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騒乱の後で

世界の中の出来事など、時の流れから見れば一瞬でしかない

(イベントと中の日数がかみ合わない)

「さて、お楽しみの罰ゲームタイムだ」

「あ、あぁぁ……」

戦闘終了後、結界が解除されると同時に、ミゲロ側の生徒は、蘇生された後に中央に集められた。3人とも反抗できないように念の為として拘束系の魔法を付けられている。そしてそれをライトが、ものすごくどす黒い笑みで見下ろしていた。そう、本当にいい笑顔で。

その後ろで、シルフィグは苦笑し、イアはどうするべきかおろおろしている。

「お、お前、そんなことしていいのか!!ぼくは貴族なんだぞ!?お前なんか「あれぇ?分かっていないようだねー?」ヒィッ!?」

なんとか、口答えしようとしたミゲロのすぐ脇の地面にライトは源卦を突き立てる。

「いいかい?その空っぽな頭でよーーーーく理解するんだぞ?お前は、オレとの勝負に負けた。そしてオレが要求したのは、お前の家の財産と、貴族の権力。つまり、今からお前はもう、貴族じゃないんだよ?わかる?お前はもう、無一文の平民なんだよ?」

ライトが一つずつ言葉を紡いでいく度に、ミゲロの現実を否定する言葉をあげる。しかし、それを聞こえていないかのようにライトは一言一句丁寧に発音した。最早、ミゲロは光を失った目で、泣き崩れている。

「そろそろ辞めてあげなよ……コイツのライフ多分下限をぶち破ってるよ?」

「知るか。全てを失って、底まで突き落とすまで辞める気は無いぞ?」

いい加減見飽きたシルフィグがライトに静止を呼びかけるが、ライトは聞く耳を持たない。すると、そこにミゲロ側の壁の方から勢いよく走ってくる、二人の大人がいた。

「このたびは、我が愚息がこのような迷惑をかけてしまい、本当に申し訳ありませんでしたァァッ!!」

そして、来ると共に、勢いよく土下座をする二人。

「もしかして……ミゲロの……」

「はい、父と母でございます」

「この度は重ね重ね、本当に申し訳ございません。決闘の規則は重々承知の上ではありますが、どうか、どうか、貴族位の剥奪だけはご容赦ください。ほら、お前も詫びろ!勝手なことをしおって!」

「し、しかし……」

「どうもこうもない!お前に最早権利などないのだ!いい加減にしろ!!」

泣き目の反抗も空しく、父親に押さえつけられ、両親共々に地面に頭をこすり付ける勢いで土下座する3人。さすがのライトもこれには後ずさりして、後ろに助けを求める。

(どうするよ、シル……)

(どうするって、許してやればいいじゃない。ここまでしてるんだし)

(……ライトが……意地悪なだけ)

(だが、それでは俺の腹の虫が納まらん!)

((……ハァ))

ひそひそと、3人で相談をしていると、ライト側の入り口からもメイコたちがやって来た。

「「「イアちゃぁぁぁぁん!!!」」」

「へ?きゃぁ!?」

勢い良く、イアに飛び掛る、ミクとリンとグミ。そして、その後を、ゆっくりと、レンとメイコが歩いてきた。

「ライト、そろそろ、許して上げなさいよ。貴族の土下座なんて、早々見れるもんじゃないし、ちょうどいいもんでしょ?」

「第一、貴族位なんかもらっても俺たちじゃどうしようもないだろ」

そういう、メイコとレンの言葉に顔をしかめるライト。

「はぁ……仕方ない、申し訳ありません、バスーナご夫妻。さすがにその様な状態では話も出来ません。どうぞ、お顔をお上げください。」

「貴女様は……」

「私、この子達の保護者となっている、メイコ・フェウダールと申します。このたびの決闘、こちらが勝ちましたが、要求しているものをもらっても手に余ります。しかし、何も成しに終わらせては、ルールに反しあなた方の貴族の体面に傷がつくでしょう。そこで、このような折衷案はどうでしょう」

そう言って、メイコは脇から1枚の紙を取り出す。

「今回の要求物は、あなた方の財産の半分、そして物資流通の一部権利をいただく。というものでどうでしょうか」

その提案に、バスーナ夫妻は顔を見合わせる。確かに今の要求も痛いが、さっきのものに比べたら、全然ましである。むしろこれに乗らない手はない。

「わかりました!その提案ありがたく受けさせていただきます!」

「了承しました。ではこちらにサインを」

そうして、懐からペンを取り出し、サインを完了させ、こちらに戻ってくるメイコ。

「さぁ、今日のところはこれでお開きでしょ!審判、そうなんでしょ?」

「え、えぇ……まぁ……あれでよいなら……」

「なら、あんた達、とっとと帰るよ。」

そう言って、一瞬で全てを解決し、嵐のように過ぎ去っていったメイコを見て、やはり敵わないなー、と改めて実感したライトであった。




………………

…………

……




「それじゃ、無事に済んだ決闘を祝って乾―杯!」

「「「「「乾杯ッ!!」」」」」


時刻は過ぎて、夜の6時を回った。ギルド【天鳴の歌声】では今回のことを祝って、持てる限りのささやかだが、宴会が開かれていた。長テーブルに並んだ、数々の料理に舌鼓を打ちながら、皆で今日のことを振り返っていく。

