21 子供好きだがロリコンではない
俺が世話になっているカーン村はノルト王国の王都ノルンのすぐ南にありながら超絶的な僻地の村。
王都との間には険しいノルン山が立ちふさがり、村を通る街道は山を避けて西へ南へと大回りしてやっと王都にたどり着く。
住む村人は鬼の様な角を生やす修羅族が多い。
ダークエルフと表現したらわかりやすいだろうと思われる夜叉族たちもいる。
俺はマレリウス、略してマリス。
この夏至が誕生日で10才になる。
イケメンと言いたいところだが顔はすっごい傷が2本も走り、左腕は肘から先が無い。
普通に生活しているので誰も気づいいていないが実は目も見えない。
耳が片方ないのもぼさぼさの髪の毛で隠している。
丈夫なだけが取り柄の布の服にイノシシの皮をなめしたポケットの多いベスト。
鹿に騎乗し右肩にちっこいタヌキを乗せて棒を構えた姿はそれなりに様になっていると本人は思っている。
しかし見た目はミニチュア山賊……の下っ端でしかない。
ところで今日は夏至祭りの前々日の6月31日、カーン村の大人たちは寄り合いとかで村長の屋敷に集まっていない。
だからいつもは夕方で終わる子守は晩飯まで延長。
具体的に何をしているかと言うと俺より小さい子供たちと一緒に小豆の殻むきをしている。
「マリスにぃちゃ~ん、次できたよ~」
殻のついたままの豆が入った麻袋の上で飛び跳ねていた男の子達、カイとセイが俺を呼ぶ。
彼らは力自慢の修羅族だがまだ角は無い。
「よっしゃ次行くぞ~」
「「「お~!」」」
俺に合わせて「お~!」なんてかわいいく応じたのは8才から4才までの下の女の子たち5人。
右腕しかない俺でも持ち上げられるように持ち手を付けた袋を担ぎ上げる。
「どっこいしょ」
「「「どっこいしょ~」」」
俺は普段この国ノルトの言葉をしゃべっているが掛け声はつい日本語で どっこいしょ、よっこいしょ なんて出てしまう。
それがなぜかここの子たちに大人気でマネするんだ。
そう、俺には3才のころから平和の国ニッポンで生きた記憶がある。
よっこいしょと梯子を上り、俺が2メートルくらいの高さにしつらえた漏斗の中に麻袋の中身を空けると、女の子たちが大きなうちわで下から出てきた豆を扇ぎだした。
最初は力加減が分からず豆も吹っ飛んだりしたが今は豆だけが下の桶に落ち、豆殻だけがきれいにすっ飛んでいく。
原始的だが手作業で豆を分別しているよりははるかに速い。
ちょっとした機械を作ればもっと速くなるだろうに。
そう思っているのだが俺は歴史専攻の大学生だったので実際に機械を作る自信はちょっとない。
同じ転生なら過去の日本なら知識チートができるのでよかったんだがままならない。
ところでこんな単純作業が機械化されていないのはこの世界には魔法という便利なものがあるため。
土属性の魔術士がうりゃ~とやれば家の一軒くらいすぐ建つので重機なんてない。
少し上級の魔法にはなるが木属性の魔術士がうにゃうにゃっと呪文を唱えれば豆は自分で飛び跳ね分離するのだから豆の殻むき機など誰も考えない。
しかしこの村唯一、植物を動物のように動かす魔法が使える薬師のばあさんは子供ができる仕事を手伝ったりはしないで結局手でより分けることになる。
この世界でも魔法が使えない人の多い国では工業化が進んでいるという。
農業機械を手に入れるためにはこの国も貿易を活性化せないと……小説みたいにパパッと俺が内政チートでもできりゃぁいいんだが。
そんなことを考えていたら一番年上の女の子、ルナちゃんがほっぺを膨らませてふっと一吹きすると豆と豆殻がきれいに分離した。
得意そうにこっちを向くルナちゃんの顔。
「おっ、すごい」
ルナちゃんの妹、一番小さいルルちゃんも真似をする。
プーッ
「うわぁっ!」
突風で桶ごと豆がふっとぶ。
ゆっくりと顔が歪んでいくルルちゃん。
俺はすぐにルルちゃんを抱きしめる。
「すごいね~ルルちゃん。ルルちゃんも風魔法ができるんだ」
ルルちゃんの涙はにじんだだけで落ちなかった。
その様子を見ていた同じく小さいレーネちゃん、尖らした口から煙が、煙がっ!
