身の程知らずの対価
巨大な力を持ってこそ、小さな悪戯が楽しくなるものだ。
(訳:そろそろふざけ倒したい)
曜日は日曜、時刻は正午。先生から事前に場所は第1闘技場だということは教えてもらっていた。
ライト達はそれに向かって……
「ハイハイ、ワロスワロス」
「時間無いから、どいてねー」
「「「ぎゃぁぁぁぁぁ」」」
道中なぜか「偶然」にも自分たちを襲撃してきたチンピラ共を「正当防衛」でなぎ払っていた。過剰防衛?そんなの知らぬ。
とりあえず、そこらへんに転がっていたリーダー格っぽいやつを起こして拷m……尋問する。
「で、誰に依頼されてオレたちを狙ったのかなー」
「い、言えるかそんなこと!!」
「フーン……」
ヒュン ←ライトが刀を振った音
シュパン!! ←刀の振った先にいたシルフィグと大木が切断される音
ズズズ、ドォン!!グチャ! ←木がずれて崩れ落ち、シルフィグが倒れた音
「さぁ、君もあそこに立とうか?」
「バスーナ家です!!バスーナ家のミゲロさんに依頼されました!!」
「うん、正直で結構なことです」
そう言って、ライトはそいつを一瞬上に放り投げ
「チンピラを、あの切り株にシューゥゥゥッット!!超エキサイティィィン!!」
「げふらっ!?」
そのまま、恐ろしい勢いで回し蹴りをして、先程作った切り株にめり込ませた。
「さて、害虫処理も済んだし、今度こそ行きましょうかー」
「う、うん……」
あ、やばいドン引きされてる。
「ライト、いきなり何すんだよ……あれ、リンどうしたのそんな顔して……」
「え……うん。なんでも……ないかな」
ほらー、お前が戻ってきてさらに気まずくなるじゃないかー……
「はぁ……もういいわ。気にするだけ無駄よ。行きましょ」
そう言ってメイコさんが先頭を行く。さすが姉さんかっこいい……
結局みんな納得のいく顔をしないまま闘技場についたのだった。
………………
…………
……
場所は変わって、闘技場控え室。
「じゃあ、あのゲロ野郎はオレが相手するから、他の二人を各自頼んだ」
「りょうかーい」
「……分かった」
「まぁ、万が一にもないとは思うけど、やばくなったら、応援を呼ぶこと!よし、それじゃいきますか!」
「さぁO・SHI・O・KIの時間だ★」
「……絶対負けない」
そうして、3人は控え室を出る。目の前に広がるのは無駄に広い闘技場。その中心近くに、ミゲロたちがいる。
「遅かったでは無いか?逃げ惑う算段でもしていたのか?」
「いやいや、貴方みたいな親の七光り系豚野郎が泣いて許しを請う様を話し合って笑っていたところですよ」
「き、貴様ァ……!!」
すでに合図が始まる前から、両者の間では一触即発。そこに審判を勤める教頭がやってくる。
「両者、勝利した際に相手に要求するものを明言してください」
「ぼくは、その女の魔装とそこの無礼者の処刑の権利だ!!」
「じゃあ、そいつらの家の財産と権威剥奪」
片方は怒り狂い、片方はさも楽しそうに、相手に要求を叩きつける。
「了承しました。では両者一定の距離をお取り下さい」
そうして、3人はお互いの相手から離れていく。
「許さんぞ……!!死なない程度にいたぶってやる!!」
「焼肉かハンバーグ、どっちになりたいか選ばせてやろう」
そして、教頭がゆっくり手を上げ
「これより、ライト・アーヴァーン対ミゲロ・バスーナの決闘を始める。始め!!」
戦いの火蓋は切って落とされた。
………………
…………
……
「僕の相手は君でいいのかな」
「ククク、トラウマを植えつけてあげますよ」
