決意
「いつまで颯くんを縛り付けておくつもりなの!?」
その言葉は、私の心を深くえぐった。
* * *
放課後。
「帰ろう。紗枝。」
いつものように、颯は私に声をかける。
私は、弥生と顔を見合わせて同時にため息をつく。
私は、颯に向かって渋々頷くと荷物を持って教室から出ようとする。
すると、珍しく加奈ちゃんが教室に入ってきた。
いつもは、教室の外で待ってるのに…。
若干、驚きながらも加奈ちゃんを見つめる。
「ねぇ、紗枝ちゃん。話があるんだけど。」
「え…。」
「颯くんはここで待ってて。行こう、紗枝ちゃん。」
真剣な顔で私に話しかけると私の腕をとって歩き出した。
私は、引きずられる形で教室を後にした。
連れてこられたのは校舎裏。
加奈ちゃんは私と向き合ったまま、俯いている。
何も言い出す気配がない。
嫌な予感がする。
緊張しながら、加奈ちゃんを見つめた。
「もう、限界。」
加奈ちゃんの口からこぼれ出た言葉に耳を疑った。
俯いていた加奈ちゃんが顔をあげる。
今にも、泣きそうだった。
「颯くんに誕生日プレゼントを貰ったとき嬉しかったの。ちゃんと覚えててくれたんだって。やっと、颯くんが彼氏だって実感できた。
そう、思ったのに…。
その後、颯くんが何を話し始めたか分かる…?」
何となく想像できたけれど、嘘であってほしくて首を横に振った。
「あなたのことよ。」
加奈ちゃんは悲しそうに微笑んでいた。
私は心の中で颯を責める。
「貴女とプレゼントを選びにいったこと。とても、楽しそうに話してたわ。」
「…そう。」
そっと相づちをうつ。
加奈ちゃんの瞳から一粒涙がこぼれた。
「まるで、貴女が颯くんの彼女みたいじゃない…!」
「そ、れは…。」
何も言えずに、加奈ちゃんから視線をそらす。
「颯くんの彼女は私なの!貴女じゃないの!!なのにどうして、貴女が颯くんの一番傍にいるの!?」
加奈ちゃんは涙を乱暴に拭うと私を睨み付けてきた。
「ずっと我慢してきた。颯くんが私より貴女を優先させても、颯くんに嫌われたくないからずっと我慢してきた。でも、もう限界!幼馴染みだからって颯くんに甘えすぎよ!!」
怒りを抑えるためか下唇を強く噛み締めている加奈ちゃん。
「貴女は…貴女はいつまで颯くんを自分に縛り付けておくつもりなの!?」
その言葉は、私の心を深くえぐった。
ぼやけ始めた視界。
私は、必死に瞬きをする。
私は、泣いちゃいけない。
「何か言いなさいよ…。何かいってよぉ…。」
さっきとは、うってかわって弱々しく呟く加奈ちゃん。
そっと顔を見ると堪えきれなかった涙がこぼれ落ちていた。
あぁ、私はなんてバカなんだろう…。
自分が傷つきたくないがために、加奈ちゃんをこんなに傷つけるなんて。
小さい頃の約束にいつまでもすがっていてはいけない。
そんなの分かってた。
でも、なかなか一人になる勇気がでなくて。
もう少し先でもいいやと先延ばしにしていた。
そして、ずるずるとここまで来てしまった。
もう、止めよう。
加奈ちゃんのためにも、颯のためにも私は自立するべきだ。
自立というほど大袈裟なものではないけど。
けれど、いつまでも甘えているわけにもいかない。
私は。
私は…。
もう、颯の優しさに甘えるのを止めよう。
颯を自由にしてあげよう。
これ以上、加奈ちゃんを傷つけないためにも…。
私はやっと決意したよ。
私はそっと深呼吸をした。
「加奈ちゃん。今までごめんね。私、颯に甘えすぎだよね。ただの幼馴染みなのに。
…私、ちゃんというよ。颯を自由にする。
…本当にごめんね。今までたくさん我慢させて。傷つけて。」
「ううん。いいの。それより、約束よ?」
「…うん。」
私はちゃんと微笑めていただろうか?
私は加奈ちゃんに背を向けて、颯がいる教室に向けて歩き始めた。
その時、私はまわりを気にする余裕などなかった。
だから、気がつかなかった。
「はぁ。うっとうしかった。」
加奈ちゃんの呟きに。
いつもより短い気がします。
次回は、紗枝が盛大に勘違いしたまま颯と話します。
現在執筆中ですが、書いてて思いました。
この子、にっぶ!
おかしな方向に思考が転がっていく紗枝ちゃん。
大丈夫でしょうか…。