雷天龍の渓谷03
遅筆すぎることに、罪悪感が…
でも、がんばる( ` ・ω・ ´ )
「全く、こっちは人を探すので忙しいっていうのになんなの!?」
女性は、吹き飛んだ男の方を睨みながら悪態をついていました。
「やってくれるじゃねぇか、このアマがァ!?」
汚い言葉を発したのは、吹き飛ばされた男です。見た目も汚ければ、中身も汚い人でしたね!。
でも、実力は本物のようです。立て直す速度や、移動はボクには無理だよ。
「はやく倒れなさいっての!」
「はん、これからが面白ぇんだろうがよ!」
2人は距離を詰めて、間合いに入ると男はバスターソードを巧みに操り苛烈にユウリさんを襲います。ですが、ユウリさんは細い長剣で捌きながらも男にダメージを蓄積させていました。
「チッ、浅かったわ、ね!?」
「クッ、ふざけやがってぇぇ!!」
更に数度の打ち合いをし、互いに距離をあけ仕切り直しています。
「ユウリのヤツ、本気を出しておらんな」
『…、何を手加減しているのよ。ソイツは生かしておく価値なんてないゴミ虫なのよ。』
「か、過激な発言は良くないよ?」
ボクたちはそんな事を言いながら、只々見ているだけしかできませんでした。方や満身創痍、方や魔力切れ、そして非戦闘員。はい、本当に見てるだけですね。
「おい、てめぇ、本気で来やがれ!」
「……はぁ、あんたさ、それ本気で言ってる?」
「あん?」
「そんな事をしたら、ライゼルカ達も巻き込んで殺しちゃうでしょう?」
「何を言って…」
「ほら、脚が震えてる…。ヒトの中では強いんだろうけど、少しは身の程を知った方が良い…。」
いきなり、重圧がボク達を襲います。それが、ユウリさんから発せられている魔力とはすぐには分かりませんでした。
『…、な、なんなのよあの桁外れの魔力はッ!?』
「イヴ?」
イヴが震える声でそう言った。
ユウリさんの周りには、彼女の髪と同じ色の光の粒子が舞っていました。まるで精霊が彼女周りで踊るようで、神秘的な印象を与えていました。
「イヴだったっけ?。そこで良く見ておきなさい、魔力の使い方を教えてやる。」
「チッ、クソアマが、調子に乗んなよッ!!」
男が素早く距離を詰め、剣を振るうもあっさり止められる。それも指で。その光景をみて、ボク達は自分の目を疑いました。指二本でバスターソードを止めているなんて、人間の技じゃないです。ライゼルカまでもが固まっていました。
「私を斬ろうとするなら、魔剣か聖剣、出来れば神剣が望ましいわね。」
「クソったれぇぇぇ!!」
男は叫びながらも力を入れているのでしょうが、ビクともしていません。それどころか、ユウリさんは冷たい眼差しでその光景を見ていました。
「沈め」
ユウリさんがそう口にした瞬間に男は白目を剥いて倒れていきました。ボクは勿論、ライゼルカもなにが起きたのか分からなかったみたいです。
「お、お主、今何をしたのじゃ?」
ライゼルカがユウリさんに問い掛けます。ゾクリとする程に冷たい視線をこちらに向けつつも、ユウリさんは答えました。
「意識を失っただけよ。」
ゴクリと、ライゼルカの息を呑む音が聞こえました。身体も微かに震えています。ボクも人の事は言えませんけどね…。
「ふぅ〜。」
ユウリさんが息を吐き、それと共にあの冷たい感じも消えていきます。あのままでしたら、生きた心地がしません。
「さってと、私は行くかな〜」
「ど、何処かに行くのですか?」
「ん、まぁねぇ。人を探してるんだよ。この世界にいるのは間違いないんだけどさ、まだ見つかんないんだ〜。」
遠い目で語るユウリさんは、なんだか儚く消えてしまいそうな印象でした。
「異界渡人は大変じゃのぅ。」
「異界渡人?」
「君や私の様な、別の世界から来た人間の事だよ。」
その瞬間ドキリと、心臓が跳ねました。
「最も、君の場合は永住する様だけど。」
