雲行きが…01
俺はこのサンテグリルで酒場をしているバッカスという。自慢ではないが、酒場自体はかなり繁盛している。まぁ、近くにギルドがあるからかも知れんがな…。
そんな事よりも、最近はリーンが姿を見せなくてリネットやカティアはそれはもう残念がっている。今日フラリと顔見せに来たんだが、それは黙っておこう。何せ責められたくはないからな!。
さて、なぜ俺たち家族がこんなにもリーンを気に入っているかは半年前まで遡る事になる。その時このサンテグリルに来たばかりのリーンはそれはもう周囲の人間から不審な奴みたいな目で見られていた。このサンテグリルで錬金術師なんざいい目で見られるわけがなかった。
理由としては、冒険者ギルドが流した噂だ。詐欺師だの何だのと吹聴していた所為でこの都市は錬金術師がいなくなり、結果として技術力が他の都市と比べると劣っていたとである。
「最近怪しいお店が出来たって、トレーナさんが言っていたわ」
「怪しげな店?」
「えぇ。何でも工房で傷薬とかも売ってるらしいの。そっちにお客さんが流れてしまうかもって言っていたわ」
「トレーナさんとこは雑貨屋だったか。」
「えぇ、冒険者用に傷薬なんかも置いてあるって。」
「そうか、ちょっと見に行ってみるか。」
「気をつけてくださいね?。怪しいお店らしいから何があるか分からないから。」
「分かっているさ。」
そんな怪しげな店なんざ、即座に潰してやる!そう思って俺は次の日その工房とやらに出向いた。
「ここか。何というか、普通の店だな。」
俺は躊躇わずに店のドアを開けて中に入る。開けた時にカランカランと小気味良い音が店内に来店があったことを告げる。
「いらっしゃいませ!」
可愛らしい声が来店者を迎える。ひょっこりと顔を出したのは美少女だった。
俺は正直年老いた婆さんかなんかが経営しているものとばかり思っていた。だが、出てきたのは可愛らしく透き通る声で容姿などは素晴らしいの一言。スタイルは言わずもがなだ。
クッ、俺が未婚であと20年若ければ!。と思わなくもない。
「何かお探しですか?」
俺が思考の海を漂っていたら声をかけられた。ビックリするからやめて欲しいぜ。
「あ、いや、偶々近くを通りかかったから寄ってみただけだ。それにしても、色々とあるんだな。」
「そうですね、ボクが錬金術で作れる物は大抵置いてますよ?」
「…ボク?。キミは男なのか?」
俺は一人称が気になったからストレートで聞いてみた。
「あはは、男の子がこんな胸してたら気持ち悪いでしょう?」
目がいってしまった。で、デカイ!。あの童顔にあの凶悪な胸はけしからん!。気にしないようにしていたが、いかん一度見るとついつい目がいってしまう…。
「あの、視線がえっちです。」
「す、すまん!。」
逆らえぬ男のサガが恐ろしい!。
「ここは何を売っているんだ?。」
「ん?いろいろですよ?。」
「具体的にだよ。」
「とはいっても本当にいろいろですから。傷薬とかもそうですけれど、装備とかも作れますね。これは専門ではないのであまり上手くはないですけれど。」
その話を聞いたとき、俺は愕然とした。専門ではないにしろ、武具も作成できることはすごい事だからだ。それだけではない、傷薬などの商品は明らかに雑貨屋の物よりも数段上の品質の商品なのは言うまでもない。
(悪い、サムス。これは勝ち目ないわ。)
サムスというのは、トレーナの旦那で俺とはかなり仲がいい。よく俺の店で飲んだりする仲だ。
俺は心の中で合掌しながら中を案内してもらう。何とも凄い混沌とした品揃えだ。文具から冒険者用の物まで兎に角種類が凄い。
「これは、凄いな…。」
「錬金術で作れる物は大抵置いてますよ。」
「この袋はなんだ?」
「あ〜、それは四次元巾着です。」
「よ、よじ?なんだって?」
「四次元巾着です。いわゆるマジックバッグみたいなのですよ。それは女性向けの物です。」
「って事はだ、見た目の割に物が入るってのか?」
「それはもう。買い物なんてその袋一つで事足りますよ?」
なんてこった、マジックバッグなんざ大金出してもそうそう買えるもんじゃない。ましてや、店の中に無造作に置かれてるなんてあり得ない。
(おいおい、無警戒にも程があるだろうが…。)
「とは言っても、購入しなきゃ使えない様にしてるんですけどね。」
対策済みって訳か、まぁ当たり前だわな。
一通り見て思った事は、兎に角規格外って事だった。あり得ないまでの品揃え、各種効果が付与されたアイテムの数々にそこいらの店を凌駕する品質。どれを取っても異常の一言だ。
そんな店を、こんな少女が一人で経営している事に戦慄を覚えたのだった。
酒場のマスターとの出会いなので、今よりも時間は遡っています。
中途半端ですが、何話かで構成してますのでご容赦を!。