「イアちゃん凄かったね!あの魔法、上級でしょ!?」

「凄いじゃんイア!相手の奴、完全にビビッてたよ!!」

「……みんな、応援ありがとうね」

「ねー、シルフィグあれどうやったのー、というか何やったのー?」

「んー?まぁ、秘密かなー」

「ケチー」

「ライト、今回はやりすぎだろ……見てた生徒ドン引きだったぜ……」

「あー、やっぱり?まぁいいじゃん。余計な手出ししたらこうなる、みたいな威嚇になってさ」

「はぁ……」

メイコは尋常じゃない速度で酒瓶を空けていき、皆は談笑などで時間を潰していたとき、ふと、ギルドに入ってくる人物がいた。

「あれ、みんな勢ぞろいだし、新しい人も増えたのかな?」

その人物は、特徴的な青い髪に、動きやすい運動服で纏まった服を着ている。所々に軍服の形であったかのような名残があることから、元々は軍の制服などだったのかもしれない。その顔に優しそうな笑みを浮かべる人物はメイコに声をかけると、すぐさま返事が返ってきた。

「カイト、遅かったじゃない!今日の昼には来るって連絡でしょ!!」

「ゴメンゴメン、ギルド本部へ連絡入れてたらなんか、色々押し付けられて、手間取ったんだよ。ただ、ちゃんと試合は見たよ。」

そう言って、空いた席についた人物は、向かいにいる新人に声をかける。

「で、君たちが、メイコから連絡があった新人君かな?」

「あ、ハイ。ライト・アーヴァーンです。旅をしていたところを、ミクに誘われてギルドに加入しました。」

「私はシルフィグ・ハーゼンといいます。ライトとは昔からの親友でライトに続いてこのギルドに加入しました」

そう言って、目の前の人物に礼をする二人。

「へぇ、その年で旅を……君たちは強いんだね」

そう言って、ゆっくりと立ち上がると、丁寧なお辞儀をしてその人物は自己紹介を始めた。

「ボクの名前はカイト。カイト・アンブレームといいます。このギルド『天鳴の歌声』で副首領を務めています。先日までは短期出張クエストで出かけていたため君たちが来た時にはいなかったんだ。一応、創設時代からここにはいるね。武器はレイピア。そして、ここの首領の介抱係さ「コラ、カイト!」ハハハ。まぁこんなところかな。まぁ、君たちはここに来てからまだ時間がたっていないけど、ここはいいところだし、何かあったらすぐに相談してね。みんなきちんと助けてくれるからさ」

「「ハイ、ありがとうございます!」」

そう言って、カイトは空いてる皿に料理を取りながら、イアに話しかける。

「イア、あんな凄い魔法使えるようになったんだね。おめでとう」

「……ありがとう、カイトさん」

「これからも修練を重ねて、がんばってね」

そう言って、カイトは席につき、皿を置くと、どこからか取り出した棒アイスを食べている。

「ウン、やっぱり食前のアイスは素晴らしいね!」

「「……え?」」

「あー、いってなかったわねー、カイトは狂ってるほどのアイス好きなのよ~」

「そういうメイコ姉もお酒中毒じゃない……そんなに飲んだらまたルカ姉に怒られるよ?」

「うるさいわねぇ……今日は特別よ……」

「すみません……、このギルドにはまだ他にもメンバーがいるんですか?」

「あぁ、他にもルカ姉とがくぽさんがいるね、二人とも今は長期遠征に出て帰ってくるのはもうちょっと先かな……」

「まぁ、仕方ないわねー久しぶりの大きな依頼だったし、みんな忙しかったしまぁ帰ってきたらまた紹介するわよ。それよりもほら、もっと食べて飲みなさい。料理無くなるわよ?」

「え……あぁ!オレの肉!!」

「遅いライトが悪いのさ……あ、オレのローストビーフ!」

「その台詞をそっくり返してやろう」

「「よろしい、ならば戦争だ!」」

そうして、二人で次々と周りの食材を消失させていく。

「「「「わぁぁぁぁ!!二人とも、ストップゥゥゥゥ!!!」」」」

「……ウマー」

こうして、なんやかんやありながらも夜は更けて、戦争と化した晩餐の夜は更けていった。




………………

…………

……




時刻はすっかり深夜となり、月が真上にあり世界を照らしているころ。イアは外で夜風に当たりながら涼んでいた。

(私は、今まで、あんな光景を見たことは無かった……)

今日の昼間。その手に自分の魔装を顕現し、自分の起こした光景を思い出す。それは圧倒的な力の具現。恐怖を形にしたらああなるだろう、もの。それを自分の力で作り出したことに、イアは多少の高揚感が抑え切れていなかった。

(この力があれば……きっと……)

「何ができるというんだ?」

「!?」

突如掛けられた声に驚いたように振り返るイア。そこには、ギルドの壁に寄りかかり、こちらを見ているライトがいた。しかし、その目は自分を応援してくれていた時の目とは違い、細められ、そして酷く冷たい目をしていた。