含みのある視線を向けたかと思うと、今度は話題を逸らすかのようにライゼルカに問い掛けていました。
「それで、ライゼルカはどうするの?」
「ふむ、それなんじゃがな…。」
ライゼルカはボクにチラリと視線を寄越します。
「リーンに付いて行こうと思っての!」
「ふぇ!?」
ボクは突然名前を出されたのにビックリして変な声が出ていました。恥ずかしさの余り、顔が熱くなっているのが自分でも分かります。
「そっか、そっか。ならここでお別れかな?」
「そうなるのぅ。」
「会って間も無いですけれど、ちょっと寂しいです」
「あはは、そう言ってもらえると私も嬉しいかな〜。」
「まぁ、此奴も忙しい身らしいからリーンもあまり引き止めてはならぬよ。」
「そうでした。では、色々ありがとうございます。」
「うん、縁があったらまた会おうね!」
そう言ってユウリさんは風の様に颯爽と去って行きました。それはもう物凄い速さでしたよ…。
「して、黄玉の欠片が必要なんじゃったな?」
「えっ?、あ、うん。必要、だけど…。」
「どれ、このくらいかの?」
ライゼルカの手にはいつの間にか黄玉の欠片が、というより塊がありました。
確実に、多いですね!。
『欠片だって言ったでしょう?』
「これでも欠片なんじゃがなぁ〜』
そう言いながらライゼルカは困った顔をする。可愛いです。とてもあの雷天龍とは思えません。正直、怖いですからねあの姿。
「んぅ?どうした?」
「あー、その、どうやって帰ろうかと思って」
「そう言えば、リーン達は何処から来たのじゃ?」
「えっと、サンテグリルからだけど」
「お主ら……。」
可哀想なものを見る目で、ボク達を見つめるライゼルカ。
「本当に阿呆なのか?。サンテグリルから此処まで400キロ程離れとるじゃろ!。全く、一先ずはあのクズ男を縛って吊るしておかねばおちおち休めんしのぅ。」
そう言ってライゼルカは手早く男を縛り吊るし上げる。その間僅か数十秒でした。早業ですね。
「何をしておる!早う来んか!」
スタスタと進んでいたライゼルカに、急かされました。いったい何処に行くのでしょうか。
ライゼルカに案内されてやってきたのは、こじんまりとしていますがしっかりとした家でした。木造一軒家で、結構大きいです。と、いうか和風です。
「上がるが良い。茶を出そうぞ!」
そう言ってライゼルカは、ガラガラと戸をスライドさせて中へと入って行きました。ボクが驚いていると、ひょこっと顔だけ出して言いました。
「何をしておるのじゃ?茶と菓子を出すから上がらんか!」
「あ、う、うん。お邪魔します。」
何処からどう見ても、和風の一軒家ですね。しかもほのかに畳の匂いまでしてますし。
玄関から一直線に伸びる廊下に、右手には風呂場とトイレ、左手に居間、突き当たりには台所など完全に日本家屋です。
「居間で待っておれ。良いな、二階に行くでないぞ?」
「う、うん。分かった。」
あまりの気迫に、そう返事をせざるを得なかったのは言うまでもない。それにしても、と室内を見渡すと改めて日本家屋だった。掛け軸なんかも掛けてある。
「今日はここで休んで明日、サンテグリルに向かうとしよう。」
そう言いながら、お盆に湯呑みを乗せてやって来た。これは確定ですかね、緑茶。
ボクの前に湯呑みが置かれ、中には緑と言うよりも黄色い液体が入っていた。抹茶が入っていないので、黄色味がかっているがこれは緑茶ですね。
「これ、緑茶…。」
「お?。知っておったか?」
ライゼルカはあちち、と言いながらズズズっと啜っていた。テーブルには、煎餅が置かれていた。うん、ナイスチョイスなお茶請け。
雑談をしながら、ボクたちは何時しか泥の様に眠っていった。所謂爆睡というヤツです。
2人して爆睡したまま、夜が更けていきボクたちは翌日に渓谷を後にするのだった。




