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15 孤独

 風呂から上がると、あったまったばかりの俺たちより真っ赤な顔をしたサリーがアランに肩を抱かれて待っていた。

サリ-の頭にはアランの胸飾りとおそろいの花が付いた髪飾り。

たぶんプラチナ製、分析しようがないんだ、の俺会心の作。


「おめでとう。すごい時間かかったね」

「ありがとう。実は 「私がお嫁に行ったらマリス坊ちゃんが一人ぼっちになっちゃう」 なんて言われてね。説得に時間がかかったんだよ」

「えっ?」

「まぁマリス君にもらった髪飾りのおかげで説得できたよ。誰よりも祝福してくれてるってね」

「そうなんですけど、やっぱりサリーを返してもらえます?」

「坊ちゃまがそうおっしゃるなら!」

「マリス君、それ冗談の域超えてるから」

「どちらにせよ王宮の女官長様からサリーの退職許可はもらってます。俺は明日帰りますけどサリーは置いていきます。正式な文書は俺からの感謝状と一緒にここに届けられることになってますから受け取って下さい。お幸せに」

「ありがとう」

「ありがとうございます」


 俺の身分は一応貴族、サリーは庶民。

身分制度の煩いこの世界、貴族が庶民の結婚式などに参列することは無い。

だからこれでお別れ。


「それじゃぁお休み」


 客舎に泊めてもらうというルーと別れて俺はランの待つ厩舎へ。

そのまんまランの隣の藁にもぐりこむ。

正式な外泊許可とか宿泊依頼ってもらえないし出せないんだよなぁ、俺一応王子様だから大事になるから。


 目を閉じるとサリーの言葉が蘇る。

俺って 一人ぼっち なのか?



 その夜、国王は王子マレリウスの外泊許可書を書いていて女官長に手渡していた。

マレリウスに試練を与えるので、完遂するまで王宮には戻らせない。

受け取った女官長はマレリウスの試練にどらだけ時間がかかるのかがわからず、それが終わってからサリーの後任を任命しようと考えた。

それで十分間に合うはずだから。

なにせマリス坊ちゃんに仕えたいという侍女は多かったから。


 国王は外泊許可書以外はマレリウス王子への命令書しか書かなかった。

王子の宿泊の手配や何かは、王子に付けられている ”はず” の女官がする ”はず” だから。

事実上、国王はマレリウスの行方を誰にも知らせないまま追い出すことになる。

それでも何も問題は無い ”はず”。


 命令書を書き終わって国王も寝台に横になる。

思い出すのは12才の自分、場所はポンタがいた雷獣の洞窟。

父王に試練の洞窟の一番奥にいる魔物から魔核を取って来いと命じられたごと。

炎が使える自分にとって雷獣は倒せる相手だった。

しかし素早い、数が多い。

何度か途中で倒れては付き添いの兵士に連れ戻されることを繰り返し、やっと主を倒せたのは一月後。

つらかったけれど確実に成長できたと実感できる試練。

マレリウスは自分と違い、炎だけでなく水属性の回復も使える ”はず” 。

まだ幼くはあるが余裕でこれくらいの試練は乗り越えてくれるはず。


 目を閉じていると胸騒ぎがしてくる。

大丈夫だと思っていても事故は起きるかもしれない。

考えるほどに不安になる。


 ふと思いつく。

あれがあった。

帰還の腕輪、国宝の一つ。

命の危険を装着者が感じた時、その思考を読み取って腕輪を身に着けた場所まで帰還させる転移魔法が組み込まれた腕輪。

これは装着者の現在場所を魔法で追跡できる目印にもなる。

これを持たせれば大丈夫、逃げて戻ってこられる。


 それでもまだ何かが引っかかって寝付けない。

もしもの時は安全に逃げ戻ることができる。

ん?

もしもの時が無くてもマレリウスが逃げ戻るかもしれない。

あいつは馬にも乗れないじゃないか。

たぶんそんなことはしないとは思うが一抹の不安は引っかかったままぬぐえない。


 閃いた。

起き上がってせっかく書いた命令書を手直しする。

付け加えたことはただ一つ。

『試練が終わるまでは王宮には戻ってくるな』

これで大丈夫。

国王はぐっすり眠ることができた。



 一方ルーは砦にある客舎にいた。

ここは非常時に兵舎にもなるがめったに来ない客のために少し上等な作りになっている。

もちろん普通の旅人が宿泊できる場所ではない。

レイトスはユーロラシアの前大使で旅の目的が大使赴任中に信仰していた太陽神殿への巡礼。

だからノルトは国賓待遇はしないが旅に関してかなり便宜を図っている。

次の宿舎も王宮の予定。

二人の旅の真の目的はマレリウス王子がユーロラシアのルーシー王女の相手にふさわしいか見極めること。

王家の婚姻など本人の意思など無視して国同士の関係で結ばれることが多い。

しかしこのルーシー王女、自分の相手にバカは嫌だと駄々をこねた。

普通の王女ならばそんなわがままは通じない。

ただ王子ばかりが5人続いた後に生まれた王女の意見はある程度だけ通った。

確かめてダメなら他を探せばよい。

その為に二人はノルトに来たのだが王子に関しては良いうわさが無い。

だから旅の目的を完全に観光に絞ろう、レイトスはそのように明らかに目上に対する態度でルーに進言した。


次話 3/31 惜敗

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