「その程度の力で、一体何ができるというんだ?」

「……どういうこと?」

「ただ、力だけを手に入れて、その使い方を知らない人間が何をできるというんだ?」

「……ライトには関係ないじゃない」

「いや、あるね。その力を解き放ったのはオレだからだ。それでイアの方向性が歪むなら、オレはそれを戻す義務がある」

そう言って、ライトは親指でギルドの中を指し

「あの空間においで、自分がいかに未熟なのをわかっていないかどうか、みせてやる」

「……」

ライトの挑発に、多少のイラつきを、覚えたイアは足取りも荒く、ギルドに戻っていった。


………………

…………

……


ライトが空間に入ると、そこには魔装を出し、ウォーミングアップを整えたイアがいた。

「……ルールは?」

「相手が降参を認めたら。あとオレは魔法を使わない。魔装だけでいい。そして、開始30秒間は詠唱を待ってやる。好きなだけ魔法を使うといい。」

「……後悔しても知らないから」

そうして、ライトがコイントスをする。宙を舞ったコインが地面に落ちた瞬間。イアが右手を振り、数本のナイフを投擲する。それに続き、左手を基点として【重力球】を多大な魔力により強引に詠唱破棄、無詠唱までもって行き、3つライトに発射する。

それに対してライトは冷静に源卦を振り、その全てを叩き落し、核を切り消失させる。

「……【陰る栄光の鎖】【凍てつく景色の断片】」

さらに、イアは中級魔法を二つ詠唱。その瞬間ライトの周りに紫の鎖が中空から出現し全身に絡みつく。それだけに留まらず、3本の氷の刃が現れ鎖にあたり、侵食するようにライトの体を凍結していく。

「へぇ……これはすごい……」

「汝、眠りから目覚めし王の刃。その力は地を走り万人はその事を知る。」

既に、周りにナイフをばら撒いていた、イアは自身を中心に魔方陣を展開、更に魔装を基点に置き、安定性を強固にする。

「嘆き、恐れ、絶望せよ。その力を持って挽歌を奏でよ。【駆ける黒狼の呻き声】!!」

詠唱が、完成するその瞬間、ライトのちょうど四方から、ライトに向かって黒い亀裂が入る。その亀裂から漆黒の刃が現れ中心の交差点であるライトに向かって殺到する。それがぶつかった瞬間、黒のエネルギーの余波が小さな塔を築いた。

(これできっと……)

倒しきれなくても、傷は負わせたはず。あとはアビスの能力で立ち向かって……。そう考えていたとき、異変は起こった。

突如、黒い塔に亀裂が入る。その亀裂は瞬く間に全体に広がり、塔は脆く儚い光になりながら、崩れ去っていった。そして、その中心。そこには傷どころか、服の損傷一つ無い、ライトが立っていた。

「さて、30秒たった。これだけか?」

「……う……そ?」

ゆっくりと伸びをしながらライトは源卦を構える。

「これだけなら、本当に興ざめだな。それならこっちから行くぞ」

そして、ライトは勢い良く駆け出す。イアもすぐに立ち直り、アビスに魔力を注入。大量の剣などを展開してライトを迎え撃つ。しかし、高速で源卦を振り、全ての武器を弾き砕き、叩き落としていくライト。

「くっ……【貪る黒鳥の嘴】」

即時的に、イアは使い慣れた魔法を展開させる。大量のカラスの様な鳥がライトの視界を覆い尽くす。すぐさま、イアはアビスの形状を片手剣に変更。黒鳥もろとも、ライトに突き出した。

「甘い、そしてチェックメイト」

空を切った感覚。そして気づいたときには、背後から自分の首筋に刀の峰が当てられていた。おそらくここから避けようとすれば、この峰はすぐさま翻り、自分を切り裂く。積んでしまった状況を理解するしかなかった。

