新たな大地と人と。
眩い光に包まれた後、視界が回復したらそこは森だった。事前に打ち合わせしていた通り、近くに村があるはずだ。
「とはいえ、少し嫌だなぁ。暗いし、なんかジメっとしてるし・・・。」
そんな風に思いながら地形を確認し、大凡の場所を把握する。
「ここなら、数時間もすれば着くよね?」
そう一人ごちる。森の中を歩くような格好では決してない状態で進んでいく。
「はふ、結構疲れるね・・・。」
そうしておよそ四時間ほど森の中を歩き、開けた場所へと出る。
「あっ、あれかな!?」
ボクは少しテンションが上がった。ウキウキ気分で駆け出す。
門での所で止められる。検問みたいなもの。これを通らないと中には入れないらしい。身分証としてギルドカードが一般的らしい。しかし、ボクはつい先ほどこの世界に来たばかりなのでそんなものは持ち合わせていない。失策。事前に下調べを義姉さんとしておくべきだったと後悔。
「ギルドカードは持っていないのか?」
「は、はい。村からこれ一つで来ていましたし、道中の村も必要なかったですから・・・。」
「そうか、なら硬貨は持っているか?。身分証がなければ入るのに2パース必要になるぞ?」
「えっと、今はこれしか持ち合わせが、ないんですけれど・・・」
そう言って取り出したのは白金貨。日本円で換算するとおよそ一千万。この世界でも大金である。これも失策。こんなことをすれば少女であるリーンは襲われる可能性がある。それを察した親切な兵、バニング・ソーンは即しまう様に言う。
「そんな大金を軽々と見せるのは感心しない。ここではどんな輩が見ているかわからないからな。ここは私が立て替えておく。どこか好きなギルドに行ったらまずは両替したまえ。その後で、私に返してくれればいい。」
そう言ったあと、ボクは門を通された。
まずは錬金術ギルドに行かなくてはいけない。各ギルドの場所は大通りに面しているらしいので迷う事もないはず・・・。
人通りはかなりあり、流石に鈴音の住んでいたところには負けるのだがそれでもこの世界では多いと言ってもいいくらい。
「すごい人だね・・・。」
まるでおのぼりさんだよ。そんな事を思いつつ、適当にギルドの中に入り錬金術ギルドのマークを聞き出す。(ここである程度会話する職員、女性と程々仲良くなり後に親友になる。ちなみに同い年16歳くらい)
錬金術ギルドのマークは釜らしい。それを目当てに進んでいく。しばらくすると寂れた感じのギルドが目に入る。ギルドのマークから錬金術ギルドとわかる。
(この時すでに錬金術は廃れていた。)
「うわぁ~、これは、なんとも・・・。」
(その時中から女性が出てくる。この女性は錬金術ギルドのギルドマスターで、凄腕の錬金術師。」
「ん?。君は、こんな所に何の用かな?」
「錬金術ギルドに入りたいんですけれど・・・。」
まさに歓喜と言わんばかりに女性の表情が明るくなる。
「そうか!君は錬金術に興味があるのか!」
「興味があるっていうか、出来ると言うか・・・」
そう言うと目を丸くした。
「ほう、その若さで錬成が出来るのは素晴らしいな」
感心したように頷きながら答える。
これも義姉さんとの勉強の成果なのだけれども・・・。そんな事を口にすることはない。いらぬ疑いなど持たれたくはないから。
「すいません、自己紹介がまだでしたね。ボクはリーン。リーン・ファンテです。」
「あたしはクレメリア。クレメリア・テンゼだよ。よろしく。一応、この街、サンテグリルの錬金術ギルドのギルドマスターをしているよ。」
なんと、ギルドマスターさんでした、びっくりです!。
「こんな所で話すのはなんだ。まずは中へと入ろうじゃないか!。」
「は、はい。」
クレメリアさんのテンションが上がっている。無理もないかな、聞きかじった話では職員は引き抜かれて錬金術師は戦士ギルドに睨まれるのが嫌で街を出て行ったらしい。なんとも、仲の悪いことでしょうか・・・。これは、なんとかしたいですね。
そんな事を考えつつ、ギルドの施設内に入ると絶句した。汚い。そう、汚すぎるのだ。なぜこんなことになったのか分らないほどに汚い。
「あ、あの・・・。」
「なにも言わないでくれ!。分っているんだ、この汚さが異常な事くらい・・・。でも、片付けられないんだよぉ~」
