人との縁は大切に。
ずるずると大の男を数人引きずっていく。もちろん、狭間で作った作品の手袋をはめている。縄は普通のものですが問題はないでしょう。心配なのは途中で切れないか、ですね。
「な、なぁ、自分で歩くから引きずるのやめねぇか?」
「そうしてほしいんですけれど、あなたたちすぐに逃げようとするじゃないですか・・・。」
そう言うと彼らは黙りこくってしまう。どうやら図星だったようです。
ずるずると引き摺ってかれこれ十数分ほどすると、今度はいろいろな店のある通りに出た。おそらくこの都市のメインストリートなのだろう、人の量がもの凄かった。もちろん店の数もそれに比例するかの如くかなりの店舗がひしめき合っており、リーンもおのぼりさんのように感嘆の声を漏らしていた。
「すごいですねぇ・・・。この街には今日着いたんですが、メインストリートがこれほどとは。」
「なんだ、お嬢はこの街はじめてですかい。なら、ちょいと店にでも寄りますかい?」
「うん。杖とかローブが欲しい、かな。」
「それなら、あの店がいいと思いますぜ。」
そう言ってある店に顔を向ける。指で示せないので仕方がないことだった。
それにしても、見た目が凄く高そうな感じのお店。看板の所々に金の装飾が施され、如何にもブランド店な雰囲気が漂っている。買い物している客層もかなりの富裕層なのだろう。
(なんかアレは嫌だなぁ・・・。)
その隣に古びた店があるのをリーンは気付いていなかった。その古びた店に男達が顔を向けていることも。
「でも、これを細かくするならあそこだよねえ・・・。」
「お嬢?。どうかしたんですかい?」
「ううん、何でもないよ。それよりも、そのお嬢っていうのは・・・なに?」
「おや、お気に召しませんでしたかい?」
というかいつの間にそんな風に呼ばれてた?。
「まあ、いいわ。それよりもお金崩さないと!」
「それはそうと、お嬢は錬金術師なんですよね?」
「うん、そうだけれど。どうして?」
「いえね、ここらで錬金術師で食っていくのは厳しいのではないかと・・・。」
「・・・なにか知ってるの?」
「へい、実は最近ですが冒険者ギルドにカッツィオって男が長になったんです。その男なんですが、ギルドの冒険者を使って錬金術師ギルドにちょっかい出しているようなんでさ。」
なるほど、これは聞き捨てならない。
「あなた達は関わっていないんですか?」
「俺らは奴が嫌いでね、関わるのはご免だったんですよ。」
ふむ、ここは一先ず買い物をした後にお金を返してそれからクレメリアさんの所に戻りましょう。そうときまれば善は急げです。
「皆さん、まずは買い物に行きますよ」
「へ、へい。」
数十分後、そこにはプリプリと怒るリーンの姿とそれを宥める大の男たちの姿があった。
「一体何なんですか!あの人は!」
「お嬢、まあまあ落ち着いて……。」
落ち着いてなどいられない。あまり目立たない格好とはいえ、この恰好で子供扱いされた上に商品を販売できないときたものだ。そりゃ身長はあまり高い方ではないものの、スタイルには自信はあるボクだ。
「失礼だよ、これでも17歳なんだよ?」
そう、身長こそ低めなもののその他は年齢相応の体つきなのだ。
「お嬢、恐らくですが服装も関係してるんじゃないですかね?」
「服装?」
リーンは改めて自分の服装を確認するが、別に変なところはない。それどころか一般的な服装と言って差し支えない。
「…??」
「別にお嬢の恰好が変なわけじゃあないです。むしろ普通です。ですが、あの店は貴族なんかが錬金術の真似事で訪れるような店なんでそれでじゃないですかね」
なんということだろう、これは由々しき事態です。持っているお金が高額すぎて換金できないし、買い物も勿論出来ない。今の状態を表すなら、orzみたいな感じです。
「それにお嬢、何だってあの店に入ったんですかい?」
不思議そうにおじさん達が聞いてくる。ボクも何でそんなこと言うんだろうと思いながらも答える。
「え?何でって、おじさん達があの店って言ったんだよね??」
「いやいやお嬢、俺らが言ったのはその横ですぜ?」
「えっ!?」
その横って、もしかして・・・。
そう思って視線を向けてみると古びたお店が佇んでいた。
「・・・、ここ?」
「ここです」
「ここは老舗の魔道具店なんですよ」
「ここなら揃わない物は無いと言われている店です」
「全ての商品が適正価格だと言われてもいますね」
おじさん達が説明してくれて、なんとも有難い。
「・・・さっき教えてくれても良かったのに」
「お嬢、俺らは言いましたけど、何故かお嬢があの成金の店に入ってったんすよ」
おじさん達が頷きながら答えている。そんな中勘違いした自分が恥ずかしい!。
「気を取り直して、入りましょう!」
(((誤魔化した!!)))