そういい、相手の男子生徒は魔装であろう杖を取り出し、魔法を詠唱する。
「炎よ。我が敵に裁きを【火球】!」
まずは、火の玉が一つ。直線的に飛んでくる。
(そんな速くないし、単純だなぁ……)
シルフィグはその場を動くこともなく楽々と回避する。
「まだまだ!」
そうして、相手はさらに火球を生み出しシルフィグに向かわせる。その数3つ。
「なんだ、それだけ?」
それもシルフィグは体を少し動かすだけで回避してしまう。
「クソ……汝は裁きの権化。禍を穿ち敵を貫け。【破邪の炎槍】」
ここで、相手生徒の魔法のランクが中級の初め程度に上がる。すると、その生徒の周りに火炎で出来た槍が4つ生まれる。
「いけぇ!!」
合図と共に一斉にシルフィグに向かう炎槍。それに対してシルフィグはと言うと
「うーん……『梟の止まり木』」
胸の万年筆を魔装に変化させ、適当に2,3回程回す。すると、目の前の炎槍は一瞬でその姿を消した。
「なッ!?」
「で、次の手はなんだい?」
いつの間にか、服装が紳士服になっているシルフィグがゆっくりと問いかけた。
………………
…………
……
「てめぇが、相手か。女だからって手加減はしねえ」
「……望むところ」
そう言って、相手の生徒は大剣、イアはナイフを手に持つ。
「いくぞッ!!」
その瞬間、相手の生徒は大剣を水平に持ち、一気に距離を詰める。
イアは無言でバックステップをしながら、ナイフに魔力を込める。その瞬間、ナイフが鈍く光りだし
「……crescimento」
イアが言葉を放つと同時に、大量のナイフが空中に現れ滞空した。
「なッ!?」
「……iniectio」
続けた言葉によって、それらのナイフが一斉に相手に襲い掛かる。
「気紛れな精霊の歌。流れる大気を律し遮る球となれ【気紛れな風陣球】」
相手の生徒は、風の中級魔法で球体の壁を作り、更に大剣を地面に突き立て盾にする。
数秒でナイフはなくなり、相手生徒が剣を元に戻す。しかし、そこに既にイアはいない。
「どこに行っ……!?」
背後から来る風に、慌てて前に転がり回避する。
そこには、ナイフではなく、刀身から持ち手まで漆黒の片手剣を持ったイアがたっていた。
次の瞬間には、片手剣は崩壊し、そこには漆黒のナイフが握られている。
「……次ははずさない」
そうして、イアがナイフに魔力を込め
「……cambiar」
呟きと共に、ナイフが変形。数本のクナイになる。
「クソが!!ふざけんじゃねえ!!」
「……負けない!」
次の瞬間、二人が激突した。
………………
…………
……
「貴様ァ!!許さんからな!!泣いて許しを請わせてやる!!」
「ハイハイ、とっとと、来なさい」
そう言って、相手は魔装のレイピアを出すがライトは何もしない。
「貴様……何のつもりだ」
「3分間待ってやろう」
そう言って、ライトは指を3本立てて突きつける。
「3分間、オレは、魔装なしで半径1m以内から動かない。その間にオレに1撃でも当てられたら、お前の勝ちにしてやるよ」
「キ、貴様ァァァァァ!!!」
そう言って、相手は怒りで魔力が漏れ出す。
「殺す!生まれたことを後悔するぐらい殺してやる!!」
そうして、ミゲロは空中に雷球を5つ生み出し。一斉にライトに向かわせる。
しかし、それはライトに届く前に全て軌道を逸れて、明後日の方向に飛んでいってしまった。
「なんだ、なんだ軌道操作も出来ないの?イアよりも下じゃない」
「うるさいうるさいうるさい!!閃光の奇跡を鏃に宿し天罰と成せ 【雷光の足跡】!!」
