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これはどういう事ですか?

 夕陽の差し込む学校の放課後。教室内をオレンジ色に染め上げている中、机に肘をつきボーっと外を眺めていた。家に帰りたくないわけではない、それよりも今のこの時間がボクは気に入っていた。


 そんな中ふらりと影がさす。その方向に視線を向けるとそこには見知った女子生徒が立っていた。にこやかな笑顔をボクに向けてこういった。


「ねぇ、鈴音(すずね)ちゃん、今から駅前のクレープ屋行かない?」

「ん?良いけど、どうしたの?」


 そう聞いてきたのはクラスメイトで幼馴染の相葉 ここねちゃん。よく一緒に放課後にスイーツを食べに行く間柄なのだ。

 放課後の日の暮れかけたあかね色の空が放課後になってしばらく時間がたっていることを告げている。そんな中での出来事。


「いやさ、駅前のクレープ屋って鈴音ちゃんがいる時だけ贔屓するし」

「そうなの?」

「そそ、だからさ!!コレ、着てくれる?」

「もう、しょうがないな~」


 そう言って渡されたのが、ボクの通っている学校の女生徒用の制服。もちろん、下着もセットで渡されたのは言うまでもない。

ここで誤解がないように言っておくと、ボクは女装趣味は決してない。ただ、昔から女の子の格好をさせられていた為にさほど抵抗感が薄くなっているだけ。


「ここねちゃん、ボク冷え性なの知ってるよね?。何でタイツかニーソがないの?」

「ごめんッ!?忘れたの!!」


 パンと手を合わせて申し訳なさそうにしている。慣れっこなのでこんなことでは怒らないけれど、やっぱり寒いものは寒い。何せ、もう十一月も終わりに近づいていた。


「まあ、そんなことで怒らないけど・・・。」

「ホント?」

「幼馴染なんだから、分かるでしょ?」

「うん、まあ」

「それよりも、着替えるから、あっち向いてて?」

「あ~、うん、分かった。」


 そう言ってここねちゃんは見えない様に別の方向を向いていた。ボクはボタンに手を掛け一つずつ外していく。シュルシュルと生地の擦れる音が教室内に響く。慣れた手つきでボクは着替えていく。束ねていた髪を解き、カバンの中からカールブラシを取り出し髪にふわりとさせる為巻いていく。もちろんこれも慣れた手つきである。その様子をここねちゃんがいつの間にか見ていた。


「・・・いっつも思うけど、鈴音ちゃんはなんでそんなに慣れてるの?」

「・・・・・・主にあなたや姉さん達のせいなのだけれど。」


 そう、なぜこのボク、不破(ふわ)鈴音(すずね)がどうしてこんな、所謂女装という行為に慣れているかというと、見た目のせいだろう。どうあがいても男の子とは思えないほどの女顔に声。親もさることながら幼馴染や姉妹たちが面白がって着せ替え人形のようにあれこれされた結果だといえる。


「それよりも、あそこのクレープ屋は味は良いのだけれど店主のおじさまの視線が嫌だわ・・・。」

「そこは、我慢してくれるとうれしいなあ」

「他人事だと思って・・・。」


 正直に言うとあの店主のおじさんは苦手。あのまとわりつくような視線が嫌いなのだ。更には下卑た笑みまで浮かべる始末。思い出しただけで悪寒が止まらなくなる。でも良くしてくれるのは確かなのであまり表だって文句は言えない。


「それじゃあ、準備もできたし行きましょ?」

「……相変わらず女子力高いよ、鈴音ちゃん。」


 そんな風にがっくりとしながらボクの後に付いてくるここねちゃんだった。しかし、こんな寒い中にクレープを食べに行くその気概というかなんというか・・・。ボクにも解らなくもないが、流石に異性を連れていく気にはなれないと思う。まぁ、ボクは例外かもしれないけれど・・・。


 そんな中スタスタと廊下を出て、昇降口まで出ていくと先生に呼び止められる。


「おい、相葉。その生徒、見かけないが誰だ?」


 体育教師の笹岡先生だ。短髪で声が大きく、何でも豪快に済ませてしまう様な先生だ。決して悪い先生では無いのだが、女生徒からは煙たがられているのが現状なのである。


「先生、不破ですよ。」


 そう言ってやると、先生は一瞬驚いた顔をしたが笑いながらこう返してきた。


「なんだ、イメチェンか新しい遊びか?。なかなか似合っているのが反応に困るな!!」


 これまた豪快にガハハと笑い声をあげた。実直な先生なだけに素直な感想だ。そんな先生に一つお願いをする事にした。


「先生、お願いがあるのですが良いですか?」


 人差し指を唇に当て、上目使いで尋ねる。後ろからは、「うわ、えげつな・・・」等と聞こえるが気にしない。むしろ武器を使って何がいけないというのだろうか。

 そんな仕草に笹岡先生は顔を赤くして応えた。


「お、おう。なんだ?」

「ボクのこの姿、黙っててくれませんか?。流石に恥ずかしいので。」


 追い打ちとばかりに片目をパチリと閉じてお願いする。そう、これはあくまでお願いである。自分の容姿を知り尽くして出来る攻撃だ。使える物は有効に使わないとね?。


「お、おう。それは構わんぞ!。まぁ、なにはともあれ気をつけて帰るんだぞ?」

「はーい」


 そう返事をしてボクとここねちゃん学園指定の靴『これも女生徒用』の物に履き替え学園を出たのだった。あの様子ならば問題ないかな?と思いつつ歩みを進める。

 先ほどのここねちゃんの気になる台詞について問い詰める事にする。


「それはそうと、ここねちゃん。」

「ん~?なに?」

「さっきのえげつないって、なにかな??」


 ボクは先ほどのここねちゃんの発言を追及する。何とも先ほどの反応は頂けない。この姿の恩恵を受けているのはなにを隠そうここねちゃんが一番受けているのだから。

 笑顔で迫る。もちろん眼は笑っていないのは当然。本気で怒っていると思ったのか、眼が泳ぎ始めしまいには頭を下げた。


「ごめん、怒ってる?」

「はぁ、確かにムッとはしたけど、ボクがここねちゃんに本気で怒るわけないでしょ?。幼馴染で親友、でしょ?」


 そう言うと、ここねちゃんはうれしそうに頷いていた。彼女は知っていた、ボクに心を許せる友達がいない事を。こんな容姿なのだからしょうがないと思う。どっち着かずの中途半端な存在の自覚はあるし、正直なんでボクはこんな姿で生まれたのだろうとそう思った事もあった。けれど、そんな中家族以外で変わらずに接してくれたのはここねちゃんだけだった。その事にボクは感謝してもしきれない。


 と、そんな時だった。突然人生の終わりを告げたのは・・・。

 けたたましいクラクションの音が鳴り響く。周りの光景がゆっくり流れて行く。まるで周りの時間が遅くなったかのような感覚。横目でちらりと見てしまった。ダンプカーがボクめがけて突っ込んで来るのを・・・。


(あぁ、これは無理かなぁ・・・。すぐそこじゃない、避けれないわ。)


 その時偶然見てしまった、ダンプカーの運転席を。誰も乗っていないはずのダンプカーが、猛スピードを出していた。あり得ない、あり得ない。そう思っているうちに、意識が暗転していった。

目指そう日常系。

目標はお茶を飲みながらポケッと読める感じにしたいです・・・。

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