「……降参」

「分かったか?お前の実力はまだまだなんだよ」

そう言って、ライトは刀を鞘に納め。イアの前に回る。

「成長不十分なのに出来ないことをするもんじゃない。そんなの不利益しか生まないぞ」

「……はい」

あまりに圧倒的な差。やっと手に入れた力がまったく通用しない現実。耐えていたのに思わず、イアの目に涙が浮かぶ。

ライトは、少し、困ったような表情を浮かべたが、やがて覚悟したかのように表情を変える。

そして、涙を浮かべるイアを優しく抱きしめると、頭を撫でる。

「別に、ここがお前の打ち止めじゃないんだから泣くな。これから鍛えればお前はもっともっと伸びて行くさ。」

その声は外で掛けられた冷ややかなものとは違い、優しくなだめるような声音。

「そのためなら、オレもシルフィグも協力は惜しまない。ただ、その力に驕るな、溺れるな、そうすればお前の力は素晴らしい物になるさ。オレが保障する」

胸の中でイアがしっかりと頷いたのを確認して、ライトは離れた。

「さぁ、今日は疲れただろ。ゆっくり寝な」

「……わかった……あの、ライト」

そうして、立ち去る直前、イアはライトを呼び止める。

「なに?」

「……ありがとう」

涙を拭き、泣き笑いのような表情で、礼を言うと、そのまま、イアは小走りに自分の部屋に向かっていった。




………………

…………

……




「はぁ……疲れた。……シルいつから見てた?」

「まぁ、戦闘の最初からかな。ずいぶんと厳しいことをするねー、ライト」

そうライトは宙に声を掛ける。すると、まるでそこから浮かび上がるように、シルフィグが現れる。

「仕方あるまい。あの手の強大すぎる力は、現実を見ないと中々自覚できない。だからこそ自覚できた者はその先にいけるようになる。これからイアはもっと強くなるだろうな」

そう言って、ライトは疲れたように腰を下ろす。

「にしても、泣き顔は辛いなぁ……予想はしてたとは言え、心が折れるかと思った」

「それに、抱きしめるなんて大胆なことしますねーライトさん」

「オレに女性の慰め方などを求めるな。テンパってあれしか思いつかなかったんだよ……」

「ヘタレ」

「そっくりそのまま返す」

軽い悪口を言い合いながら、二人は笑う。

「まぁいいや、僕も今日は寝る。お疲れ様」

「あぁ、色々サンキュ」

「貸しにしといてあげるよ」

そう言って、シルフィグは空間に穴を開けると、自分の部屋に戻っていった。

こうして、決闘の夜。静かに行われた特訓は幕を下ろした。




………………

…………

……




結局、あの後の事務手続きなどの面倒ごとは全て、カイトがやってくれたおかげで、ことを大きくすることなく後処理は終わった。

そこからはクラス中で、話題となった3人だが、それぞれ、上手く切り抜けたり回避したりすることで話題をそらしていき、3日もたったころには既に初日のころのような、平穏な日常に戻っていた。

そこから更に1週間後。

人の噂も七十五日、もはや何事も無かったかのように、落ち着いたクラスにおいて、7人はそれぞれ、3時間目の魔法構成学の授業を受けていた。受けていたといっても、ミクとイアとレンは真面目に授業を聞いているが、リンとグミは意識が飛んでおり、ライトやシルフィグは授業そっちのけで別の魔法を考えていた。

(この経路がずれると、こっちに魔力が繋がるから……そしたらこれは爆発するし……)

(もっと綺麗に速く発動するには……)

「では……この問題を……ライト君、答えてください」

「嫌だ」

「…………では、シルフィグ君、お願いします」

「ちょっと黙っててください」

生徒と教師という立場ではありえない対応に、教師の額に青筋が浮かぶ。

「では……ミクさん。お願いします」

「ハ、ハイ……陣を構成する、魔力経路が3つ目で交差し魔力が分散したため、発現しなかったものだと思います」

「はい、その通りです。では、ライト君、シルフィグ君。そのような態度なのですから、これぐらい分かるでしょう?」

そう言って、教師が指し示すものは教科書終盤の最難問題。明らか学院に入りたての人間に出す問題ではない。それを出して、答えられなかった時にクドクドと説教をする。という思惑だったのだろう。しかし、

「構成陣はE-84タイプ。ただし、外周円に触れている3つの三角形は正方形に変更。そのときに触れる部分は頂点が二つだけなことに注意。文字はメルキト語からクロナーム語に変換。『交わりし時の狭間』の部分を『過ぎ去りし時の足跡』に書き換え。その文字の交差点から円(小)、円(小)から円(中)、円(中)から円(大)の距離の比率は1:3,5:5 にすること」

「魔力の流し方は中心点から左回りで渦を書くように。魔力の混合比率は炎4:水3:土2:光1。十字架に見える形から上に光、右に炎、左に水、下に土。流す順番はこの逆の順番で。呪言は先ほどライトが書き換えた、部分に注意しながら、正規呪言を引用。四方からの魔力を渦を描くように混合させ十字架の中心へ固める」

「「これでいいですか?」」

「え、ええ完璧です」

教科書の回答以上に完璧な答えを出されては何も言えない。結局そのまま教師は授業を進めるしかなく。ライトたちに一矢報いることが出来ないまま、授業は終了した。




「ねぇ!シルフィグ!何で分かったの!!教えて教えて!!」

「……何言ってるのかさっぱりだった」

「そう?だいぶ基本に忠実だと思うけど?」

「シル。多分あれはやりすぎた。明らかに周りの生徒がドン引きしてた」

授業が終わり、ホームルームの教師が来る前。そこではあのときの受け答えに対して、集まって談笑していた。

「えー、そんなことはないと思うよ!ねぇレン君?」

「新手の嫌味と挑発として受け取ろうか?」

「何ゆえ!?」

「まぁまぁ……ライトさんもシルフィグさんも、まるであの授業の講師になれそうですね」

「うーん……やろうと思えば多分出来る」

「それなら私に教えてよ……あの授業全然わかんないよ……」

机に突っ伏したグミが呻いているが、がんばれ、の一言でライトは切り捨てる。

そうこうしているうちに教師のミエドがやって来た。

「ハイ、では皆さん今日もお疲れ様です。ここで連絡が一つあります。」

そう言って、黒板に何かの予定表を書いていく。

「はい、ではご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、我が学院では夏休みの後に学校から1組代表を選出し、学院対抗の魔闘祭があります。そのための準備は早い内にしなければいけないので、これから1週間後にこのクラスから代表を選出しなければなりません。よって、これから1週間のうちに、構内の武道場を使ったり先生にご教授してもらうなどして、各自修練に励んでください。では今日の連絡は以上です。」