「な・に・か?」
「「「なんでもありません!!」」」
改めて年季を感じさせる扉を開く。軋む音を立てながらゆっくりと開くとズラリと魔道具が並ぶ棚が来店者を迎える。
「すっごい・・・。」
あまりの壮観さに言葉が出ない。初心者が使うものから上級者でも扱いが難しい物まで多種多様に取り揃えてある。
「ここが魔導士から錬金術士まで使う道具が買える店てさぁ」
「いらっしゃい、お客さんかな?かな?」
「お邪魔してるぜ、シリアちゃん」
「アレ?マッシュのおじさん?。今日はどうしたのかな?」
「錬金術士の娘を連れて来たぜ」
「おやおや?錬金術士とは珍しいですね〜。最近ではあのハゲオヤジの所為で少ないですからねぇ。で、今日は何がいるのかな?かな?」
おじさんの一人と話しているちっちゃい女の子が話し掛けてくる。これは、可愛い。それはそうと、答えなければ。
「えっと、練金釜ってありますか?」
「練金釜、ですか。中々古風ですねぇ。今時練金釜で錬成する人は希少なのですよ」
「そうなのかい?」
「マッシュさん達は知らないと思うけれど、本物の錬金術士は皆練金釜で錬成しているのですよ」
「でも最近は・・・」
「アレは錬金術ではなく、唯の調合や科学なのですよ」
リーンは女の子の話を聞いてビックリした。まさか科学があるとは思わなかった。
「それよりも自己紹介が遅れたのですよ。わたしはシリアなのですよ。この店の店主の孫なのですよ」
「ボクはリーン、よろしくね、シリアちゃん」
「これからも末永くよろしくなのですよ。それで、練金釜が必要なのかな?かな?」
「うん、前に使ってたのは師匠と兼用だったから・・・」
「なるほど。では独り立ちしたばかりの新人さんかな?かな?」
「そうだよ、だから色々教えてくれると助かるよ〜」
「お嬢、目的忘れてないですかい?」
「忘れてないよ。でも、練金釜が無いのも事実だから」
「おやおや、何か訳ありかな?かな?」
「えっと、両替も兼ねて買い物したくって」
「なるほど、なるほど。軍資金は如何程かな?かな?」
そう聞かれたので、素直に白金貨を一枚取り出しシリアちゃんに見せると目を見開く。
「大金をお持ちなのですよ」
「細かいのが無いから、門衛のバニングさんに借りちゃって。借りっぱなしは悪いしすぐに返したいんだけれど額が額だからなかなか崩せないの」
「確かに、普通では厳しいかも知れないのですよ」
「ちなみに練金釜っていくらするの?」
「アレもピンからキリまでなのですよ。長く使うのならお勧めの練金釜があるのですよ」
そう言ってトコトコと店内を進んで行く。何時まで経っても付いてこないせいか棚からヒョコッと顔を出す。
「何をしているのかな?かな?。こっちに来て欲しいのですよ」
そう言われたので急いで向かう。そうだよね、錬金釜って大きいしあの娘一人では運んで来れないよね。
そう思いつつリーンはシリアの後に続くのだった。
久しぶりの更新です。
ごめんなさい、遅くて。