颯と買い物
日曜日。
今日は颯と加奈ちゃんの誕生日プレゼントを買いにいく予定だ。
別にただの買い物に付き合うだけだけど。
デートじゃないけど。
来ていく服がなかなか決まらなくて少し寝不足気味だったり。
普段、あまり着ないスカートに女の子らしい少しフリフリした服。
少しでも、颯にかわいく見られたくて。
例え、叶わなくてもおしゃれするぐらいは許されるでしょ?
* * *
「紗枝ー。そろそろ、いこー。」
一階から颯の声が聞こえた。
鏡の前でもう一度身だしなみチェック。
両頬を手で軽く叩いて気合いを入れ、鞄をもって一階に降りていった。
「お待たせ。」
颯に声をかける。
颯は、私の姿を見ると固まった。
…やっぱ、似合わないよね。
少し、沈んでいると颯が言った。
「…可愛いね。」
颯の頬が若干赤いのは気のせいだろうか?
颯に誉められて嬉しくなる。
頬が赤くなるのがわかる。
それをごまかすようにボソリと
「ありがと。」
と言った。
颯はさっさと靴を履くとドアを開け、手招きをする。
私は、普段はあまりはかないブーツをはくと玄関を出た。
颯は自然と私の手をとり歩き始める。
私は慌てていった。
「ちょっと、なんで手を繋がなきゃいけないのよ!」
「え?いいじゃん。昔から出かけるときは手繋いでたでしょ?」
「いつの話よ!それ、小学校の頃でしょ!」
「そうだっけ?」
颯は手を離してくれそうにもなかった。
別に、私が手を振りはらえばいいのだろうけど。
手を繋いでいることにドキドキしてそして少し嬉しかった。
他の人からみれば、恋人に見えるかな?
そう考えると、顔があつくなる。
颯にみられないようにそっと俯いた。
「加奈ちゃんの誕生日プレゼントどこで買えばいいのかな…。」
颯の呟きで現実に戻った。
そうだ、コイツには美少女の彼女がいるんじゃないか。
なんだか、泣きたくなった。
「駅前に、可愛いアクセサリーがおいてある店があるんだって。」
「へぇー。男の僕が入っても平気?」
「うん。男がつけるアクセサリーもあるんだって。」
親友の弥生に教えてもらった情報をペラペラと話す。
悲しいかな。私は、そういう情報には疎いんだよね。全く、興味がないから。
颯とたわいもない話をしながら、目的地へ向かう。
恋人じゃないけど。手を繋いでいるといういつもと少し違うことをしているだけで、なんだかいつもよりも足取りは軽かった。
「ここだよ。」
着いたのは、一軒のアクセサリー店。
お客は女の子や男の子、大人に中学生…。
色々な人がいた。
「へぇー。意外と狭いな。」
「そう?まぁ、いいや。さっさと入ろ。」
「あぁ、うん。」
颯の手を引いて、店に入っていく。
「加奈ちゃんの誕生日プレゼント自分で選びなよ?」
「えー。選ぶの手伝ってよ。」
「嫌。自分で選びなさい。アンタが加奈ちゃんに似合うと思ったものを選べばいいの。」
「えー。…分かったよ。」
颯は渋々一人で選び始めた。
その間、あまり興味がないアクセサリーを見て回っていた。
「あ。」
私の視線の先には、ト音記号のネックレス。
ト音記号の中心の少し丸いところには宝石があしらってあるシンプルなネックレス。
「…可愛いな。」
そう、呟いた。
でも、私には女の子らしい物なんて似合わないよね。
そう思い、ため息をついた。
そして、私は何事もなかったように他のアクセサリーを見て回った。
私を見つめる颯の視線にも気づかずに。
* * *
「あぁー、やっと決まったぁー。」
「…かかりすぎなのよ。選ぶのに二時間もかかるってどんだけなの。」
「だって、紗枝が僕が選んだの全部ダメって言うから。」
「当たり前でしょ!?あんなの加奈ちゃんが喜ぶわけないじゃん!」
私が、キッと颯を睨むと颯はほっぺたを膨らませて拗ねた。
颯のやつ。選んで持ってくるのは変なものばかり。
ダメ出し二十回した後、ようやく可愛らしいハートのネックレスを選んできた。
「あぁ、もう疲れた…。」
「僕も…。」
二人揃ってため息をつく。
それからは、無言で歩く。
家の前に到着。
鍵をあけ、ドアを開ける。
「今日は、おばさんとおじさん帰るの遅くなるんだっけ?」
「あぁ。夫婦でバス旅行。帰ってくるの十二時ごろだったはず。」
「そっかぁ。今日の晩御飯は何がいい?」
「んー。パスタ。」
帰るときの無言の時間は一体何だったのだろうか?
何となく、喋りづらかったあの時間は。
私は、少し不思議に思いながら家の中に入っていく。
「ねぇ。」
颯に呼びかけられて振り向く。
颯は、そっぽを向いて何か言いづらそうに口をモゴモゴさせていた。
「どうしたの?」
「あ、いや…あの、さ…。」
気まずそうな言いにくそうな表情。
「あの、さ…。今日、買い物付き合ってくれてありがとう。その…これ、お礼。」
「え…。」
私は、戸惑いながら差し出されたものを受け取り中身を見てみる。
それは、あのアクセサリー店で可愛いと思ったト音記号のネックレスだった。
「どうして…?」
呆然と呟くと颯が頬をかきながらおずおずと答えてくれた。
「いや、紗枝が随分熱心に見てたから…。ほしいのかと思って。今日、買い物に付き合ってもらったお礼にと…。…気に入らなかった?」
颯が不安そうな表情で私を見てきた。
私は、精一杯の感謝をこめて満面の笑みを浮かべて言った。
「ありがとう。大切にする!」
「そっか。良かった。」
私の表情を見て安心したのか颯も満面の笑みを浮かべた。
颯の笑顔を見て、思う。
ただの幼馴染みのポジションでもいい。
ただ、君のその笑顔を近くで見つめられるなら。
それだけで、私は十分だ。
例え、この恋が叶わなくても。
笑っていられる気がする。
その晩。
いつもは、隣で寝るだけだったけど。
今日は、昔みたいに手を繋いで寝た。
恥ずかしくてドキドキしたけど。
いつもよりぐっすり寝られた。
そして、とても幸せな夢を見た気がする。