平凡よりも波乱と鮮烈の日々を
どの世界でも起こりうることは似通ったことだ。差異はあれど本筋が辿る道のりは変わらない
ふと窓の外を見ると、新緑の風が吹き、色とりどりの花が一面に咲き乱れている。見たことのない花ばかりだが、どこか前の世界のものと似てるところもあるようだ。少し離れた所の木には桜のような花も咲いている。そういえばこっちに来る前も丁度春だったなぁ・・・。なーんてことを思い出しながら今俺は
「えー、であるからして、学生の本分は……」
くそったれな程長いPTA会長の話を聞いています。かれこれ、1時間は話しているあの変な会長。丸々太った体に、脂汗をかき、それを何度もぬぐいながらどーでもいい話を延々と続けている。後で『汗疹がでてのた打ち回るほどかゆいが掻くことができない』呪いでもかけてやろう。
そうして、くだらないどうでもいいことを考えてさらに30分、やっと話が終わり、これで一連の演目が終わったことで入学式は終了。各教室に移動となる。
「さて、オレの教室は……1−Fか」
ふと、黒板を見てみると、何か書いてあることに気づく。
『席は自由なので、好きに座ってください』
適当なこって……
まぁ、それはそれとして、その制度はありがたいので窓側後ろから2番目、左から2番目という絶好のポジションをいただく。どうやら、隣の窓際の席にはバックが置いてあることから先に誰かいることもわかった。
「ちょうどいいから、今のうちにトイレにでも行ってこよう」
・・・5分後・・・
「大体、予想はしてたけど、こうなるともう作為的なものを感じざるを得ない」
「「「「「「え?」」」」」」
結局みんなが、固まるんですよねこういう時って。説明すると、隣の席はイア、前にミクその隣にグミ、通路用の隙間を挟んで右にシルフィグ、その前にリン、隣にはレン。シルフィグの隣は知らん。
「なんか固まっちゃったねー」
「いいじゃん、いいじゃん、話しやすいし!」
「この方が楽だもんねー、レン勉強教えてー」
「まず、お前は自分で勉強しろ、話はそれからだ」
まぁ、楽しそうで何よりです
「イアはそこでいいの?」
「……問題ない」
さいですか
「で、シルフィグは……」
「……」
あ、駄目だこいつ、瞑想モードに入ってる。おそらく、これからリンの後ろで授業を受けられるということで、紳士を抑えるので必死なのだろう。
「ほらー、みんな席についてください。」
お、やっと先生が来たようだ。
「私は、このクラスを担当することになりました、ミエド・アミター といいます。どうぞよろしくお願いします」
「「「「お願いします」」」」
最初の印象としては、穏やかな好青年。一般的な気が優しい先生といった感じか。まぁ、悪くはないのではないのだろうか。
「では、早速ですが、今後の予定ややることなどを説明していきます。入学して1,2週間は色々と忙しいので、皆さん気をつけてくださいね。では早速、物を配りたいと思います」
そう言って、教師は物を配りだす。渡ってきたものは、何枚かのプリントに、灰色の握りこぶしより少し大きいくらいの石だった。
「それは『武象石』です。一部の方はもう知っているかと思いますが、それに自分の魔力をこめることで自分自身のオリジナルの魔装を作ることが出来ます。明日までに自分の武器を作ってきてください。無論学校で作っても構いませんが、そのときは体育館でやってくださいね」
他にも先生は何か言っているが、それよりもこの石のほうが気になる。実際に【探索者の緑】で見てみると、この石、そんなに魔力吸収量多くないし、質は粗悪品に見える。まぁ、帰ってから色々やるとしよう。
………………
…………
……
そうこうしてる内に放課後。今回は説明だけだったので、早く終わったため、みんなで、ギルドのホールに集まって、魔装について話し合う。
「ねぇねぇ!グミはどうする?どんなのにする?」
「うーん……私は魔法とかより動いて攻撃するタイプだからなー、ナックルとか篭手になるかな。そういうリンは?」
「私はね、とにかく強くて威力の高いやつ!」
「リンちゃん、それ答えになってないよ……そういえば、いつもリンちゃんは依頼のときに双銃を使ってるから、それになるんじゃないかな?」
「おぉー!ミク姉鋭い!」
あっちはすごい元気だし……
「イアは何にするか決めたの?」
「……別に、なるようになる。レンは?」
「まぁ、無難に剣かな。安定するし」
こっちはクールすぎるし……まぁ、とりあえず
「まぁ、お前ら、ちょっとそれ持ってオレの部屋に来てくれシルフィグ、あれの用意頼むー」
「おkおk。」
「「「「「?」」」」」
そう言って、シルフィグは先に部屋に向かう。その後にライトは皆を誘導して扉の前に立った。
「それでは、オープン」
ライトが気障ったらしく扉を開けて見せる。そこには
「「「「「うわぁぁぁ!(……おぉ)」」」」」
元々会った部屋など微塵もなく、ただただ、広く、真っ白で巨大な空間が広がっていた。
「ようこそ、マイワールドへ」
…………
驚いているところ、申し訳ないが、適当に説明しておく。
とりあえず、この空間については魔法で作り出した空間だから、何をしても大丈夫だということ、この空間内の経過時間は現実とずれていて、ここでの1時間は現実の1分だということ、部屋を出るときに体の時間のずれは解消されるということを伝えておいた。チートスペックとは便利なものだ。また、この空間と部屋の扉を接続するためにシルには先に部屋に向かってもらっていたのだ。ちなみに現在、アイツはすぐそこで、この世界で使える薬品生成中である。
「ライトさん……いったい何者なんですか……」
「もしかして……化け物」
失礼な
「そんなことより、みんな武象石を出してみ。」
言われたとおり、5人は自分の目の前に武象石を出すと、
「神パッチン!」
ライトが鳴らした指パッチンによってすべて砂になってしまった。
「「「「「あぁぁぁぁぁ!!!(……あ)」」」」」
「ちょっとライトさん何してるんですか!」
「砂になっちゃったじゃんこれ!どうしてくれんの!」
「冗談じゃねえぞ!これ一個半端じゃない値段するんだぞ!」
「ここで無くしたらどうしようもないのに、何てことしてくれんの!」
「……(呆然と砂を見つめる)」
あらぁ……やっぱりみんな怒ってますねー。まぁ
スゥー、ボトボトボト
「何か問題でも?」
空間の切れ目から、配られたものより上の、むしろ最上級ランクの武象石を大量に出してみる。色は配られたものとは違い、どこまでも澄んだ黒色をしており、大きさも一回り大きい。
「「「「「( ゜д゜)」」」」」
「いい反応、ありがとう」
なんか、前、魔法の試し撃ちに地図上の適当な山脈のところに行ったら、間違って山消し飛ばしちゃって、そしたらそこが鉱脈みたいだった見たいで、正直掃いて捨てるほど持ってるんだよね。しかもこれ、
「あ、イアそれ勝手に手に取ると」
ちょうど近くに転がってきた、特に黒く澄んだ武象石を手に取り……
そのまま力を失ったように倒れた。
すぐさま、イアの傍に駆け寄り抱き起こす。
しかし、意識はなくなり、肌はもはや青白く、体温もかなり低下している。
「シル!アンプルの3番と5番!」
「おk、了解」
ちょうど、別のところで白衣姿で実験をしていたシルフィグから2つの試験管が投げ渡される。蓋を取り、それを混ぜると、少々強引にイアに飲ませる。数十秒もすればイアの状態も回復して静かな寝息を立てるようになった。
「危なかった……薬作っといて良かった」
「まだまだ、試作品だけどなー」
「あの……何があったんですか」
とりあえず、ベットを創造すると、イアをそこに寝せる。そこにミクは疑問を投げかけてきた。
「あぁ、本当に上質な武象石はこちらから魔力を込めるんじゃなくて、向こう側から魔力を吸い取っていくんだなー。しかも上質であればあるほど、その吸い取る量は多い。だから無用意に触るとさっきのイアみたいに自分の魔力を一気にまとめて持ってかれるんだよ。イアが触ったものは最上級ランクみたいだったからそれはもう……ん?」