次には怒りに任せて、雷の矢を数十本、一気に襲わせる。しかし
「魔力構成が雑。制御も全然だめ。落第です」
ライトの前1mで矢は全て消え去っていく。焦ったミゲロは、更に火炎の槍を投げるが、ライトは体を捻っただけで回避する。
「クソォォォォォ!!!」
ついに切れたミゲロは怒りのままに突進してレイピアを振り下ろすが
「レイピアは突くもんでしょ。使い方もわかんないんだねー」
ライトの前1mで結界に阻まれてしまう。打ち破ろうと何度も切り下ろし、突き、切り払う。しかし、結界の表面には傷の一欠けらも付かない。
「なんで……」
「さて……あと1分30秒だ」
そう言ってライトは口角を吊り上げて嗤った。
………………
…………
……
「ハァ……ハァ……なんで、効かないんだ……」
「うーん……ちょっと飽きてきた」
そこには、大量の魔法を打ち込んで魔力切れを起こしかけている男子生徒と、周りの地形はボロボロだが自分自身には何も被害がないシルフィグがいた。
(さて、どうやって終わらせようか……)
今回の戦いで、シルフィグが自分自身にある縛りをかけていた。それは「魔法を使わない」こと。自分が得意な魔法を使わなければどういう戦い方をするのか、ということの実験として、この場に立っている。
(ただ、そろそろ決めないとブーイング起こりそうだしなー)
未だ自分を狙う火球を一瞬で消し去りながら考える。そのとき、ある事が思いついた。
(そうだ……そうしよう)
そしておあつらえ向きに、相手は最後の手段として少し規模の大きい魔法を詠唱している。
「吹きすさぶ火獄の道。灼熱の舌で「我を」焼き尽くせ【炎覇の道標】!……え?」
その瞬間、男子生徒が放った獄炎のレーザーは途中で180度進路を変えて、そのまま発動者へと襲い掛かる。
「う、うわぁぁぁぁ!?!?」
慌てて障壁を張ろうとするが先程の魔法でほとんどの魔力を使い果たし、何も出来ない。そのまま灼熱の光は男子生徒を通り過ぎる。その後には、元の形が分からぬような炭人形が1体、倒れ伏していた。
「うんうん、成功だね」
先程シルフィグがやったのは、単純なことである。すなわち、相手の詠唱の割り込み。相手が発する呪文の一部に自身の声をより強い魔力を乗せて呪文を破壊しないように重ねる。実際は言うほど簡単ではないうえ、詠唱破棄や、無詠唱には使えないため、実践する人はほとんどいない。それをいとも簡単に使い、自身は何一つ攻撃することなく、シルフィグは勝利を収めたのだった。
………………
…………
……
「この!くそ!ッたれ!!」
そう言いつつ、相手生徒は大剣を振り回す。しかし、イアはバックステップで逃げ、手の中のクナイを幾つも投げる。投げては増やし投げては増やしと既に数え切れない程のクナイを投擲していた。
「この野郎!!逃げてばっかりいんじゃねぇよ!!この弱虫野郎!!」
そう言って、男子生徒は挑発するが、イアはそ知らぬ顔であらゆる方向にクナイを投げる。
その攻防が数十秒続きついに場面が動いた。
最後にイアが、クナイ数十本を一気に拡散するように投擲した。
慌てて、剣を縦にして防ぐ生徒。その体は息切れで大きく揺れている。そして、剣を引き抜くとき、膨大な魔力を目の前から感じ取った。
「闇よ。断ち切り、呑み込み、奪う闇よ。形も底もその腕には無し」
「なぁッ!?」
イアの周りには魔力が渦巻き実際に風が吹いている。そしてその足元には紫の魔方陣。
(コイツ一体……どんなランクの魔法を使う気だ!?)