そうして、話を打ち切った途端、早速この話題について、クラスがざわつき始める。

「んー……ミクさんこの行事について詳しいこと分かる?」

「えっと……各クラスから代表者7名を選出して、そこからクラス内対抗、学年対抗、学院対抗、と言う風になっているはずです。」

「競技の内容とかは?」

「そこまでは……確か普通に魔法や魔装を駆使して特定のステージで戦うものだったかと」

「……大体はA,Bクラスの人たち、そして最高学年のクラスが代表になる」

ミクの説明に、イアが補足する。

(要は、戦って勝ち上がるタイプのイベントか……)

「じゃあシル、ここの7人でいいんじゃない?」

「そりゃそうだ、知らないモブキャラに枠なんてないよ」

「ちょ、ちょっと」

勝手に納得する二人に対して、リンが割って入る。

「そりゃ、ここのメンバーでいければいいけどさ、このクラスだってそこそこのレベルの人はいるんだよ!?私達が勝ち残る確証なんて……」

「もちろんあるよ」

リンの声を遮って、シルフィグは笑みを浮かべる。

「確証なんて、掴み取るものだよ」



………………

…………

……




「と言う訳で、ライバルなんてぶっ飛ばせ!地獄のトレーニング大会、始まるよ~」

「「「「「わー(棒読み)」」」」」

「ライト、寒い」

場所は変わって、ライトの異次元空間。あの後に皆で帰ってきて、休憩のまもなく、皆をこの空間に放り込んだ結果がこれである。

そこでライトがパチンと指を鳴らした途端、その横に5体の関節人形のようなものが現れた。しかし何体かは、既に腕その物が刃となっていたり、体に宝石が入っていたりとわずかに特徴が見られる。

「結局のところ、まずは基本が大事だ。自分の武器の特性や能力そして自分自身の力を強化するのが手っ取り早い。それにまだ武器の力も使いこなせてないだろうしな。と言う訳で、この即席練習人形で1対1だが対人戦をしてもらいます。そこで自分の能力とかを確認しながら戦うこと。この人形もお前らの戦い方にあわせてあるから。じゃ、解散!」

そうして、ライトは各自に人形を割り当てると自分も技の型の練習に入っていってしまった。




―ミクside―

「武器の特性か……」

私の武器の鎌は、間合いの取り方、武器の攻撃範囲、防御範囲、どれもが特異的なもので、難しい。だけどやっぱりこれを使いこなせるようにならなきゃ、みんなに置いてかれてしまう以上、最終的にはこれを手足のように使えるようにしなきゃいけない。

「まぁ、やるしかない!」

そうして、ミクは武器を顕現させる。それと共に両手に武器の重さが表れる。対峙している人形は両手が肘からが刃物のようになっている。

(多分相手は、手そのものが剣な分、普通の剣士より動きが速い。私もついていけるように動かなきゃ)

「はぁぁぁっ!!」

そうして、開始を告げるように、力強く。ミクは袈裟懸けにその鎌を振り下ろした。


―リンside―

「そりゃ!!」

掛け声と共に、リンは両手の銃を乱射させる。しかしそれは、相手の人形――体にいくつもの宝石が埋め込まれた――が作り出したバリアーのようなものに弾かれる。

「だぁぁぁ!!めんどくさい!!」

先ほどからの数分間がずっとこの調子である。リンが銃を何発も撃つが結局バリアーで防がれてしまう。このままでは魔力切れになるのが落ちである。

(いつもの依頼とかなら、レンやグミが助けてくれるんだけど……)

単体で戦ったときはこれほど魔術師系の敵が厄介なのかと実感していたとき、今まで防御ばかりしていた、相手が動き出した。

「へ?あれって……」

描き出したのは黄色の魔方陣。なんかどこかで見たことあるような……とリンが記憶を辿ろうとしたとき、魔法が完成する。

その魔法陣から放たれるのは黄色の閃光。形は定まらなくとも、ただ威力と速さを求めただけのレーザーのような一撃。

「わぁぁぁっっ!?」

慌てて回避するが髪の一部が触れて、その瞬間そこが消し飛ぶ。

(まずいまずいまずい!!)

既に相手は、別の魔法を準備し始めている。攻撃の手を休めれば魔法、しかし、銃弾は今のままでは通じない。

「あぁもう!!どうすればいいのよ!!」

とりあえずは、次の魔法を避けるべく、その体を大きく投げ出した。


―レンside―

「くっ!はっ!」

レンが持っているのは幅広の両手剣、それに対して相手は今度は普通に双剣を持っている。

今のところはレンの振りの速さよりも、双剣の手数の多さと軽さが、圧倒している様子である。

(チッ……このままじゃ埒が明かねぇ……)

1度、大きく剣を払うことで、相手から距離をとる。

そして次の瞬間、両手剣が分離して双剣になりレンの両手に収まる。

(これで、対等……)