ふと、イアが持った武象石を見てみると、その石が淡く光りだしていた。次の瞬間一気に、光は一気に強くなり、紅く、黒く色を持つ。時間にして約3秒、徐々に光がおさまったところにあったのは。
「ナイフ……?」
その色は刃の部分まで、目を奪い、そのまま視線を釘付けにするような深い漆黒に染まり、所々に宝石が散りばめられたナイフがあった。
「これがイアの魔装か」
「すごい……綺麗……」
能力はまぁ……イアが使ってからのお楽しみということで、ベットの傍においておく。
「ほら、お前らも呆けてないで自分の武器作れよ?」
そう言って、それぞれの足元に、風魔法でイアの物にも負けず劣らずなランクの武象石を放り投げる。
「気をつけないと本当に持ってかれるからなー?とにかく魔力込めてがんばれー」
「ハイハイ注〜目!」
すると、後ろのほうでシルフィグが叫びだした。あいつ、本当白衣似合うな……
「とりあえず、みんな、これ一人3本ずつねー」
そう言って、シルフィグは試験管を配りだす。
「これはなに?シルフィグ」
リンからの疑問に、シルフィグが不敵に笑い出す。
「フッフッフ……名づけて!『魔力瞬間回復薬』!!」
「さっき、イアに飲ませてたものだ。まだ試作品だけどな、それにネーミングがそのまますぎる」
ライトの冷たい3点バースト突っ込みに、シルフィグの笑顔が一瞬固まる。
「まぁまぁ、とりあえず。その薬は名前どおり、魔力を一度に限界まで回復させる薬さ。ただし、まだ試作品だし体の負担が大きいから1日3本しか使えないけどね。もちろん、安全性は実証済みだよ!」
「それまでにお前、爆発したり、溶けたり、砂になったり、体変わったり、朽ちたり大変だったけどなー」
「!?!?」
そうして、シルフィグは驚愕した顔のミク達を余所に「がんばってねー」という一言とともに、実験器具の中に走り去っていった。
「じゃ、オレもあそこで作業してるから。何かあったら、呼んでね。無理すんなよ?」
そう言って、ライトも行ってしまい、残された4人。
「「「「どうするよ、コレ……」」」」
………………
…………
……
「にしても驚いたなぁ……」
「何が?」
薬品実験をしているシルフィグの傍で、大量の金属に囲まれているライトはつぶやく。
「いやさ、あのランクの武象石を限界までとは言え、一回の魔力供給で成功したイアの魔力量がさ」
「あー、確かに。それはある」
「あれ、イアの封印の中の魔力までごっそり持っていってたからな。」
「じゃあ、4人が武象石を変形させるのって辛くね……?」
シルフィグの問いにライトは一瞬考慮するが……
「まぁ、あいつ等ならがんばれるでしょ」
そう言ってライトは次々と金属の性質を調べていく。
「でさー、ライト」
「んー?」
「低級の武象石に過剰な魔力込めるとどうなるの?」
「さぁ……やってみれば?」
「おし、ktkr」
そう言って、シルフィグは自分が渡された武象石に一気に大量の魔力をつぎ込む。
すると、その武象石が強く輝き始め……
「お、お!これは……へ?」
ドォォォォォンッッッ!
大爆発を起こした
「ケホッケホッ!おーいシルー、どうなったー」
煙が晴れた後に、吹き飛び散らかった実験機材を寄せながら探すライト
するとそこには、腰より上がなくなった、人間だったもの、の残骸が残っていた。
「あらら、大変なこった。……ん?」
何か、自分の足元で動いていることに気づいたライト、それの後を目で追うとそれは少しずつ、シルフィグに集まり始め、形を取り始める。
「うわぁ……」
徐々に肉塊のようだったものはまとまり始め、その形を整え……
「ひえぇー、大変だった。とりあえず爆発するんだね。うん、いいデータが取れた」
そこには、元の姿に戻ったシルフィグがいた。
「キモッ……」
「るせぇ、別に再生形態は色々選べるわ!今回はこの形にしてみただけだ!」
それはそれで、お前のセンスを疑うけど……
「爆発なんてするのか。俺はしなかったけど」
「え?」
ライトは自分が渡された武象石を取り出し。一気に魔力を込める。
すると、武象石は光ることもなく、そのまま砂に変わっていった。
「へー、貴重なデータだ……何が違うんでしょうねー」
「まぁ、色々あるだろ、魔力の質とか、込め方とか」
そのとき、ライトはあることに気づく。
「なぁ、シル」
「うん……ちょっと待って、理由考えてるか……」
「つまりオレたち、まだ自分の魔装作ってなくね?」
「あ」
………………
…………
……
ライトたちが立ち去ってから、およそ4時間後。そこには、魔力を使い果たして死屍累々の状態となったミクたちがいた。
「全然、出来ないよ……」
「本当、何なのこの石」
「ちっとも魔力が足りねぇ……」
「アタシもう駄目……」
4人の前にはいまだ形を変えていない武象石が堂々と存在している。
「イアちゃん、コレを1回でやったんだよね……」
「俺ら、この薬使って3回分の魔力でも駄目なのに……」
もう息が上がり、ぼろぼろな4人。そこに
「死に掛けてんなー、諸君」
「リン大丈夫?水飲む?」
「いや、いい……」
実験の素材集めからライトとシルフィグが戻ってきた。
「無理ですよライトさん、こんなの……」
「そうだよ、それに武象石の上級品って国軍のエリートが使うって噂だよ、シル……」
「そんなの、俺達が使えるわけねぇよ……」
「アタシ達まだ学生だよ……こんなの荷が重いよ」
それぞれ、不平不満を口にする。
ほう……それなら
「じゃあ、やめていいぞ」
「え?」
「いいぞ、諦めて。そんなに無理だというなら別に使わなくていい。もちろん低級の武象石でも用意してやる。そっちならすぐに魔装を作れるだろうな」
そう言って空間から灰色の濁った武象石を取り出す。
「ただし、お前らはここで、得られるかもしれなかった力を逃すことになる。それでもいいのか、自分にはもしかしたら一生廻ってくるかもわからないチャンスを棒に振るのか」
すると、4人は考え込む。ここで、チャンスを逃せば楽になれる。別にクラスのほかの人はこんな辛い思いをしていない。こんなの使わなくても生きていくには十分という誘惑が誘う。だが
「私、やります。やらせてください!」
「ここまでやって、負けられるか!」
「確かにこんなチャンス二度とないかもしれないしな……やれるだけやってみるか」
「みんなで、一緒に強くなるんだもんね!」
誰一人諦めることなく、その目に光を宿していた。
それを見て、ライトはニィッと笑みを深める。
「よく言った!なら最後のサポートだ」
そう言って、ライトは4人に試験管を1本放り投げる。
「そいつは人為的に魔力の生成を暴走させて、一時的に大量に魔力を作れるようにする薬だ。その分副作用もそれなりに大きい。無論使わなくても出来るが、時間の大幅な短縮にはなる。使うかどうかは……言うまでもないか」
説明を受けた後に皆は躊躇なくその液体を飲み干す。数瞬後に圧力を感じるほどの魔力が4人から生まれる。
「くっうぅ……」
「これは、結構……辛い」
「く、くそったれ……」
「負けられないんだから……!」
4人とも渾身の魔力を武象石に込め続ける。
何十倍にも長く感じた一分、そこには、まさに息も絶え絶えになった4人と、その目の前にある淡く光を放つ武象石が存在した。
「ハァ……ハァ……成功した?」
「ゼェ……ゼェ……多分、ね」
「ハァ……ハァ……死ぬかと思った」
「ぜぇ……ハァ……本当、辛っ……」
「まぁ、お前らお疲れなところ悪いが。武象石が変化するぞ」
その言葉に、4人は顔を上げる。その瞬間それはなお強く光を放ち、その色を変え、形を歪める。
まず、ミクのはその光がその髪色と同じ美しい、青緑に変わり、石が形を変える。それは持ち手部分が棒のように長い。そして、上部に大きな刃が付き、広い刃の所々に先ほどの青緑と同じ色の宝石が存在する
「これが、私の……魔装」
ミクの身長ほどの大きさの鎌があった。
次にリンのはその光が明るい黄色に変わる。そして、武象石が形を歪め、二つに分かれる。そして、形としてはブーメランのように曲がり、黄色の宝石が付けられた
「おぉ!いいんじゃない、これ!!」
美しくも機能性を阻害しない、リンにもっとも合う形の双銃が生まれた。