「レーネちゃん火は危ないからまた後で、ね」
魔法のできるこの3人だけが魔法が得意な夜叉族、他の子たちの視線がきつい。
抱っこはもう定員いっぱいだからね。
兎に角以前は子供たちが丸一日かかった作業を小一時間もかからずに終えて俺は子供たちを従えて川に繰り出す。
「マリスにぃちゃん、入ってる入ってる」
「こっちにも~」
昨日仕掛けてあった麦わらを編んだ仕掛けを引き上げると川魚だけでなくウナギなんかも入っている。
俺としては釣をやりたいんだが片腕だとエサをつけたりかかった魚を外すのがねぇ。
「ちっこいのは逃がしてやるぞ~。大きくなれよ~」
「「「なれよ~」」」
絶滅するまで獲りつくすってことはないと思うけどこういった心がけは大切だと思う、うん。
ま、それほど獲れるんだ。
もちろん今日食べきれない分は干物にして冬のための保存食、こいつがまたうまいんだ。
いかん、うな丼を想像しただけでよだれ出てきた。
「帰って昼めしにするぞー。整列っ! 番号っ!」
「1」「2」……「7、全員そろいましたっ!」
「よしっ、村まで競争っ」
「お~」
一応前世の記憶らしき物はあっても10才の俺、行動パターンは子供のまんま、結構楽しくノリで生きている。
パンは子供たちのお母さんたちに焼いてもらってあったが、おかずは子供たちと一緒に作る。
ウナギは俺が捌くが他のはみんなで調理する、料理は科学やぁ、うん。
これも勉強だぞ!
北国で米は無いけど醤油や味醂はある。
パンと食べてもかば焼き最高!
おいしくてにんまりとしたのだが、すごい傷跡のせいで歴戦の猛将みたいになってしまった顔がもっと狂暴になる。
鏡を見てじぶんでもビビりそうになるのにそれを全く気にしないでおいしいねと一緒に食べてくれる子供たちの笑顔がうれしい。
「マリスにぃちゃんお料理上手ね、ミアがお嫁さんになってあげる」
実際のところミアちゃんはまだまだ食い気優先です。
「じゃあ私はマリスにぃちゃんのお姫様になってあげる!」
これはリーシェちゃん、ちょっとおしゃまさんでミアちゃんとともに修羅族。
それってお姫様の料理人になれってことかな。
兎に角ええ子たちやぁ。
ハックショ~~ィ
「マリスにぃちゃん汚い」
「ごめんごめん、誰か俺の噂話してるみたいだ」
「違います! 山椒をかけながら食べるからよ。お行儀悪いです!」
「ハイ、リーシェ姫様、おゆるしくださいませ~~~」
「「「きゃははははぁ」」」
そう、後は米だけあれば幸せなんだ。
「お昼からはイノシシの罠見に行くぞー」
「「「おー!」」」
みんな元気だ。
ところで俺、去年の夏からこのカーン村のゴルさんにやっかいになっている。
さっき魚を取っていた川の騎士で血まみれになっていたところをゴルさんに助けてもらったんだ。
見慣れない鹿を見つけて狩ろうと追いかけたら俺が倒れてたんだと。
顔の傷とぶっちぎれた腕はその時のもの。
生きているだけでラッキーだと思っている。
優秀な治療師なら治せるはずだがなぜか治癒魔法が効かなかった。
実は微笑むだけで化け物に切り落とされた腕を元通りに生やしてくれる治癒魔法の達人が身内に一人いるがどうなんだろう。
レフィーナ・ヴェン・ノルト、誰もが知るこの国の王妃、俺の母親だ。
俺の正式名はマレリウス・ヴァン・ノルト、この国の王太子。
……試練で持って帰るべき玉を俺は無くした。
……しかし帰れなくてもいいかもしれない。
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