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小さな約束  作者: 如月イヴ
本編
7/8

小さな約束、確かな誓い

『安心して、寝なよ。僕はずーっとここにいるよ。』

『本当に?どこにもいかない?私をひとりぼっちにしない?』

『うん。ずっと傍にいるよ。だから、安心して寝な。』


彼は、私の頭を優しく撫でてくれた。

繋いだ手から伝わる温もりは私を安心させてくれる。


『おやすみ、紗枝。』


それは、小さい頃の記憶。



*  *  *


誰かが、私の頭を撫でてくれる。

それだけで、安心できる。

あぁ、知っている。

この温もりはーー。


「おはよう、紗枝。」

「おはよう…。」


ほんの少し、目を開けただけだけど私が起きたことに気づいて声をかけてくれる。

ぼんやりとした頭で反射的にその声に応える。

ずっと、あの約束した日から変わらない。

でも、でもーー。


「どう、して…。」


そのやり取りは。

一週間前に、終わったはずだ。

私が、終わらせたはずだった。


「どうして…。どうして、颯がここにいるの…?」


私の頭を撫でてくれていたのは、一週間前に"さよなら"を告げた幼馴染みだった。


彼は、なにも言わずただニコニコしながら頭を撫でる。


「颯…?」

「どうしたの?紗枝。」

「わ、私、関わらないでって…。」


混乱した頭で考える。

なんで、どうして…。

疑問ばかりが溢れて、答えなんか出てこない。


「ごめんね、紗枝。加奈ちゃんと付き合ってたからあんなこといったんでしょ?」

「え…あ…うん…?」


曖昧な返事が口から出た。

混乱したまま、ただ颯を見つめる。

颯は、悲しそうに微笑んでいた。


「颯…?」


おずおずと呼び掛けてみる。

颯は、私の呼び掛けに答えずに私の手を握った。


「ごめん。ごめんね、紗枝。」


ポツリと颯は呟いた。


「こんなことになるなら、あの提案に乗らなきゃ良かったんだ。」

「え?提案って…何?」


颯の呟きにとっさに聞き返した。


「加奈ちゃんにさ、"恋人ごっこ"をしない?って言われたんだ。」

「こ…"恋人ごっこ"?」

「うん。加奈ちゃんは、難攻不落って言われてる僕を彼氏にして友達に自慢するためにそう持ち掛けたんだ。最初は、断ったんだけど…。好きな子に男として少しでも意識されたいなら、やってみる価値があると思うって言われて…。」

「な、なにそれ…。」


怒りを通り越して呆れた。

私は、二人の"恋人ごっこ"に振り回されていただけなのか。

はぁとため息をついて、ゆっくりと体を起こす。そして、颯を責めるように見つめた。


「私、いっぱい傷ついたんだよ。」

「ごめん。」

「いっぱい泣いたんだよ。」

「ごめん。」

「いっぱい悩んだんだよ…?」

「ごめん、紗枝。」


泣きそうになる。慌てて、目を擦る。

颯は、ショボンとしている。

深呼吸をして、泣くのを堪える。


「で?」

「え?」

「"恋人ごっこ"をしてまで振り向いてほしかった子には効果あったの?」

「うーん。どう?紗枝。」

「へ?何で私に聞くの?」

「……紗枝ってすごく鈍いよね。」


颯が呆れた表情で私を見る。

というか、若干拗ねてる…?

私は、首をかしげた。


「ねぇ、紗枝。」

「何?」

「僕の好きな子はさ、紗枝だよ。」

「…え?」


今、颯はなんと言った?

私の聞き間違えでなければ…。

私が、好きといった…?

颯の言葉を理解するのに十秒はかかった。

理解した瞬間、顔が真っ赤になるのがわかった。

え?え?颯が私のことを…好き!?

パニックに陥った頭で必死に言葉を探す。

心臓がバクバクと煩い。


「え、あ、ほ、本当?」

「うん。……あー、恥ずかしいな。」


颯の顔も真っ赤。

あぁ、あぁ、なんだ。

随分、遠回りしたけど。

私達。


「両思いなんだ。」

「え?」


私の呟きに首をかしげる颯。

恥ずかしいけど。

颯はちゃんと、"好き"って言ってくれた。

私も、ちゃんと答えなきゃね。


「あ、あのね、颯。」

「な、なに?」

「あの、その、えっと。わ、私も…颯のこと、好き…だよ?」

「え…。」


颯は、驚きのあまり固まった。

恥ずかしいけど。

じっと、颯を見つめた。


「ほ、本当…?」

「うん。」

「そっか…。」


颯は呟いたっきり、なにも喋らない。

ただ、じっと私を見つめる。

私もじっと見つめる。


「そっか。僕達…。両思い、なんだね。」

「…うん。」


噛み締めるように颯が呟くから。

私は、ゆっくりと頷いた。

颯は、恥ずかしそうに微笑みながらゆっくりと繋いだままの手を自分の方に引いた。

私は、ゆっくりと颯の胸にもたれかかる。

颯が優しく抱き締めてくれるから。

私も優しく抱き締め返した。


「紗枝。」

「なぁに?」

「好きだよ。」

「うん。私も好きだよ、颯。」


少し体を離して見つめ合う。

そして、引き寄せられるように唇を重ねた。


それは、誓い。

小さい頃に交わした小さな約束を確かなものにするために。


「もう、絶対に離さないから。」

「うん。離さないで。」


少しだけ、唇を離して呟く。

そしてもう一度、唇を重ねた。






これで、ひとまず完結です。

今まで、読んでくださってありがとうございました。

本編は終了しましたが、番外編などを書いていきたいなと思っています。

その時は、是非覗いてみてください。


今まで、本当にありがとうございました。

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