そして、レンの場合、その光はリンと同じ輝く黄色に変わり、石の形も大きくなっていく。細長く、しかし、武器としての機能性に最も優れた形に、そして同じく美しい宝石を持った柄と、鋭い刃を作り出す。
「うん、悪くない出来だ」
そして、レンの手には、その柄が黄金色と宝石に装飾され、刃に碑文が刻まれた、少々細身の両手剣があった。
最後にグミは、武象石は春色のさわやかな黄緑色の光を放ち、武象石が二つに分かれる。そしてグミの手に取り付くと、その手に最も合うように形が整えられていく。それとともに質感も変わり、手の甲に黄緑色の宝石が取り付けられ、その光が収まるころには
「いいね、いいね!私らしいじゃん!」
その腕部分までを覆い、見た目の質感は皮のようで、動きを邪魔しないように変化した、ナックルがあった。
「おぉー、みんなそれぞれいい武器じゃないか。」
ライトが、軽く拍手をしながら皆の武器を見回す。
「それじゃ、まぁ次のステップに……おや?」
そうして、声をかけようとして皆の様子が違うことに気づく。皆それぞれ、そのまま地面に倒れこみ、ゆっくりとした寝息を立てていた。
「あー、さすがに体が持たないかー。そりゃそうだよな」
「あぁ、リンちゃんの寝顔……hshsするチャンス……」
「何かした瞬間に全て、リンにばらすからな?」
そう言って、ライトはシルフィグを実験場に蹴り飛ばす。なんか「グホォ!?」とか聞こえたけど気にしない。
(まあ、目が覚めるまで放っておいてやるか)
そうして、それぞれに毛布を具現化してかけてやると……シルフィグが埋まった実験器具の山に向かっていった。
………………
…………
……
「…………んぅ」
最初に目が覚めたのはイアだった。
(確か、武象石に触って、そしたら、なんか力が出なくなって……それで……)
だんだんと、自分が置かれた状況を理解し始める。
つまり、自分は倒れて、このベットに寝かされたのだろうと。そして、辺りを見回そうとしたとき、あるものが目に入る。
「……これが、私の魔装?」
そこには、イアの魔装である漆黒のナイフが置いてあった。
「……すごく、綺麗」
手に取れば、まるで昔から自分のものであったかのように手に馴染む。その形や重さが全て自分専用だということが改めて感じられる。
「……そうだ、それよりも」
改めて、自分以外の現状について見回す。
見回してすぐ、ゆっくりと気持ちよさそうに眠る4人がいることに気づく。その傍らには各々のものであろう魔装が置いてある。
(良かった、みんな成功したんだ)
どこか、心にあった不安も解消され、そっと胸をなでおろす。
「お、目が覚めたな」
すると、何か大量に物が散らかっている場所から、ライトが声をかけてきた。
「お前は合計7時間、他は3時間も寝てるな。寝すぎだぞ」
そう言ってどこからか、コップに入った水を取り出し渡す。
「……ありがとう」
礼をいい口に含んでみれば、スッと目が覚めるような清涼感を感じる。
「……これ、何?」
「水に、ハーブとか氷霊草を混ぜたものだ。目覚めに最適だろう?……さて、あいつらを起こすか」
そう言ってライトは4人の傍に移動する。
「ほらー、お前ら起きろー、寝すぎだぞー」
「うぅん……眠い……」
「あと、5分……」
ほう、いい度胸だ……
「起きろー、起きなきゃ……
削ぐぞ?」
「「「「いやぁ、よく寝たなぁ!もう全快ですよ!」」」」
うん、皆さん素直でよろしい
「……ライト、削ぐって」
「気にするな、気にしたら負けなことだ」
世の中は知らなくてもいいことがたくさんあるのです。
「それよりもみんな、自分の魔装をきちんと確認しなくていいの?」
すると、こちらの様子に気づいたシルフィグが寄ってきた。その言葉に皆改めて、自分の魔装を確認しその感触や使いやすさを確認する。
そのとき、ふとリンから疑問が上げられた。
「そういえば、ライトやシルの魔装は?」
「あぁそういえば、まだ作ってなかったな」
「ずっと、実験と論証ばっかりしてたからねー」
その、言葉に一瞬、リンとグミが目配せをして、その両者の目に悪戯っぽい光が宿る。
「へぇー、あれだけ偉いことを言ってて、まだ作ってないんだー」
「アタシ達ですら出来てるのにねー、ね、ミクちゃんそう思わない?」
「へ?えと、う、うん、そうかな……?」
「まぁ、確かにあれだけ、言ったんだし、自分たちも出来るところみてみたいね」
「……ライトたちの武器、見たい」
二人に乗せられるように、それぞれが意見を述べていく。
それに対して、ライトたちは
「へぇー、そういうことを言う(ニヤニヤ)」
「まぁ、確かにそう思うよねー(ニコニコ)」
ものすごく意地の悪い笑みを浮かべていた。
「なら、お前らに『次元』の違いというものを見せてやろう!」
そう言ってライトは、自分の手のひらに別空間から1個の上質な武象石を出す。
「ふんッ!」
自身の手のひらから魔力を吸い上げるその石に対して、ライトは過剰なまでの魔力を注ぎ込む。その結果、
サラサラサラ
「「「「「( ゜д゜)」」」」」
武象石は光ることもなく、その色を白に変えて砂となり消えていった。
「さて、これでも文句ある?」
「「「「ありません!!」」」」
4人は、声をそろえて叫ぶ。しかし、イアだけが何かを言いたそうにしていた。
「ん?なんだ、イア?」
「……私の要求は、ライトたちの魔装が見たい」
「そういえばそうだったな、うん」
ライトは満足げにうなずくと、そこからさらに空間に切れ目をいれ、そこから、自分とシルフィグの傍に物体を出す。
「な、何これ……」
「こんなの、初めて見た……」
「でっか……」
台詞だけ聞くとひyにも、聞こえますが何のことはありません。自分たちの傍に、武象石を出しただけです。ただし、直径は約2mほどあり、黒さも光を飲み込みそうなほど澄んでいるが‘’。
「こんなのどこで……」
「……すごい価値」
皆開いた口がふさがらないような状態になっている。
「オレ達の魔力を込めて壊れないやつっていったらこんなもんじゃないとな」
「これ一個で多分、一生遊んで暮らせるほどのお金が手に入るだろうねー」
いいながら、二人はその岩に両手をつける。その瞬間、二人を中心に、莫大な魔力がその岩に流れ込んでいく。
ただの魔力であるはずなのに、それは現実に干渉をはじめ、風となり周りを吹き荒ぶ。
「いやぁ、吸われる吸われる」
「常人なら乾いて死んでるね、これ」
台詞とは裏腹に涼しい顔で尋常ではない魔力を送り込んでいく二人。それから、たっぷりと5分後、ついにこの岩から光が出始めた。
まず、シルフィグのところでは岩が様々な色を出し始める。赤、青、緑、黄、一つの岩から様々な色をだし、岩が形を変える。それは細長く、形を、質感を、色を変えていく。出来たのは
「なるほど、私の紳士にふさわしい」
見た目的には、黒壇のようなステッキがそこにあった。
そして、ライトのは強烈な白色の閃光を放ち姿を変える。シルフィグのものと同じく細長く、しかし、色は光とは対象に真っ黒な棒状のものが出来上がっていく。光が収まったとき、ライトはそれをしっかり掴んでいた。
「いいね、最高だよ!」
それは、黒く、飾り気のない、しかし、ライトが抜き放った刃まで全てを飲み込むような黒色の日本刀だった。
………………
…………
……
「みんな、武器は手に入れたな?」
漆黒の刀を手に、ライトは呼びかける。
「じゃあ、武器の名前を付けるわけだが、ハイ、ミクさん質問です。名前はどうやって付ける?」
「へ?へ?どういうことです?名前なんて、普通に……」
「ま、それが普通だな。しかしこの魔装は違う」
そう言って、ライトは自分の魔装を目の前に出す。
「お前らの持っている武器は、それぞれ自分の名前を持っている。だから、お前らがしなきゃいけないのは名前を付けることではなく、名前を見つけること、武器の呼びかけに応えることだな」
あれ、なんかとある死神の代わりをする高校生を思い出しかけるが、全力で頭から消し去る。何より、あんなやつらには負ける気がしない。
「それじゃ、がんばってね」
そう言って、ライトたちは立ち去ろうとする。
「あ、待ってください!」
それを慌てて、ミクが呼び止める。
「ライトさんたちはもう、名前を見つけたんですか?」