そもそも入学したてでこんな魔法、安定するはず無い。そう考えていたとき、ふと、視界の端に黒いものが見える。それは、先ほど投げたイアのクナイ。
それが消滅しないものが魔方陣の形に添うように「規則正しく」刺さっていた。
「お前……これを補助にして……!?」
男子生徒はその事実に驚き、急いで詠唱をとめようとするがもう遅い。
「限りを知らぬ影の王に請い願う。我にその力の一端を見せつけたまえ。
――――――――視界を染めよ【終わりを知らせる王の暴虐】」
その瞬間、接近していた男子生徒の動きが急停止した。
よく見れば、体の各所に魔方陣から飛び出した鎖が巻き付き動きを縛っている。そのまま鎖は引きずられ対象を魔方陣の中心まで引きずっていく。
「な、なんだ!?何なんだよぉ!?」
そして中心に立った途端、その背後から漆黒の巨大な腕がその手に見合う剣を持ち魔方陣から現出する。
「アァ……ウワアァァァァァァァァァァ!!!!」
絶えかね絶叫を挙げるが、その巨大な手は無常にもその剣を振り下ろした。
その後、魔方陣はゆっくりと消えていき、何事も無かったかのような光景になる。そこには切られたのに傷は無く、ただ、白目をむき、意識を失った男子生徒と、大魔法の発動により、汗と倦怠感を抑えきれないながらも、たっているイアがいた。
「……私が……勝った」
今までの力が無かったころには出来なかった。そこから遂に、力を行使できたうれしさと、無事に終わった安堵感を胸に手を当て、静かに喜ぶイアだった。
………………
…………
……
場所としては闘技場の中心付近、そこでは片方は剣を振り、魔法を使い、果敢に相手を攻め立て、もう片方は半球状の結界にてその全てを無効化していた。
「このッ!このッ!!このぉぉッ!!!なんで!何で砕けないんだよ!?」
ミゲロはもはや軽く泣き顔になりその顔を醜く歪めている。それをライトはひどく気色悪そうに、切り捨てた。
「いやぁ、さっきまでの威勢はどこへやら……。第一、戦闘中に泣くな。みっともないし気色悪い。吐き気がする。ほら、あと40秒だぞ?」
「クソォォォォォォォ!!!!」
そこから、更にミゲロの攻撃の手数が増す。さすがは中級貴族の息子といったところか。そこそこの戦闘力はある(それでもあの5人よりは下だろう)のが伺える。
しかし、残念なことに相手は神を超えた化け物。歯向かう牙はその周囲に到達することも無い。
「……5,4,3,2,1。ハイ、ゲームオーバ~。」
「な……グフォッ!?」
ライトのカウントが終わった瞬間、突然結界が消失し、その結界ばかりを狙っていたミゲロの体制が崩れる。すかさずライトはそこに蹴りを繰り出し、ミゲロを数m吹き飛ばす。
「さぁ、こっからは戦闘じゃない。オレのイライラの解消タイムだ」
そう言って、ライトは源卦を取り出すと、感触を確かめるために一振りする。
「正直さー、もう限界なんだよね。あの突っかかり方はないでしょ?ブチ切れ寸前ですよ?3分待ってやっただけ奇跡だよ?」
「ウ、ウワァァァァァ!!」
ゆっくりと歩み寄るライト。それに恐怖したか、結界が無くなり好機と思ったか、ミゲロは軽く半狂乱の状態でライトに突進する。
「じゃあ、まずは右腕から」
それを軽く回避すると、すれ違い様に刀を一閃。その瞬間、レイピアごと、ミゲロの腕が右肩から一瞬で切り離される。
「え?アァッッ!?」
「そのまま四肢にいってみようか?」
そのまま、刀を振り、ミゲロの四肢を切り取り切り刻んでいく。
結界が解かれ、状況が動いてから数秒の間に攻防は一瞬で逆転した。攻めていたものは四肢をもがれ無様に地面を這いずり回り、余裕を持って守っていた者は、その刀を持って残酷な笑みを浮かべる。
「さぁ、次はどう切り刻まれたい?」
「ヒ、ヒィィィィ!?」
自身がおかれた状況を理解できず、ただ直感で感じる恐怖の対象から逃げるように、這いずり、逃げようとする。
「……興が削がれた。なんかもういい」
それを冷たく睥睨するライトは、もう飽きたと言わんばかりに刀を消す。そして
「【振り下ろす慈悲の鉄槌】」
パチン
ただ、一回指を鳴らした。それが起動合図だというように、ミゲロに光の柱が降り注ぐ。
時間にして約5秒。光が収まったあと、そこには何も無かった。そう、ミゲロのいた痕跡は一つ残らず消え去っていた。
「はぁ、終わった終わった!さぁ帰るか。」
こうして、決闘と言う名目で開かれた、戦いは一方的な蹂躙によって幕を閉じた。