泣きつくように、いやむしろ泣きついてきている。うん、わかる。解るよ、クレメリアさんは片付けが出来ない人なんだね・・・。
それにしても、ここまでなっても誰も掃除をしていないとはこれ如何に?。
「あ、あのぉ、他の職員さんは?」
そう聞くと、その双眸を濡らしながら答えるクレメリアさん。
「引き抜かれたんだよぉ!、今はあたし一人なんだッ!!」
これまたビックリです。まさか全職員が引き抜かれるとは・・・。
「職員さんは錬金術師ではないんですか?」
「一般職員は一般公募なんだ。」
それもそうだよね、そんなに錬金術師がごろごろいるわけないもんね・・・。結構マイナーで根暗な職種だって、クラスメイトの男子は言っていたし。
「どうしてそんなに引き抜かれていったのですか?」
「あぁ~、それな、原因はあたしなんだ。」
「と、いうと?」
そう言って聞くと、途端に視線を泳がせる。何か隠し事をしている気がする・・・。
「で、原因はどうしてクレメリアさんにあるんですか?」
「えっと、それは・・・。」
見るからに焦っているのがわかる。いったい何をしたんでしょうか・・・。
「それは?」
「こう、錬金術したいじゃない?」
「そうですね、ボクたちは錬金術師ですからね?」
「そうしたら、だ。必然的にアトリエに籠るじゃない?」
「そうですね、錬金術をするならばある程度は・・・。まさか?」
「は、はい。籠ってしまってギルドマスターの仕事が溜まってあれよあれよという間に・・・。」
さすがにこれは言葉が出ませんね・・・。なんというか、錬金術師の性に負けてしまって本来の仕事が疎かになっていたみたいです。
これはいけません。彼女を更生させて、この錬金術師ギルドを活気あるものにしなければ!。一先ずはこのギルド内の清掃からですね!。
「わかりました、まずはここを綺麗にしましょう!。ボクもお手伝いしますから。それが終わったら次の事に取り組みましょう。」
ボクはそうクレメリアさんに提案する。というか、そうでもしないとこの状況はどうにもなりません。まずはこのギルドの事をどうにかしないことにはボクは先に進めそうにないですから。
「な、なんという女神!!。そうだな、まずはこのギルド内の清掃からだな!。」
そう言ってクレメリアさんは立ち上がると、やる気に満ちた眼で頷いた。
ちょっと不安ですが、どうにかなりますよね?。・・・なりますよね??。
「まずは必要なものとそうでないものを分けていきましょうか。」
そう言うと、クレメリアさんはこのゴミだらけの中から清掃道具を一通り取り出してきた。バケツと雑巾に箒にちりとりと。うん、これだけあれば大丈夫。
「クレメリアさん、まずは外に運びましょう」
「あ、あぁ。分かった。」
一度こうと決めてしまうと彼女の行動は迅速だった。あれこれと選別していき不要なもの必要なものときっちり分かれそのほぼすべてが不要なものサイドへと置かれていた。
「これは、殆ど不要なんですね・・・。」
「あ、う、うん。今考えるとなんでこんなものがあるのか疑問でしょうがないよ・・・。」
「でも、クレメリアさんが選別している時のかっこよかったですよ?。ついつい見惚れちゃいました。」
そう言うとなぜか彼女は顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。一体どうしたんだろうと思い、彼女の顔を覗き込むように見るとまたも別の方向へと向きこう言った。
「は、恥ずかしいから、今は見ないでくれ!!」
「ふふ、クレメリアさん可愛いです」
「君は意地悪なのだな・・・」
そう言いながらクレメリアさんはぐすんと鼻を鳴らしながら答える。その姿を見ながら、この人は放ってはおけない気になる。なんともギャップが凄くて今のボクからでも可愛いと思えるくらいに。
これが所謂萌えと云うやつかも知れない・・・。いやいや、今はそんなことよりこれからの事です。
「あの、クレメリアさん、良ければ雑用はボクがしましょうか?」
「なに!?本当かい?。それならば助かるよ。」
「えぇ、ボクでよければ。それと云っては何ですが、もしよければクレメリアさんの工房貸してもらえませんか?。今のままでは錬金術も出来ないので。」