「もちろん、手に入った瞬間からね」
そう言って、刀を抜き放つ。
「こいつの名前は<至刀 源卦>能力の説明は……めんどくさいから後だ。シルのは何だっけ」
「僕のは<梟の止まり木>。能力の説明は、ライトが秘密にするなら、僕も隠しとこうかな。」
「ってな感じだ」
「えー……」
結局、呆れたような顔のミクを置いて、ライト達はそのまま実験に戻っていってしまった。
「どうすればいいんでしょう」
「武器に聞く……ねぇ」
「そもそも、無機物に意思なんかあるのか?」
放置された5人は、そのままどうすればいいのかわからず、佇んでいた。
ライトたちがああ言っていた以上手がかりもなく、自分たちで模索するしかない。
(とりあえず、なんかやってみよう)
そうして、ミクは自分の魔装―鎌―を前に差し出すと、目を閉じゆっくりと意識を集中させる。
(ライトさんたちは、掴んだら分かったって言ってた。あのとき、ライトさんたちは大量の魔力を武器に流した状態だった。それなら……)
ゆっくりと、自分の魔力を武器に流し込んでいく。すると、それと共に奇妙な感覚が訪れる。
(なんだろう……昔から使っていたみたいな感覚……)
魔装を通して、その武器の使い方や能力が流れ込んでくる。それは、まるで長年そうだったかのように脳内に記憶されていく。
そして最後にこの武器の名前が、自然と浮かんでくる。さも当然だったかのように、忘れていたものを思い出すかのように、その名前は思い浮かんできた。
(これが……この魔装の……名前……)
そっと、閉じていた目を開ける。
「ミク姉、どうしたの!?なんか分かったの?」
リンちゃんが問いかけてくるが、今はそれより先にやらなければならないことがある。
視線を少し落とし、自身の魔装に目を向ける。
「あなたの名前は……『トラグディ』」
そう、ささやきかける。すると、鎌が青緑の光を放つ。光が収まったとき、そこには
「……指輪?」
銀色に、光と同じ美しい線が入った指輪があった。
「え、ミクちゃん何があったの!?」
「もう、名前分かったのか?」
私の武器が突然指輪になったことで、皆口々に問いかけてくる。
「え、うん……なんかね、目を閉じて集中して、武器に魔力を流したら……なんか浮かんできて……」
「……ミクの周り、さっき魔方陣浮かんでた」
「え?そうなの?イアちゃん」
「(コクリ)」
ミクが何かしらのきっかけを見つけたことで、皆とりあえずその行動を実行してみる。すると、それぞれの周りに、魔装を作ったときの光と同じ色の魔方陣が生まれる。
(あぁ、なってたのか……納得)
それから、大体2分ほど立つと、皆が、目を開け始める。そして、それぞれ武器を目の前に差出しささやく。
「変われ『アクティース』」
「形成せ『ディルビオ』」
「来て『テンペスタ』」
「……変生せよ『アビス』」
それぞれが、名前を口にすることによって、魔装が光を放つ。収まったとき、リンの手には2つの指輪が、レンとグミの手にはブレスレットが、イアの手にはチョーカーがあった。
「おー、お前らちゃんと名前を見つけられたようだなー」
声がするほうを向くと、いつの間にか、ライトが近くでニヤついていた。その後ろにはシルフィグが笑顔で静かに拍手している。
「今日は、疲れただろうから、これで終わり。解散だな、各自きちんと休めよ~」
そう言って、ライトは入り口を指差す。しかし、そこでミクは問いただす。
「あの!結局ライトさんたちの武器の力って……」
「ん?源卦の能力か?」
すると、ライトは何かを考慮するかのような顔をする。そして、
「よし、決めた!お前ら、明日まで各自の武器の能力は秘密に他人に教えないこと!」
「「「「「えぇぇ!!?(……え)」」」」」
「じゃないと、面白くないから!ほら、分かったら各自部屋に帰って休め!」
そうして、皆を部屋に送る。残ったのは広い空間には、ライトと寝転がったシルフィグの二人。
「さて、シルフィグ。少しばかり運動をしないか?」
「えぇー、めんどくさい、ダルい、かったるい。第一なんでそんなことしなきゃならないん……」
「いや、な、そろそろフラグ回収が起こりそうな予感なんだよ」
「ハイ、メタ発言ありがとうございますー。で、何すんの?」
「なに、簡単なことだ」
すると、ライトは源卦を抜き放ち、シルフィグに突きつける。
「自分の能力を把握したい、だから軽い実践練習だ」
「ふぅん……」
シルフィグもそれに答えるように、現在は万年筆にしていた、梟の止まり木を元に戻すと、ゆっくり立ち上がる。
「みんなには、能力を明かすのを禁止したのに僕たちは明かしちゃうわけ?」
「まさか、知らないほうがスリリングだろ?そのまま、戦うぞ」
「別に、好きに魔法を使ったり、何してもいいんでしょ?」
「ああ、その方がありがたいからな」
「殺す気で?」
「もちろん」
ライトは、シルフィグから少し離れながらジャンプなどで体の調子を整える。シルフィグも関節を回したりしながら、頭の中で使う魔法をリストアップする。
「じゃあ、コインが落ちたら始まりで」
「おkおk」
そうして、コインを創造し、空中に弾き上げる、落ちてくるまで数秒のラグ。
「それじゃ」
ゆっくりと体制を整えたライト。その笑みは残酷に、狂気的な笑みが抑えられていない。
「やりますか」
対照的に、シルフィグはただ、ひたすらに面倒そうな、それでいて瞳の奥には冷静な闘志を宿しながら。
コインが落ちたかそうでないか、その刹那。互いに人を超えた二人がぶつかり合った。
………………
…………
……
それから時間は過ぎて夕食時。またもや、遅いライトとシルフィグを迎えにミクが、部屋を訪れるが、
「お二人ともー、いい加減にしないと!……キャッ!?」
扉を開けて中を見たとき、そこには所々に亀裂の入った空間の中に横たわる血まみれの二人がいた。
「ん、ミク何?飯?」
「それなら今行きますよー」
するとその血まみれの二人は、ゆっくりと立ち上がると、体を再生しながらこちらに歩いてくる。そして扉につくころには、いつもどおりのライトとシルフィグに戻っていた。
「へ、え、だ、大丈夫なんですか!?」
「あー、問題ないな、うん」
「強いて言うなら、内臓をいまだ修復中かな」
二人ともそう言って笑いながら階段を下りていく。それを、なんともいえない顔で呆然としながら見ているミクだった。
その後は、普通に夕食を食べ、何事もなく次の日を迎える。そして、学校に着き今日の予定は何なのかと考えているとき、HRで先生から連絡があった。
「今日は、皆が昨日作ってきたと思う魔装の調整日になっています。今日1日で自分の魔装についてしっかりと知識をつけて、今後の実践授業で生かせるようにしてもらいます。よってこれから、闘技練習場に移動となりますので、皆さんついてきてください」
そう言って、先生は教室を出ると廊下端の生徒を連れて教室を出る。それに、皆が雑談をしながら、続く。他のクラスでも話している内容からして、どうやら、他クラスの合同の可能性もあるということが分かった。
(なんか、すごいフラグの香り……そう、テンプレでいて面倒くさいタイプの……)
まぁ、何とかなるか。そう考えライトはその場その場での判断に移ることにする。
「おい、シル。ちょっと」
「ん?何」
「なんかテンプレの雰囲気があるから、何かあってもリン達を守れるようにしとけー」
「は?それは別に構わないが……どういうことだ……?」
「いや、これはクズい奴との戦闘フラグを感じる」
「把握」
とりあえず、シルフィグに声をかけたから、少しは安全だろうと予想して、起こりうることをリストアップして、整理していく。
そして、防衛に使える魔法を考えていたとき、ついに闘技場にたどり着いた。
………………
…………
……
「では今回の授業について説明する。今回は……」
で、なんか整列して立っているライトさんです。なんか前のほうで教頭だったかの人がしゃべってますが、正直興味ない。今興味あるのは、5人組の訓練とイアの封印だけなので、早く始まれと、念じている最中です。
「というわけだ、各自解散!!」
やっと終わったか……あれ、この後何するんだ?