しかし、次の瞬間、相手側も自分の双剣の柄頭をぶつける、すると、その部分が結合して、両刃剣に変化した。

「嘘っ!だろ!!」

とにかく、レンは斬りに掛かるが、両刃剣特有の円を描く嵐のような乱舞に、双剣の威力では太刀打ちできず吹き飛ばされる。

このままではまずいと、距離をとる。対峙する人形は油断なくこちらを見ている。

(さて、どうやって対処するかなぁ)

悩みながら、レンは再び剣を両手剣に変え駆け出した。


―グミside―

「なんなのよコイツ……」

構えを解かずに相手の練習人形を見るグミ、退治する相手も武器は持たず。格闘系である。しかし、その表面を淡い光の膜が覆っていた。

(厄介だなぁ、あれ……おかげで全然攻撃が通らない……)

攻めに行っても、グミの連打ではあの膜を突破できず、相手側の重い一撃を受けるだけになってしまう。なんとかしてダメージを与えに行かないとこの均衡を脱せない。

「ならっ!」

全力で駆け出し、まず右手で殴りかかる。すかさず、相手が手を交差させてガードをしたのを確認して、瞬時に手を引く。

(フェイントからの!)

そのまま、背後に回り、首筋に向かって思いっきり回し蹴りを放つ。

(これで少しは……)

そう思ったのも束の間、相手は揺らぐことなく、その足を持って強引に投げ飛ばしてきた。

「ちょ、わぁぁぁぁ!」

慌てて空中で体勢を整えて、地に足を付ける。

「急所にも効かないってどうなのよ……」

相手側には何事もなかったかのように、構えを取る。

「どうするかなぁ……」


―イアside―

「……めんどう」

そしてイアは、銃使いの人形と戦っていた。魔装を盾に変化させ、相手の銃弾を防ぎ魔法を放つ戦術だが、それを防ぐように相手も細かく動き回り、狙いを定めないようにする。すると銃弾を防ぐための盾が邪魔になり、魔法が打てず、しかし相手も攻撃が届かないという膠着状態に陥っていた。

(魔法でシールドの代わりか、それとも範囲系魔法か)

どうやって状況を打破することを考え始める数瞬、均衡は突然に破られた。

「……え!?」

まるで砂糖菓子を噛み砕くように、盾は閃光に貫かれ、欠片をばら撒きながら消えていった。

「な……!!」

その後にも続く銃弾を、急ごしらえの魔力障壁でなんとか防いでいると、片方の銃が光をチャージする。

そして、銃口から一気に解き放たれ一条の光となって、突き進む。

慌てて回避したイアの魔力障壁には綺麗に穴が穿たれていた。

「……嘘でしょ」

続く魔力弾を回避しながら障壁の修復を図る。魔法を撃とうとすれば銃弾で邪魔され、防ごうすればレーザーで貫かれる。

(一体どうすれば……)

さらに、相手はさらにレーザーの量を増やしてくる。とにかく回避を続けながら、イアは次の手を考えていた。




………………

…………

……




「で、ライト。みんなの能力って何なのさ?」

自分の周りに様々な魔法を展開し自由自在に操りながら細かい感覚を調整していくシルフィグ。

その横でライトは、流れるように、様々な型を繋ぎ動きの確認をしていた。

「オレが知るわけがなかろう。ハァッ!」

そして、一通りの技を確認をすると、ライトは指を弾き、数体の練習人形を作り出し。戦いだす。

「まあ、あいつらもそれ相応の能力があるだろうし、それを生かせなきゃいずれ負けるし、ここできっちりと自分の力を知っていたほうが、戦闘の回数も重ねられるし、能力の発展も望めるだろ。」

2体、3体と次々人形を切り伏せ、攻撃を防ぎ、魔法を無効化していく。負けじと、人形も複数対で連携を作ったり、上級魔法を次々飛ばしたりと、ミク達の相手をしている人形とは比べ物にならないほど、苛烈に動いていく。

しかし、ものの数秒で人形は全て物言わぬ残骸と化した。

「まぁ、オレ達の能力ぐらいは知ってていいよな。シルはどんな能力なんだ?」

「僕?まぁ……色々あるよ?」

そう言って、シルフィグは魔装の『梟の止まり木』を取り出す。

「この状態のとき、は一つ目が『事象の反転』2つ目が『薬品の精製』かな。そして……」

「ほう」

シルフィグが杖の頭部を捻ると、そこから、抜き身の刃が現れた。

「この杖、仕込み杖なんだよね、でこの状態にも能力があるんだ。1つ目が『刀身形状の自由変化』2つ目が『影の掌握』。正直これらの能力は研究中で完全には分かってないんだけど、大体の能力は名前の通りかな。ライトはどうなの?」