「なんだ、そんなことで君という労力と癒しを得られるのであればいくらでも!」
最早クレメリアさんの答えは即答だった。それも驚くくらいに・・・。でもこれで工房は一時とはいえ確保できました。これから自分の工房を持つ為に頑張らなきゃね。
それよりもまずはこのギルドのお仕事からです。廃棄処分組とそうでないものの仕分けは先ほどクレメリアさんがしてくれましたので、ここからはボクの役目になります。ほぼほぼ燃えるような素材の為、燃やしてしまいましょう。街中ですが・・・。
「では片しましょうね。この手袋をしてっと・・・。」
「ふむ、それはなんだい?」
気になったであろうクレメリアさんがそう話しかけてくる。別に隠すような物でもないのでいいですが。
「これはですね、この手袋を着けるとあら不思議、重い物も羽のように軽々と持ててしまうんです。」
その様子に唖然としている。それもそうだろう、結構な量を一気に持っているのだから。それもこの手袋のおかげです。それはそうと、このまま終わらせてしまいましょう。
ぱぱっと指定のゴミ捨て場に廃棄物を持っていくその様は異様の一言だっただろう。
「すみませーん、ゴミ捨て場ってここであってます?」
「ん、ああ、そうだが・・・・・・・ってなんじゃそりゃ!?」
このゴミ捨て場を管理している衛兵さんが驚愕の顔をする。まぁ、常識的に考えてこれは無いしね・・・。
どさりと廃棄物を置いた後にボクは改めてこのゴミ山を見やる・・・。一言でいうと、よくこんなにもゴミがあのギルド内に散乱していたなと思う。
「さて、これでひとまず大きなものは終了ですね。あとは・・・。」
「待ちな、嬢ちゃん。」
「ん?、ボクですか?」
「おめえ以外に誰がいんだよ!」
「はぁ、それで、何かご用ですか?」
「こんなものどっから持ってきたんだ?」
「錬金術ギルドですが?」
「やっぱりな、どっかで見たことあると思ったぜ。」
「それにしても、嬢ちゃんは見かけによらず結構力持ちなんだな。」
「そんなことないですよ?。道具に頼りっきりですし。」
男はしめたと言わんばかりにニヤリと笑みを浮かべる。
「へぇ、どんなものか見せてくれねぇか?」
「えぇ、いいですよ。」
ボクはそう答え、手袋を外すそぶりを見せる。それと同時に男の笑みがだんだんとわかるくらいにまでなっていた。・・・これだからこの手の手合いは嫌いなんですが。
渡す直前でボクは相手の腕を捻り勢いで足払いをしたのちにそのまま回転させる。クルリとものの見事に一回転を果たし地面に頭を置いている男は放心状態だった。
なにが起こったのか分らない。周りもそうだった。
「ふふ、人様のものを盗もうなんておいたはだめですよ?」
おそらく男たちに囲まれればリーンはなにも出来ずに身ぐるみ剝されいろいろな物を失う事だろうがここは人の行き来が激しい場所に近い。数メートル進めばそこは大通りなのだから、大声を上げればすぐにでも兵たちが駆けつけてくるだろう。
男たちがボケっとしている間に全員縛っておく。これはものの数秒程度。
我ながら良い仕事ぶりですね。
「さ、詰所まで行きますよ?」
「はっ?」
そう、気付いた時には時すでに遅しで全員お縄状態。そのままズルズルと引きずるように歩く。その途中に魔導具店でミスリル製の杖を購入しお金を崩す。バニングさんに返すためですからね。
「嬢ちゃん、誤解だ、だからこの縄を解いてくれよ?」
「ふふ、嘘はいけませんよ?」
「な、なにを・・・」
「これ、何だと思います?」
そう言って懐からピンクの液体の入ったビーカーをそっと取り出す。どこに入っているかは秘密ということで・・・。
「な、なんだよ、それは?」
「・・・自白剤です♪」
その瞬間に男たちは青ざめていく。彼らはここ最近名を上げてきた盗賊たちで、この街の荒し回っていた連中だった。
「じょ、嬢ちゃん、取引しようぜ?」
「取引?」
「そうさ、今ここで俺たちを見逃してくれたらあんたの助けになるように働こう。どうだ?」
「とりあえず、お断りしておきますね。」
にべもなく切り捨てる。当然です、ボクはこの手の人たちが嫌いです。無知で我儘な貴族も嫌いですが・・・。
盗賊という職業を否定する気はありませんが、もう少しどうにかなりませんかね・・・。