「何してるんですか、ライトさん?早く行きましょうよ」
「あれ……この後何するんだっけ?ミク」
話しかけてくれたのは、われらが女神ミクさん。助かりました本当!
「はぁ……話聞いてなかったんですね?この後は、各クラス指定の場所で、何人かでペアを組んで武器のことを知るのと、戦闘訓練ですよ。お昼と休憩は各自自由です」
すると、ミクは若干呆れ顔になりながら教えてくれる。
「なるほど、ありがとな」
さて、我らがF組は……あそこか。
そこは闘技練習場の壁際、場所としては結構広く取られている。そこに、みんな集合しているらしい。
「はい、それでは皆さん。一応ここには特別な結界、いわゆる防死結界が張られているため、怪我などや重傷を負っても結界の外に出れば治りますが、それでも事故や怪我には気をつけてくださいね」
そう先生から注意がされた後、皆適当に広がっていく。
「それじゃあ、お前ら地獄の特訓始めようか!!」
「「「「何故に!?」」」」
笑顔で振り向いたら、みんなに否定されました。そりゃ……
「だって5人とも弱いじゃない」
すると、なんか4人に青筋を浮かべられました。心外だな。
「へぇ……じゃあライトは私たちに余裕で勝てるんだね?」
「それどころかお前ら5人が束になっても勝てるね」
おぉっと!?今度は無視していたイアさんまで、怒りのオーラが出てきたぞぉぉ!?
「じゃあ、ライトさん。実際に相手してもらいましょうか」
ミクがそういうと同時に、4人が散開し、ライトを中心に五角形に広がる。
「……シルー、一回休みねー」
「ハイハーイ、じゃあ観察してるわー」
そう言ってシルフィグは壁際まで移動する。
「それじゃあ、ライトさん」
「「「「「覚悟ッ!(……消えて)」」」」」
そして、示し合わせたかのような完璧なタイミングで攻撃を仕掛けてくる。というか、イア、その言葉はないだろう……お兄さん傷ついちゃうなー。
そういいつつも、ライトは魔装の刀を出し腰だめに構える。
(とりあえずは、今まさに攻撃しようとしている接近タイプの3人を何とかしよう)
「『閃』」
そうつぶやき、ライトが勢いよく抜刀する。刃の後すら見えぬその後に続くように真空刃のようなものが円状に出来る。
「!?」
「チィッ!」
「マジ!?」
3人はそれぞれ魔装で、後衛の2人は避けてこれを防ぐ。
そして、その瞬間にライトは飛び上がり、囲まれる状況を脱出する。その狙いは
「嘘!?私!?」
自分のほうに飛び上がってきた、ライトに向かって双銃を乱射する。しかし、ライトは向かってきた銃弾を全て切り落としながら地面に着地、リンに肉薄する。
「ちょ、ま、キツイって!!」
バックステップで、何とか避けながら距離を保ち、銃弾を乱射していくがライトは全て切り落としていく。そのとき、別方向にライトに向かって黒球が放たれた。
「よっと」
しかし、それを紙一重で避けつつ、この魔法の主を脇目に見る。
そこには、黒いナイフを握りイアが、次の魔法を詠唱していた。
「『重力球』」
片手を突き出し、短縮化された魔法を今度は二つ、ライトに向かって飛ばす。正確に操作された二つの黒球は不規則な起動でライトを狙う。
「私も!」
そこに別方向からリンの多量の銃弾が飛んでくる。
(この状況での最適解は……)
思考しながら、次の行動を開始する。
(厄介な魔法の操者を潰すこと!)
標的はイア、そこに向かって駆け出すライト。
「ッ!!」
イアも反応して、それを迎撃すべく二つの黒球を左右から挟撃させる。しかし
「残念、核は見切っているぞ!!」
駆ける中でライトは水平に1回転し、正確に2つの黒球の中心を切り裂いた。
霧散する重力球を尻目に駆け、後数歩で射程範囲内という時
「貰っ「ハァァァァ!!」ぬおぉぉぉ!?」
掛け声と共に飛んできた拳を寸前で避けそのままの勢いで投げ飛ばす。しかし、投げられた人物―グミ―は空中で上手く体勢を立て直すとゆっくりと地面に着地し、ライトを見据える。
「忘れてもらっちゃ、困るなぁ!」
「そいつはごめんよ……!?」
そのとき、感じた圧倒的悪寒。咄嗟にライトはしゃがんだ。その上を大鎌が首を刈り取るように、通り過ぎていく。
「おいおい、いつの間に接近したんだ……」
その答えに対してミクは鎌を振りかざして答える。振り下ろされた鎌を右に転がり避ける。体勢を立て直すと、鎌が横から迫っていたので刀を立てて防御し
鎌はその刀をすり抜けライトを切り裂いた。
「なぁっ!?」
強引にバックステップでその場を離れ、自分の体を確認する。しかし、そこには傷口どころか、服が裂けた後さえ見つからない。
しかし、それとは別に体を謎の強い虚脱感が襲っていた。
(あれは……魔装の能力か?)
そこに考える間も与えずに、レンが両手剣を振り下ろす。今度は強い衝撃と共に刀と剣が、つばぜり合いを起こした。
「真正面とは、果敢だねえ!」
「そいつはどうもッ!!」
極至近距離、言葉を交わし、その瞬間離れる。そしてもう一度、切りかかろうとライトがレンを見据えたとき。
レンの構えが大きく変わる。
「っとぉ!?危ねえ!!」
さっきまでは、両手で剣を持っていた。しかし今は片手に1本ずつ。つまり、二刀流でレンが襲い掛かってきている。
「いやぁ、どっから出てきたんだか……」
「そいつは、企業秘密、だな!」
そういいつつ、レンは2倍になった手数で嵐のように攻め立てる。しかし
「んー、剣戟が薄いな。-10点」
レンの攻撃の一瞬の間を縫ってライトがその刀を力任せに横に振る。
慌てて、剣を交差させ防御するが、たった一撃で大きく後退させられてしまったレン。
「さて、そろそろ遊びはおしまい」
そう言って、ライトは刀を持って駆け出す。
駆け出した先の延長上には――――リン。
今度こそ冷静に対処する、そうやって銃を構えた先で、ライトの姿がぶれる。
一瞬で、リンの視線上から消えたライトが次に現れた場所は、
「……ッ!!」
イアの目の前、その距離、あと2、3歩で刀が届く距離である。
そのとき、イアの魔装が鈍い輝きを放つ、その瞬間、ライトの目の前に数本の剣が出現した。
「【貪る黒鳥の嘴】」
そこに、ダメ押し、として詠唱を破棄した、闇の中級呪文を放つ。額には汗が浮かびだいぶ無理をしているようだが、これで勢いが削がれたライトは対処せざるを得ない。そういう、目論見だった。だが
「言ったろ?遊びは終わった」
ただ一閃。その刀の一振りで、イアが立てた防御の陣は無慈悲にも粉々に砕け散り、宙に霧散していく。
「『衝波』」
そのまま、一瞬で近づいたライトはイアに向かって左手で刀を振り上げると見せかけ、そのまま突き出した右手で掌底を打ち出す。防御手段をとることなく、もろにそれを受けたイアはそのまま吹き飛ばされた。
「まず、一人」
そう、つぶやきつつ、刀を振り、衝撃波を飛ばす。
近づいていた、レンをそれで牽制し、別方向から近づくグミに注意を向ける。
グミの迎撃に移る直前に、背後に気配。
今度は単体ではなく、ミクとグミによる息が合ったコンビネーション挟撃。ミクは右から鎌を、グミは左から払い蹴りを同時に飛ばしてくる!