「オレか?単純明快だぞ『絶対切断』と『選択切断』。ちなみに斬る対象は調査中。因果はまだ斬ってないかな。」

「うん、素晴らしいチートだね」

「そういうお前こそ、能力4つっておかしいでしょ。しかも、この世界じゃ魔装って成長するらしいよ?」

「……これがもっと強くなるの?」

「オレはこれを最強の刀にしてみせる!」

「…………ハァ」

そうして、シルフィグは自身の周りの魔法を組み合わせ、新たな混合魔法にした後、握りつぶした。

「まぁ程ほどにしないと、神様からなんか言われるよ」

「あぁ、昨日連絡あった。「滅ぼさなきゃ、そこそこ自由にしていい」ってさ!」

もうシルフィグは、ため息もつかなかった。

………………

…………

……




「ふっ!せいっ!!」

相手の二刀をいなし、ミクは鎌を水平に振るう。しかし、相手は体勢を変え、易々と避けると、距離をとり、雷の矢を放ってきた。

「まったくもう、埒が明かない!」

魔法を避けながら、不満を口にする。先ほどから、正攻法でぶつかっているが、このようなぶつかり合いになっては避けての繰り返しでいた。

(相手の動きは徹底した基本の動き。正面からぶつかっては崩せない……となると、後は)

ミクは自分の魔装を見てその能力を思い出す。

「よし、やるしかない!!」

そう言って、ミクは自分の魔力を練り直す。

「【閃光】」

駆け出すと同時に魔法を一つ詠唱。自分の背後に強烈な光を生み出す。一応視覚があるのか、人形は手で顔を隠すような動作をする。その隙に駆け抜け、通りすがりざまに、鎌を振るう。


ガキッ!!


しかし、ギリギリで人形は刃を鎌に重ねて防ぐことに成功した。そのまま、振り向きざまに刃と化した左手を振るう。体勢が崩れているとはいえ必中のタイミングで放たれたその腕は、敵対者を切り裂く、はずだった。



その手は、そこに先ほどまでいた獲物を切り裂くことなく、空しく空を切る。人形は一瞬何が起こったかわからないかのように、辺りを探す。だが、どこを見渡しても、先程まで戦っていた、ミクの姿はどこにもない。とりあえず、油断なく辺りを見渡し、警戒を怠らないようにしていた。そのとき、




背後から、横薙ぎの一閃がその胴を通り過ぎていった。




「へぇ、面白い能力だ」

「何、どったの?」

「いや、ミクの魔装の能力が分かったから」

一部始終を観察していたライトは感嘆の声を上げる。いつの間にか右目が青く染まり、淡く光を発している。

「その目は?」

「ちょっと魔力の加減とかをいじったら、別の魔眼になったから使ってみた。『賢者の青』とでも呼んでる。要は『探索者の緑』とは別系統の、主に能力の解析用」

「まぁ、そんなことはどうでもいいや、ミクの能力だけど、今見たのは2つ『魔装の非物質化』と『特定条件化での影への侵入』だな。ずいぶんとトリッキーな能力を身につけたもんだ」

「まぁ、ミクの戦い方はセオリーにきっちり則っているけど、型にはまりすぎて読まれやすいからね。ちょうどいいんじゃないかな」

すると、こちらに気づいたミクが駆け寄ってきた。

「ライトさん!私やりましたよ!」

「オッケー、お疲れ。まぁそこでみんなの戦いでも見てな。ほら、ちょうどグミも一区切りつきそうだ」

そうして、ライトがグミの方を指差す。




「あぁぁぁ!もう!なんなの、アイツ!イライラする!!」

人形から、一定距離を取って、体勢を整えたグミは思わず叫んだ。先ほどから何とか攻撃を当てようとするが、相手の固すぎる防御と、カウンターだけを狙ってくる戦術になんともならない状況が続いていた。

「どうやって……アイツを突破するか」

思わず頭をかいたとき、ふと気づいた。

(あ、魔装の能力、忘れてた)

改めて、自分の魔装であるナックルを見る。そして、このナックルが持つ能力は……

「よし、いっちょやってみよう!!」

そうして、グミは自分の前に魔法で雷球を2個作り出す。それを見た人形は、改めてガードを固め、魔法も物理も防御できるよう、警戒を高める。

「せいッ!」

そして、グミが、自分の作り出した雷球を思い切り殴る。

その瞬間、雷球は破裂することも、飛んでいくこともなく、突如消滅した。

さらに、同じ事をもう一度行い、構えを取る。

「よし、いっくよッ!!」

そして、一気に人形の目の前まで駆け出した。

人形もそれに反応し、光の膜を全面に集中させる。

そして、お互いが射程範囲内まで近づいた瞬間、グミの姿が一瞬かすむ。

「ハァァッ!!」

その瞬間、いきなり背後に回っていた、グミが勢い良く拳を突き出し、拳から放たれた雷撃が人形の中心を勢い良く貫いた。

「よっしゃ、勝利ぃぃッ!」




「でいやぁぁぁッ!!」

甲高い金属音と共に、レンは剣を相手に叩きつける。しかし、相手の人形はしっかりと正面から受け止めると、円を描くように回転し、両刃を振り回した。慌てて、距離を取り身構えるが、相手の猛攻は留まるところを知らない。

「ッ!『衝』!」

強引に剣を切り上げ、すかさず衝撃を与える魔法を発動。なんとか、距離は戻すことができた。

「ゼェ、ゼェ……ったく、おもしろくねぇ」

剣を双剣に切り替え、体位を低くし相手を見据える。人形側は未だ両刃剣を構えているが、突っ込んでくる様子はない。

(決めるなら一瞬……)

