クリスマス特別編 聖夜に起こる奇跡を
今日はクリスマス・イヴです。外は雪が降り、ボクとイヴが窓越しに眺めます。
家の中はこたつやヒーターなど、日本を思わせる物で溢れているこの我が家。勿論、作ったのはボクですけど。力作である、この子たちは一般には販売しません。こっそりサイネリアさんたちには渡していますけど…。
「クリスマス、ね。ケーキが食べたいわね。」
イヴが呟いた一言が、きっかけでした。
「ケーキって、材料が難しいよ?」
「分かっているわ。言ってみただけだから。」
「うーん、日本だったらなぁ…。すぐ手に入るんだけど。」
そう、材料です。ケーキを作る事に問題はありません。何せ、この家はオーブンや冷蔵庫、洗濯機に掃除機まで有りますし。極め付けが、エーテル量子通信を利用したインターネットにテレビです。
なので、今の日本の流行りの洋服なんかはバッチリ調べられる環境なんですよ。
ただし、情報だけなんですけれど。
「どしたの? みんなして。」
「む? ユウリか。うむ、けぇきとやらをイヴが食べたいらしくてのぅ。」
「なんでまた?」
「ユウリさん、今日は何の日か覚えてますか?」
「はてはて?」
首を傾げながら唸るユウリさん。そして、次第に顔を顰めながら答えます。
「まさか、リア充の祭り?」
「えっと、まぁ、そうですね。」
「パリピとかと一緒に爆発すればいいのに…。」
目から光が無くなってますよ!。怖いですからその目やめて下さいよ!。
「それで、ですね、ケーキが食べたいとなりまして。」
「ふーん、じゃあ買いに行く?」
ユウリさんがそう言ったと思ったら、ボクたちはあれよあれよと言う間に東京に居ました。
はっきり言います、意味がわかりません。なんで?どうして?とボクが問いたいくらいなんですけどね。
「おい、あの娘めっちゃ可愛いな!」
「あの二人は姉妹かな?。」
などなど、すれ違う人はボクとイヴを見ながら会話しています。
「それにしても、相変わらず人が多いわね。」
「仕方ないよ、東京だし。それよりも、逸れちゃいけないし、手、繋いどこ?」
「し、仕方ないわね。」
顔を赤くしながら手を握ってくるイヴ。その様子を生暖かい目で見ているおば様たち。その事を知ると余計に顔を俯かせつつ歩く。
暫くして、ボクはイヴに言いました。
「ねぇ、ボク、さ、行きたいところがあるんだけど、いいかな?」
そう言うボクに、今度は真剣な表情で頷くイヴ。
イヴにはやっぱり分かっちゃうかな。
ボクたちは、手を繋ぎながらゆっくりと歩く。
我が家だった場所へ。
「変わらないわね、ここは。」
「うん。あの時のまま、だね。」
ボクとイヴは二人して家を見上げます。ボクたちはあれからかなりの時間を狭間で過ごしました。それはもう長い長い時を過ごし錬金術を勉強しました。
懐かしいと思える程に。
「そこに誰かいるの?」
不意に響く幼馴染の声。
振り向いたボクを見た時に一瞬彼女の動きが止まりました。
「す、鈴音、ちゃん?」
幼馴染が涙を潤ませ、顔をぐしゃぐしゃにしながら近づいてきました。
感動というより、ばっちかったです。
「ここねちゃん、流石にソレは女の子としてどうかと思うよ?」
「やっぱり、鈴音ちゃんだぁぁぁ!」
抱きつこうとするここねちゃんをひょいと転がすイヴ。
「ここね。不破鈴音はもういない。ここにいるのはリーン・ファンテよ。」
「そ、それは、どういう…。」
「ごめんね、ここねちゃん。ボクはこの世界ではもう死んでるんだよ。知ってるよね?」
そう、彼女も分かっているはずなのだ。そしてボクも、少しばかり軽率な行動に出てしまっていた。
それでもボクは、少し嬉しかった。
「えっ?じゃあ、今ここにいるのは、幽霊?」
「生きてるわよ馬鹿。」
イヴのツッコミが容赦ないですね。ここねちゃんがポカンとしてますよ。
ホント、相変わらず見てて飽きませんね。
「それにしても、鈴音ちゃん…。おっぱい大きくない!?」
「うぐっ!?」
人が気にしている事を…。只でさえ最近はそれでいじられる事が多いのに…。
「言わないであげてくれる?」
「どうして?」
「最近はソレで弄られているからよ。」
「むむ、いつの間にか巨乳さんになりおって!。こうしてやるぅー!」
迷い無くボクの胸へと迷い無く手を伸ばすも、イヴに叩かれています。
「くー、幼女ちゃんは隙がないね!」
「イヴよ。」
「ん?」
「私の名前よ。」
「そっか!イヴちゃんかぁ!。うん! イイネ!」
「なんかムカつく…。」
「なんでっ!?」
イヴとここねちゃんの漫才を眺めていると、またもや声をかけられる。
「こんな所にいたんだね。ケーキも買ったし、帰るよー?」
ユウリさんが来たようです。タイムリミットですね、ケーキは纏めてユウリさんか買ってくれたみたいですし、有り難いです。
「じゃあね、ここねちゃん。バイバイ。」
「もう会うことも無いけど、頭の片隅に覚えておいてあげなくも無いわ。」
そうしてボクらはまたも、ユウリさんにいつの間にか帰宅させられたんですけどね…。
「あれ?私、ここで何してたんだろ?」
「ここねー、ちょっと手伝ってー!」
「はーい!」
「ちょっとアンタ、なんで泣いてんの!?」
「えっ!?」
「とりあえず、顔洗ってきなさい。」
よくわかんないんだけど、なんか大切な人に会った気がするんだ。ずっとずっとそばにいて、一緒に育ってきた人に…。
この不思議な気持ちを私は、生涯忘れる事は無いと思う。
それは私の人生で密かに自慢できる、体験だったから。
そうだよね、鈴音ちゃん。