そして、両側からの攻撃がライトに当たる瞬間
ライトの姿が「ぶれた」
「「えっ!?」」
「一度言ってみたかったんだよねー、残像だよ」
その声が聞こえたのはミクの背後。振りかぶった刀を叩きつけようとする瞬間、ミクはギリギリで鎌でガードする。しかし、その衝撃でグミを巻き込んで吹き飛ばされる。
「キャッ!!」
「うぐっ!?」
結構強めに吹き飛ばしたからだろう、二人は起き上がる様子はない。そして、横から飛んでくる弾丸を刀でいなしつつ。レンの動きを伺う。
残りが、2人になったことで警戒して距離をとるレン。
そんなことしてるとさ……
「イジメタクナッチャウウジャナイ」
どこからか、シルフィグの「おい!」とか言う叫びが聞こえたが全て無視。
ここで、少々に被弾覚悟で、レンとリンにそれぞれ真空刃を放つ。
レンはともかくリンは遠距離型。相手から目を離すのは命取り。真空刃を転がって避けたリンが再び目を向けると、そこには既にライトはいない。
「どこ……「ハイ残念!」!?」
声のしたほうに目線だけ向ければ、そこはリンが転がった方とは真逆、真空刃の通り過ぎた向こう側。そこからライトが飛び出してきた!
「クッ!」
(驚愕で反応が一瞬遅れたけど、この距離なら「両方一気に前に向けるのはいかんなー」え!?)
その瞬間、ライトの刀が勢いよく跳ね上がる。それは正確にリンの双銃を弾き飛ばし、リンを無力化する。
「あ!「1名様ご案内―」クウッ!?」
そのまま、ライトの回し蹴りによって吹き飛ぶリン。
「このぉぉぉ!!」
そして、背後から迫るレンを瞬時に対処。そこから、レンは双剣に持ち替え、手数でライトを圧倒する。しかし
「だから言ったろ?足・り・な・い」
瞬間、ライトの刀を扱う速度が急激に加速する。
「チッ……クショ!!」
最初は押していたレンだが、今度はレンが手数で押されるようになる。しかし、それでは威力を手数で補う双剣のメリットが生かせない。案の定、ライトによって左手の剣が吹き飛ばされる。
「あ、「余所見は禁物」」
そのまま、高威力の刀で打ち続けるライト、しかし、すぐレンは右の剣も吹き飛ばされる。「はい、ゲームセットー」
そのまま、刀を打ち払い、峰でレンを吹き飛ばす。
こうして、5人対1人の戦いは、ライト1人の圧倒的勝利という形で幕を下ろした。
………………
…………
……
突然始まった、力試しから数分後。5人は1度結界の外に行った後、壁際で休んでいた。
「イタタタ……」
「うー、やられたー」
「少しは手加減しろよ……」
「本当、ボロボロ……」
「……(脇腹をさすっている)」
「なんだなんだ、あんなので……魔法も使ってないし物理だけだし、まともに戦ってるだけで最大級の手加減だろうに」
「「「「「冗談じゃない!(……エー)」」」」」
率直な感想を言ったら、みんなに全力で否定されました。確かに、終わった直後周りの生徒ポカンとしてたしなー、あれぐらいの戦闘普通じゃないの?
「実際、オレで良かったろ。あれがシルフィグだともっとひどい」
「え、僕?」
突然、話題を向けられたシルフィグが驚いた顔をする。
「だって、オレだからあんな近接戦闘になったのであって。お前ならどう戦うよ?」
「うーん……最大級の手加減だと、範囲重力系の魔法で地面に貼り付けてしまうかな」
「お前、それ何秒で発動できる?」
「2秒もあれば十分だね」
ほらー、シルフィグの邪気のない笑みに5人ともドン引きですよ。
「むしろ、よく持ったよ、お前ら。周りの能力も分からないのによくあんなに連携取れたと思うし。まぁきちんと休め、そしたら訓練だな」
そう言って、ライトは少しはなれたところで技の型の練習をし始める。
「じゃあ、僕もこの武器の力を試したりしてるよ。何かあったら、すぐに呼んでね」
そうして、シルフィグも胡坐をかくとステッキを基点に小さな魔法を発動したりして、どこから取り出したのかメモを取ったりしている。
「……私たちもがんばろっか!」
「うん!いきましょー!」
そうして、ミクたちも徐々に武器を試したり、練習を開始した。
………………
…………
……
「シルー、ちょっと小さな魔法撃ってみてよー」
「はいはい、ちょっと待ってなー」
「ライト、今の型の動き方どうだった」
「振り上げが遅いかなー、ここをこう……」
練習を始めてから2,3時間。先程起こったことへの騒ぎも薄れ、皆それぞれ練習したり、一部では魔法の練習も始まったりしているころ、その事件は起きた。
「おい、貴様!」
突然した声のほうを見てみれば、一人、魔装の能力を確認していたイアのところに、3人ぐらいの人物が赴いていた。特徴としては一人のリーダー格の周りに取り巻き数人という感じ。
リーダー格は一言で言えば、一般的な成金デブ。服装も学校指定の制服の上に変なアクセサリーとか色々つけて、成金趣味全開だし、それがあの太った体になんともミスマッチで見るに耐えない。
周りの取り巻きも、多分そのデブにもらったであろう物を身につけて、へこへこしているものだから、ひどく醜悪だった。
そいつらがイアに声をかけている。そのことに、ライトは既にイライラで刀が震えている。
「……ミク……あいつら誰だ」
「え、えーと……」
近くにいたミクに問いかけると、慌てながらも、ミクは答える。
「あれは確か、Bクラスの上流貴族、バスーラ家の次男、ミゲロ・バスーナです。噂によれば、かなり横暴でわがままだとか」
まぁ、見れば分かりますねー、それでいて性根腐っていそうだし。で、その貴族様が、一体イアに何のようなのか……
「貴様の魔装、いいものだな、このぼくに寄越すことを許そう。さぁ、差し出したまえ」
……はぁ?
「……嫌です」
「なに?良く聞こえなかったな、もう一度言ってみろ」
これに、逆らうことがどういうことか理解しているのか、イアは怯え、顔は青ざめている。しかし
「……嫌です」
「なんだと?……良い、私は寛大だからな。もう一度答える機会を許そう。寄越せ」
大事そうに、魔装を抱え、必死に否定した。
「絶対に嫌!!」
「ッ!!……貴様ぁ!!!」
そうして、貴族の坊ちゃんは自分の魔装のレイピアを振り上げて……
ピキッ
ドゴォォォォン!!!!
