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雲行きが…。03

 俺は娘を助けて貰ってから数日が過ぎ、元気になったリネットとカティアを連れて例の店、工房へと向かう。

 終始楽しそうにしていたリネットとは違い、カティアは不安そうな表情をしている。確かに、あの紅い髪の女性ならばその心配は分かるがあの少女ならば問題はあるまいと感じている。


(実際、あの視線はヤバかったがな…。)


「おとーさん、おとーさん、リネットたちどこ行くの?」

「お父さんやリネットがお世話になった人の所へお見舞いに行くんだよ。」


 そう言ってリネットの手を繋ぎ、店の前にたどり着く。俺は迷わず扉を開ける。

 カランカランと小気味良い音が、やはり来店者を告げる様に、そして歓迎するかの様に響き渡る。


「いらっしゃいませ。」


 出迎えたのは、やはり店主の少女。童顔だが、スタイルは良い少女がにこやかな笑顔で挨拶する。


「やあ、先日は世話になった。娘を助けていただき本当にありがとう!」


 俺は感謝の気持ちを伝え、頭を下げる。その光景にカティアは驚いていた。俺がそうそう頭を下げる事をしないからであろうが、大事な娘を救ってくれたのだからこれ位なら何度だって出来る。


「元気になったんですね、良かった〜。」


 安堵した言葉と共にため息が出ていた。彼女なりに気になっていたのだろう。


「そっちも、大丈夫なのか?」

「あはは、大丈夫ですよ。ただの魔力枯渇ですから。」

「なら良かった。」

「それよりも、この間から自己紹介出来て無かったですね。ボクはリーン・ファンテ。このアトリエの持ち主です。」

「俺はバッカス。この辺で酒場をやっている。先日助けて貰ったのがリネットで、後ろにいるのが家内のカティアだ。」

「妻のカティアです。先日は娘を助けて頂きありがとうございます。ですが、金輪際私たち家族に関わらないでちょうだい!」


 俺はカティアの発言に目を剥いた。自分の娘の恩人に対して余りにも無礼極まりなかったからだ。


「お前は何を言っているんだ!!。リネットを助けてくれたんだぞ!」

「それは分かっているわ!。でもそれとこれとは別よ!」


 俺はカティアが何を言っているのか訳が分からなかった。


「あなたは騙されているのよ!。私は聞いたわ!錬金術師はみんな詐欺師だって!。厄介ごとしか持ち込まない、クズ共の集まりだって!」


 俺はカティアのその言葉に絶句し言葉を失ったのだった。



ーーーーーーーーーーーーーーー



 取るに足らない存在だと思ってはいた。私にとってあの娘リーンが一番である事は変わらない。正直言うと、興味のない存在であった事は言うまでもないことね。でもそれは、今し方目の前の女は私を敵に回した。

 本気で潰しに掛かればこの街を焦土に変える事は容易だ。ただ暴力的に魔力を暴れさせれば良いだけの話だから。でもあの娘リーンはそれを望まない。望まない事はやらない主義なのが私だ。


 少しばかり怖がらせてやろうと、そう思った。目の前の女を殺す事はあの娘が望まない。でもね、私の気が晴れないわ。

 大切な家族をあんな言い方されては、ね?。


 あの娘も初対面の人間にあそこまで言われて凹んでいるから、出てくるのには苦労はしなかった。当然、男の方は驚いていたが女はというとそうでも無かった。


 知っていた、という事かしら?。それにしても、寄生させた人物は相当に情報収集能力が高いのかもしれないわね…。

 本人が悪くないとは言え、皮肉の一つや二つ言いたくなるわね。いえ、むしろ言わせてもらうわ。


「ねぇ、そこの貴女。善意という言葉は知っているかしら?。

「知っているに決まっているでしょう!。」


 会話を始めた時に私は見つけてしまった。

 黒く、禍々しい虫を。

 それは災厄を呼ぶ虫、それは思考を喰べる虫、それは存在を喰う虫だった。なぜこの虫がこの女に憑いているのかは分からないが、このままではこの娘リーンにまで害を及ぼしそうなモノだった。私としては今すぐにでもそのいのちごと潰してしまいたかった。


「チッ。」


 思わず舌打ちが出てしまう。あんな虫を付けた輩が一番悪いわね…。

 そう思いながら、虫の駆除をしていくのだった。

iPad、買おうか迷っておりまする…。


そして寝不足気味の私です……。

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