異世界からの渡人 02
毎度遅くなって申し訳ないです。
買った服を四次元巾着に入れて、ライゼルカの手を引きながらまたしても大通りをぶらつきます。
「ぬおっ!あれは幻界限定の真・バハムートのフィギュア!」
キラキラと目を輝かせながらも、鼻息を荒くし興奮するライゼルカでした。
「どんな見た目なの?」
「うむ!魚型じゃ!」
「え?」
「魚型じゃが?」
「で、でも、バハムートってドラゴンじゃ…。」
ボクがそう言うと別の方向から反応がある。
「違う、本来バハムートは魚の形。ドラゴンの形はない。」
ここでボクはふと思い出していた。ゲーム&神話オタクの天童寺くんの事を。
『神話の中ではバハムートは魚型なんだ。ドラゴンの形を出したのはダ◯ジョン&ドラ◯ンズが最初なのさ!。その時はプラチナ色のドラゴンだったのだけれど、それにインスパイアされたのかファイ◯ルファン◯ジーが黒いドラゴンのバハムートをだしてそれが広まってバハムート=黒竜の認識になった訳だ!』
あの人は話しながら、視線がいやらしかったんですよね…。
まぁ、それはさておき、物凄く二人の目がキラキラして幻界限定スペシャルバージョンのバハムートを見ています。
ちょっとどころではない感じでグロテスクなんですよ…。深海魚的な感じで…。
「これ、欲しいじゃがのぅ?」
「うん、これは一家に一つ有るべき。」
「はぁ、こんなグロテスクなもの何処に飾るの?。」
「り、リビン「ダメです。」…。」
「そもそもリビングにそんなスペースはありません。」
「じ、自分の部屋に…」
「足の踏み場がないでしょう?」
「うぅ、うぅ〜」
そう言うと、ライゼルカは目にいっぱい涙を溜めて叫びました。
「リーンのバカぁぁぁぁ、ケチンボぉぉぉ!」
思いっきり叫んだ後、猛ダッシュで何処かへ行きました。それはもう脱兎の如くと言えるくらいの速さでした。
「あっ、ライゼルカ!」
「リーン、最近、おかしい。」
「えっ?」
「この間の事を引きずってるのは分かる。でも、ライゼルカもリーンを心配してたし、リーンだからこそ一緒にいると思う。ライゼルカに八つ当たりしないで。」
「そ、そんなつもりは!?」
「なかった?。でも結果としてライゼルカは今、傷ついた。今のリーン、好きになれない。」
ライゼルカの背中を追うリファナをボクはただ見ているだけしかできませんでした。
フラフラと自分が何処を歩いているか分からない。気がつけば大きな川に架かる橋まで来ていました。はて、ここは何処でしょうか…。
見渡すと釣をしている人が一人。何処かで見た人ですが、何処でしたか?。短髪に身長も高く、かなり筋肉質見たいですし…。
「珍しかね、こがんとこまで来っとは。」
「えっと、釣り、ですか?」
「まぁ、今日の獲物はギルドに報告したけんがちょろっと時間潰したいね。」
「はぁ〜。」
物凄くアクティブな人なんですね。
あぁ、思い出しました!。この人、アミガさんの宿屋に来た人だ。なんかスッキリしますね、思い出せると。
「えっと、今日、アミガさんの宿屋にいらっしゃってた人、ですよね?。」
「ん?、クエスト中に良か猪が遭ったけんが、シメて持って行ったばってんあそこにおったんやね。」
はい、微妙に分からないところもありますけれど何となく伝わりました。
「えぇ、一泊したんですよ。」
「見らん顔やけん、観光か旅の途中で寄ったんやろ?。あそこは値段が安い割にサービスよかけんがオススメよ。」
「紹介してくれた子も言ってました。」
「あの、質問なんですが…。」
「うん?」
「日本の方、ですよね?」
「そうやけど?。」
素で返されました。ここ、異世界ですよね?。
「人探しに来とるんよ。俺らはその探しよる人に巻き込まれた感じやね。」
「トラブルメーカー、ですか?」
「本人は悪くないんやけどね。腰を据えて生活出来ん状態らしいんよ。」
「仕事には着いとるし、戻っても時間軸的には転移した時間帯から数分後位に戻れるんやけどね。」
「はぁ?。」
「強制的に異世界に転移させられた上に、転移先で過ごした時間は戻せんらしいんよ。」
つまりは、勝手に異世界に呼ばれて数年過ごした場合はその分歳をとるという事らしく、戻る時は転移した数分後に戻るけど成長した身体は戻らないらしいでとの事だそうです。
「笑いながら、『人間を強制的に辞めなきゃいけなくなりましたよ』って言いよったけんね。」
ボクはなぜかふと以前に会った、ユウリさんの顔が出て来ました。
『そう、それで、ね。』
(ん?。イヴ、どうかした?)
『いいえ、何でもないわ。それよりライゼルカを探さないと。』
そうでした。ちょっと聞いてみましょう。
「あの、話変わっちゃってすみませんけど、和服を着た女の子が来ませんでしたか?」
「来とらんよ。なんかあったん?」
ボクは口喧嘩した事を説明しました。まぁ、一部ぼかしましたけれど、概ね全て吐き出した感じです。
「普段は其処まで言わんとやろ?」
「はい。自分自身なんでそんな感じに言ったのか分からないんです。」
「それストレスもあるんじゃ?」
「ストレス、ですか?」
知らないうちにストレスを感じていたんでしょうか…。この際です、ちょっと人生の先輩に相談してみましょう!。
「……、という感じなんですが。」
「錬金術師って色々作るのが仕事なんやろ?」
「えっと、そうですね、いろんな素材から物を作って売ったりしてます。それがなにか?」
「素材はモンスターの素材とか自然素材が主でいいんよね?」
「はい、そうですよ。」
「一つ言える事は、そんな考えやったら錬金術師やめた方が良かっちゃなかろうか。」
「え?」
「だってそうやろ?。素材は其処らの店で買って作って利益がそんなに出らんような販売するんやったらやめてストレスフリーになって別の事した方が良かよ。」
「ど、どうして、そう思うんですか?」
「要は自分のやりたいように出来とらんけんストレスが溜まっとるんやと思うよ。第一、自分が覚えた事を使わんのは教えてくれた人に対しても失礼よ。それで潰れる様な店は結局長続きせんけんが。」
何となく、自分でも納得出来てしまう所がありました。そしてこうも思いました、「あぁ、もう無理しなくても良いのかな」って。自分で覚えた錬金術を惜しげもなく、楽しく使って良いんだって。
ボクの心が、軽くなった気がしたんです。