横から全力で突っ込んできたライトに取り巻きもろとも、壁まで吹き飛ばされていった。
「あー、技の練習したら、やっちゃったなー(棒読み)」
「「ちょ、ちょっとライトさん何してるのんですか(……なんてことを!!)」」
いや、あそこでイアが傷つくとか、俺の中の堪忍袋の尾が切れるし、助けなかったら、シルフィグとか読者に怒られそうだし……
「貴様ぁぁぁ!この僕が誰だか分かっているのか!!」
お、やっと復帰してきたな。さて、後は上手く誘導できるように挑発タイムだ。
「あっれー、貴族の界隈では(屑なことで)有名なミゲロ様じゃないですかー、今回は本当に申し訳ありませんでした。ですけど心が大海のように広いミゲロ様ならきっと許して下さいますよねー、だってミゲロ様はこのような技もうまく使えない平民にも、等しく温情をかけてくれるような貴族の鑑ですもんねー」
とりあえずここまでやったら……
「ふ、ふんまぁ……僕は寛大だからな、許してやらんこともない!」
こうやって、さっき言った台詞と安っぽいプライドのために許されます。さて、後は……
「それと、それとミゲロ様ー。先程、イアから魔装を奪おうとしてませんでした?まさか、そんなー大貴族のミゲロ様とあろうものがそんなことするはずもないですよねー?だってミゲロさまですもんねー」
「おい、お前さっきから馴れ馴れしいぞ!」
なんか取り巻きAがなんか言ってるけどスルー。さて、お坊ちゃんは……
「い、いいだろう。ならばお前に決闘を申し込む!!明日の午後!3対3だ!逃げるんじゃないぞ」
「はいはい、それで良いんですね?お・坊・ちゃ・ん?」
「貴様、もう許さんからな!!覚悟してるといい!!」
そう言って、取り巻きを連れてボロボロのまま自分のクラスに戻っていく。一回結界の外に出ればいいのに、プライドが邪魔してだめなんでしょうねー。
「ライトさん、なんてことを!!」
そう言って、ミクとイアが駆け寄って服をつかんできました。
「相手は上流貴族ですよ!逆らったら、どうなるか分からないんですよ!?」
「だから決闘に持ち込んだんじゃん」
「……ライト、あぁまでしなくても……良かった」
自分の責任で、大事になりもう涙目になるイア。
「はぁ……イア後で話がある。帰ったら部屋に来い」
ライトはそうやってシルフィグの元に歩み寄る。
「と言うわけで、シル。あんな感じだから。メンバーはオレとお前とイアで」
「別に構わないけど、イアはいいの?あの状態で……」
「それを今日解消する」
「あぁ、成る程……今日は大変だなぁ……」
そんなことを話していると、
「ライトさん、一体なんてことをしているのですか!?」
エミド先生が、焦った顔でこっちに来ました。
「何って……決闘の申し込み?」
「あれがどういうものか分かっているのですか!?もし負けたら、相手が要求したものを絶対に渡さなければならないんですよ!!」
「はぁ……」
「今なら、まだ間に合いますから!ほら相手方の生徒に謝罪を……」
そうして、肩に手をかける。しかし、ライトはそれを振り払い言う。
「じゃあ、勝てばいいんでしょう?大丈夫、絶対負けませんよ」
そういったライトの微笑に何を感じ取ったのか、エミド先生は大きくため息をつくとどうしようもないというような表情をする。
「決闘が行われる場合、この学校では特例が発令されます。決闘に関する人間とその近親者は授業を中断。そのまま帰宅です。保護者の方にはこちらから連絡しておきますので……」
そう言って先生はそのまま向こうに駆けて行ってしまった。手続きなどで忙しいのかもしれない。
「さて、じゃあ帰りますか」
「そうだねー、じゃあ先に荷物とって部屋を準備してるよ」
そう言って、シルフィグは転移していく。
「ほら、5人ともー帰るぞ」
「気楽過ぎるでしょ……」
「……楽観的を超えて、バカ」
ミクやイアに散々に言われながらも6人は闘技場を後にした。
………………
…………
……
1時間後
やっと家に着き自分の部屋で一息つく。他のみんなは自分の部屋で休んでおり、この部屋にはライトとシルフィグとイアの3人だけがいる状態である。
「いやー、帰ってきて早々、メイコ姉さんに拳骨くらうとは思わなかった……」
「死ぬほど痛かったんだが……」
「……全部ライト達が悪い」
笑う二人を、ジトッとした半眼でにらみつけるイア。
「……で、私をこの部屋に呼んだ理由は?」
会話の転換を図るように、自身が呼ばれた理由を問う。
「あぁ……イア?お前、もっと強くなりたいとは思わないか?」
「……どういうこと?」
突然切り出した話題を呑み込めていないイア。しかし、それを無視してライトは話を進める。
「実はお前の中には、とてつもない魔力がある。しかし、何かしらの封印がお前の中にあってそれを縛っている状況だ。そして、昨日オレたちはそれを解除する術式を発明した」
「!!……じゃあ!」
「ただし、これは尋常じゃないほど体に負荷がかかる。それを耐え抜く意思がないなら
死ぬぞ?」
あくまでも冷静に、しかしイアからしてみれば残酷に告げられた現実。それはイアの迷いを加速させる。自分が手に入れる力はそんなに大きいものなのか、自分の命と釣り合うのか、そこまでして力を手に入れる価値はあるのか、まだ死にたくはない……様々な思いが自分の中を駆け巡る。悩み、惑い、考え、そして、イアが出した答えは……
「……やります……私は欲しい……守られるだけじゃなく……みんなを守れる力が欲しい!!」
迷いを振り切ったように澄んだ目でイアは力強く答えた。ライトはその答えに笑みを浮かべる。
「じゃあ、準備しようか」
そう言って、ライトは1枚の紙を取り出し、イアに渡す。そこに書かれていたのは、人の形に変形した複雑精緻な魔方陣が書いてあった。
「じゃあ、それを、ミクとメイコ姉さんあたりに頼んで自分の体に書いてきて。あと、服装はこのワンピースで」
そう言って、1着の真っ白なワンピースを放り投げる。
「……?」
まったく事情が呑み込めない、イアだったがそうする以外選択肢はないので、大人しく従う。
数十分後
「ライトさーん、これでいいのー?」
そう言ってミクがイアを連れて部屋に入ろうとして、
「ちょっと待て!まだ入るな!!」
急にライトに静止をかけられ、バランスを崩しそうになるのをイアが必死に支える。
「おっとっと……ふう、イアちゃんありがとう」
「(コクリ)」
よく見てみれば、扉からは既に、部屋の大きさと同じほどの別空間になっており、真っ白な空間全体に大量の魔方陣が繋がるように書いてある。
「さて、後は固定化して……シル、そっちはー?」
「大丈夫、問題ないよ」
そして一瞬、魔方陣が輝いたかと思うとすぐに光は収まる。
「ふう……ごめんごめん二人とも、部屋に看板でも下げて置けばよかったねー」
「いえ……これは一体……」
「まぁ、イアの封印開放に必要な魔方陣かな。で、肝心のイアは……うん、問題ないな。じゃあイア、はじめようか?」
「……分かった」
そうして、ミクの背後に隠れていた、イアが部屋の中に入る。薄いワンピース1枚のイアの体には部屋と同じようにびっしりと魔方陣や術式が書かれており、布1枚から黒い文字が透けて見えたりしている。
「じゃあ、部屋の中央に仰向けに寝てちょうだい。」
言われたとおりに、部屋の中央に寝転がるイア。そして、シルフィグがイアをはさんで向かい合うように立つ。
「それじゃ、何をするか説明するけど。今からイアの体内の封印を解除していくんだけど、そのとき、今まで封印のせいで塞き止められていた魔力が一気に流れ出してしまう。だから、それを強制的に体外に放出させる。」
ライトが手を一振りすると、陣が薄く輝きその起動の準備を始める。
「だけど、これは通常では考えられない量の魔力が一気に体を駆け巡るからイア自身の負担もかなり大きい。体はボロボロになるし、さっき言った通り体が耐えられなければ死ぬ恐れもある。もちろん対策として、シルフィグには治癒魔法を永続的にかけてもらって体の負担を軽減させるけど。もう一度聞く、覚悟はあるか?」
ライトが言った重い問い。しかし、イアは迷うことなく首を縦に振った。
「……このまま足手纏いで死ぬくらいなら……命がけで力が欲しい!!」
「……わかった。あと、ミク、この術式中は外に出ていてくれ。一応繊細な術式だからね」
「は、はい!!イアちゃん応援してるからね!」
ミクは応援の言葉をかけながら外に出て行く。
そして、ライトはしゃがみ、イアの腹部に両手を当てる。その瞬間、イアの四肢に光輪が生まれ、床にしっかりと固定される。
「まぁ、暴れないように……ってやつかな。我慢してね」
そういい、ライトは自分の掌に術式を浮かばせる。
「じゃあ、いくよ。シル、カウント3,2,1,0の0で術式起動」
「おk、いつでもどうぞ」
「いくぞ……3,2,1,0!!」
その瞬間、3人の間を大量の魔力の奔流が駆け巡る!
「アアアアアァァァッッッ!!!!」
絶叫と共に、イアの目は見開き体が大きく反り返る。
「こ、れ、は……予想以上に……ッ!!」
「ライト!術式速度上げて!回復が追いつかない!!」
濃密過ぎる魔力は放出されるときに魔力の刃となって、二人に襲い掛かる。
「ちぃ……あと、ちょっと……」
「ガハッ、ゲホッ……アアアアッ!!」
放出しきれなかった魔力が体を蝕み、イアが思わず吐血する。来ていたワンピースは真っ赤に染まりイアの顔が血色を無くす。
「ライト!!早く!!」
「くそ……たっれェェェ!!」
そのとき、ライトは自身の血を床の魔方陣にふりかけた。その瞬間、床の魔方陣が淡い赤色を放ち魔力の吸収速度を上げる。
「あと……少し……!!」
そのとき、魔方陣がより強く発光した!
