小さい頃のお話
ごく平凡な家に生まれた私、伊戸中紗枝。
隣には、イケメンの同級生で幼馴染みの篠原颯がいて、家族ぐるみで仲良くしていた。
毎日がとても楽しかった。
颯と遊んで。帰ったら、ママとパパがいて。
そんな当たり前の生活がずっと続くと思ってた。
………思っていたのに。
* * *
遠くで救急車やパトカーのサイレンが聞こえる。
人の泣き叫ぶ声や助けを呼ぶ声が響く。
そんな中で。
私は、ただただ泣いていた。
目の前には頭から血を流して倒れているママとパパ。
二人とも目を閉じていて、微動だにしない。
今日は、私の紗枝の誕生日だった。
私は、遊園地にいきたいといったので家族で遊園地に行った。
その帰り道。
渋滞に巻き込まれていた私たちの車の少し前らへんに対向斜線をこえてトラックが突っ込んできた。
いきなり激しい衝撃が襲ってきた。
その衝撃で意識を失った私が目を覚ましたとき辺りは地獄だった。
なんとか、車の中から脱出してママとパパを探す。
ママとパパはすぐに見つかったけど小学一年の私でも一目見て分かった。
助からないと。
「ママ!?パパ!?」
呼びかけても答えてくれない。
揺さぶっても反応してくれない。
ママとパパは、もう死んでいた。
私が乗っていた車は前側がぺしゃんこだった。後ろも前側ほどではないが潰れていた。
「あ…あ…!」
絶望が私を支配する。
ママとパパが死んだ。
私は…私は…
一人
「あああああぁぁぁぁ!!」
私は、ただただ泣くしかなかった。
* * *
あの事故は多くの死者を出した。
あの事故で私は一人になった。
優しい親戚が引き取ってくれたが家を離れたがらなかった私を見て颯の家族が面倒を見てくれることになった。
* * *
あの事故から三日たった。
私は、ほとんど寝れなかった。
寝れば、思い出すのだ。あの事故のことを。
心配してくれる颯の家族の優しさが辛くて家を飛び出した。
たどり着いたのは颯とよく遊ぶ公園。
ドーム型の遊具の中にいた。
そのなかで私は泣いていた。
なんで、私は一人なんだろうと。
なんで、ママとパパは死んだのかと。
ママとパパに会いたいと。
そう思いながら泣いていた。
「紗枝!」
私の名前を呼ぶ声がした。聞き覚えのある声だ。
声のする方を向くと颯がいた。
「ここにいたんだ。」
颯はニコッと笑うとこっちにきた。
隣に座ると私の顔を覗き込んできた。
「どうして、家を飛び出したの?」
「だって、あそこは紗枝のおうちじゃないもん。」
目をそらして答える。
「紗枝の家だよ?だって、紗枝住んでるじゃん。」
「違うもん!あそこは颯のおうちだもん!」
颯をにらむと颯は困ったように笑っていた。
「私には、ママもパパもいないんだよ!?どうせ、颯のママとパパはしょうがないから住まわしてくれてるんだもん。本当は、迷惑だって思ってるもん!」
「そんなことないよ。母さんも父さんも紗枝のこと心配してくれてるよ。紗枝を預かりたいって母さんと父さんが自分からいったんだよ?」
颯は優しく言った。
「でも…でも…!いつかは、おいだすんでしょ!?いつか、私はひとりぼっちになるんでしょ!?」
涙目で颯をにらむ。
颯はうーんと考えているようだ。
「どうせ…私はひとりぼっちだもん。」
私はポツリと呟く。
「紗枝は一人じゃないよ。僕がいるよ。」
「え?」
「ずっと、僕が傍にいる。紗枝が寂しくないようにずーっと。だから、紗枝は一人じゃないよ。」
真剣な目で話す颯。
「本当に?ずっとずっと傍にいてくれる?」
「うん。ずっと。ずっと傍にいるよ。」
「約束だよ?」
「うん。約束。」
私は颯と約束をした。
ずっと一緒って。
私が、寂しくないようにって。
その日から一緒の布団で寝るようになった。手を繋いで、仲良く。
そしたら、事故の夢を見ずにすんだんだ。
きっと、颯がいてくれるって思って安心したんだろう。
* * *
高校生になってもそれは変わらない。
相変わらず、颯がいないと安心して眠れない。
でも、これじゃダメだと言うこともわかっている。
いつか、颯がいなくなったとき私一人でも生きていけるようにしなきゃいけない。
何より、早く颯を昔の約束から解放してあげないと。
加奈ちゃんという素敵な彼女が出来たのに私との約束が足枷になっているから。
私はもう大丈夫だと。
颯がいなくても生きていけると。
ちゃんと、言わなきゃ。
何時までも颯を私に縛っといてはいけない。
早く、颯を自由にしないと。
それが、私にとってどんなに辛いことでも。
紗枝と颯の約束の話でした。