限界
颯と話さなくなって一週間がたった。
あの日から、私はまともに寝ることが出来ない。
一時間から二時間寝ては悪夢によって目が覚める。
小さい頃はお母さんとお父さんが死んだときのことが悪夢として甦る。
今は、颯が離れてしまう夢をよく見る。
…それだけ、颯の存在が私の中で大きかったということなんだろうな。
離れてわかる大切さ。
自分の中で颯の存在がいつの間にかこんなに大きくなっていたとは。
自分でも驚きだ。
でも、もうあの頃には戻れない。
戻ってはいけない。
もう、颯の優しさに甘えてはいけない。
もう、颯に頼るのはやめた。
今は、颯が傍にいないから充分睡眠をとることが出来ない。
けど、きっといつか一人でも寝ることができる日が来るはず。
その日まで、耐えなくちゃ。
私は、眠い目を擦りながら改めて決心する。
時計を見ると、まだ四時。
でも、もう目は冴えてしまっている。
起きようかなと思いベッドから出て立つとふらついた。
最近、充分に寝れていないせいか今日は体調が悪い。
頭が痛い。ボーッとする。体がフラフラする。
でも、学校に行かなくちゃ。
どうせ、休んでも寝れないから意味無いし。
それに、一人でいたくない。
誰かが傍にいてほしいから。
だから、今日も学校へ行く。
* * *
玄関。
「おはよー、紗枝…って、どうしたのアンタ!?最近、顔色悪かったけど今日は特にヤバイよ!?」
「おはよう…弥生。頭痛いし、ボーッとするし、体フラフラするし、立ってるの辛い。」
「あ、あのね…。普通、そんな状態で学校来る人なんていないわよ!?今日は、休んだ方がいいんじゃない?」
「休んでも意味ないよ…。寝れないもん。」
「紗枝………。」
弥生が私を心配そうに見る。
安心させようと微笑んでみたけどうまく笑えない。
結構、重症だ。
「颯と何があったか知らないけどさ。やっぱ、仲直りした方がいいんじゃない?ほら、翔悟もああいってることだし。」
翔悟とは、颯の親友の長瀬翔悟のこと。
そういえば、昨日言ってたなぁ。
ふと、昨日のことを思い出す。
『颯のやつ、最近何て言うの?上の空って感じなんだよなー。元気ねぇし、返事適当だし。ケンカしたんなら早く仲直りしろよ?アイツがあんな風だと俺楽しくねぇし。』
放課後、弥生と帰ろうとすると近づいてきて苦笑しながら言った。
私は、曖昧に微笑むことしか出来なかった。
「ねぇ、紗枝。颯と「いいの。…もう、颯に甘えるのやめたの。もう頼ってばっかりじゃダメだって気づいたの。…ゴメンね、心配かけて。」
「はぁ……。分かったわよ。でも、無理だけはしないで。」
「…うん。」
弥生は、呆れた表情で私を見る。
私は、弱々しく弥生に微笑みかけると教室へ向かった。
「もう…。颯も紗枝もバカなんだから…。変なとこで意地張っちゃったり遠慮したりして。見てるこっちをどんだけハラハラさせるつもりかしら。」
弥生は、ため息をつくと紗枝を追いかけていった。
* * *
私の顔を見た人は朝の挨拶もそこそこに心配してくれた。
先生は、私の顔を見るとすごい勢いで保健室にいくように言われたが丁重にお断りした。
だって、保健室にいったって変わらないもん。
授業は全く頭に入ってこなかった。
時間がたつにつれてひどくなる頭痛に悩まされ、頭は正常に働いてくれない。
私の状態を見て当てても答えれないかと思ったのか一回も当てられなかった。
四時間目。
「紗枝、体育なんだけど…。」
「…やるよ?」
「は!?ダメ!そんな状態でできるわけないでしょ!!」
「え、だい「大丈夫じゃない!とにかく休むこと。いいね?」
「うん。」
弥生の迫力におされて反射的に頷いた。
渋々、先生に見学すると伝えにいくとそうした方がいいと先生に言われた。
授業中。
頭が痛い…。くらくらする…。
女子と男子が別れてドッジボールをしている姿を見ているだけなのに。
視界がぼやける。
見ているものがねじ曲がって見える。
私が思っているよりずっと深刻だったみたいだ。
遠くなる意識。
冷たくて硬い…。床、かな…?
あぁ…私倒れたのかな…?
弥生やみんなに迷惑かけちゃうな…。
そう思いながら気を失った。