………………
…………
……
光が収まったとき、魔力の奔流は既になく、静かな空間が広がっていた。
たまらずライトは腰をつき、シルフィグも力が抜けたように座り込む。
そして、イアは、その服の一部を鮮血に染めながらも、ゆっくり息をしている。
「はぁはぁ……どうなのライト?」
「……意識はないが、呼吸も安定してる。成功だ」
そして、安心したように、大きくため息をつくライト。体の傷は再生しているが疲労感が拭えていない。
「まぁ、ベットに寝かせておこう。おつかれ、助かったよ、シル」
「あぁ、僕もすぐ行くよ。おつかれ様」
そう言ってライトはイアを抱き上げると、空間に切れ目を入れて、自分の部屋に戻っていった。
………………
…………
……
「……ここは、何処」
イアが気づいたとき、そこは真っ暗で何もないところに浮いていた。だが、なぜか自分の体だけはしっかりと見えている。
「……なんなんだろう」
ここにいると、自然と落ち着いた。暗く閉ざされているこの空間なのに、不思議と居心地がいい。そう、まるでいつまでもいたくなる様な感覚になる。
「……だけど、何か大事なことを……忘れてる」
それは思い出さなければいけないような、忘れてはいけないようなことのように感じる。しかし、この空間がそんなの忘れて楽になれと囁く。
「……私は」
浮いたこの空間に漂っていれば辛いことも忘れそうで、ただ、ゆっくり眠って入れそうな気がする。
もういいか、と目を閉じそうになり、ふと自分の上に何かが浮いているのに気づく。手を伸ばして取ってみれば、それは漆黒でいて美しく、小さな宝石が埋め込まれたナイフ。
(……これ、は……)
そのナイフに触れた瞬間、自分に何があったのか、どうしてこうなったかのかが、フラッシュバックのように思い出される。
「……そう、だ。私は……戻らなきゃ」
ゆっくりと、目を閉じて、強く中空をにらむ、そこには今まで存在しなかった一条の光。
「……私は、負けない!」
そうして、その光に手を伸ばし、強く握り閉めた。
………………
…………
……
「ッ!……アちゃ……イアちゃん!!」
イアがゆっくり目を開けたとき、そこは真っ暗な空間ではなく、年季物の木の天井が見えた。そして、自分の右手はしっかりとミクに握り締められていた。
「お目覚めかな、眠り姫」
そう言って、椅子に座っていた、ライトが立ち上がり、おでこに手を当ててくる。
「……うんバイタルは安定してる。よくがんばったな、イア」
そう言って、ライトは優しく頭をなでてくる。こんな風になでられたのはいつ以来だろう……うれしそうに目を細くしながら、思考する。
「よかった……血まみれでベットに寝てるのを見たときはすごく心配したんだから……本当に良かった……」
そう言って、イアに抱きつくミク。その目はほのかに涙目になっている。
「いあ、何か調子悪いところとか、異常はない?」
「……特に感じない」
左手を握ったり、開いたりしながら、自分の状態を確かめるイア。
「よし、そんじゃまぁ、その血まみれワンピースを着替えて、シャワーでその紋様落としたら、俺の部屋に来な、魔法の練習をしよう」
言われて、イアははっと自分の状態に気づく、ワンピースは血が固まってくしゃくしゃだし、髪は乱れ、体中紋様で埋まっている。
「……///」
「部屋にいこっか」
ミクは苦笑いしながら部屋を出て行く、それに足早についていくようにイアも小走りに退出していった。
………………
…………
……
「お、お疲れー」
そう言って、入り口のあったほうを向く。そこには、普段着に着替えたイアがいた。
「じゃあ、練習しよっか」
そう言って、脇に寝転がっているシルフィグを叩き起こし、イアの元に引きずっていく。
「じゃあ、まず、イア、普通に魔法を使ってみて」
「……分かった」
そう言って、初期魔法の【重力球】を作り出そうとするイア。その瞬間イアの掌の上で、出来た小さな黒球は一瞬にして巨大化し、通常の数倍の大きさになった。
「!?へっ?!キャッ!!」
驚きの余り、イアは魔法の構成を破棄する。その瞬間巨大化した黒球は小さな破片となって消えていった。
「……なに、今の?」
「まぁ、分かったと思うけど、これが今のイアの中に流れてる魔力の多さだな。魔力を水にたとえるとするなら、前までのイアが水道から少ししか出ていない水を使って魔法を書いてたとすると、今のイアは水道を全開まで開けて水を使うことが出来る。それを知らずに今までの感覚で魔法を構成したから、魔力過多の魔法になったわけだ」
そうして、ライトは右手を出すと、そこには、イアの魔法と同じ黒球が現れる。それを上に掲げると、一気に巨大化させ、そのまま弾けさせた。
「つまりは、お前はこれから、魔力制御をもっと大きく考えなきゃいけない。この時間はその訓練、そして、明日の決闘用の上級以上の魔法を少し覚えてもらう。まぁ、魔法はオレよりシルフィグが詳しいから、後は頼んだ」
「ん、りょうかーい」
そう言って、ライトは少しはなれたところで、大量の素材の性能テストを始めてしまった。
「……じゃ、ま、はじめよっか」
「……うん」
そう言って、シルフィグの監修の元、イアの基礎訓練が始まった。
4時間後
「ライト、ちょっと見てみてよ!!」
「んぁ?」
先程からチェックした素材の山に埋もれていたライトが突如呼ばれた。
そこには、満足げな顔のシルフィグと、少々額に汗浮かべているが真剣な顔のイア。
「じゃ、イアお願い」
「……汝日と対を成すもの。崩落の陰に潜むもの。此方より現れその身に呑み込め 【深き影の姿身】 」
イアが呪文を唱える。すると、その前方のライトの素材の一つの巨大な骨の下に黒い沼が生まれる。そこから突然、大量の漆黒の手が伸び骨を覆う。そして、完全に腕が骨を覆い尽くしたとき、何かが砕ける音が多数響く。そして魔法が消え去ったそこには、粉微塵になった骨だけが残っていた。
「ほう、闇属性上級魔法か!いきなりレベルが上がったな」
「なかなか、初級の調整が上手くいかなくてね。いっそ逆転の発想で魔力消費の高い魔法をくみ上げてみてそこで感覚をつかんだらって思ったら、意外とうまくいってね、そこから調整して感覚をつかませていくことに成功したよ」
「……私、魔法が……こんなすごい魔法が……使える……!!」
今まで夢に見ていた、きっと無理だと諦めていた。そんな、夢が今現実になって自分の元にある。その、感動とうれしさで、イアの目からは涙が止まらなくなっている。
「イアちゃぁぁぁぁぁぁぁん!!!」
その瞬間、入り口から駆け出してきた複数の影、それは瞬く間にイアとの距離を詰め……そのまま思いっきり飛びついた。
「ぐふう!?」
「わぁ!?」
「それぇ!!」
それに第2波、第3波、が続きイアにのしかかる。
あ、やばい。イア死にかけてる。
「ほら、ミク、リン、グミ、イア窒息しかけてるから、死にかけてるから」
「……ガクッ」
「わああああ!?イアちゃんしっかり!!」
慌ててどいたミクがイアの肩を揺らす。すごい勢いで。もう残像が出来るほどに。
「……やめたげてな?本当にイア死んじゃうからな?首いっちゃうからな?」
「え?」
ほら、もうイア口から泡吹いて気絶してるし。心配しすぎだ。
とりあえず、軽くほおをはたいて起こす。
「おーい起きろー、死ぬなー」
「……ハッ」
よしよし、これで、感動のご対面が実現したと。
「イアちゃんやったね!すごいよ!あんな魔法が使えるなんて!!」
「すごいよイア!上級だよ!まだ使える人周りには少ないんだよ!すごいよ!!」
「やるじゃん~、ずるいぞー、一人で強くなりやがって~」
口々に、イアを褒め称えながら、抱きついていく。
あー……百合百合しい……じゃなくて
「で、お前らはなんか用事があってきたんじゃないの?」
そうライトは問いかける。
「「ない!!」」
これはリンとグミの言葉である。
「そうでした!レン君に夕飯だから呼んで来いって言われてたんです!」
さすが、しっかり者のミクさん。とりあえず、最初の二人には、でこピンを食らわしておいた。なんかうずくまって唸っているが、シルフィグが看病してるし問題あるまい。
「そうと決まれば、飯だ!腹が減った!!」
こうして、イアの魔力開放および、初の大魔法の行使は無事に成功したのだった。