所だけ。
広いので場所はわかるけど、俺は食堂に入ったことがない。
ドキドキ。
この際白状してしまうと俺はほとんど人と話をしたことがない。
両親とも、だ。
この前陛下に会ったのは夏宮に出立される前、挨拶したときには頭を下げっぱなしだったので顔も見てない。
母上?
俺が生まれてから体調を崩されているとかで会ったこともない。
男は高貴な女性が臥せっている姿を見てはいけないからだ。
王族の育て方ってそんなものかもしれないし、それが寂しいとかいう感情もない。
ともあれ、給仕する者以外と一緒に食事。
俺はワクワク。
サリーはぶつぶつ。
ちょうど3人組の兵士が引き戸を開けて入っていったので俺たちもそれに続いて入る。
人がいるのは手前だけ。
お昼時だというのに侍女さんたちがたった3人。
そっか、お昼時だから給仕で忙しいんだ。
中は大学の学食そのまんま、簡素なテーブルと椅子がずらりと並んでいてカウンター越しに向こうのおばちゃんが出してくれる定食を受け取って席に着けばいいらしい。
「大盛りで3つ、これから非番だが酒はいらない」
「はいっ」
酒も頼んだら出るらしい。
俺も真似して頼むとしよう。
「少な目一つとサリーは「特盛で」、お酒はいりません」
おっ、ちょっと受けた。
みんなニコニコしている。
一番うれしそうなのはサリーだが。
俺が侍女の分を取るわけないでしょ。
しかし特盛 ねぇ、そっちが受けたのか。
「はい、おまちどうさま」
「ありがとう」
えっと、困った。
カウンターに手が届かない。
サリーは、無理だよね。
特盛がお盆の上にドッカンってすごかったから、さすがのサリーも自分の特盛しか持てない。
困ったのは一瞬だけ。
横からすぐでっかい手が伸びてきて。
「運んでやるよ、一緒に食べよう」
ひげもじゃの大男だがよく見ると目が非常にやさしく声もやわらかい。
「ありがとう、おじさん」
「お兄さん、だ」
「ありがとう、お兄さん」
親切にしてもらったら恩は返さねばならない。
トテトテとグループで食べる丸いテーブルのほうへ歩いて行ってにっこり笑う。
「お姉さんたち、ご一緒していいですか?」
8人掛けの丸テーブルに3人で座っている美女3人。
無人のテーブルに座る選択肢は俺にはない。
俺の定食をもってついて来てくれた お兄さん の気配が変わる。
俺はいい仕事をしたようだ。
席に着いたら兵士さんたちが順にポンと俺の頭をたたいて同じテーブルに着いた。
しかしやっぱり俺はほとんど顔を知られていない。
していることがどんどん王子様から遠ざかってるような気がする。