頭の中で策をまとめる。そのまま正面からレンは突撃、双剣を十字に構えると一直線に相手の胸元を狙う。

人形は迎え撃つべく、片方の刃を振り上げタイミングを計っている。

わずか数mの距離はほんの数秒で縮められ、人形はその刃を振り下ろした。

スカッ

タイミングは完璧。その刃は確実にレンの肩口を切り裂くはずだった。しかし、今目の前には無傷のレンが刃を構えている。いや、少しだけ半透明になったようにも見えるが、その影響だろうか傷を負った様子には見えない。

半透明だったのは1秒にも満たない時間。しかし、それだけあれば十分だった。攻撃を避け、その右手の刃が人形を貫くには十分すぎる時間だった。

「これで終わりだ」

ただ、一言と共にその剣を横薙ぎに払う。崩れ落ちた人形を後ろに、レンはゆっくりとその場を後にした。




一方、イアは防戦一方のまま時間が継続していた。

「…………」

相手の銃の猛攻に対して何かしら策を考えてはいるものの、実行するに隙が足りないのである。

(せめて、あのレーザーさえ止められれば)

均衡を破った、人形の使う貫通力のあるレーザー。あのおかげで、止まったまま行動を起こすことができない。しかし、動き続けたまま何かをするには決定力が足りない。

(リンみたいなのを相手にすると、こんなに厄介だったとはね……)

思考しながら、足は止めない。右手のシールド状態にした魔装を見て、対抗策を模索する。

「……魔装?」

ふと、頭をよぎった方法のリスクとリターンを思考。数瞬で決定し、実行に移す。

その瞬間、イアは魔装を解き走り出した。人形側もそれを追いかけるように銃を乱射する。

走った相手にチャージが必要で直線的なレーザーは不向き、よってとにかく足を止めるために数をばら撒いていく。

「……ッ!」

所々皮膚を銃弾が掠めるも構わずイアは導き出したルートを走る。その形は、人形を中心に円を描くように。そして、最初にいた地点に着いたとき一気に右手に魔力を流した。

すると、イアが走ったところに置かれた、細く伸びた黒い糸に魔力が伝播し、一つの魔方陣となり、人形を縛り上げる。

「『届かぬ天の深き藍』」

その詠唱と共に魔方陣の真上に発生した藍色の球体が人形を押しつぶした。

魔法が消えた後にはその痕跡は何もなく、ゆっくりと陣も消えていった。




「おぉー、みんなお疲れ~」

「本当、なんなのさライト!いきなり無理難題言い出して!」

「ハハハ、いいじゃんいいじゃんこれで魔装の使い方も分かったろ?」

「もう少し安全な方法もあると思うんだが」

「……最初から実践は無謀」

戦闘終わりの3人に声をかけながら、ライトは空中に出したウィンドウのようなものを操作していく。

「ライト、何それ?」

「これか?まぁ、今は秘密だ」

「チェ、ケチ~」

「まぁ、そのうち教えて……ッ!?シルッ!!」

「『認識できる理の狭間』!」

突如発生した、大きな魔力の攻撃に対しシルフィグが急いで結界を張る。

その攻撃は、そのまま結界にぶつかり、急ごしらえとはいえ、シルフィグの結界に少しのヒビをいれ、消えていった。

「ライト、なに今の攻撃……僕の結界にヒビ入ってるんだけど……」

「いや、オレも人形の出力をあんなに設定した覚えは……」

その攻撃元を見つけるべく、延長線上を見たその先には……

「リン!!」

そこからは、シルフィグのほうが動きは早かった。

一瞬で拠点からリンのところまで距離を詰めた後に、心拍や血圧などを、魔力から分析。即座に結界を張ると、持てる限りの回復魔法でリンに治療を施し始めた。

「シル!容態は!?」

「外傷、血圧、心拍、全て問題なし。呼吸もある。ただ……」

「なんだ」

「魔力が空っぽだ。イアが魔装を作ったときよりも酷い。」

そう言って、シルフィグは更に札のようなものを出し、リンの心臓辺りに貼った。

リンの顔色は青白いを通り越して、色を失ったかのように白くなっており、苦しそうな息をしている。

「魔力と生命力は密接な関係にある。魔力がなくなることは人体の構造でリミッターがかかっていて、普通は空になることはない。ただ、今みたいに外部からの力で一気になくなったときには、回復まで時間がかかるし、空の状態が続くと、最悪は死に至る……」

「リンちゃんは……リンちゃんは大丈夫なんですか!?」

あまりに急なことで、動揺を隠し切れず、ミクが問いかける。

「今、いろんな方法で、魔力の活性化を促してる死ぬ事はないし、安静にしてれば問題ない。あの薬を使ってもいいけど副作用が大きいから別の方法があれば使いたくないしね」

そう言って、シルフィグは結界を解除する。

「さて、後はベットで寝かせてあげよう。みんなも疲れたろうし、今日は解散でいいでしょ?ライト」

「あぁ。ひとまずはみんな自室で休んでろ。リンが目覚めたら連絡する。」

そうして、最後の少々の波乱と共に、最初の特別特訓は幕を下ろした。









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